わたしたちの平和を様々な方面から守ってくれる警察官ですが、ひとくちに警察官と言ってもいくつも階級が分かれており、階級によって業務の内容や責任も大きく変わってきます。普段なかなか知ることのない警察官の階級とその内容について解説します。
9の階級がある警察官の階級
日本の警察には、警察法第62条に基づき、9段階に区分された階級が存在します。
警視総監以下、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、巡査がこれに当たります。
この他にも、巡査と巡査部長の間に、警察法に定められた正式な階級ではないのですが、階級的地位として運用されている巡査長と、例外的に階級を有しない警察庁長官が存在します。
階級上は警視総監が最上位となりますが、警視総監は警察庁長官の指揮命令を受ける立場であることから、警察組織のトップは、事実上、警察庁長官といえます。
警察官の制服には階級章を付けることが義務付けられており、階級がひと目でわかるようになっています。また階級によって就くこと出来る役職も違ってきます。
警察官の階級の昇任について
それぞれ昇任によって階級が上がる仕組みになっていますが、警察の昇任制度は2種類あり、一つは試験による昇任、もう一つは勤務成績や勤務年数に基づく選抜・選考による昇任があります。
昇任試験に関しては、実力本位の公平な競争試験が行われます。勤務年数の条件さえ満たせば、年齢・学歴・性別に関係なく受験出来るので、すべての警察官に昇任の道が開かれているといえます。
それでは順に、警察官の各階級の役割や仕事内容について詳しく解説します
警察官の階級「巡査」について
警察官の階級「巡査」の主な仕事・役割は、担当課の係員として勤務することです。
原則として、地方警察官採用試験に合格し、都道府県警察に採用された者(いわゆるノンキャリア)は、学歴に関係なく、採用日(警察学校への入校日)をもって巡査を命じられます。
警察学校卒業後は警察署に配属され、交番や駐在所などで勤務し、各部署で担当する事件の捜査や事務に当たります。
一方、国家公務員採用総合職試験(旧・国家公務員Ⅰ種採用試験)に合格し、警察庁に採用された者(いわゆるキャリア)は警部補から、国家公務員採用一般職試験(旧・国家公務員Ⅱ種採用試験)の採用者(いわゆる準キャリア)は巡査部長からスタートします。
巡査の定員は、警察官全体の約30%となります。
漫画・アニメで知られる『こちら葛飾区亀有公園前派出所(通称こち亀)』に登場する中川圭一や秋本麗子は、この巡査に当たります。
「巡査長」について(正式な階級ではない)
警察官の階級「巡査長」の主な仕事・役割は、担当課の指導係員として巡査の指導を行うことです。
巡査長は警察法上定められた正式な階級ではありませんが、組織における仕事上の地位として規則に定められています。実務経験が豊富な巡査のうち、所定の要件に該当する者が、勤務を共にする巡査の実務指導係員として巡査長に充てられます。
給与も巡査より上になりますが、厳密には巡査に属し、仕事内容も通常の巡査と同様です。
なお定員は巡査の枠です。
『こち亀』の主人公両津勘吉や、『踊る大捜査線』シリーズで主人公に刑事のイロハを叩き込む老刑事の和久平八郎は巡査長の設定です。
警察官の階級「巡査部長」について
警察官の階級の「巡査部長」の主な仕事・役割は、警察庁・警視庁・警察本部の係員や、警察署の主任として係の担当業務に従事しつつ、初級幹部として上司である警部や警部補を補佐し、部下である巡査の指導監督を行うことです。
巡査から巡査部長への昇任試験を受けるには、大卒の場合は採用後2年、短大卒では同3年、高卒は同4年、という期間が定められています。
昇任試験では法学や実務の問題が出題される他、実技試験や面接なども行われます。合格後は、管区警察学校に入校して一定期間の研修を受けます。試験以外にも、勤務成績や勤続年数に基づく選抜選考によって昇任する場合もあります。
管区警察学校とは
警察庁の地方機関であり、初級・中級幹部(警部補・巡査部長および同相当職の一般職員)に昇任した者の教養や、各種の高度な専門的知識・実技技能についての教養など、警察官・職員に対する教育訓練を主な任務とする施設です。
巡査部長の定員は、警察官全体の約30%となっています。
『踊る大捜査線』シリーズの主人公青島俊作も、テレビドラマスタート時は巡査部長でした。映画ファイナルでは警部補へ昇任しています。
警察官の階級「警部補」について
警察官の階級の「警部補」の主な仕事・役割は、警察庁・警視庁の主任、道府県警察本部・警察署の係長などの職務に従事し、現場責任者として指揮命令を発することにあります。
警部補は中級幹部と位置付けられ、各種令状請求が出来るようになります。地域警察部門では、交番所長や駐在所所長といった責任者になります。部下である巡査部長や巡査の指導監督を行うとともに、自らも実務に当たるため、プレーイングマネージャーと称されます。この階級から、勤務評定を実施する立場となります。
巡査部長としての実務経験が、大卒で2年以上、短大卒で3年以上、高卒で4年以上あれば、警部補への昇任試験の受験資格が得られます。合格後は、警察大学校で研修を受けることになります。
警察大学校とは
警察大学校は警察庁の付属機関であり、上級幹部に対し必要な知識、技能、指導能力及び管理能力を習得させるための教養を行うほか、警察業務に関する研究を行う施設です。
警部補の定員は、警察官全体の約30%です。
警部補が主役の小説やドラマは多数あります。『ハンチョウ』『アンフェア』『交渉人』『古畑任三郎』等など、人気シリーズ化しているものも少なくありません。それだけ警部補は、最前線で活躍するイメージがあり、事実そうであるともいえるでしょう。
警察官の階級「警部」について
警察官の階級「警部」の主な仕事・役割は、警察庁・警視庁の係長、道府県警察本部の課長補佐、警察署の課長などの役職に就き、各担当分野の責任者として部下を指揮することです。また、逮捕状を請求することができます。
ノンキャリアの場合、警部補としての実務経験が4年以上あれば、警部への昇任試験の受験資格が得られます。警部への昇任試験からは学歴の区分がなくなります。合格後は警察大学校で研修を受けます。
キャリアの場合、採用直後の研修と交番等の実務経験及び警察大学校での研修を約1年5か月ほど受けた後、一斉に警部へ昇任します。
警部の定員は、警察官全体の約6%です。
『ルパン三世』に出てくる銭形警部、『相棒』シリーズの主人公・杉下右京も警部です。
警察官の階級「警視」について
警察官の階級「警視」の主な仕事・役割は、警察庁の課長補佐、警視庁の課長・管理官、道府県警察本部の課長・管理官、警察署の署長・副署長などの役職に就き、担当所属の業務を掌握して、部下の指揮監督にあたることです。
※管理官とは
管理職としてのポストの一つで、主要課(捜査一課や捜査二課など)の複数の係の統括役を担います。警視庁の管理官は、重大事件では捜査指揮を行います。警察本部の管理官は主要課に複数配置されます。道府県警察によっては、次長・調査官・指導官などと称することもあり、位置づけが異なることもあります。
昇任は、警部としての実務経験年数と選考で決まります。ただし、警視の定員に空きがなければ昇任出来ません。
警視の定員は、警察官全体の約2.5%です。
『踊る大捜査線』シリーズの秋山副署長は警視の設定です。
警察官の階級「警視正」について
警察官の階級「警視正」の主な仕事・役割は、警察庁の室長・理事官、警視庁の参事官・課長、道府県警察本部の部長、警察署の署長といった役職につき、組織の管理運営の責任者として部下を指揮監督することです。
都道府県警察採用の警察官が警視正以上の階級に昇任したときは、地方警務官と呼ばれる国家公務員に身分が切り替わります。任命権者も警察本部長から国家公安委員会になります。昇任は選考により行われます。
キャリアは採用後15年以降に順に昇任し、準キャリアは同25年以降に準じ昇任します。
警視正の定員は、警察官全体の約0.5%です。
『踊る大捜査線』シリーズの神田署長は、警視正の設定です。映画ファイナルでは、真下正義も警視正に昇任しています。
警察官の階級「警視長」について
警察官の階級「警視長」の主な仕事・役割は、警察庁の課長、警視庁の部長、道府県警察本部の部長・本部長などの役職に就き、指揮監督にあたることです。
キャリアは勤務成績優秀者から順次昇任します。 ノンキャリア警察官にとっては警視長が最高階級となります。
警視長の定員は、警察官全体の約0.5%です。
『踊る大捜査線』シリーズの沖田仁美、『相棒』シリーズの内村完爾、アニメ『名探偵コナン』の小田切敏郎も警視長の役どころで登場しています。
警察官の階級「警視監」について
警察官の階級「警視監」の主な仕事・役割は、警察庁の次長・局長・審議官、警視庁の部長・副総監、道府県警察本部の本部長などの役職に就き、指揮監督を行うことです。キャリア組は原則として全員、警視監に昇任するようです。
なお、警視監の定員は警察官全体の約0.3%で、最大41名です。
『踊る大捜査線』のテレビシリーズでは警視だった室井慎次が、映画ファイナルでは警視監に昇任しています。『DEATHNOTE』の夜神総一郎も警視監です。
警察官の階級「警視総監」について
警察官の階級「警視総監」の主な仕事・役割は、他道府県警察本部長と同じく、警察庁長官の指揮監督を受けるとともに、警視庁の事務を統括し、所属の警察職員を指揮監督することです。ただし、全国の道府県警察本部長が警視監ないし警視長であるのに対し、首都の警察の長として治安維持を指揮する警視総監は、法的には他道府県警察本部長と同格ながら、特別重要な地位にあります。
警察庁長官を除き最高の階級である警視総監は、東京都を管轄する警視庁に1名のみ置かれます。
警視総監の任免は、国家公安委員会が東京都公安委員会の同意を得、内閣総理大臣の承認を得て行います。
警視総監の定員は1名です。
警視庁とは
日本の首都である東京を管轄する警察組織全体の総称であり、本部名でもあります。
国家公安委員会とは
内閣総理大臣所管の下に置かれた行政委員会の一つであり、国家公安委員会管理の下に警察庁が設けられています。国家公安委員会は、警察の民主的運営と政治的中立性、治安に対する内閣の行政責任の明確化の確保を目的とした組織で、いわばお目付け役といえます。
ドラマ『奥様は警視総監』の橘朝子、『警視庁捜査一課9係』の神田川宗二朗が警視総監として登場しています。
警察官の階級「警察庁長官」について
警察官の階級「警察庁長官」の主な仕事・役割は、国家公安委員会の管理の下、警察庁の庁務を統括する国家公務員として警察庁に所属する全ての職員について任免し、その服務についてこれを統括することです。また、警察庁の所掌事務(広域組織犯罪を対応するための警察の体制、犯罪鑑識、犯罪統計等)について、都道府県警察の指揮監督を行います。
ただし内閣総理大臣により緊急事態が布告された場合は、布告区域を管轄する都道府県警察本部の警視総監または警察本部長に対し、必要な命令を行うことが出来ます。
警察庁長官は、内閣に近い位置にあって、政府の指示を的確に警察庁に与える職でもあります。
警察庁長官は、警察法において唯一階級制度の適用がない警察官ですが、その地位は警察官の最高位となります。
警察庁長官の任免は、国家公安委員会が内閣総理大臣の承認を経て行います。
警察庁長官の定員は1名です。
ドラマ『相棒』では金子文朗が警察庁長官として登場しています。
まとめ
以上、「警察官の階級ごとの役割・仕事内容」についてでした。
警察の階級は、巨大な組織の秩序を守り、職務・指揮命令系統を明確にするために存在します。一刻の猶予も許されないような犯罪や災害といった事態に対処するには、一糸乱れぬ統制の取れたトップダウン型の組織である必要があるからです。
また緊急事件が起きた場合などは、その場で一番位の高い者が指示を出す仕組みになっているため、上司の命令は絶対といえます。警察組織が縦社会と言われるゆえんです。
各階級とも定員が決まっており、それぞれが狭き門のため競争率は非常に高いと言えますが、年齢・学歴・職歴・性別に関係なくステップアップにチャレンジ出来る警察の昇任制度は、やる気のある者にとって次のステージへ進むチャンスをもたらすものといえるでしょう。
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訂正とお詫び(2021年5月20日)
誤)『相棒』シリーズの主人公・杉山右京も警部です。
正)『相棒』シリーズの主人公・杉下右京も警部です。
訂正してお詫び申し上げます。
(作成日:2017年8月23日/更新日:2021年5月20日)
コメント
コメント一覧 (3件)
警察官の階級は曖昧になりがちだし、そもそもよく分かってなかったので、勉強になりました。また、警察官全体でどれくらいの割合の人がその階級につけるのかといった情報が知れたので、これから警察官の高みを目指す私にとってとても興味深い内容となっていました。また、階級によってどのようなことをしているのか、何が必要なのかといった条件についても詳しく書かれていたので、とても読みごたえがありました。
ドラマや映画などでよく扱われる警察官の階級や役割など、知られざる警察官の仕事内容が紹介されていたので、面白かったです。「巡査長」が正式な名前でないのは初めて知りました。
ドラマ等で警察官の役職の名前がたくさんでてくるがいつもわからないままだった。この記事はわかりやすく役職名の説明があって今後ドラマをみるのがより一層面白くなりそう。