【陸上自衛隊の仕事】3つの特別勤務「当直勤務」「警衛勤務」「営外巡察」

陸上自衛隊の営内における『規律の維持』『警戒』及びその他特別の必要の為、『陸上自衛隊服務規則』の定めるところにより『特別勤務』が設けられます。特別勤務の種類は『当直勤務』『警衛勤務』『営外巡察』の三つです。今回は、陸上自衛隊の『特別勤務』についてご紹介します。


陸上自衛隊の「特別勤務」について

陸上自衛隊の営内における『規律の維持』『警戒』及びその他特別の必要の為、『陸上自衛隊服務規則』の定めるところにより『特別勤務』が設けられます。この勤務は『駐屯地』及び『部隊』ごとに設けられます。

特別勤務の種類は『当直勤務』『警衛勤務』『営外巡察』の三つです。自衛官が居住する場所は『駐屯地』又は『分屯地』と呼ばれ指定場所に居住する事を定められた自衛官が居住します。ちなみに、分屯地と言うのは規模が極点に小さく、少人数の自衛官が勤務する駐屯地です。

それでは、陸上自衛隊の3つの特別勤務『当直勤務』『警衛勤務』『営外巡察』について解説していきます。

当直勤務

当直勤務の職務と職名は、勤務する部隊の大きさに応じて名称が変わります。駐屯地の当直勤務は『駐屯地当直』という職務で、責任者は『駐屯地当直司令』で、『駐屯地当直副官』が直属の部下となります。

連隊や大隊などの配下に中隊を持つ部隊の当直は『部隊当直』と言う職名で、責任者は『部隊当直司令』で『部隊当直副官』が直属の部下になります。

各中隊や小さい隊の当直が通常の『当直』と呼ばれ、責任者は『当直幹部』です。そして『当直陸曹』及び『当直士長』が直属の部下となります。

当直勤務者の任務

当直勤務者は、課業終了時刻から翌日の課業開始まで間勤務をします。その任務は『営内における規律の維持』『火災予防』『火災盗難の予防』及び当直勤務を命じた駐屯地司令又は部隊長が特に命じた事項です。

各部隊の当直勤務者は『駐屯地当直司令』及び『部隊当直司令』の指揮下に入ります。当直勤務は各部隊で設ける必要がある為、所属人員の大きな規模の駐屯地の場合は当直勤務者の総数もかなり多くなります。

例えば1個連隊と1個大隊と業務隊などの諸隊が所在している駐屯地があったとすると以下の当直が常時当直勤務に就いている事になります。

(階級はあくまで基準です。)

駐屯地当直司令 幹部1名
駐屯地当直副官 陸曹1名


連隊の部隊当直司令 幹部1名
連隊の部隊当直副官 陸曹1名

A中隊の当直幹部 幹部又は陸曹1名
A中隊の当直陸曹 陸曹1名
A中隊の当直士長 陸士長1名

以下B中隊、C中隊、D中隊と言う具合に同様の勤務者がいます。

これに加えて業務隊、基地通信隊などの部隊の当直勤務者も含めると当直勤務者は相当多くいる事になります。また、同一駐屯地内に、戦車隊、後方支援隊などの部隊が駐屯地している大きな駐屯地ではさらに多くの勤務者が勤務しています。

当直勤務者の勤務の基準

当直勤務者は、原則として1週間交代ですが勤務期間は駐屯地司令が必要とあれば変更できる事になっています。その為、全国的に当直勤務は半週交代になっており月曜日から木曜日までの勤務と木曜日から月曜日までの勤務になります。

各当直勤務者の階級の基準は陸上自衛隊服務規則で定められています。例えば『駐屯地当直司令』は、3等陸佐又は1等陸尉以上の自衛官が服務します。『駐屯地当直副官』の場合は陸曹長、一等陸曹又は2等陸曹。

各部隊においては『部隊当直司令』は1等陸尉又は2等陸尉。『部隊当直副官』は2等陸曹又は3等陸曹。中隊の場合は『当直幹部』は陸尉、准陸尉、陸曹長又は1等陸曹。『当直陸曹』は2等陸曹又は1等陸曹。『当直士長』は陸士長が指定されています。

人員の多い部隊は当直勤務の負担は少ない!

当直勤務は各部隊の所属人員によって勤務の負担に違いが出てきます。同じ一般部隊でも普通科の1個中隊と、特科の1個中隊は所属人員が違います。

例えば、ある普通科中隊で150名の所属隊員がいたとします。普通科に比べると所属人員の少ない特科中隊では80名のだとすれば、所属人員が倍くらい違いますが、毎週、当直幹部2名、陸曹2名、陸士2名が必要な事に変わりはありません。

もっと極端に言うと基地通信隊のように所属人員が数十名程度の部隊は一か月の間に同じ隊員が何度も当直勤務に就く事になってしまいます。したがって所属人員の少ない部隊の場合は当直幹部と当直陸曹のみで当直士長という職務が無かったりして当直勤務そのものが縮小されています。

また業務の都合上指定された階級の自衛官がいない場合、基準外の階級の隊員が当直勤務に上番する事もあります。

上番(じょうばん)=特別勤務に就くこと(特別勤務を解かれる場合は下番(かばん)と言います。

駐屯地当直司令

駐屯地当直司令は、課業時間外は駐屯地司令の代行者です。その為、駐屯地当直司令は駐屯地司令が部隊に到着するまでの間、駐屯地司令業務を代行します。また、駐屯地当直司令は隷下各部隊の部隊当直司令及び当直幹部を指揮します。

駐屯地当直司令は駐屯地で勤務している自衛官及び事務官などの人員を常に把握していますが駐屯地を離れ野営訓練に参加している部隊の実員も把握しなければ行けません。

朝夕の点呼報告は駐屯地各部隊の部隊当直及び、演習参加部隊の部隊当直から異常の有無の連絡が入ります。この報告を受けて駐屯地当直司令は『駐屯地司令』に異常の有無を報告します。


火災時には消防隊を指揮する!

駐屯地当直司令は、課業外に於いて駐屯地に火災が発生した時、駐屯地司令が駐屯地に到着するまでの間、駐屯地消防隊を指揮します。駐屯地の警戒の任務の中では火災発生時の対処も重要です。

駐屯地内で火災が発生した時は、営内残留人員を持って『駐屯地消防隊』を編成します。駐屯地消防隊は、駐屯地防火管理規則に基づき『駐屯地消防隊編成表』によって示されています。

ただし駐屯地では24時間態勢で火災発生に備えている『常勤』の消防隊があります。この常勤の消防隊と臨時編成の駐屯地消防隊とを混同しない為に、常勤の消防隊を『消防ポンプ班』と呼んでいます。

この2つの消防隊の違いは一般社会の消防組織に当てはめると解りやすいです。常勤の消防ポンプ班は『消防庁』、非常勤の駐屯地消防隊は『消防団』と考えればいいでしょう。

消防ポンプ班は常設の勤務で消防ポンプ車などの専門の消化器資材を持っていますが常勤の為、編成上の勢力は小さいものです。この為、火災発生時は駐屯地消防隊との共同連携が不可欠になります。これは一般社会も同じです。

外出可能人員にも関係する駐屯地消防隊

駐屯地消防隊は各部隊の外出可能人員にも影響を与えます。駐屯地に所在する各部隊は消防隊編成を構成する人員は常に確保しておかなければなりません。

その為、各部隊の外出者数について即動態勢を維持するのと同様に駐屯地消防隊に必要な人員は確保したうえで休暇、外出が許可されるのです。

この為、火災発生時に速やかに駐屯地消防隊の編成が撮れるように、部隊の所属人員、事故(不在者の事を自衛隊では事故と言います。)、現在員について常に時系列に沿って把握しておく必要があります。

なお、所属人員の現況把握は、なにも火災発生の時の為にだけ行うものでは無く、有事の際に備えて速やかに行動に移行できるように実員を把握しておく事は当直の重要な任務です。その為に活用するのが『人員現況版』、あるいは『点呼報告版』です。

※(人員現況版などの名称は各部隊によって異なる場合があります。)

現況版により部隊の現況が一目で解るように管理されています。野営訓練に参加中。自宅待機。休暇及び外出(特外)、営外者数、営内者数などを常に把握しています。また当直勤務者は営内及び駐屯地周辺の指定場所の巡察も行います。

この巡察は、当直勤務としての巡察で特別に任務付与された営外巡察とは違います。当直勤務者の隊内巡察は、駐屯地警衛隊とも連携して駐屯地内外の主要施設などの警戒を行います。

警衛勤務

警衛勤務は、陸上自衛隊の駐屯地の警戒及び営門出入者の監視に当たる特別勤務です。当直勤務者は、消灯後、巡察時間を除けば就寝する事が出来ますが、警衛は寝る事は出来ません。(ただし、仮眠は交代で行います。)

警衛勤務は24時間休みなく駐屯地の警戒を行います。警衛は駐屯地の警備の要として各部隊に勤務が割り当てられます。なお警衛隊は自隊防護の為と緊急不正の事態に対応する為に、武器・銃剣・所要の弾薬などを装備しています。

警衛隊は昼間は武器を携行し、夜間は警棒等を携行します。なお具体的な武器等の取り扱いにつきましては秘密保全の観点から詳細は省略させて頂きます。

警衛隊の編成

警衛隊の編成は、陸上自衛隊服務規則で定められた編成を基準として編成され、その基準は次のとおりです。

警衛司令
2等陸曹以上の陸曹又は准尉・陸尉
営 舎 係(分哨長)
2等陸曹又は3等陸曹
歩哨係
2等陸曹又は3等陸曹
歩哨
2曹~陸士
らつぱ手
3曹又は陸士
操縦手
3曹又は陸士長(歩哨との兼務可能)

警衛隊の編成及び勢力は、駐屯地司令が必要に応じて編成することが出来る為、駐屯地の規模が大きい警衛隊は勢力を増強され、小さい場合は縮小される事があります。ただし、どんなに小さい駐屯地でも警衛隊の基準に示される勢力は必要です。

以上の編成で示されている他に駐屯地所在各部隊に増加警衛が指定されており、課業終了から約2時間。起床時から1時間程度の任務が付与される場合があります。


また各駐屯地の特性により防弾チョッキ、防護マスク、小銃等など通常の警衛隊の装備よりも重装備で警備する場合もあります。

営門出入者の監視

駐屯地警衛隊は、駐屯地正門の出入り者の監視(車両を含む)及び道路をまたいで所在する駐屯地に於いては通用門の監視。さらに正門以外の諸門の監視警戒も併せて行います。

自衛隊車両及び民間車両の駐屯地への出入りは通常正門から行い自衛隊車両が出入りする場合は、行先、車両数、車番号などを記録します。また正門以外の門から、隊員及び車両の出入りを行う場合は分哨(ぶんしょう)が設置されます。

※分哨=警備員の詰所のようなもので、通信設備などの装備をします。

また自衛官が正門を出入りする場合は制服及び戦闘服・作業服を着用し、制帽・戦闘帽・作業帽・識別帽を被ります。また正門を通過する場合は、幹部、准尉を除く自衛官は身分証明書の提示が必要となります。

ただし、指揮官に引率されている部隊の場合は身分証明書の提示は必要ありません。また体育訓練など体力練成の為、駐屯地外へ出る場合は複数の隊員で警衛所に記録及び申告すれば駐屯地外に出ることが出来ます。

部隊を引率する場合、幹部自衛官及び陸曹が引率する必要があります。さらに部隊として体育訓練をする場合は、安全係を指名しなければ行けません。

(駐屯地外に一人で出て持続走などの訓練をする事は、許可されていない駐屯地が多いです。)

この体育服装の場合は正門通過時に無帽でも問題はありません。ただし、これらの服務規則は駐屯地ごとに定められる為に許可されていなければ帽子は着用しなければ行けません。

隊内での食堂勤務者や販売業者などの部外者が入門する場合は駐屯地司令が発行した指定の入門許可証等が必要になります。また民間車両を駐屯地内に乗り入れする場合、車両の乗り入れ許可証を表示するか、指定場所に駐車します。

面会は警衛所内で行う

部外者と自衛官の面会については、警衛所の受付で住所、氏名等を記録し警衛隊から被面会者に面会の有無についての確認があり異常が無ければ面会が許可されます。

通常、警衛所内の面会所で面会を行い単独で、駐屯地内に立ち入る事は出来ません。特別に許可された場合は、被面会者の自衛官が引率して隊内での行動を許される場合があります。

なお不正な勧誘や妖しい電話などが警衛隊に掛かって来た場合は、駐屯地内の所要の機関に内容を照会しブラックリスト等に掲載されている悪徳業者、特定の思想団体、詐欺情報などの情報提供を受けた後に所要の対応をします。

また、警衛隊は駐屯地内及び駐屯地の周囲を定期的に『徒歩巡察』及び『車両巡察』をして警戒します。なお警衛所の歩哨が夜間の巡察に出る場合は、単独行動はせず、2名一組で巡察します。これを復哨(ふくしょう)と言います。

復哨の勤務要領は、野外勤務の『歩哨』の教則に基いて行います。なお歩哨は、立哨に上番している時、あるいは巡察している時は小銃、銃剣、弾薬を携行します。

歩哨の任務としては、夜間の歩哨は銃剣を着剣する事になっていますが駐屯地内では夜間といえども銃剣は着剣しません。また演習場内に於いても戦闘訓練中の歩哨も着剣はしません。これは平時の訓練であるのと訓練事故防止の為です。

営外巡察勤務

営外巡察は、駐屯地の外を巡回し、営外にある隊員の規律を正し、非違を戒め、その品位を保たせ、また、病気その他の救護を要する隊員を保護します。この勤務は、駐屯地司令が特に命じた事項を行ないます。

巡察隊長は陸尉及び准尉が任命され、陸曹、陸士が巡察隊員となります。また巡察隊員は営外巡察の腕章を装着します。ただし、現在、この勤務はほとんど命じられる事は無く、そういう意味では規則の中で空文化されていると言っていい勤務です。

ちなみに、自衛隊発足当初は、あった勤務ですが、携帯電話など連絡手段が豊富にあり、営外者の指導や、外出する隊員を細かく把握する必要が無くなったという事もあり、事実上、無いと言った方がいいでしょう。ただし、規則にある以上、発令されれば実行する事は出来ます。

本記事は、2018年2月7日時点調査または公開された情報です。
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