【アメリカ州制度】バージニア州から独立した「ウェストバージニア州」解説

日米安全保障条約をはじめ、日本と政治的にも、経済的にも密接な関係にあるアメリカ合衆国についての現地日本人レポートです。 今回のテーマは「ウェストバージニア州」です。ウェストバージニア州は観光の魅力に溢れた地域ですが、特徴や歴史を通してどんなところなのか解説していきます。


アメリカ東部にあるウェストバージニア州は南北戦争の際には北軍と南軍の境界線となり、バージニア州が分断して生まれたという歴史があります。州内にはアパラチア山脈があり景勝地として有名である一方、貧困、肥満、不健康などワースト記録の常連という州でもあります。

今回は州の成り立ちや歴史などにユニークな点が多いウェストバージニア州についてご紹介します。

ウェストバージニア州の特徴

2018年現在、ウェストバージニア州の総人口は約181万人です。アメリカ50州のなかでも珍しく1950年以降に人口が減少していることが特徴です。直近の20年については人口の増減がなく、常に180万人程度で推移しています。ウェストバージニア州はもともとはバージニア州の一部でしたが、独立戦争の際にバージニア州が奴隷制度を支持して南軍に加盟、それに反対した人たちが分離して独立したことが州の始まりです。

ウェストバージニア州はアメリカ国内では悪名が高いことで知られており、なかでも貧困ランキングでは毎年ワースト5に入るほどの常連です。また、世帯平均年収においてもアーカンソー州やミシシッピ州など南部の州と同様に全米で最低ランクと言われています。

ウェストバージニア州では州民の4人にひとりは肥満体質とされており、全米で最も喫煙者が多い州としても知られています。さらに、他州では通じない独特な英語や単語が日常的に使われており、ウェストバージニア州の人たちはアメリカ国内で無教養な白人に対する侮辱的な言葉である「Hillbilly」と言われることもあります。

しかしながら、このようなウェストバージニア州の古いイメージは徐々に払拭されつつあります。その大きな要因こそが州内の大自然を生かした観光産業で、アパラチア山脈エリアではトレッキング、カヌー、釣りなどのアウトドアアクティビティが通年で楽しめます。冬はアメリカ東海岸一とされるスキーリゾートもあるため、都市圏に住む人たちが多く訪れています。

1900年代では石炭や木材などの産地としても栄えた過去もあり、その繁栄を支えた鉄道を巡る観光も人気を集めています。とくに、キャースシーニック鉄道は1980年に観光用に改修され、現在ではアメリカ国内の鉄道ファンが訪れる「聖地」とされているほどです。

2005年には1億2000万ドルもあった州の赤字は、観光業のテコ入れの結果、2008年には黒字化し同年ではアメリカで唯一の黒字の州になりました。このような明るい傾向があるものの、他州と比較して失業率は高く、雇用と貧困は州が慢性的に抱える深刻な問題と言えるでしょう。

ウェストバージニア州はバージニア州から独立した背景があり、アメリカでは東部のカントリーサイドと揶揄されることがあります。貧困で不健康な白人が多いイメージから侮辱的な見方をされてしまいがちですが、自然に溢れ人々の優しさが残る古き良きアメリカの姿が残っていることが特徴です。

ウェストバージニア州の歴史

ウェストバージニア州は、1863年にアメリカ合衆国35番目の州になりました。バージニア州の西部が分離して独立する形で現在のウェストバージニア州になった背景には奴隷制度への解釈の違いがありました。現在のバージニア州は奴隷制度を支持し、南北戦争の際にはアメリカ連合軍(南軍)に加わりましたが、これに反対したのが現在のウェストバージニア州なのです。

ウェストバージニア州が誕生したのは南北戦争の最中であり、州がある位置からも南北戦争の境界線として象徴的な存在になりました。また、州の内部で意見が対立したことから州民同士の関係も複雑なものになり、両州の間では互いを蔑むような風潮も生まれたほどです。しかし、ウェストバージニア州の人たちは奴隷制度に反対し、バージニア州から独立したことは正しいと信じていて誇り高いことでも知られています。


ウェストバージニアの地では先住民族のインディアンが狩猟を中心にした生活を送っていました。1671年、バージニア植民地からトマス・バッツとロバート・フェイラムが本格的な調査を始めたことが白人の歴史の始まりとされています。

1716年頃からヨーロッパ系の移民が交易拠点を築きましたが、1746年にポトマック川支流にイギリス人貴族のフェアファックス卿の所有であることを示す石柱が建てられイギリスの領土になりました。この際に、測量を担当した人物は後に初代大統領になるジョージ・ワシントンです。

1790年頃にはウェストバージニア州と東部の間でビーバーなどの毛皮や、豊富に採れた石炭や木材などの流通がカノーハ川を中心に栄え、人も物も川を使って流通していきました。同州は1800年以降は蒸気船の製造や石炭などでアメリカの重要な拠点になったほどです。

現在のバージニア州とウェストバージニア州を地理的に二分していたのがアリゲイニー山地でした。この山岳地帯より東のバージニアでは奴隷を使った農業などが盛んで、奴隷には政治や経済的な意味がありました。これを快く思っていなかったのが山より西側の人たちでした。東では奴隷を使って次々に街が発展していきましたが、山岳が多い西では農業ができなかったため奴隷制度に懐疑的になったのです。

西側ではヨーロッパ系の移民が自らの手で開拓を続けていたことに対し、政治を司っていた東側は西側に対して開拓のための資金を冷遇し、次第に東西で意見が食い違うようになりました。この風潮は西側に新しい州を作るという流れを生み出しました。

1861年、南北戦争が始まります。バージニア州は奴隷制度を支持するアメリカ連合国(南軍)に加勢することを決定しますが、後のウェストバージニア州の代表者たちはこれに反対し、バージニア内での意見は分裂しました。翌年の1862年には新州設立の住民投票が実施され、賛成多数になりバージニアの西側は新しい州として分離独立することが決まりました。

1863年、エイブラハム・リンカーン大統領によって6月20日付けでウェストバージニア州として合衆国に加盟することが決定します。南北戦争ではウェストバージニア州からは南北の両軍におおよそ25,000人が出兵しており、独立当時は混乱が続いていたことが伺えます。

このようにウェストバージニア州は地理的な状況によって考え方までも分断され、南北戦争をきっかけにして誕生した歴史があることを知っておくといいでしょう。

ウェストバージニア州の政治情勢

ウェストバージニア州では2012年、2016年の大統領選の際には共和党を支持しています。南北戦争の際には奴隷制度に反対する北軍だったことからリベラル派が多かったものの、2000年を機に共和党を支持する傾向が強まっています。ちなみに、バージニア州は民主党が強い傾向があり、もともとはひとつだった両州は選挙の度に比較されています。

ウェストバージニア州の経済

2018年時点、ウェストバージニア州の失業率は5.4パーセントです。近年ではアメリカの平均よりも高い水準が続いています。同州の雇用問題は慢性化しており、全米で最も経済が弱い州とされています。現在では企業誘致に注力しており、他州と比較して事業コストが13パーセント以上安く抑えられることが特徴です。州内にはAmazonや日野自動車、トヨタ自動車など大企業や日系企業も進出しています。

ウェストバージニア州の税金

2018年時点、ウェストバージニア州の消費税は6.37パーセントです。連邦税が6パーセントで、地方消費税の平均が0.37パーセントです。個人所得税は3パーセントから6.5パーセントかかります。食品に対しては2パーセントの消費税が適応されるため、個人にとって税負担は大きいと言えるでしょう。ただし、個人に対する相続税は課せられません。

ウェストバージニア州の銃や薬物問題

ウェストバージニア州ではマリファナは全面的に禁止されています。隣接するバージニア州でも禁止されていますが、保守的なアメリカ南部一帯の典型的な傾向と言えます。ウェストバージニア州では銃に対する取り組み格付けは最低ランクの「F」グレードとされています。州民10万人に対する銃の犠牲者数は14名と多いことが特徴です。

ウェストバージニア州の教育または宗教事情

ウェストバージニア州の教育水準は全米で45番目の低さとされています。とくに学業達成率や学歴を意味するEducational Attainmentは全米で最も低い状態です。少しでも教育環境を改善しようと、ウエストバージニア大学やマーシャル大学など多くの大学では日本との交換留学や語学留学プログラムが充実しています。

ウェストバージニア州の宗教はキリスト教、カトリックが大半を占めており州民は信仰心が強いとされています。一方で、州民の15パーセントは無宗教と言われています。

まとめ

ウェストバージニア州はバージニア州から分離独立した州ということが特徴です。奴隷制度に反対した立場ということもあり、他人に優しくおおらかな人が暮らすことでも知られています。雇用や経済成長が州の大きな課題とされていますが、豊富な自然や南北戦争の際の歴史的な場所が多く残っているため観光の魅力に溢れた場所でもあります。


本記事は、2018年9月23日時点調査または公開された情報です。
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ウェストバージニア州
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