はじめに - 大惨事になっているアメリカの山火事
一言で「アメリカの山火事」と言ってもごく一部に限られることから、日本国内だけでなくアメリカ国内でも大きな話題にならないことがほとんどです。しかし、山火事の影響を知れば知るほど大惨事であることが分かります。
そこで今回はアリゾナ州で生活している筆者が体験した山火事の影響について、あまり知られていないことなどを含めてご紹介します。
アメリカの山火事について
はじめにアメリカの山火事はいつ、どこで、どのようなことをきっかけにして起きるのかをご紹介します。
山火事頻発エリアはアメリカ西部
アメリカの山火事は全国各地で発生しますが、とくに被害が大きいエリアは乾燥地帯として知られているカリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州、オレゴン州、ユタ州などです。
これらの州には手付かずの自然が広がっており、ヨセミテ国立公園やレッドウッド国立公園、グランドキャニオンなどがあります。広大かつ美しい自然が残されている一方で、年間を通じて降雨量が少なく、非常に乾燥します。そのため、ひとたび山火事が発生すると「手に負えない」状態になりがちです。
事実、筆者が生活しているアリゾナ州では、2020年6月5日に落雷によって発生した山火事がきっかけとなり、完全に鎮火した7月23日まで延焼し続けました。「Big Horn Fire」と名付けられたこの山火事は、合計で88,000エーカー(約356平方キロメートル)琵琶湖の半分程度を焼き尽くした計算です。
また、カリフォルニア州のサンフランシスコでは、2020年8月中旬に落雷によって山火事(Bear Fire)が発生し、これまでに少なくとも7名が死亡し、12名が行方不明、2,000の建物が消失、22,356軒が危険な状態にあるとされています。
懸命の消火活動が行われていますが、複数箇所(70,000エーカー)で火災が続いており、消火の目処は立っていません。地元住人おおよそ20,000人が避難を強いられており、カリフォルニア州は非常事態宣言を発令しています。
山火事が起きているサンフランシスコから南へ500マイル(約800キロ)離れたサンディエゴや、東に750マイル(約1,200キロ)離れたアリゾナ州の州都フェニックスまで煙が到達しており、日中でも空が白く、どことなく焦げ臭いにおいを感じる時もあります。
カリフォルニア州の北に隣接するオレゴン州にも山火事が広がっており、オレゴン州ではおおよそ50万人が自主的に避難するなどの影響を受けています。
アメリカの山火事のシーズンと原因
アメリカで山火事が頻発するのは毎年6月から10月です。この季節は乾季に該当しますが、モンスーンと呼ばれる季節風の影響によって雷雨が起こりやすくなります。
アメリカ西部では海岸性暴風が吹くことから、雨雲が発達しやすくなって激しい雨や雷をもたらします。雷雨は1日のうちごく短時間ですが、1回の雷雨でおおよそ1,000回の雷が落ちるといわれています。雷が落ちた場所の条件によっては火が発生して燃え広がり、山火事になる訳です。
2020年に関しては雨が少なく、極めて高温の日(カリフォルニア州デスバレーでは54.4度を記録)が続いていることから、例年以上に乾燥した状態になっていました。乾燥と高温が原因で広範囲にわたって山火事が広がったとされています。
ちなみに、カリフォルニア州やアリゾナ州など山火事が多い西海岸エリアでは「ハリケーン」は起こりません。超大型のハリケーンがアメリカ東海岸を通過する際に、わずかに風が強くなったり、曇る程度の影響しか受けません。西海岸はハリケーンよりも山火事の方が身近な自然災害と言えます。
アメリカの山火事の影響
アメリカ西海岸での山火事は毎年起きることではありますが、規模が大きくなればなるほど様々な影響が生じます。ここではあまり知られていない山火事の影響をご紹介します。
アメリカの山火事の影響その1:地元経済
大規模な山火事が発生すると地元経済に影響します。
多くの人は山火事の煙によって外出を控えるようになります。そのため、スーパーマーケットやレストランなどの売り上げが下がります。とくに2020年は新型コロナウイルスの影響もあるため、接客を伴う産業は大打撃と言えるでしょう。
さらに深刻な影響を受けるのが観光業です。普段なら多くの観光客が訪れる国立公園などでは、安全性が確保されるまで閉鎖されてしまいます。また、山火事によって景観が損なわれたり、公園内の施設が焼失してしまうことで、当面の間は観光客を受け入れなくなるのです。
観光客が来ないことはホテル業やツアー会社、旅行代理店なども連鎖的に影響を受けてしまいます。アリゾナ州のように観光に依存している州は税収にも影響が及びます。消火活動にかかる経費が増える一方で、税収が落ち込むため行政としてはダブルパンチになる訳です。
とくにカリフォルニア州は慢性的な財政難として知られており(財政難を理由に公立学校が閉鎖されるほど)山火事によって財政難は一層深刻化します。
アメリカの山火事の影響その2:健康被害
山火事の煙によって健康被害が起きる可能性もあります。山火事は季節風によって煙や灰を広範囲にわたって広げるため、山火事の近くに住んでいなくても息苦しさや埃や汚れなどの影響を受けます。
事実、サンフランシスコから1,000キロ以上離れた場所に住んでいる筆者の街でも流れてきた煙によって空が白くなっており、普段は快晴なのに曇りがちな天気が続いています。(曇りと言っても雲ではなく煙によるもの)
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、山火事によって汚染された大気中の空気は人体に有害としており、山火事が終息するまでは外出を控えるように注意喚起をしています。
出来るだけ室内に留まって窓を閉めて生活するように推奨されていますが、密閉状態になり新型コロナウイルスの感染拡大を誘発しかねないとされています。
アメリカの山火事の影響その3:電力不足
山火事は電力不足を引き起こします。山火事は暑い季節に起こりやすく、広範囲にわたって大気を汚染するため、多くの人が窓を閉めてエアコンを使用するようになります。この結果、州全体で大量の電力が消費されるため、供給量を上回ってしまい停電が起こるのです。
実際にサンフランシスコの山火事が原因で2日間にわたって停電が起きており、同州の電力を管理するCISO(California Independent System Operator)は緊急事態を宣言して、「計画停電」に踏み切っています。
カリフォルニア州はアメリカで最も人口が多い州(約4,000万人)なので、ひとたび停電が起きると多くの人の生活や経済活動に影響が及びます。
アメリカの山火事の影響その4:洪水被害
山火事による焼失範囲が広くなると洪水の可能性が高まります。山火事によって多くの山林が焼失することで、山間部で降った雨が吸収されることなく街へ流れてくるため、街のいたるところで洪水が発生します。
筆者が生活しているアリゾナ州は通年で降雨量が少ないため、日本のように「水はけ」を考慮した街づくりがされていません。そのため、ひとたび水が溢れると行き場を失った水によって洪水が起こるのです。
低い土地の浸水や、道路が川のようになって身動きが取れなくなることもあります。あまり知られていない山火事の影響と言えるでしょう。
アメリカの山火事によって発生する損害賠償
山火事は落雷による自然災害の他にも、人為的なことが原因の場合もあります。
例えば、カリフォルニア州南部のサンバーナーディーノ周辺で起きた山火事(約30平方キロメートルが焼失)の原因は、近隣住人による「赤ちゃんの性別発表パーティー」で使用された花火によるものと発表されました。
現地消防当局の調べでは、パーティーで使用した花火から山林に火が燃え移り、家族らが慌てる様子が撮影されたビデオがあったとしています。
他にも、2017年に起きたアリゾナ州サンタリタの山火事(Sawmill Fire/約186平方キロメートルが焼失)でも同様のことが起こっており、性別発表パーティーで爆発を引き起こした父親(Dennis Dickey・37歳)に対して800万ドル(約8億円)の賠償金支払い命令が下っています。ただし、個人で全額を支払えるとは思えないため、先20年間にわたって毎月500ドルを支払う約束になっています。
山火事が起きる原因の8割は人為的なこととされていますが、そのほとんどは特定の人物に対して賠償命令を出すことはできないため、州政府や自治体が費用を負担しているのが実情です。
まとめ
以上、「実は大惨事になっているアメリカの山火事について」でした。
アメリカの山火事は焼失被害以外にも経済活動や健康被害など、広範囲で多くの人に影響を与えるため恐ろしい自然災害です。しかし、広いアメリカのごく一部でしか起こらないことから「対岸の火事」という認識でしか見られていません。
アメリカ西部では毎年のように気温が上昇し、モンスーンの時期でも雨が降らない天候が続いています。専門家は「明らかな気候変動」として警鐘を鳴らしていますが、トランプ政権にとって環境や気候問題の優先順位が低いことは明らかです。
山火事による被害を軽視していると政権運営にも支障が及ぶ可能性があるため、トランプ大統領の対応に注目が集まります。
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