地域警察の組織について
地域に密着した任務を行う
地域警察とは、パトカーでの管轄地域のパトロール、交番などで道案内などの市民の対応、防犯のための活動など、地域に密着した任務を担う警察官です。
地域部または生活安全部内の地域課に所属
地域警察は各都道府県警察本部に設置されている地域部、または生活安全部内の地域課に所属しています。
▼地域部が設置されている警察本部
警視庁、北海道警察、宮城県警察、新潟県警察、栃木県警察、群馬県警察、福島県警察、茨城県警察、埼玉県警察、千葉県警察、神奈川県警察、静岡県警察、長野県警察、愛知県警察、岐阜県警察、三重県警察、大阪府警察、京都府警察、兵庫県警察、岡山県警察、広島県警察、山口県警察、福岡県警察
▼生活安全部内の地域課
上記の都道県警察以外は、生活安全部内の地域課が地域警察の役割を担っています。
地域警察の仕事内容について
交番勤務を行う
管轄区内にある交番に配属され、制服を着用して勤務をしている「交番のおまわりさん」は地域警察官です。ちなみに、「おまわりさん」という名称は、交番を起点にして管轄している区域内を巡回する(=見回る)ことから来ています。
交番は正しくは「交番所」と呼ばれ、警察組織の中で交番と呼ぶと交代で番をする交代制勤務を指しますが、本項では便宜上「交番」と呼びます。
交番は、市民からの取得物の管理や道案内、不審者の発見や犯罪に巻き込まれそうな時の駆け込み場所まで、身近な警察の窓口としての機能を持っています。また、持つ特徴や機能によって、交番にもさまざまな種類があります。
▼交番
交番は、都道府県警察本部が地域内各所に設置する地域警察官の詰め所です。通常は2~3人1組の24時間交代制勤務です。また、交番の別の呼び方として「派出所」がありますが、派出所とは銀行や鉄道会社などでも使用される言葉で、大元の組織や施設からさらに派生した出張所、という意味があります。つまり、派出所=交番、ではなく派出所=交番の出張所(銀行で当てはめれば、派出所=支店の出張所)という意味で使われていました。ところが、交番と派出所の明確な違いは一般市民には不明瞭で、分かりづらいために1994年に日本全国の交番と派出所を全て交番の表記に統一しています。
なお、交番には地域警察官以外にも「交番相談員」という職種の人がいます。警察官と似た制服や帽子を着用し、胸や肩に桜をモチーフとした「交番相談員標章」というワッペンを着用しています。この交番相談員の正体は、退職した警察官OBやOG。今までの知識や経験を生かして、交番を訪れた市民への対応のほか、学校周辺のパトロールなど地域の防犯のための見守り活動、事故現場での救護活動のサポートを行っています。
▼駐在所
地方都市や山間部などで目にする事の多い「駐在所」と呼ばれる交番は、交番とその交番に勤務する地域警察官およびその家族の住居がひとつになっているタイプの交番です。交番の警察官が地域住民の方々に「おまわりさん」と呼ばれているように、駐在所の警察官は集落や山間部の住民の方々に「駐在さん」と呼ばれることが多いです。また、駐在所に警察官が不在の場合には、同居している家族が警察官に代わって地域住民のためのサポート活動を担うこともあります。
救助活動を行う
管轄地域内に山間部や水辺など、山岳事故・水難事故が発生しやすい場所のある交番では、山岳救助隊や水難救助隊の要員として指定されている交番もあります。万が一の事故の際には、航空隊や警備艇などと、大規模災害時には機動隊と連携して救助活動を行う地域警察官もいます。
巡回連絡を行う
地域警察官の主な任務に管轄地域のパトロールがありますが、そのひとつに「巡回連絡」があります。巡回連絡では、地域住民の個人宅や企業に訪問し、防犯の呼びかけや警察に対する要望や意見の聴取を行っています。また、非常時に役立つように各世帯には「巡回連絡カード」を配布しています。
地域に密着した幅広い活動
地域課・地域総務課・地域企画課と呼ばれる部署では地域部や地域課内での庶務を行うほか、地域ボランティアと協力して交通安全や防犯イベントの企画や運用など、幅広い任務を行っています。
なお、警視庁には職務質問に精通した警察官で構成され、主に街頭犯罪や住居・店舗などへの侵入犯罪の予防と検挙の任務にあたる「遊撃特別警ら隊」という部隊がありますが、遊撃特別警ら隊の第2中隊は警視庁地域部の地域総務課に所属しています。
参考:警視庁 遊撃特別警ら隊運営規程
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/johokoukai_portal/kunrei/kunrei_chiiki.files/002.pdf
110番通報の応対
市民の警察への緊急通報ダイヤルとしておなじみの110番。このかかってきた110番通報への対応を行っているのが、地域部にある通信指令課です。通信指令課は、警察本部内にある通信指令室の受付台で110番通報を受理します。その後、無線指令台から110通報の現場に一番近いパトカーに指令を出し、パトカーが現場へ急行します。なお、110番通報は受付台だけでなく無線指令台も同時に受理しているので、通話をしながら通報者からの情報確認と、現場へ向かうパトカーの確認は同時に行っています。
110番通報を受け、事案画面に通報の内容や発生時間、場所などを入力していきます。また、現場に一番近いパトカーに指令を出すために、GPS衛星を使ったパトカーの位置確認システムである「カーロケーター」が採用されています。なお、カーロケーターはすでに犯人の車を追跡中のパトカーの位置も把握できるので、地図から現場に近いパトカーをピックアップし、応援を要請することも可能です。また、近年では他の警察本部のパトカーもカーロケーターシステムで表示されるようになっているので、犯人が県をまたいで逃走した場合でも引き続き追跡が可能です。
なお、警察本部の航空隊のヘリコプターを出動させ、空から追跡することもできます。航空隊のヘリコプターには、「ヘリコプターTVシステム」が搭載されていて、ヘリコプターから映し出された画像を通信指令室のモニターでリアルタイムに見ることができます。
地域警察の中の部隊について
自動車警ら隊
地域警察の中でも主力部隊として活躍しているのが、自動車警ら隊です。110番通報を受けた通信指令部からの指令で、犯人を追跡するほか不審者への職務質問、地域への巡回パトロールなどを実施しています。なお、自動車警ら隊は職務質問などで路上にパトカーを停車させて行う任務も多いため、後続車にパトカーが停車していることを知らせるために、パトカーの赤色灯が上へ伸ばせる仕様になっています。
自動車警ら隊は事件や事故の現場に急行し、警察の初動活動においても重要な役割を果たしますが、常に地域をパトカーで巡回することで、地域の住民に安心感を与えたり、犯罪を未然に防いだりする役割も担っています。
航空隊
ヘリコプターを使用して空から犯人を追跡するだけでなく、近年では交通警察と連携して空からの交通違反者の取り締まりも行っているのが警察の航空隊です。航空隊の所属も地域警察ですが、規模やヘリコプターの機体の数は各警察本部で異なります。なお、航空隊のヘリコプターは各都道府県警察本部が所有しているのではなく、警察庁管轄のヘリコプターが貸与されています。
鉄道警察隊
駅構内や電車内で発生した窃盗や痴漢、暴行事件などの予防や対処、踏切などの鉄道事故の防止や捜査、被害者の救助活動を行うのが鉄道警察隊です。各都道府県の主要駅に設置されている、鉄道警察隊の交番や派遣所に常駐している警察官も、地域警察に所属しています。
鉄道警察隊は、かつて公営だった国鉄がJRへ民営化したことを受けて、廃止になった国鉄公安職員の代わりに創設されました。そのため、当初は旧国鉄だったJRの主要駅に鉄道警察隊の交番や派遣所が作られることが多かったのですが、近年ではJRではなく各私鉄の主要駅にも鉄道警察隊の交番や派遣所も多く設置されるようになりました。ちなみに、沖縄県は国鉄の路線がなかったことと、現在でも県内の鉄道路線の規模が小さいため、日本で唯一鉄道警察隊がありません。
なお、鉄道警察隊の警察官は「鉄道警察隊」のネーム入りの腕章をつけ、襟にには「R」「P」(Railway Police)の文字に挟まれたレール断面マークの入った、一般の警察官とは異なる制服を着用しています。
水上警察
船で海や河川のパトロールを行っているのが、地域警察に所属する水上警察です。現在日本には横浜水上警察署、大阪水上警察署、神戸水上警察署の3ヶ所が設置されています。また、水上警察と似た機能を持つ秋田臨港警察署、川崎臨港警察署、博多臨港警察署の3ヶ所もあります。ちなみに、警視庁管轄内にも2008年まで東京水上警察署がありましたが、現在では東京湾岸警察署の水上安全課がその機能を引き継いでいます。
なお、水上警察署などを持っていない都道府県警察本部では、皮や河川に面した地域にある警察署内に水上安全課や舟艇課などを設置し、警備艇によるパトロールを行っています。
地域警察の警察官になるには
警察官としての最初の配属先
まず警察官になるには、各都道府県の地方公務員試験である警察官採用試験をクリアしなければいけません。警察官採用試験の内容は、高卒程度・大卒程度などの区分に分かれ一般教養や作文試験、面接、体力検査や身体検査などが行われます。
警察官採用試験に合格すると、管轄内の警察学校に入学して警察官としての基本的な知識や技術を学ぶ初任教育を受けます。初任教育を無事に修了し、警察学校を卒業すると、都道府県警察本部の管轄内で配属先が決まります。
警視庁を含め、ほとんどの警察本部では警察学校を卒業して最初の配属先として地域警察が選ばれます。いわば市民にとって身近な警察の窓口である地域警察に配属になることで、警察官としての経験を積んでいきます。
参考:警視庁 平成30年度警視庁採用サイト
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/saiyo/30/type/community.html
まとめ
私たちの身近な交番のおまわりさんを始め、地域警察の任務や組織は多岐にわたっていることが分かりました。警察官の基本を学ぶ部署として、新人警察官の配属先としても選ばれることが多い地域警察は、今日も地域を見回り、市民生活の安全を担っています。
(文:千谷 麻理子)
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