公務員のスキルアップのための地方自治法(6)【条例・規則】

今回は、地方自治法の【普通地方公共団体】の範囲から「条例・規則」について解説します。条文数が少ない割には、出題率の高い分野です。 全国の自治体にはさまざまな条例がありますが、公務員を目指す人は、国の法律と条例の関係についても注意して見ておく必要があります。


条例って何?

条例とは、国の定めた法律とは別に、都道府県や市町村などの自治体が自主的に定める決まりのことで、全国の自治体にはさまざまな条例があります。

憲法94条は、地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができると規定しており、地方自治法14条にも、法令に違反しない限り条例の制定が可能であると規定されています。

条例に対して規則は、住民には直接関係のないようなものが多く、たとえば「会計事務規則」「公印取扱規則」など、職員が仕事をするうえでの取り決めのようなものが多くなっています。(条例の詳細部分を規定する目的の規則もあります。)

今回解説の条例・規則は、地方公務員法の索引では次の範囲になります。

【普通地方公共団体】の第1章~14章のうち、
第3章「条例および規則」14~16条

それではまず参考に、全国のユニークな条例を紹介します。

全国各地のユニークな条例

和歌山県みなべ町の「梅干しおにぎり条例」

和歌山県みなべ町は、高級梅のブランド「南高梅」を作っている地域です。

梅干しおにぎり条例は、近年敬遠されがちになっている梅干しの普及を目指して町が制定したユニークな条例です。

梅干しおにぎり条例

第4条 町民は梅干しでおにぎりや梅製品の普及促進に協力し、町民自ら健康の増進に努める。

出典
和歌山県みなべ町 梅干しおにぎり条例

このように、梅干しの生産者、町民みんなで南高梅の普及を目指そうという条例で、みなべ町を含む近隣の梅生産団体とともに6月6日を「梅の日」に制定し、スーパーなどで特設会場を設け梅干しを食べる機会を増やしています。

また、みなべ町役場には「うめ課」という梅専門の部署まであるという徹底ぶりです。

岡山県井原市の「光害防止条例」

岡山県井原市の美星町は、その名のとおり星が美しい町として有名です。


この町では人工的な光が反射して夜空が明るくなってしまい星が見えにくくなることを「光害(ひかりがい)」と呼び、それを防いで星空の見える景観を守ろうと、「光害防止条例」が制定されました。

美しい星空を守る光害防止条例

第6条 市民等は、光害の防止に努めるとともに、市が実施する光害の防止に関する施策に協力しなければならない。

第7条 事業者は、光害を防止するため、必要な措置を講ずるとともに、市が実施する光害の防止に関する施策に協力しなければならない。

出典
岡山県井原市 美しい星空を守る光害防止条例

このように、条例では市民も事業者も光害をなくすために努力することが規定されており、たとえば照明付きの看板を設置する場合には下から上に向かって光を放つことを禁止するなど、禁止事項が定められています。

さらに条例の下に「規則」も設け、そこでは照明器具の種類や設置基準など具体的な数字を出して規制しています。

美しい星空を守る井原市光害防止条例施行規則

(例)反射形ランプ用照明器具→新設のもの取付状態において90°V以上に出る光度は光軸光度の1/10とする。

出典
美しい星空を守る井原市光害防止条例施行規則

先ほども解説しましたが、条例で決めた内容に具体的な数字を設定するときにもこのように「規則」が使われることがあります。

上記の例を見ながら、何となく条例と規則の作り方をイメージしてもらえればいいかと思います。

兵庫県芦屋市の「豪邸条例」

兵庫県芦屋市の「六麓荘町」は、東京の田園調布や成城を上回るほどの超高級住宅街です。
要人や有名企業の社長宅が数多くあることでも有名ですが、一軒の敷地面積が桁外れに大きくなっています。

それだけではなく六麓荘を訪れたことのある方ならご存知かと思いますが、パルテノン神殿のような柱のある豪邸や、銅像が何体も並ぶ豪邸、プール付きの豪邸など、町自体がその辺のテーマパークよりも目を楽しませてくれる景観になっています。

ですが決して派手ではなく、一軒一軒が個性豊かなのにも関わらずその雰囲気は見事に統一されており、電柱もすべて地中に埋められています。

それもそのはず、この地域は条例で景観に関する厳しい規制があり、また400㎡以下の敷地面積の建物を建てることが禁止されているのです。

つまり400㎡以上の豪邸を持つ人しか住めません。それがいわゆる「豪邸条例」と呼ばれる条例です。(正式名称は「芦屋市の地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例」といいます。)

この地域では、たとえ400㎡以上の豪邸を建てる場合でも町内会の厳しい審査があり、
それにパスしなければ自宅を新築できません。また商業施設の建設も禁止です。

このように厳しい規定だと憲法のいくつかの権利に反していそうなものですが、意外にも最近では司法も条例で定めたことを尊重する傾向にあります。このことについてはあとで解説します。

条例にはどんな種類があるの?

さまざまな内容を持った条例

先ほど、全国にあるユニークな条例を紹介しましたが、条例にはそのような町おこしの色を持つものや、「公害防止条例」など環境保全に関するもの、「〇〇医療費助成条例」など自治体ごとにサービス内容が違う福祉的な条例など、さまざまな内容のものがあります。

また皆さんも一度は耳にしたことがあると思いますが、「情報公開条例」は、住民が自治体に情報の公開を求めることのできる条例で、現在ではほぼすべての自治体で制定されており、住民が市政(県政)に参加するために必須のものとなっています。

これは覚えておこう、制定が義務づけられている条例

ほとんどの条例は、各自治体が自由に制定できる種類のものですが、地方自治法で「この分野については各自治体とも必ず条例を作っておきなさいよ」と決められているものが存在します。


それらを紹介しておきますので、次の①~④は覚えておきましょう。

①地方公共団体の存在に関するもの(市町村の名称変更、地方公共団体の事務所の位置)

※都道府県の名称変更ついては、条例を作って行うのではなく、国の法律によってなされるので該当しません。

②議会に関するもの(議員の定数、議会で議決できる事項の追加、議会の委員会の設置)

③行政機関に関するもの(支所や地方事務所の設置、内部組織の設置、副知事や副市長村長の定数、職員の定数、給与の支給制限)

④財務に関するもの(財産の処分)

以上、①~④については、それぞれの条例を作りルールを決めておきなさいということが、地方自治法に書かれています。(書かれている条文はバラバラです)

条例を制定するにはどうすればいいの?

条例を発案するのは誰?

条例を制定しようと発案できるのは誰でしょうか。

それは以前「住民の権利」の項目で解説したように、住民が条例の制定(改廃)を発案して必要署名数を集め請求できることはもちろんですが、たとえば職員定数条例など市長(知事)の権限で発案するものや、議会の委員会の設置条例など議員の意思で発案するものなど、内容によってもさまざまです。

決定するには必ず議会を通す

ですが、発案された条例を実際に制定するか否かは、必ず議会で決定しなければいけません。議会で条例制定を決定した場合、次のような手順で手続きを行います。

①議長は、議決日から3日以内に市長(知事)に決定内容を送付する

②市長(知事)は、送付日から20日以内に公布する

③公布日から10日を経過した日から施行(別で定めのあるものを除く)

この流れは、数字も含め試験でも出ることがありますので、覚えておいてください。

規則の制定方法は?

条例ではなく、規則については、市長(知事)・その他の執行機関・議会がそれぞれ自分の権限のおよぶ事項についての規則を作ることができます。

たとえば議会ならば、「会議規則」を作る、などです。条例と違って規則は、作るときに議会の決定は不要です。

この条例と規則の手続きの違いについては押さえておいてください。

法律と条例はどちらが優先?

基本的には「法令に違反しない」ことが大前提

国の法律と各自治体の条例ではどちらが優先されるのでしょうか?

条例を作るときの範囲として、伝統的な考え方に「法律先占論」があり、これによるとまず、国の法律で全くそのことについての規定がなく、空白状態の案件については問題なく条例が作れます。たとえば先述した梅干し条例などは、国にそのことについての法律などありませんから、条例を作ることに何の問題もありません。


しかし、すでに国の法律が存在し何らかの規制がある案件について、その法律の基準よりも厳しい基準を条例で定めようとすればそれは違法になります。

ただし、法律の規制とは別目的での規制ということなら、条例による厳しい基準を設けることができます。ここが少しややこしいところです。

過去には問題も発生している

先ほど、同じ目的で同じ案件なら国の法律より厳しい条例は作れないと言いましたが、まさにそのせいで過去には多くの住民が犠牲となった公害問題が発生しています。

皆さんも授業で聞いたことがあるかと思いますが、三重県四日市市の「四日市ぜんそく公害問題」では、すでに古くからあった国の法律「大気汚染防止法」で解決しきれない事態になっていたにもかかわらず、その法律より厳しい条例を自治体は作ることができないため、公害に対する規制が遅れてしまい、大変な被害をもたらしました。

このことから、「国の法律がザルだからやむをえず地方で厳しい基準の条例を作ろうとしているのに、それを違法と言うなんて、そちらの方が憲法に違反しているじゃないか!」という学者も登場し、ここから、とくに公害・環境問題など人の生命に関わるようなものに関しては、「法律先占論」はほぼ使われなくなりました。

ですがそれ以外の案件ではやはり基本的に「法律先占論」となっています。

条例が尊重されるようになってきている?

とはいえ、公害・環境問題以外でも、条例で法律より厳しい基準を作ることに司法が理解を示す案件が増えてきています。

司法が登場するということは、それだけこの件で「裁判沙汰」にもなっているということです。

基本的に地方自治法14条に書かれているように、条例を作る場合は「法令に違反しない限り可」ということを満たせばいいわけで、この「法令に違反するかしないか」の解釈のしかたについて司法も柔軟に対応するようになってきています。

その結果、同じ目的で同じ案件について法律より厳しい条例を作ることについても、国が何が何でも全国一律に同レベルの規制を課すのが目的、という場合でなければ、各地域の実情に応じて条例が法律を上回る規制を制定しても、それは法令違反ではないよね、という判例も出ています。

つまり、ケースバイケースで対応しよう、という流れにまで進歩したわけです。この先どうなるかはわかりませんが、現状ではこのような流れになっています。

それでは次に、条例・規則の罰則規定について解説します。

条例・規則の罰則規定

条例違反では逮捕されることも?

条例・規則ともに、法令に特別の定めのあるものは除き、罰則について定めることが可能です。

罰則のある条例に違反すると、どうなるのでしょうか。おもに2つの種類があります。

刑罰=2年以下の懲役または禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料、没収

行政的な罰(市長、知事が管轄)=5万円以下の過料

ちなみに同じ金銭的な罰の「かりょう」でも、刑事罰では「科料」、行政罰では「過料」といいます。

規則に違反した場合の罰則は、刑事罰はなく、5万円以下の過料のみになります。

条例違反で逮捕ってたとえばどんなものがあるの?

条例違反で逮捕されるもので全国的に多いのは、皆さんもニュースなどでたびたび目にしたことがあると思いますが、各都道府県が制定している「迷惑防止条例」違反の「盗撮」です。

この迷惑防止条例も自治体によって内容が少し違っていたりしますが、大阪府を例にとると、2017年4月に迷惑防止条例が改正されたばかりです。


改正前は、いわゆる「公共の場所・交通機関」での盗撮しか取り締まることができませんでした。

公共の場所・交通機関というのは、駅や電車、屋外などで、それ以外の学校や会社の事務室、トイレなどの密室は適応外となっていたのです。

しかし盗撮の多くはこの学校やトイレなどの密室で行われており、早急に条例を改正すべきとの声が上がっていました。改正後は、学校や会社など大勢が出入りする室内も対象となりました。

具体的には、学校や塾、会社、エレベーター内、カラオケボックス、インターネットカフェなどです。

京都府ではこの条例改正が数年前に行われており、大阪府も追いついたかたちですが、現在、全国10数か所の都道府県で同様の規制があり、今後も増加すると考えられます。

またこの改正では、盗撮目的でカメラやスマートフォンを人に向けることも禁じられています。これは、盗撮をしようとした者がスマートフォンを警官に確認されても、盗撮写真が出てこなければ濡れ衣だと主張することを防ぐためです。

このような、盗撮前段階行為を禁じる改正案を取り入れた都道府県も増加しています。これは、盗撮被害が全国で後を絶たず、摘発件数も年々増加しているからで、罰則も大阪府を例にすると改正前の「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」から「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」に改正されました。

このように、条例でも刑事罰を課すことができ、それによって国の法律よりも地域の実情に沿った規制を行うことができるという側面もあります。

まとめ

今回は、条例・規則について解説しましたが、この項目では条例を作るための手続き方法や、罰則規定などが昇任試験でよく出ますので、押さえておくとよいでしょう。

今回紹介した条例以外にも、全国にはユニークな条例が数多く存在します。興味があれば、一度調べてみてください。

本記事は、2018年1月16日時点調査または公開された情報です。
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