【地方創生】 仮想通貨は地方創生の救世主となるか?

日本の課題である「地方創生」について、今回は、注目される仮想通貨とその仮想通貨発行「ICO」を地方自治体が行う事に関する考察するコラムです。ICOを活用し、停滞する地方経済を活性化させることや、それを「官」主体で行うことの是非についてなどについて取り上げています。

地方自治体が注目する仮想通貨

2017年に流行した新しいお金に関するサービスとして「仮想通貨」があります。

仮想通貨の大きな特徴は法定通貨とは異なり通貨発行権が無い団体でも発行できる事と「ブロックチェーン」という技術でその通貨のユーザー全員で通貨の信用を管理するという事です。

このような仮想通貨を発行する事をICO(Initial Coin Offering)と言いますが、このICOに地方自治体が注目しています。

従来地方債や地方税しか自治体の歳入を増やす方法はありませんでしたが、ICOによって地域通貨を発行する事によって新たに財源を確保できる可能性があるからです。本記事では地方自治体とICOの関係について説明します。

そもそも、地域通貨って気軽に発行できる?

法定通貨は勝手に発行できない

いわゆる日本円は仮想通貨とは異なり、国家がしかるべき運用を行う「法定通貨」として、定義されています。

この法定通貨では、通貨を発行する時に、シニョリッジ(通貨発行益)というものが発生します。

例えば、1万円の製造原価は約20円ですが、1万円札として印刷・流通すると1万円の価値がある事になります。つまり通貨を発行する事によって20円の原価で1万円が作れるので差引9980円の利益が生み出されたという事になります。

しかし、誰でも自由に1万円が刷れるならば、誰もが紙幣を印刷するので町中に1万円札があふれてしまいます。その結果、1万円の価値が目減りし、今まで1万円で購入できた商品が2万円払わないと購入できないというような極端なインフレが発生し、経済が混乱するのは容易に予想できる事です。

このような理由から、法定通貨(市場で必ず流通させられる通貨)を発行できる団体はどこの国でも限定されています。日本では、日本銀行や造幣局以外が法定通貨を勝手に印刷・鋳造すると通貨偽造罪、それを使用すると偽造通貨行使等罪が適用されます。

地域が発行している「地域振興券」について

ただし、日本国が発行している法定通貨を偽造するのではなく、地域が使いたい人達だけで使うオリジナルの地域通貨を発行する事は、禁止されていません。

例えば、約20年前に地域振興券というものが流行しました。これは地方自治体が期間限定でその地域だけで使える独自の商品券を発行し子どもや高齢者がいる世帯に対して配布して、景気浮揚・地域創生を促そうという政策でした。

ちなみに、地方自治体が地域振興券を発行するための補助金として国は6000億円以上の予算を組んで対応しましたが、これ以降実施されていません。地域振興券の事例からもわかるとおり地域通貨を発行する事は禁止おらず、地域振興券の時には盛り上がりましたが、現在は日本で積極的に地域通貨を流通させている自治体は存在しません。

地域が地域通貨を発行しなくなった理由

地方自治体が地域通貨を発行しないのには大きく2つの理由があると考えられます。

1つは法定通貨と固定レートで交換できる通貨を発行するメリットがあまりない事、2つ目は通貨の流通の仕組みを何に担保するのかという事です。

変動相場と固定レートによる発行者のメリットの違い

まず挙げられるのが、法定通貨に対して固定レートで交換できる地域通貨を発行する事にはあまりメリットが無いという事です。

なぜ法定通貨に対して固定レートの独自通貨の発行にはメリットが無いのか

地域振興券や企業が独自に発行しているポイントなどは円によって価値が裏付けられています。例えば、地域振興券については対象者1人あたり2万円と日本円で金額が決められていましたし、Tポイントや楽天ポイントも1ポイント1円という風に円との間の交換レートが固定で決まっています。法定通貨に対してレートが固定されている「通貨」を発行する事にはあまりメリットがありません。

例えば、100万円分のポイントを発行して、その100万円分のポイントを誰かが使用して、そのポイントを受け取った側が発行者に対して円に交換して欲しいと言えば発行者は100万円を支払う事になります。円との交換レートが固定相場になっていると、ポイントの裏付けとなる法定通貨を発行者は負担する事になります。つまり、法定通貨と固定レートで交換できる通貨はその裏付けとなる法定通貨が必要となるので、発行者がシニョリッジを享受できないという事になります。

よって、企業が自社サービスを利用して貰う為に独自のポイントを付けるという事にはメリットがありますが、地域が独自に法定通貨と固定レートで交換できる通貨を発行するメリットはありません。わざわざ地域通貨を発行するよりも地方債を発行した方が良いでしょう。

ICOにより通貨発行者が得られる利益

近年、地方自治体がICOに注目している一つの理由としては、変動相場的な地域通貨を発行できるという事が挙げられます。例えば、ビットコインなどの仮想通貨と円の交換レートは毎日毎時変化しています。今日10万円の価値があった通貨が明日には9万円になっているかもしれませんし、あるいは11万円になっているかもしれません。このように交換レートがそのタイミングの需要と供給によって変化する事を変動相場制と言います。

発行した貨幣が変動相場で交換できる事は通貨の発行者にとってはとても重要です。例えば、100ポイントという仮想通貨を発行して、初めに100円の値段で交換されたとします。この場合、ポイント発行に掛かった費用が2円だとすると、発行者は98円のシニョリッジを得る事ができます。

そして、その後の通貨の交換レートは通貨同士の信用によって決まり、通貨発行者は交換レートを保証する必要はありません。すなわち、例えば発行した100ポイントについて、使える店舗が少ないので欲しい人が減って100ポイント=50円の価値しかなくなってしまっても、価値が目減りした50円分について通貨発行者は保証する必要はないのです。

固定レートではなく変動相場であるという事は通貨発行者にとってとても重要です。変動相場的に地域通貨を発行できるという事がICOの大きなメリットだと言えます。

流通の仕組みを何に担保するか

通貨発行にまつわるコスト

もう1つの問題として挙げられるのが流通の仕組みを何によって担保するのかという問題です。法定通貨の様に地域通貨を発行するのには手間がかかります。通貨を印刷や鋳造するのはもちろんの事、それが商品やサービス・あるいは他の通貨と簡単に交換できなければ流通しませんし、偽造通貨をどのように取り締まるのかも問題となります。

ICOによる通貨発行のメリット

この点について、仮想通貨は電子的に取引できるので通貨を印刷・鋳造する必要がありませんし、スマホを使って実店舗で決済したりWeb上の交換所で自由に取引したりできます。また、ブロックチェーンという取引を全員で記録・監視する仕組みで通貨の流通をコントロールしているので誰かが通貨を偽造するという事もできません。

このように通貨を発行・流通するために必要な仕組み作りがICOの技術を使う事によって低コストで行えるという事が、ICOの技術で地域通貨を発行する事の大きなメリットだと言えます。

地域通貨と上場企業の株式

では、このようなICOの技術を使って地域通貨を発行すれば地方自治体はどのように生まれ変わるのでしょうか。地方自治体が地域通貨を発行するという事は企業が上場する事に似ています。

上場企業の企業価値

企業が上場するという事はすなわち株が証券取引所を通じて自由に売買できる事になるという事です。そして株式の価値はその会社の業績や将来性によって日々変動します。例えば、投資家がこの会社は今後成長すると思えば、株式の需要が高まるので株式の値段は高くなります。

そして、株式の値段が上がれば、株式を新しく発行したり、保有していた株式を売却する事によって、事業に必要な資金が集まるので、企業は更にその資金を元手に業績を伸ばそうとします。上場企業は株式市場という開かれた市場の中で客観的にその価値を評価されて、その価値を高める事に日々努力しています。

地方自治体にも市場原理を

地域通貨を発行する事によって、地方自治体も開かれた市場の中で、客観的に評価されるようになります。すなわち、魅力のある自治体の地域通貨は需要が高まるので値段が高くなりシニョリッジや通貨の売却益で資金調達して、更に魅力的な自治体になれるように活動する事ができます。

また、変動相場なので地域通貨の価値を円の裏付けをもって保証する必要もないので、地方債を発行するよりもリスクが低いと言えます。以上のような理由からICOによる地域通貨の発行は地方創生に必要な財源を確保する為の手段として有効だと考えられます。

仮想通貨は本当に通貨的な価値を持つようになるのか

一方でICOにより地域通貨を発行する事は良い事ばかりではありません。

問題として挙げられるのがICOによって発行した地域通貨は本当に通貨的な価値を持つようになるのか?という事です。

理論的には仮想通貨は便利ですが、現実的には管理体制が甘ければハッカーに奪われてしまったり、決済に時間がかかったり価値が乱高下してしまうので、通貨としては流通しにくい状況にあります。

現在の仮想通貨は投機的目的で売買される事が多いと言われています。

例えば、ベネズエラが2018年2月に国家として仮想通貨のペトロを発行して話題になりましたが、市中に流通させようというよりも経済制裁の抜け道として海外の投資家から仮想通貨を活用して資金を集めようとする目的であるという指摘がなされています。

現在投機的資金を集める方法となっている仮想通貨が、本来の通貨の様に人々が商品やサービスを流通させる為の手段となるのには時間が必要だと考えられます。

まとめ

なぜ地方自治体は横並びになるのか

以上のように、ICOと地方創生の関係について、説明してきました。

良くも悪くも現在の地方は横並びで、税収の不足分を国からの地方交付税交付金や助成・補助金などで賄っていて失敗しても地方自治体が破綻してしまうというケースはめったにありません。

また、地方自治体の評価には株式市場のような市場原理が働かないので、一般企業のように競争に勝ち抜こうというモチベーションも湧きにくいと考えられます。

地方が独自財源で地方創生を行うためには

このような風潮を是正し、地方自治体間で競争を促し、自主的に財源を確保させようということで、ふるさと納税制度が導入されましたが、寄附金を集める為に地方自治体の返礼品競争が過熱して、かえって地方自治体の財政を疲弊させかねない状況となっています。

地方創生において、ICOによる地域通貨発行という手段は、地方自治体を開かれた市場で評価する事、将来有望な自治体にきちんと資金が投入されるという点では潜在的な可能性は非常に大きいと言えます。

そんな期待から、岡山県西粟倉村が全国に先駆けて、地方自治体のICO導入に向けて共同研究を2017年末より開始しました。

しかし、仮想通貨自体がまだまだ実用には耐えられない不便なものなので、地域通貨を仮想通貨として、自治体が自由に発行して資金調達できるようになるためには、まだ時間がかかると予想されます。

本記事は、2018年4月6日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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