【新植民地主義政策】知っておきたい経済戦争と植民地支配

現代も国家同士の間に存在する、支配されたり支配したり、利益を搾取したり搾取されたり、という構図。力による戦争とは別のルールで今もなお続いている、「新植民地主義政策」ともいえる、経済的な争いについて、解説します。


植民地と言えば東南アジアやアフリカの国々の支配権を武力によって奪っていった第二次大戦以前の帝国主義が台頭していた時代の野蛮な政策のように思えて、今の時代に植民地政策を行う国は人道的に許されないと言えるかもしれません。

しかし、現代でも国家同士の間に支配されたり支配したり、利益を搾取したり、搾取されたりという構図が存在しないと言うわけではありません。経済戦争という武力による戦争とは別のルールでなおも国家間の利益を巡る争いは続いていると言えます。

本記事ではこのような経済というルールによって発生している、新植民地主義政策に対して説明します。

アメリカのカリフォルニアのGDPはフランス・イギリス級?

世界の国々の国力は一般的にGDPで比較されます。

GDPは国内総生産の事を指し、一定期間(通常の場合1年間)に国内で生み出された付加価値の総額の事を指します。2016年のベータをベースに世界の国々をGDP順に並べるとトップ10は以下のようになります。

1位:アメリカ(約18.6兆ドル)
2位:中国(約11.2兆ドル)
3位:日本(約4.9兆ドル)
4位:ドイツ(約3.5兆ドル)
5位:イギリス(約2.6兆ドル)
6位:フランス(約2.5兆ドル)
7位:インド(約2.3兆ドル)
8位:イタリア(約1.9兆ドル)
9位:ブラジル(1.8兆ドル)
10位:カナダ(1.5兆ドル)

出典
外務省 主要経済指標・経済指標関連リンク

世界約190か国の中でアメリカと中国とアメリカのみGDPは10兆ドルを超えており、特にアメリカのGDPは20兆ドルに迫る勢いで日本のGDPの約3.8倍を創出している事になります。ちなみにアメリカで一番大きな州はカリフォルニア州で約2.5兆ドルとなっています。つまり、カリフォルニア州1州だけでフランスやイギリスが国家全体で創出しているのと同じくらいのGDPを創出しているのです。

では、カリフォルニア州はいったいどのような手段でこのような巨大なGDPを創出しているのでしょうか。カリフォルニア州の人口は約4000万人です。先ほどのGDPをカリフォルニア州の人口で割ると人口1人あたりで6.25万ドルとなり、日本の1人当たりGDPの約1.5倍をカリフォルニア州で創出していることになります。

カリフォルニア州には世界のインターネット検索市場でトップのGoogleや、世界一利用人数が多いSNSのFacebook、高級スマートフォンiPhoneのメーカーであるAppleなどの超有名企業は本社を構えています。これらの企業がカリフォルニアの巨大なGDPを支えているのです。これらの企業を中心とするカリフォルニアのIT企業の強みは全世界的に使われているプラットフォームを保有しているという事です。例えば、Googleはスマートフォン端末のOSであるAndroidを開発しており、全世界で7割のシェアを保有していると言われています。

Androidの端末に新しくアプリをインストールする場合はPlayストアを使用します。Playストアで有料アプリを取得する場合、支払われた料金の中から手数料30%がPlayストアを運営しているGoogleに入ります。つまり、日本企業がスマホゲームを開発して日本のユーザーに販売する場合でも代金の30%はGoogleに支払われて、日本の政府はこの手数料に対して税金が入らないという事になります。つまり、日本のPlayストアで流通したお金であっても3割はGoogleの売上になって、そのうちのいくらかはアメリカの税金になるという事です。

このように現代は武力で植民地を獲得するという時代ではありませんが、ITの発達によってビジネスを利用して上手に他国の利益を自国に誘導する事は当たり前になりました。このように武力から経済活動へ国家間の戦いのルールが変わっているのです。

中国が、着々と進出する「アフリカ支配」

もう1つ中国の事例を紹介します。


2017年7月中国の軍の補給基地がアフリカの北東部のジプチという地域に開設されました。ジプチの周辺はスエズ運河の紅海の入り口に位置する世界貿易の重要地で国連決議に基づく海賊からの護衛任務という名目で基地を開設しましたが、ヨーロッパ諸国は中国の巨大経済圏構想の「一帯一路」の海洋ルートの拠点を確保するために軍事的影響力を拡大する狙いがあるのではないかと警戒していると言われています。このような事例に留まらず、中国はアフリカに対する影響力を着実に強めています。

アフリカは世界経済に残された最後の未開拓地域あると言われています。すなわち、経済が未だに発展段階にないインフラが未整備の国には巨大なビジネスチャンスが残されています。道路や発電所などのインフラ整備や、鉱山や油田などの資源開発、労働力の格差を利用したアウトソーシングや貿易など、未発展の国家への進出は色々な潜在的なチャンスが隠れています。

このような理由から第二次大戦以降、ヨーロッパ、アメリカなどの先進国は中央アジア、南米や東南アジアとの貿易やインフラ開発に乗り出し、様々な国々の開発を行ってきたのですが、未だに開発が進んでいない地域がアフリカです。

このアフリカで着実に影響力を強めているのが中国で、アフリカの国々に対して巨額の投資やインフラ援助を行っています。これによりアフリカを「世界の工場」と呼ばれる巨大な生産能力を持つ中国で製造された安価な商品の供給先とし、また見返りとして資源の供給を受けているのです。

このようにただ武力を支配するのではなく、インフラ整備や投資によって血を流さずに途上国に対して影響を強めると言うのが先進国の新植民地主義政策だと言えます。

ファストファッションと労働環境

また、植民地をわざわざ作らなくても他国から経済的利益を享受する事は難しくありません。

例えばファッションの業界ではファストファッションが流行しています。ファストファッションとは商品のデザインから販売までのスパンを短くする事によって、トレンドに沿った商品を短期間で大量に製造、売り切るビジネスモデルです。これには製造者の負担が伴います。

すなわち、短期間で大量の商品を製造しなければならないので、製造者の労働環境はどうしても悪くなってしまいます。このようなファストファッションの服作りの為にバングラディシュなどの縫製工場を抱えている国では労働環境が深刻な問題となっているのです。このように先進国がファストファッションを享受できる背景には発展途上国の犠牲があるのです。

仕事を発注する企業と仕事を請ける企業は一見フェアな関係のように見えますが実質的にはそうではありません。もちろん、仕事を発注する側と発注側という事で力関係は発生しますがそれだけではなく、国際的な取引の場合、仕事を請ける側の企業の国が労働関係の法律を整備していなかったり労働者の立場が弱い事が多いので、そこで働く労働者の立場は更に弱くなりがちです。

このようにわざわざ武力を持って植民地を作らなくても、その国との経済的な結びつきさえあれば十分に利益を享受する事ができるのです。

経済戦争と植民地支配

このような事例から言える事は、植民地と宗主国という関係性から利益を享受する第二次世界大戦以前のシステムは崩壊しましたが、経済的な結びつきを利用して途上国から先進国が利益を得る手法はまだまだたくさんあるという事です。

このように経済的な結びつきによって先進国が途上国から利益を搾取する方法は新植民地主義と呼ばれており、様々な問題が発生しています。

このように、先進国では武力による戦争を行うケースは極めてまれですが、どの国も自国の経済力を武器にして経済戦争という形でなお覇権を争っていると言えます。

更にこの経済戦争には新しいプレイヤーとして企業が加わっています。多国籍に活動する巨大企業は時に国家よりも大きな権力を持ちます。すなわちトヨタが日本の豊田市に大きな影響を与えているように、巨大な企業が国の政策に大きな影響を与えるようになっているのです。例えば法人税率の減税が先進国でたびたび議論になっていますがこれは税金が高ければ多国籍企業はその国から会社を移動させてしまうので、多国籍企業に配慮した結果法人税の値下げ合戦に陥っていると言えます。

このように現代は経済と言うルールで、先進国、途上国、多国籍企業は自分たちの利益確保のために激しい争いを繰り広げています。


まとめ – 新植民地主義政策

このような経済戦争が繰り広げられる中、国家はどのようなスタンスでいるべきでしょうか。大きく分けて2つの方法があります。1つは市場を開放して自由競争によって経済を成長させるというスタンス、もう1つは徹底的に海外や多国籍企業の影響を規制して国内の産業を保護するという方法です。

どちらの方法が良いのか一概には言えませんが、道徳的、経済的に正しそうなのは前者の方です。しかし、前者のように市場を開放しているとプラットフォームを持っている巨大企業に市場をどんどん奪われていきます。

一方で後者の例は中国で、中国は海外や多国籍企業の影響を規制して着実に発展しています。

例えば中国にはテンセントホールディングスという世界で10本の指に入る巨大な時価総額の企業があります。テンセントホールディングスはLINEのようなメッセンジャーアプリを開発しているのですが、市場が開放されていてTwitterやLINE、Facebookなどを自由に使えるのであればこれほどの成長はなかったと考えられます。このように内需が大きい場合、あえて海外からの影響を規制する事によって産業を成長させるという事が可能なのです。

ちなみにアプリという観点で言えば、日本の方が中国よりも必ずしも進んでいるという事は無く、中国から動画配信アプリを始めとするアプリがどんどん進出してきており、ITの世界では必ずしも日本>中国となっているわけではありません。このように自国に自国で産業を保護して育てて、成長したら海外に展開していくというパターンも考えられます。

日本はアメリカに並ぶ規模の国だと言う時代は崩壊しました。数年前に中国にGDPで追い抜かれて、中国に少しGDPで抜かれているというイメージを持っている人も多いかもしれませんが、実は中国は日本の2倍以上のGDPを創出しているのです。日本は少子高齢化しているので今後あらゆる市場が縮小していくと考えられます。そうなったときに、日本から今後、世界から富を集めてくるようなサービスが誕生される事が期待されます。そういった意味では、日本発でアメリカでも成功を収めつつあるメルカリの躍進などには注目が集まります。

本記事は、2018年3月6日時点調査または公開された情報です。
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