警察の広域緊急援助隊とは
警察本部の中の救助隊
広域緊急援助隊とは、各自治体の警察本部内に所属している部隊の事です。主に、災害現場における救助活動を行っています。「広緊隊」と略されることもあります。
台風や洪水、大地震などの大規模な災害が発生した時に被災地に派遣され、要救助者の救助や避難誘導、治安を維持するための警備や交通誘導、情報収集などの任務にあたります。制服は、明るい青地に両手足の黄色のラインが入った制服となっています。
発足のきっかけは阪神淡路大震災
1995年1月に発生した阪神淡路大震災では、甚大な被害が出ました。これを受けて、警察庁も各地の機動隊や警察官を被災地への援助のために派遣しましたが、救助や援助に対して不慣れな隊員や警察官が多く、技術力や経験不足もあり現場での救助活動が円滑に行われませんでした。
この教訓を受けて、警察庁では警察の中でも救助や援助に特化した、災害対策専門の部隊を設置する事が必要だと判断され、1995年6月に、各都道府県に「広域緊急援助隊」を設置する事が決められました。
また、広域緊急援助隊は、大災害の際には都道府県問わずに出動ができます。
広域緊急援助隊は、警察災害派遣隊の中の一部隊
東日本大震災を受けて、警察組織の中ではより被災地へ広域的な派遣を行って活動ができるようにと組織が見直され、今まで広域緊急援助隊と機動救助隊のみだった警察の災害派遣組織が拡充され、「警察災害派遣隊」となりました。
今は、広域緊急援助隊は、警察災害派遣隊の一部隊という位置づけになっています。警察災害派遣隊は即応部隊と一般部隊に分かれており、即応部隊には広域緊急援助隊だけでなく、航空機を使用して空からの情報収集や救助を行う「広域警察航空隊」、被災地の通信網を確保する「機動警察通信隊」、3000人規模で被災者の救出や避難所などの警備を行う「緊急災害警備隊」の4つの部隊で構成されています。
一方で、一般部隊は長期化する災害活動を前提とした部隊です。災害発生からおよそ1週間後に追加で派遣される部隊で、要員は1週間から2週間をめどに交代します。特別警備部隊、特別生活安全部隊、特別交通部隊、特別自動車警ら部隊、特別機動捜査部隊に加え、犠牲者の身元確認を行う「身元確認支援部隊」、一般部隊が入る前に現場に入り、宿泊所の手配などを行う「支援対策部隊」の8つの部隊で構成されています。
つまり、大災害時に被災地で活動を行う警察の組織としては、広域緊急援助隊が元になっており、今はそれに付随した活動を行えるために、警察災害派遣隊として拡充されたということになります。
広域緊急援助隊の組織について見てみよう
色々な能力を持つ隊員で構成されている
広域緊急援助隊は、全国の警察本部に設置されています。日本全体で、現在約4700人の隊員が在籍しています。
広域緊急援助隊は、その自治体の警察本部の機動隊、管区機動隊、交通機動隊、高速道路交通警察隊、刑事部捜査第一課、鑑識課などに属している警察官の中で、気力や体力共に十分で、特に災害警備に対する能力が高い物から選抜されて、構成されています。
そして、広域緊急援助隊は、活動時に任務の内容によって5つの班に分かれて職務に当たります。
先行情報班
情報収集に特化した部隊です。先発隊としてヘリコプターなどで被災地に赴き、ヘリコプターや車両、オフロードバイクなどを駆使して、被害や交通網などを含めた現場の状況確認や情報収集を行い、警察本部などに報告します。主に、航空隊や機動隊で構成されています。
救出救助班
被災地における人命救助に特化した部隊です。警視庁の機動隊内部にある救助隊である、機動救助隊や道府県警察機動隊の救助任務を担当する機能別部隊などから構成されています。専用の救助のための特殊車両や装備、資機材を持っています。
また、2004年に発生した新潟県中越地震を受けて、より高度な救助活動を行えるように、2005年には「特別救助隊」(Police Team of Rescue Experts、通称P-REX)が指定された都道府県内に設置されるようになりました。現在特別救助隊は、北海道警察、宮城県警察、埼玉県警察、警視庁、神奈川県警察、静岡県警察、愛知県警察、大阪府警察、兵庫県警察、香川県警察、広島県警察、福岡県警察、京都府警察、千葉県警察、沖縄県警察、新潟県警察の広域緊急援助隊内に設置されており、日本全国で約200人の隊員が所属しています。
より高い救助技術を習得するために、近年では特別救助隊と都道府県の消防の救助隊との合同訓練も行われるようになりました。
交通対策班
災害対策のために被災地に向かう警察や消防の各部隊、政府要人などが迅速に被災地まで向かえるように、被災地までの交通網を確保するのが交通対策班です。主に、緊急交通路の確保、緊急通行車両の先導などを行いますので、交通機動隊・高速道路交通警察隊などで編成されています。
検視班・被災者対応班
災害の後には、残念ながら多くの犠牲者が出る事も少なくありません。亡くなった被災者の身元の確認、志望してしまった原因の究明、遺族への遺体の引渡しや安否情報の提供を行うのが、検視班・被災者対応班です。刑事部捜査第一課に所属する捜査員や、鑑識課員など、普段捜査現場で生かされる能力に特化した隊員で編成されています。
機動警察通信隊
被災地の通信網を確保するのが機動警察通信隊です。電話回線などが切断されてしまっている被災地で、緊急の電話回線の接続や無線の中継基地・臨時電話の設置、及び被災地の状況を映像にして、被害状況の確認のために本部へ送るなどの役割を担っています。
広域緊急援助隊の仕事内容について見てみよう
被災地における各種活動
広域緊急援助隊の役割は、大規模な災害現場における活動です。その活動内容は、被災地の情報収集や交通網の確保、救助活動や身元不明者の捜索や身元の確認、通信網の確保などが挙げられ、前述の5つの班に分かれて活動を行います。
消防の救助隊とは何が違う?
被災地における救助活動と言えば、消防に属している救助隊がいます。また、大災害の時には都道府県の垣根を越えて被災地への派遣が可能になるだけでなく、より高度な救助活動の知識と技術、資機材と車両を持つ特別高度救助隊も存在しています。これら消防の救助隊と共に広域緊急援助隊は被災地での活動を行いますが、消防の救助隊とは具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
これは、消防の救助隊が人命救助に特化している事に対して、警察の広域緊急援助隊は、人命救助だけでなく、被災地の交通網の確保や治安維持のための行動、身元不明の遺体の鑑識を行うなど、警察法第二条に基づいた行動を行う特徴があります。警察法第二条では、「災害が発生した際に個人の生命、身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序を維持する事を目的として行う活動を災害警備活動と規定」と記されており、広域緊急援助隊も、この災害警備活動に基づいた行動を行うという事です。
具体的に言うと、被災地における活動内容は以下の通りです。
消防(救助隊、救急隊など)の役割…要救助者の救出から、救急搬送、救急救命処置など生存者の救出
警察(広域緊急援助隊や機動救助隊)の役割…救出活動以外にも、遺体の捜索、身元確認や収容、遺族への対応、被災地の交通整理や防犯のための警備
災害時以外には?広域緊急援助隊の仕事内容について
専任の場合
広域緊急援助隊を構成している隊員は、警視庁などの大規模な都道府県組織の場合には、専任の隊員が、自治体によっては普段自分が所属している警察の組織があり、災害時のみ広域緊急援助隊として選抜されて派遣される隊員もいます。
専任の隊員の場合には、救助のための訓練や知識を磨く勉強などもします。訓練は、ロープを伝ってわたるロープ渡りやはしご登り、あらかじめ想定される障害を越えながらタイムを計る障害突破区連などがあります。また、水難救助や山岳救助の訓練のために、山や水辺で訓練を行う事もあります。
訓練は、消防の救助隊と合同で行われる機会も多くなりました。
他にも、現場で使用する資機材や車両の点検なども行います。
選抜の場合
選抜される隊員の場合には、普段は自分の警察官としての職務に当たっていることになります。ただし、選抜隊員の場合にも災害時だけでなく合同訓練時には召集され、訓練を行います。
選抜の場合には、都道府県によって異なりますが、あからじめ指定されている警察組織の中(機動隊や交通警察隊、捜査一課や鑑識課など)に属している警察官の中から、災害活動に適していると判断された者が、各都道府県の警察本部長などから指名されて、こう言い緊急援助隊になることが多くなっています。
広域緊急援助隊になるには?
警察官として採用試験に合格する
広域緊急援助隊の隊員になるためには、まずは警察官の採用試験に合格しなければいけません。警察官は、キャリア組と呼ばれる警察庁の採用や、皇族の護衛を主に行う皇宮警察本部など、国家公務員としての警察官の採用試験の他、各都道府県で募集している地方公務員試験である警察官採用試験があります。
全国で活躍する広域緊急援助隊は、各自治体の警察本部に所属しているので、都道府県ごとの警察採用試験を受けて、合格する必要があります。
自治体の地方公務員試験である警察採用試験は、募集時期や要項は自分が受験したい自治体によって異なります。また、採用試験の日程が異なれば、複数の自治体の採用試験を同時に受ける事も可能ですが、居住地の方が合格しやすい傾向にあると言われています。
警察官採用試験である地方公務員試験は、大卒程度のⅠ型、短期大学卒業程度のⅡ型、高校卒業程度のⅢ型があります。合格後の昇給スピードや報酬に差がありますが、高卒の場合にはそれだけ早く現場につけるといったメリットもあります。自分の状況や、どのように働きたいかなどを見据えて、進路や試験内容を決めましょう。
警察採用試験合格後は、警察学校へ
採用試験に合格後は、その自治体の警察学校へおよそ半年から10か月間通うことになります。警察学校では、警察官になる為に必要な技術や知識を学びます。また、全寮制で規律も厳しい中での生活になります。
警察学校を無事卒業すると、自治体での配属先が決まります。
警察学校卒業後、配属先が決まり、広域緊急援助隊へ
警察官として勤務を続けていると、色々な配属先を異動します。そして、自治体によって異なりますが、専任として、もしくは関連のある配属先で仕事をしながら選抜隊員として、広域緊急援助隊に抜擢されることになります。
広域緊急援助隊として選抜されるためには、「災害活動において適切な行動ができること」「体力、気力共にあること」が求められています。広域緊急援助隊として選抜されるには、日ごろの職務の内容や、人柄などがふさわしいかどうかを見られるという事になります。
広域緊急援助隊に必要な事とは
平常心を保ち続ける事
大災害の現場に赴くという事は、今までの日常とはかけ離れた場所での任務となります。当然、ショッキングな光景も沢山目にしなければいけませんし、肉体的にも精神的にも疲労している被災者とも接する事になります。そんな中でも、常に平常心を保ちながら職務を全うできなければいけません。
臨機応変な対応をする
被災地の状況は、刻一刻と変化します。変化する状況に応じた、臨機応変な対応ができる柔軟性が求められます。
激務にも耐えられる体力や精神力
地震や台風も多い日本は、災害大国ともいわれています。今後も起きるであろう大災害に対応できる広域緊急援助隊の需要はさらに高まる事が予想されています。
広域緊急援助隊の活動は、災害の規模が大きければ大きいほど長期化します。被災地での活動が長期化すればするほど、体力も精神力も消耗します。それらにも耐えられるほどの強靭な体と精神力が必要になります。
(文:千谷 麻理子)
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