交通警察の組織について
各都道府県警察本部の交通部に所属
交通警察は、各都道府県警察本部の交通部に所属し、担う役割ごとに交通総務課、交通指導課、交通捜査課、交通規制課、交通管制課、交通企画課、都市交通対策課、駐車対策課、運転免許本部などに分かれています。
次に、東京都を管轄する警視庁の交通部を例に、各部署の役割について見てみましょう。
交通総務課
交通部全体の管理や運用を担うのが交通総務課です。交通事故防止のために子供たちへ安全教育を行う「交通安全イベント」なども交通総務課が実施しているので、地域住民と触れ合う機会も多い部署です。
警視庁では庶務係、管理係、連絡調整係、法令指導係、調査分析係、交通統計係、交通基本情報係、安全教育係、安全組織係に分かれています。また、交通違反者を取り締まる白バイやパトカーの部隊である交通機動隊の運用を行う交通機動隊運用第1及び第2係も、交通総務課に所属しています。
交通執行課
交通違反者の取り締まりを主に担うのが交通執行課です。
執行係
飲酒運転、無免許運転、スピード違反など重大な交通違反の取り締まりを行うほか、シートベルトの取り締まりや飲酒運転が多発しやすい繁華街周辺や年末年始の時期に行う飲酒検問なども行います。警視庁では、取り締まりの内容によって執行第1・第2係に分かれています。
暴走族対策係
道路交通法では、2台以上の車が並走して道路の交通を危険な状態にさせる、もしくは他人に危害を与えることを「共同危険行為」と見なし、禁止しています。爆音やスピード違反、違反車両の乗りまわしを集団で行う暴走族を始めとした、共同危険行為を行う集団に対する取り締まりを行うのが、暴走族対策係です。暴走族のほか、公道でレースを行いタイムを競うことで道路交通状況を危険にする競争型暴走族であるルーレット族や、カーブの多い山道などでドリフトの腕を競うドリフト族、一般道で暴走行為を行うローリング族なども取り締まりの対象になっています。
駐車取締係
駐車違反の起きやすい地域を見回り、駐車違反車両の取り締まりや、所持している車両を適切な駐車を行っているかを取り締まるのが駐車取締係です。警視庁では取り締まる内容によって第1係と第2係に分かれています。
車両行政処分係
旅客を乗せて運ぶバスやタクシー、貨物を運ぶ運送業などに使用する車両は、決められたナンバープレートの着用や事業の届け出が必要になります。例えば、個人タクシー事業の届け出なく、普通乗用車の白ナンバーのままタクシー営業を行っているいわゆる「違法白タク」などは、違法車両です。これらの事業に必要な届け出なく違法な営業を行っていた車両に対し行政処分を行うのが車両行政処分係です。警視庁では、行政処分に応じて第1係と第2係に分かれています。
白バイ訓練所
交通取り締まりを行う部隊である白バイ。警視庁の管轄下では世田谷区喜多見に白バイ訓練所があり、同訓練係も交通執行課に所属しています。
交通捜査課
交通事故が起きると、過失責任の有無や割合、事故の原因などを調査するための捜査を行います。交通事故の捜査を担っているのが交通捜査課で、警視庁では大きく分けて交通捜査係、交通鑑識係、即決係があります。また、交通違反に関する通告を行う交通反則通告所も交通捜査課に所属しています。
交通捜査係
交通事故が発生した時に現場検証を行ったり、犯人の捜索や検挙、事情聴取を行ったりする交通事故捜査官の所属する係です。交通事故捜査企画係、捜査の指導を担う交通捜査指導係、特異事故捜査を担う第1係、交通法令違反事件を捜査する第2係、暴走族や集団危険運転などの共同危険行為違反捜査を行う第3係と、取り扱う交通事故案件によって係が分かれています。
交通鑑識係
車上荒らしやひき逃げ事故などで現場から犯人が逃走した場合、タイヤ痕や塗装はがれなど犯人の手がかりとなる証拠を押収するための鑑識を行う、交通鑑識官の所属する係です。警視庁は交通鑑識第1係と第2係があります。
即決係
スピード違反や飲酒運転など、道路交通法に違反した運転行為を行うことを「交通違反」と呼びます。交通違反を行うと、違反内容に応じて赤切符、青切符と呼ばれる交通違反通告書を警察官から手渡されます。交通違反は法律違反行為なので警察、検察の取り調べと裁判、罰金の納付を行わなければいけませんが、これらの警察・検察・裁判所の手続きを1日で完了することから「三者即日」と呼んでいます。三者即日の原則のもと、交通違反者に対しては、「即決裁判」が適応になります。
違反切符の交付や違反金の納付手続きなど、警察における即決に関する職務を担っているのが交通捜査課の即決係です。警視庁では第1係から第3係があります。
交通反則通告所
交通違反をすると、その場で警察官から交通違反通告書を手渡されます。違反通告書を手渡されてから8日以内に違反金を銀行か郵便局などから納付しなければいけません。比較的軽微な交通違反の場合は、違反金の納付で手続きは終了し、重大な交通違反の場合は交通反則通告所から免許停止や取り上げなどの告知を受け取ることになります。
また、違反金の納付が認められない場合にも、交通反則通告所から通告を受けます。これらの交通違反に関する通告を担うのが交通反則通告所で、警視庁管轄下の豊島区西池袋にある交通反則通告所も警視庁交通捜査課に所属し、通告第1から第3係があります。
参考:
神奈川県警察 交通反則通告制度とは
https://www.police.pref.kanagawa.jp/mes/mesf2006.htm
交通規制課
交通規制課は、道路や安全標識の管理、天候条件や道路工事、イベントなどによる各種道路規制の実施や管理、マラソン大会や道路工事などによる道路使用許可に関する諸手続きを含んだ事務を行っています。
警視庁では規制第1・第2係、交通技術係、安全施設係、道路第1から第3係、交通規制課以下に分かれています。
交通管制課
交通管制課は、警察本部の交通管制センターで管制業務を行う部署です。ほか信号機計画係、信号機設計係、信号機保全係、信号機運用係、電子信号技術係で管轄内の信号機の管理も行っています。
警視庁交通管制センター
交通管制センターとは、安全・円滑でいつでも良好な道路交通状況を保つ目的で、各都道府県警察本部内に設置されている機関です。パトロールしている白バイやパトカー、信号機に設置された検知器やテレビカメラ、市民からの110番通報などで道路交通の情報を収集・分析し、それをテレビやラジオ、インターネットなどの各メディアを通じて広く提供したり、交通量に応じて信号機の制御を行って円滑な交通を図ったりしています。
警視庁管轄下では、港区新橋の警視庁新橋庁舎内に警視庁交通管制センターが設けられ、管制計画係、管制運用係、技術管理係に分かれて業務を行っています。
なお、警視庁交通管制センターは事前予約が必要ですが見学も可能です。
参考:
警視庁 ウェルカムけいしちょう 交通管制センター見学
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/welcome/kansei.html
都市交通対策課
地域に住む人の年齢層や人口数などの増減によって、その地域の交通事情も変動します。将来の交通需要予測と都市整備計画や基盤と照らし合わせ、効率的な公共交通ネットワークの形成を担っているのが都市交通対策課です。
都市交通対策係
交通安全対策の推進や、自動車の排気ガスや二酸化炭素の排出を抑えるために、環境に優しい自転車利用の推進などを担っています。業務内容によって第1係と第2係に分かれています。
交通調査係
現在や将来の交通需要や都市計画の調査を行い、誰もが安心して利用できる交通ネットワークづくりを担うのが交通調査係です。業務内容によって第1係・第2係に分かれています。
駐車対策課
駐車許可の申請手続きや放置駐車の防止に対する業務を行うのが駐車対策課です。警視庁では第1から第3係に分かれて、業務を行っています。
放置駐車対策センター
違法な状態で駐車されている車両が、その車両を管理する管理者や運転者がいないためただちに動かせない状態であることを放置駐車といいます。警察官が放置駐車を確認すると、放置駐車標章を当該車両につけます。放置車両標章を取り外すには、警察署に出頭して運転者責任の追及を受けたのち、反則金の納付や減点などの罰則を受けなければいけません。
これらの放置駐車に対する取り締まりを行うのが放置駐車対策センターです。企画運用係、データ審査係、違反金管理係、滞納処分係、使用制限係に分かれて、業務を担っています。
参考:
放置駐車違反に対する責任追及の流れ
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kotsu/torishimari/ihan/nagare.html
運転免許本部
公道で自動車を運転するときに必要なのが運転免許です。この運転免許の取得や管理、運転教習所への指導を行っているのが運転免許本部です。運転免許試験の管理も行っています。
警視庁の運転免許本部
警視庁管轄下の運転免許本部は品川区東大井にあります。庶務係、免許予算係、免許管理第1・第2係、処分管理係、処分調査係、審査登録第1・第2係、処分執行第1から第5係、教習所指導係、講習第1・第2係に分かれ、運転免許に関する業務を担っています。
運転免許試験場
警視庁管轄下には、府中運転免許試験場・鮫洲運転免許試験場・江東運転免許試験場の3か所があります。こちらで運転免許交付のための学科・実技試験の実施、運転免許の更新手続きや各種講習を行っています。
警察の交通部は初めての配属先になる事も多い
警察の交通部各課や係は、交通部を希望する警察官が配属になるだけでなく、警察学校を卒業した初任警察官の初めての配属先として交通部各課が選ばれることも多くなっていますが、これには2つの理由があります。
ひとつは、警察組織を定めた法律である警察法において、交通部は各警察本部において必ず配置されなければいけない必須の部署と定められているからです。刑事部や公安警察などの部署と同じ重要な部署であるため、初任警察官が警察組織の基本を学ぶ場としても交通部が選ばれることが多くなっています。
ふたつめが、初任警察官は外での警察活動である「外勤」が必須であるからです。警察の外勤での実務経験を積むには、交通部や地域生活部などが適所とされています。なお、警察内部での活動は外勤に対して「内勤」と呼ばれますが、これには刑事部刑事課の内勤が適所とされています。
2つの理由から交通部では各部署の担う業務を行いながらも、初任警察官の教育や育成を行う部署である側面も持っています。
(文:千谷 麻理子)
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