公務員のスキルアップのための地方自治法(7)【議会 その1】

公務員のスキルアップのための地方自治法シリーズ、今回は、地方自治法の【普通地方公共団体】の範囲から「議会」について解説します。議会についての項目は、なんといっても昇任試験で1、2を争う頻出項目です。覚える内容も多くなるので、今回から数回に分けて解説していきます。


議会とはどんなもの?

今回解説する「議会」とは、国会のことではなく都道府県や市町村の議会になります。
地方自治法の索引でいうと、【普通地方公共団体】の第6章「議会」の項目です。

それでは地方自治体の議会とはどんなものか見ていきましょう。

国会と地方自治体の議会の違い

地方自治体の議会について解説する前にまず国の議会(国会)を見てみましょう。

国会は、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関です。(憲法41条)

国の権力は、立法権・行政権・司法権の三権分立と授業で習ったのにどうして国会が国権の最高機関?と思うかもしれませんが、三権で唯一、国民が直接選んだ議員からなるのが国会で、そういう意味での最高機関と解釈する説が現在主流になっています。(もちろん三権分立で互いの監視はあります。)

私たち国民が直接選挙で選べるのは国会議員だけで、首長である内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名されます。

そして実際に政治を行う「内閣」のメンバーは、国会議員の中で多数を占める党(現在なら自民党)の人たちによって組織され、大臣(厚生労働大臣、財務大臣など)は国会議員からなります。

ただし大臣全員を国会議員から選ばなければいけないわけではなく、民間人でも就任できます。

内閣は、国会で信任されることが必須条件で、また内閣は国会に対して連帯して責任を負わなければなりません。これを議院内閣制といいます。

このような議院内閣制に対して地方自治体の場合は、「首長(市長や知事)」と、「議員」の両方を住民が直接選挙で選び、その両方が住民の代表者となる「二元代表制」となっています。

自治体の市長と議会はお互いに監視・協力

地方自治体では、市長(知事)と議会が対立していてもかまいません。その両者の意思が一致している前提ではありませんし、その両者はどちらも独立した機関で、お互いに監視したり協力したりする関係になっています。


議会って必ず置かなければならないの?

最近はニュースなどで、どこかの自治体の号泣議員のことが報じられたり、高校球児に「おまえらなんて一回戦負けしろ」と罵声を浴びせる暴言議員など、議会や議員の不祥事がたびたび報じられていますが、そもそも、すべての県や市などには必ず議会を置かなければならないのでしょうか?

置くとすれば、それはどのような法律で定められているのでしょうか。この項目では議会を置くときの決まりごとについて見ていきましょう。

議会を置くことは、憲法で定められている

憲法93条には、次のように定められています。

憲法93条

地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

2 地方公共団体の長、その議会の議員および法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

出典
日本国憲法

このように、地方自治体には住民が直接選んだ議員たちで組織された議会を置くことが定められています。

93条に出てくる「議事機関」というワードは重要で、あとで解説しますが試験にもたびたび出るので覚えておいてくださいね。

次に地方自治法を見ると、89条に次のように規定されています。

地方自治法89条(議会の設置)

普通地方公共団体に議会を置く。

出典
地方自治法

ものすごく短文ですが、このように議会を置くことが定められています。

議会を置かなくてもいい例外あり?

先ほど解説したように地方公共団体には議会を置くことが定められていますが、一部例外としての定めがあります。

「市」ではなく、それより規模の小さい町・村の場合は議会を置かずに有権者が直接話し合う「町村総会」を設けることができるというものです。

地方自治法94条(町村総会)

町村は、条例で、第89条(議会の設置)の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。

出典
地方自治法

確かに、人口が少なく住民が全員顔見知りのような村では、いちいち代表者として議員を選ぶよりも、直接住民同士で話し合ったほうが早いですよね。

ですが、これは議会を必要機関とする憲法93条に違反するのでは!?という声もあります。

実際に町村総会を行っていた村として、東京都八丈小島の宇津木村があり、人口は60人ほどでした。昭和26年から4年間、町村総会が行われていましたが、昭和30年に八丈町との合併で消滅しています。八丈小島は、のちに住民が村を離れ、無人島となりました。

議員の数は何人?

それでは、各自治体の議会の議員数は何人でしょうか?何か決まりごとがあるのでしょうか?

以前は上限数を設けていた

ついこの前までは、地方自治法で、議員の定数は各自治体の人口に応じて上限数が決められており、その範囲内で各自治体が条例を作って決めることと規定されていました。

ですが、平成の市町村大合併の時に、合併した都市は議員数が多くなりすぎて世間の批判を浴び、議員数を減らしたり、またどの自治体も最近は自発的に議員数を減らす傾向にあります。


そうすると議員定数の上限を設けてもあまり意味がなくなってきたうえに、そもそも地方に対して国が法律で議員数について口出しするのは望ましくないということから、平成23年、地方自治法が改正され議員定数の上限は撤廃されました。

上限が撤廃されたため、現在では議員定数を増やすことも可能なのですが、実際には大阪府などのように議員数を減らす決定をするのが一般的になっています。

議員定数は、各自治体の条例で決めることとなっています。

またその定数を変更するタイミングは、自治体の合併時で人口にかなりの増減があった場合か、議員の一般選挙の場合に限ります。

議会で決定できるものは何?

それでは、地方自治体の議会では、どんなことが話し合われているのでしょうか。

何でもかんでも議題にあげていいわけではない

議会では、さまざまな議題について話し合い決定していきますが、当然のことながら学校の学級会とは違い、議決案件(議会で決めていい案件)は限定されています。

まず、市長(知事)と議会の関係において、市長側(=役所)が行う業務は幅広く、たくさんの業務にその権限が認められています。

そして、そのいくつもある業務のうち、これとこれだけは役所で勝手に決めるのではなく議会を通しましょうというしくみになっています。

そのことが地方自治法96条第1項に、「議会の権限」として定められており、議会で決めていい案件が制限列挙されています。

制限列挙って何?

制限列挙とは、96条1項に書かれている項目以外を議会で勝手に議題にしてはだめですよ、という意味で、よく出てくるワードです。

それでは、市長(=役所)の業務の中で、議会を通して決定するものにはどんなものがあるか見てみましょう。

議会を通して決定するもの

①予算を決めること

ただし、予算を提案するのは知事や市長(つまり役所の業務)で、議会はできません。

来年度はこの金額でこの業務を行いますという提案に対し、議会は増額や修正レベルのことはできますが、基本的に予算案をひっくり返すような修正はできません。そのことが地方自治法97条に書かれています。

②決算の認定

これも、今年度にはこの業務にこれだけの費用がかかりました、という報告が市長(=役所)からあるので、議会でそれについて確認し、認定します。

③ 地方税の賦課徴収など

これは、皆さんも納めている県民税や市民税、そして持ち家や財産にかかる固定資産税などについて、議会を通して決定するものです。

④契約の締結


契約の締結については、どんな契約でも議会を通してOKをもらわなければいけないわけではなく、基準があります。

○○の契約で金額がいくら以上のもの、など、あらかじめ自治体の条例で決めておくことになっており、それに合致する契約を締結するときには議会にかけます。

なお、議会にかける契約を決める際には、国の政令で定める基準に従って決めることになっています。

⑤財産を管理する(財産の取得・処分や不動産の信託、負担付き寄附・贈与を受けること、公の施設について長期的・独占的な利用をさせること)

自治体としての財産にもいろいろありますが、その中で、あまり聞きなれない「負担付き寄附・贈与」とは具体的にどんなものを指すのでしょうか?

これは、たとえば市や県に「土地をゆずりたい」という人があらわれ、しかし条件として、あげた土地を市(県)が整備したらその土地の一部は自分が使いたい、というようなケースや、不動産を贈与してくれる人があらわれたがその人はまだローンを払い続けていて、ローンの残高は市(県)で払ってくれないかと持ちかけてくるようなケースです。

このようなケースについてどうするかを議会にかけます。

⑥自治体が当事者となる訴えに関すること(審査請求、不服申し立て、和解、調停
損害賠償を行う場合の額について)

これについては、自治体が原告となって誰かを訴える場合にのみ議会を通す必要があります。逆に自治体が被告となって訴えられる側である場合は、(答弁書などを作る作業が発生しますが)議会の議決は不要です。

以上①~⑥が、市長(役所)の業務のうち議会を通す案件です。

これらに加えて、議会はもうひとつの重要な項目、「条例の制定・改廃」についても議決することになっています。

条例の制定・改廃について

地方自治法96条では、自治体のルールである条例を作ったり、改定したり廃止したりすることにも議会の議決が必要であると定めています。

条例を作るのは、市長(役所)だけの業務ではなく、発案して条例が作られるまでにはおもに3つのルートがあります。

◎市長が条例案を作成して議会に提出する

◎議員が条例案を作成し、議員定数の12分の1以上の議員が共同で提出するか、常任委員会が提出する(常任委員会については次回解説します)

◎住民が持つ権利である「直接請求権」の中に「条例の制定・改廃」について請求する権利があるので、一定数以上の住民の請求によって議会に提出される

以上3つのルートで、条例案は議会に提出されます。

そして提出された条例を実際に制定するか否かは、必ず議会で決定しなければいけません。

議会が議決できる案件の追加も可能?

条例で追加案件を決めてもいい

先ほど解説したように、市長(役所)の業務のうち議会を通して決定できる案件は制限列挙されており、それ以外は基本的に議会を通さない形になっています。

ですが、もっと議会の権限を強めたい場合に、その方法があります。


地方自治法96条2項に次のように書かれています。

地方自治法96条2項

前項に定めるものを除くほか、普通地方公共団体は、条例で普通地方公共団体に関する事件(法定受託事務にかかるものにあっては、国の安全に関することその他の事由により議会の議決すべきものとすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く)につき議会の議決すべきものを定めることができる。

出典
地方自治法

「前項」とは先ほどあげた議会の議決権①~⑥と条例の制定・改廃のことになります。

これは、一部の事務を除いて、もっといろいろなことを議会を通して決めてもいいよ、その場合は、どの業務について議会を通すのか、その業務名を定めた条例をあらかじめ作っておいてくださいね、というものです。

各自治体はどんな追加案件を設定している?

これにより全国の自治体は、議会を通し決定する案件として、うちはこれとこれを追加します、という条例を作っています。

条例の名前は、「地方自治法第96条第2項の規定による議会の議決すべき事件を定める条例」などと各自治体とも少し長い名前になっていますが、このような条例を設定して、議会で決めることのできる案件を追加で設定しています。

たとえば兵庫県では、「一件2000万円以上の出資や損失」が発生する業務については議会を通して決定すると定めました。

また大阪府堺市は、名誉市民を選出する際は議会で決めることとしています。

そして神奈川県、福井県など全国で多くの自治体が、県や市の行政や、まちづくり基本構想については議会を通して決めるという条例を作っています。

そして静岡県伊豆の国市をはじめ、これも多くの自治体で、「姉妹都市の提携」については議会で決定すると条例で定めています。

このように全国の自治体には、議会で決めることとした追加案件がたくさんありますので、ご自分の住んでいる自治体や勤務する自治体でどのような案件を議会が決めているのか調べてみるのもおもしろいかもしれません。

昇任試験の過去問を解いてみよう

それでは、今回解説した項目の範囲で、実際に出題された問題を見てみましょう。

各自治体の昇任試験では、〇×方式のものが多く出題されますので、次にあげる問題文が〇か×か、皆さんも考えてみてください。

昇任試験過去問題

【問1】議会は、地方公共団体の唯一の立法機関である。

正解→×

国会は唯一の立法機関(法律を作る機関)ですが、自治体の議会は唯一の立法機関ではありません。自治体の議会はたしかに法(条例や規則)を制定する権限を有していますが、市長も自分の業務の管轄内の規則を定めることができます。


ですので議会が唯一の立法機関ということにはなりません。

またこの問題はもうひとつ、そもそも自治体の議会は単なる立法機関ではなく、市長(役所)の業務の検閲や検査を行うなど行政的な役割もあると規定されている(地方自治法98条)ので、単なる「立法機関」ではなく、「議決機関」であるというのが正解です。

上記のような、「自治体の議会の位置づけは議決機関」という答えを導き出す問題はたびたび出題されていますので、覚えておいてください。

【問2】地方公共団体に議決機関として議会を置くべきことは、憲法が直接定めるところであり、議会にかえて町村総会を設けることはできない。

正解→×

こちらは先ほど解説したように、地方自治法94条で、小規模な町・村においては町村総会を条例で設置することが認められています。

【問3】都道府県の議員定数は、法定の上限数の範囲内で条例で定めるが、申請に基づく都道府県合併の場合を除き、一般選挙の場合でなければ、定数の変更を行うことはできない。

正解→×

この問題は、合併や一般選挙の場合でなければ議員定数の変更ができないところは合っていますが、議員定数の上限はすでに撤廃されているので、その部分が誤りです。

このように、文中の大半は正解だが一部が誤りという問題が多く出題されるので注意が必要です。

【問4】予算は長が議会に提出するので、議会は、予算の議決権を有するが、いかなる場合も、予算の増額修正をすることはできない。

正解→×

予算は長(市長、知事)が議会に提出しますが、この予算を根こそぎくつがえさない範囲であれば、議会は予算の増額や修正を行うことができます。

【問5】都道府県の議員定数は、条例で定めるが、廃置分合または境界変更により著しく人口の増減があった場合は、一般選挙の場合に限り、定数を増減することができる。

正解→×

これも誤りです。自治体の合併時で人口に変動があった時か、議員の一般選挙の場合に議員定数を定めた条例を変更することができますが、両方の条件がそろわないと変更できないわけではありません。

合併などで人口に変動があれば、それがたとえ今の議員の任期中で選挙がまだ先であっても、議員定数を変更することができます。

【問6】議会の議決は、普通地方公共団体が民事上、行政上の訴訟を提起する場合には必要とされているが、被告となって応訴する場合には必要とされていない。

正解→〇

これは正しいです。議会を通すものは、「訴えの提起」と限定されており、自治体が被告となって応訴する側になる場合は、議会を通す必要はありません。

【問7】議会の議決が必要な契約については、政令で契約の種類および金額が定められているので、議会が条例により任意に基準を設けることはできない。

正解→×

これは誤りです。議会の議決が必要な契約は、政令で定める基準に従って、契約の種類や金額を条例で定めることとされています。

まとめ

今回は実際に自治体の昇任試験に出題されたものをいくつかあげてみましたが、これを見てどのような出題形式かをイメージしてもらえればいいと思います。

また「議会」の項目はとにかくよく出題され、その際も細かいキーワードについて知識があるかを試す問題が多いので、注意が必要です。

次回も引き続き「議会」について解説します。

本記事は、2018年2月23日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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