暴れ川ともいわれた東京の水になる利根川の治水について

河川大国日本では、歴史的にも多くの水害に見舞われてきました。その度に反省されるのが「治水」のあり方です。 公務員が関わる重要な行政の一つ、「治水」について、利根川河川事務所の取組みから解説します。


はじめに

国土に河川が多い日本では、大規模な公共事業として、治水に多くの税金が使われています。台風や大雨で、河川の氾濫や洪水が起きた時に、ダムや堤防などの治水設備によって、流域の人々の命は守られます。

お金の無駄使いはあってはなりませんが、的確な場所に、必要な設備を作る「治水行政」は必要です。

今回は、この治水行政について、担当する行政機関「河川事務所」の役割を、利根川を例にご紹介します。

河川事務所とは?

「河川事務所」とは、国土交通省の地方整備局の下部組織であり、一級河川を中心に、河川ごとや地域ごとに設置されている行政機関です。

「河川事務所」は全国の地方各地、川のある場所に設置されていますが、国土交通省の運営する機関ですので、職員は国家公務員の一員です。

具体的にどのような河川事務所があるかというと、例えば「利根川下流河川事務所」は、利根川の下流域にあたる千葉県我孫子市と茨城県取手市に挟まれた流域から、利根川が太平洋に注ぐ千葉県銚子市と茨城県神栖市にある河口までの約86キロメートルを管理している河川事務所です。

「利根川下流河川事務所」は、河口に近い千葉県香取市にありますが、川の中流には出張所を設けて、利根川に異常が無いかをチェックしています。また、河川の利用の受付や審査など、川に関する市民の窓口という役割もあります。

利根川には「下流事務所」のほかに、「利根川上流河川事務所」と「利根川ダム統合管理事務所」などの関連事務所があります。

利根川の防災と管理

「利根川下流河川事務所」では、通常は利根川から飲み水など必要な水を確保するための管理を行うほか、災害発生に備えるという、治水と防災のどちらも担当しています。

利根川は、支流を含む利根川全体を考えると、実に約3055万人もの方の生活を支えるとても重要な川です。河川の水は、飲み水だけでなく、農業用水や工業用水、発電などにも利用されているようです。

具体的に、治水設備や防災設備にはどのようなものがあるのか、ご紹介します。


主に水を管理するための設備

まず治水設備にはどのようなものがあるのか、ご紹介します。

「治水設備」について
出典)利根川下流河川事務所公式ホームページ
出典)利根川下流河川事務所公式ホームページ
http://www.ktr.mlit.go.jp/tonege/tonege00007.html

水門
水門といっても種類は様々ですが、利根川の場合は「制水門」と呼ばれる、本流が増水した場合に、支流への逆流による浸水を防ぐ目的で設置されている水門が多く設置されているようです。

閘門(こうもん)
「閘門」は川に二重に設置されている門のことで、川の水位を調整しながら船を通行させることができます。水位の違う川の合流地点に設置されていることが多く、閘門がなければ、船といっしょに水が入ってくることにより、水位が低い川は越水の恐れがあります。それを防ぐのが「閘門」の役割です。

観測施設
「観測施設」は川の水位を観測する施設で、中継地点ごとに設置されています。「水位観測所」などとも呼ばれます。水位のレベルが危険な範囲になると警報を出すなどして知らせます。また観測データはリアルタイムで公表されています。

河川防災ステーション
「河川防災ステーション」は、その役割としては防災設備ともいえますが、洪水発生時にまちを守るための「水防活動基地」として、地域に設置されます。

護岸
「護岸」とは、水の流れによる河岸や堤防の浸食を防ぐ、コンクリートなどで作られている工作物のことです。ブロックがジグザグに積まれたような特殊な模様をしているものも多いのですが、水流のエネルギーを吸収できるような構造になっているようです。

高規格堤防
堤防の中でも、特に幅の広い「高規格堤防」が利根川では作られています。「高規格堤防」により地域の安全が守られています。

河口堰
「河口堰」は川の河口にある水門のことで、海から海水が流入することによる塩害から地域を守っているようです。また、用水供給の役割もあります。

排水機場
「排水機場」は、大雨の際に、川の外の水を強制的に川へと排水する機能がある施設です。大雨の時に、逆流を防ぐため水門が閉まりますが、支流の水は行き場を失います。その水を汲み上げて本流へ流し、支流流域で起こる「内水被害」を防ぎます。

主に災害に備えるための設備

利根川は昔から「暴れ川」と言われており、洪水被害が多く記録されています。そのため、災害に備えたあらゆる治水設備が整っています。

利根川の治水と洪水の歴史

利根川は江戸時代までは、荒川や入間川と合流して東京湾に注ぐ川でした。関東平野を南下してくるため、利根川が氾濫すれば江戸が洪水に襲われることを危惧した徳川家康が、利根川の河口を東京湾から千葉県銚子へと移す護岸工事を行ないました。

この工事は利根川にとって、江戸幕府が「治水行政」のようなことを行った初めての例で、「利根川の東遷(とうせん)」と呼ばれているようです。

新しく利根川が流れるようになった千葉県と茨城県の中流・下流流域は、土壌にめぐまれ「穀倉地帯」となりましたが、その代償として大雨のたびに洪水被害が出る地域にもなりました。

明治時代から、昭和、平成と改修工事がおこなわれ、現在のような「高規格堤防(スーパー堤防)」に守られた川へと整備されました。

災害に備えるための設備

災害に備えるためにも使われる治水設備をご紹介します。


「災害に備えるためにも使われる治水設備」について
出典)利根川下流河川事務所公式ホームページ
出典)利根川下流河川事務所公式ホームページ http://www.ktr.mlit.go.jp/tonege/tonege00007.html

ダム
「ダム」は、上流で一定量の水を貯めておける施設です。大雨の際には「ダム」に溜め、放流量を調節することができます。平常時でも、「ダム」に溜められた水は、飲み水や、田畑の作物を育てる農業用水などに利用されます。また発電を行う「ダム」もあります。

調整池
「調整池」は、川からの水を引き込み、一時的にため込むことができます。これにより、下流域での洪水を防ぐことができます。普段は水位が低かったり、干上がっているような防災専用の「調整池」もあります。

導水路
「導水路」は川と川を結ぶ水の通り道です。飲み水を送水したり、洪水時に他の川へ水を逃す役割があります。

用水路
「用水路」とは農業用水や飲用水、工業用水のために人工的に水を引き込むために作られた水路です。田畑の周りにかんがい用に作られた水路は普段は水位が低いことが一般的ですが、洪水時には水の逃げ場になります。

低水管理
「低水管理」とは、川としての必要な水量を確保することに加えて、川の水が少ないときに、山にある水源や、水の豊富な他の河川から水供給を行い、安定した取水を可能とすることです。利根川では様々な設備で水の量をコントロールできるようです。

まとめ

このページでは、利根川の治水設備について、利根川下流河川事務所が管理する設備や、利根川に関係する設備を中心にご紹介しました。

かつては「暴れ川」と呼ばれ、東京湾に注いでいた利根川は、はるか昔、江戸時代に行われた河川改修工事によって銚子に注ぐようになりました。

本記事は、2020年2月16日時点調査または公開された情報です。
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