【見えないものほど大事 】刑務所の保護室の重要性について

刑務所での刑務官の仕事内容「保護室」についてのお話です。保護室という刑務所において、大事だけど、目に触れる機会の少ない部屋のお話です。刑務官など矯正職員歴37年、現在里山で晴耕雨読を享受している元・国家公務員の小柴龍太郎さんの記事です。


見えない?けど、とても大事な「保護室」とは?

相田みつをの詩に「大事なものは見えない」という趣旨のものがありますが、刑務所について言えばたぶん保護室がこれに当たるのではないかと思います。

保護室とは、受刑者が大声を出したり壁などを蹴ったり、自殺を図ったりしたような場合に入れる部屋のことです。これが刑務所にとってとても大事なのです。しかし、一般の方が保護室を目にすることはほとんどないでしょう。

刑務所に鳴る非常ベル、刑務官の命の危機かもしれない?

刑務所に勤務していると非常ベルが鳴るときがあります。非常ベルが鳴ると刑務官が一斉に事務所を飛び出して発報現場に向かいます。仲間が受刑者に襲われているかもしれないので、それはそれはすごい速さで駆けていきます。

受刑者に接する刑務官は丸腰です。外国の刑務所のように銃などは持っていません。一方の受刑者の中には暴力団のように人を傷つけたり殺したりした人もいるわけですから、場合によっては刑務官の命が危ないのです。実際に殉職した例もあります。

こうして非常ベルが鳴った場合は、大抵(の場合、該当の受刑者)が保護室に入ります。ほとんどが興奮しており、大声を出したり、暴れたりしているからです。いわば保護室で頭を冷やしてもらうわけです。それで刑務所の平穏が取り戻せます。だからこの保護室はとても大事なものなのです。

刑務所の平穏を守るための「保護室」が不足するとどうなる?

ところがこの保護室、昔はあまり数が多くありませんでした。3畳ほどの広さの部屋で防音設備が施され、ほかの居室棟から離れた場所に単独で造られる関係上、経費がかさむために多く造ることができなかったのでしょう。

保護室の数が少ないとどういうことが起きるか。

例えば保護室が二つしかない刑務所で3人の受刑者を入れなければいけなくなったとします。一人は余ってしまうので、しょうがなくて一般の居室に入れます。そこで静かになってくれればいいのですが、熱は下がらず、1日中騒いだり壁を蹴ったりするとしましょう。覚せい剤をやった人や認知症の人に多い現象です。

すると、同じ居室棟にいる受刑者はたまったもんじゃありません。特に夜中にこれをやられたら不穏な空気が流れます。

実際に騒ぎ出して、居室棟全体に広がり、暴動寸前になったこともあります。

保護室不足が産んだ2002年の事件

2002年(平成14年)に名古屋刑務所で保護室を巡って刑務官が起訴される事件が起きましたが、当時はまさにそのような状態だったようです。


いわゆる刑務所の過剰収容化が進む中で保護室が足りなくなっていたのです。もちろん刑務官に非がないとは言いませんが、彼らは必死になって刑務所内の治安と規律を守ろうとしていた第一線の刑務官だったことも事実です。

なぜ、防げなかった?

ではこのような事件を未然に防げなかったか。

今考えると防げたと思います。保護室の不足は現場から声が上がっていたからです。しかし、保護室を十分な数だけ全国の刑務所で造るとなると多額の予算が必要となります。

一方で、法務省が予算要求できる金額には一定の限度(シーリング)があります。だからできなかった、というのが実情ではないかと思います。

結果、名古屋刑務所事件が起き、それが社会問題ともいえるほどの騒ぎとなり、国会も問題視するに至って予算がつきました。いわばシーリング外の特別枠です。だから、この特別枠に相当する予算要求が平常時でもできるようにすればいいと思うのです。

財務省はそのような制度を創るべきだと思いますし、国会はそれが実効あるものかどうかをチェックしてほしいと思います。

本記事は、2017年3月28日時点調査または公開された情報です。
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