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【陸上自衛隊の仕事】地上戦闘の骨幹部隊「普通科隊員」の仕事内容

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普通科とは?

普通科は陸上自衛隊に16種類ある職種の一つで軍隊における『歩兵』のことです。また普通科は『諸職種連合部隊』の基幹となる部隊で陸上自衛隊の職種の中では圧倒的に人員の多い職種で陸上自衛隊の代表的な職種と言えます。

普通科部隊及び普通科隊員は各種戦術行動において近接戦闘により『敵を撃破または捕捉し』あるいは『必要な地域を占領確保』します。有事の際における普通科部隊の果たす役割は、非常に大きなものがあります。

たとえば、有事の際に敵国の進行を受けた場合、航空機でいくら敵を撃破しても大砲でいくら敵を粉砕しても自国の地上部隊が進出して地域を奪還あるいは確保しない限り日本国が『実効支配』している土地にはなりません。

その場合、日本の領土でも国際的には『係争地』になってしまうのです。したがって普通科は有事の際は敵を撃退する又は失った領土を回復し戦闘を終結させる役割を持った重要な職種なのです。

今回は、普通科隊員が各種戦術行動をやり遂げる為に、必要な基礎的な技能にはどういうものがあるのかを解りやすく解説します。

普通科連隊の編制と装備

普通科部隊の基礎となる部隊は普通科連隊です。編制は次の通りです。
〇連隊本部
〇本部管理中隊
・中隊本部・通信小隊・衛生小隊・補給小隊・情報小隊・施設作業小隊
〇普通科中隊×3個
・中隊本部・小銃小隊×3・対戦車小隊・迫撃砲小隊
〇重迫撃砲中隊

普通科連隊を構成する普通科隊員の装備は『89式5.56mm小銃』又は『7.62㎜小銃』と『銃剣』です。現在主力となりつつある装備は『89式5.56mm小銃』です。また『06式小銃てき弾』を使用すればより武装を強化する事が出来ます。

また普通科隊員の装備は、小銃、軽機関銃、重機関銃のような直接照準火器だけでなく、間接照準火器である『L16 81mm迫撃砲』(=軽迫)『120mm迫撃砲 RT』(=重迫)などの重火器も装備しています。

また機械科連隊等には装甲歩兵戦闘車などの重装甲車両が装備されています。なお普通科連隊でも、連隊本部には96式装輪装甲車などの指揮通信機能を持つ装甲車両が装備されおり、一部に『軽装甲機動車』を装備するなど、現在、多くの普通科連隊が『自動車化』されています。

※(機械科連隊等の細部装備は、説明が複雑になる為、省略します。)

陸上自衛隊の3大戦技

陸上自衛隊の3大戦技として『射撃』・『持続走』・『格闘』の3つの戦技があります。特に普通科隊員にとって、この3つの戦技は与えられた任務を果たす為に、必要となる大事な戦技です。


3大戦技は法令等によって定められた概念ではなく、陸上自衛隊の発展の歴史の課程において、隊員に共通する概念として普及している認識です。

一つ目の戦技は『射撃』です。

自衛官が任務を達成する為に一番必要とされるのが『個人装備火器=小銃』を有効活用できる『射撃技術』の習得です。したがって自衛官の戦技の中で一番重要な戦技に位置付けられており、年に一回『射撃検定』を受ける事が義務付けられています。

二つ目の戦技は持続走です。

持続走と言うのは自衛隊特有の呼び方で『駆け足』と言う言い方もします。一般的にはランニングです。持続走は体力づくりの基本となる運動で重要な戦技でもあります。したがって自衛官は走る事も仕事になります。

その為、毎日15:00以降は体育訓練を設定している部隊が多く持続走競技会も師団、旅団など各部隊単位で良く行われています。

自衛官は年に1回『体力検定』を受けなくては行けません。この体力検定の種目の中に『3,000走』という持続走の種目があります。したがって持続力は基礎体力を養成するために不可欠の運動であり重要な戦技です。

3つ目は『格闘』です。
ただし、3大戦技のうちの格闘を『銃剣道』と言う風に分類する論点もあります。その為、この格闘については特に詳細にご説明します。

格闘は戦技!…銃剣道は武道(体育)

『陸上自衛隊の教育訓練実施に関する達』の定めるところにより『格闘訓練』は、陸上自衛隊の隊員の必須課目です。格闘訓練の中には『徒手格闘』と『銃剣格闘』があります。

銃剣格闘は、小銃に銃剣を装着して近接戦闘を行う事を想定した戦技で刺突動作及び斬撃動作打撃技などを習得します。練成訓練においては小銃ではなく『短木銃』を使用する場合があります。この格闘についても、自衛官は年に1回『格闘検定』を受けなければ行けません。

他方、銃剣道は『長木銃』を使用し、防具を装着して行う『武道=体育』です。

したがって銃剣格闘の延長として銃剣道を実施する部隊長もあれば、武道として実施する部隊もあります。武道として実施する場合は体育訓練になります。

ちなみに、銃剣道の原型は、旧日本陸軍の『銃剣術』です。戦後に陸上自衛隊の戦技として隊員の士気高揚の為に行われるようになり『武道』として普及、発展した競技です。

この銃剣道競技は国民体育大会の正式種目であり自衛隊の全国大会も行われていますが、陸上自衛隊の規則上銃剣道と言う課目は無いので『体育訓練』になります。

したがって隊員の必須課目である『検定の種目』と言う視点で見た場合、3大戦技とは、射撃・持続走・格闘という事になります。ただし、射撃・持続走・銃剣道という分類をしても間違いとは言えません。その場合は銃剣道を格闘として捉えているからです。


普通科隊員に必要なその他の技能

各種の戦術行動に習熟する事は、陸上自衛隊の隊員に等しく求められる能力ですが特に普通科隊員は敵と対峙して近接接近戦闘を行います。その為、戦術行動や野外訓練の各種ノウハウに習熟している事が必要です。

陸士隊員は、分隊長以上の命令に忠実であれば任務を遂行できますが分隊長以上の『小部隊の指揮官』は、職責を全うする為に習熟しておかなければならない技能がいくつかあります。

それらの基本的な知識及び技能をご紹介します。ちなみにこれからご紹介する技能は普通科隊員だけに限られたものではありません。ただし普通科隊員に特に求められる資質と言う観点で説明して行きます。

地図判読能力

陸上自衛隊の隊員が野外に於いて戦術行動をする場合に、必要不可欠なものが『地図』と『コンパス』です。分隊長以上の自衛官で地図を正しく扱えない場合、部隊の実力を有効に発揮する事はできません。

自衛隊の地図は、一般の地図と違いUTM座標系と言う特殊な座標で表示されます。また、陸上自衛隊で使用する角度の単位は米軍と同じで『ミル』と言う特殊な単位です。

一般に使われる角度の単位は『ラジアン(π)』で全周は360度です。これに比して陸上自衛隊で使用する角度の単位は『ミル』という単位で全周は6400ミルです。したがって自衛隊で使用するコンパスは6400ミルであり、一般のコンパスとは方向分画の目盛りが異なります。

ミルの定義は『1000メートルの距離にある1メートルの幅の物を見た時にできる角度』が1ミルです。ちなみに、一般的に使われる角度の1度=17.77777778ミルです。円周率が基本となっているラジアンとは全く概念が異なります。

90度は1600ミル。180度は3200ミル。360度が6400ミルです。したがって自衛隊のコンパス。さらにコンパスよりも精度の高い『方向版』もすべて6400単位で目盛りが刻まれています。

自衛官が地図とコンパスを正しく使えるようになるためには、『ミル公式』『偏角乗数』そして『地図の味方』に、精通しておかなければなりません。地図とコンパスを正しく使用できる技術は分隊長以上の自衛官に必須の技能です。

無線機の取り扱い

陸上自衛隊の部隊行動に不可欠の装備は武器の他に無線機があります。また陸上自衛隊で使用する無線機にはさまざまな種類があります。普通科職種の隊員は『丙種無線通信士』という戦技を習得する事が義務付けられています。。

この丙種無線通信士として習得する主な技術及び知識は、無線機の通話方法、簡易野外通信所の設置方法、バッテリーの交換方法などの基礎的な無線機の使用法です。

ちなみに蛇足ながら陸上自衛隊の野外無線機は遠距離通話に適していません。これを自衛隊の無線機は性能が悪いと誤解する人がいますが、けしてそうではありません。

陸上自衛隊の基礎となる部隊は普通科連隊です。その作戦行動範囲は極めて限定的です。したがって野外無線機がむやみやたらに遠距離に電波が飛ぶと言う事はメリットばかりではなくデメリットも大きくなります。具体的なデメリットとしては敵に傍受される恐れがあるからです。

戦史に於いて第二次世界大戦の西太平洋の戦いの劈頭、ハワイの真珠湾を攻撃した第1機動部隊(真珠湾攻撃隊)が、ホノルル放送の電波を頼りに真珠湾へ最短距離を飛行して奇襲作戦を成功させた話はあまりにも有名です

斥候(偵察)

有事の際に、敵と対峙する普通科隊員は斥候任務に就く可能性は大いにあります。斥候と言うのは世界共通の軍事用語で野戦偵察の事です。分隊長以上の普通科隊員は、偵察隊の隊長すなわち、斥候長になる場合があります。

その場合、斥候計画を作成して斥候任務に就きます。斥候は通常陸曹教育隊などの課程教育を履修中に基本的な斥候教育を受けます。斥候をする場合、ともすれば『敵を発見する』事に意識をとらわれるあまりもう一つの重要な役割を見逃しがちです。

もう一つの重要な役割とは、味方の勢力範囲内の安全の確保です。つまり斥候の任務は、敵情を探るのと同時に味方の勢力範囲内に、敵影が無い事を確認すると言う重要な役割を担います。

その観点が欠如している斥候長は、『敵を発見できませんでした』という悲観的な報告をしてしまいます。最良の斥候報告とは『○○~○○までの間、敵影無し。異常ありません。』後はこの繰り返しです。

つまり敵を発見出来なかったと言うことは、それまでは味方の勢力範囲だと言う事を確認できているわけです。陸上戦闘は敵の遊撃部隊(ゲリラ)の奇襲の恐れが常に存在します。


したがって斥候は敵情を探ると言う索敵の任務と、我が支配地域の安全を確保し敵がいれば、掃討すると言う任務もあるのです。

写景図・要図

分隊長以上の普通科隊員は、写景図・要図も軽易に作成できなければいけません。言葉で報告するよりも絵や地図を書いて説明した方が容易です。特に要図は彼我の位置関係を立体的に伝えることが出来るので要図が軽易に作成できるように演練する事も大切です。

写景図はスケッチをイメージして見てください。目標前面のスケッチを軽易に素早く書くのですが、絵画のように上手に書く事よりも『迅速に書けること』が優先です。

簡単な書き方のテクニックは、手前を濃く太く。遠くを薄く細く書きます。

さらにもっと重要な事は、主要な地点と地点の距離を正確に書くことがポイントです。写系図の作成には双眼鏡が必要です。自衛隊の双眼鏡の内部にはメモリが付いています。(単位はミルです。)

双眼鏡が無い場合は人体を利用してミル公式を用います。これは利き腕をまっすぐ伸ばして指を広げた場合の幅が300ミル。こぶしを握り締めた場合の横幅が125ミルと言う具合に決まっています。これでミルを測定します。

写景図は、敵状あるいは敵の予想接近経路を書いて、上司、同僚、部下に説明する為のものですから、位置関係が正確である事が重要で、必ずしも全部の景色を書く必要はありません。

これに比して、要図は略図です。友人に行った事の無い郵便局までの経路を説明する事をイメージして下さい。ごく簡単な地図を書く。それが要図です。ただし、大事な事は写景図とおなじで相対的な位置関係は出来るだけ正確に書かないといけません。

さらに野外は町中のように目立つ標識などありません。その為、一番重要なのは方位の表示です。要図には方位を入れる着衣が必要です。そして次に目標物です。

道路の交差点、山、丘、川、高圧線など…ハッキリとした緊要地形を記入して、相関する地点と地点間の方位と距離が解るようにしてあればオッケーです

歩哨・前哨・外哨(ほしょう・ぜんしょう・がいしょう)

歩哨・前哨・外哨とは警戒任務に就く部隊(個人)の事です。歩哨とは全般的な見張りの事を言います。前哨と言うのは敵味方双方が対峙している状態で、戦いがこれから始まろうとしている最前線の事を指す場合もあります。

また敵に一番近い前面に奇襲防止の為に立てる歩哨を言います。外哨とは斥候などのように敵方に進出して警戒をする部隊です。外哨=歩哨と考えても間違いではありません。特に細かく区別する必要は無く『歩哨』の任務を正しく理解すれば歩哨の任務は果たせます。

歩哨の最も重要な任務は『奇襲の防止』です。敵を発見するのは重要ですが、最も重要なポイントは『味方に対応のための時間的な余裕を与える』事にあります。敵の接近を速やかに味方に知らせる場合、我が企図を秘匿する場合とそうでない場合は対応が異なります。

歩哨には通常、上番時に特別守則が与えられ、緊急の場合の対応方法を指示徹底されます。

偽装(カモフラージュ)

敵から隠ぺいして我が企図を秘匿する偽装も重要な、技能です。偽装は身体偽装と装備等の偽装があります。偽装については新隊員教育隊で基礎を学びます。最も基本的な偽装のルールは、『対象物の輪郭線をぼかす』と言うのがポイントです。

人体であれば、肩の線、頭などの人間の特徴の部分を背景と努めて同化します。また航空機からの秘匿については、隠れる場合、移動して隠れる方法が最良と思われがちですが、実は航空からの偵察から隠ぺいするのに意外と有効なのは『動かない』と言う事です。

これは高度の高い航空偵察の場合、地上の地形地物を肉眼で識別するのは困難です。地上からは見られている意識があって動きたくなりますが。

たとえば縁に発見されてもパイロットの顔が見えないほど高い高度の場合は、ヘリからもこちらが人間であるとは認識できません。

木の陰、森の入り口などで動かない方が発見されません。ところが動けば、直ぐに動物か人間であると解ります。偽装の要訣は周囲と同化すると言う事で、地味な戦技ですが重要な戦技です。

まとめ

陸上自衛隊の代表的な職種「普通科」、いかがでしたでしょうか。


陸上自衛隊の3大戦技『射撃』・『持続走』・『格闘』、特に持続走の重要性は非常に興味深いものがあります。

本記事は、2018年5月3日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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この記事を書いた人

公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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