はじめに
2017年1月20日、アメリカ史上初となる政治家経験や軍人経験を持たない大統領が誕生しました。
それがアメリカ第45代大統領ドナルド・トランプです。
歯に衣着せぬ物言いや、徹底してアメリカ第一主義を貫く姿勢は、アメリカ国民の中間層以上から弱腰と批判されたオバマ政権とは極めて対照的な存在として注目されました。強引なまでにアメリカの利益を優先する政策はアメリカ愛が強い国民から支持を受け、2020年2月時点で2期目の再選は間違いなしとの声も聞こえてくるほどです。今回は賛否両論あるドナルド・トランプとはどのような人物なのか詳しく解説します。
「ドナルド・トランプ」のプロフィール
ドナルド・トランプはニューヨークの不動産開発業社の御曹司として生まれ、幼い頃から裕福な家庭環境で育ちました。父親はニューヨーク市で最も面積が広いクィーンズ地区の不動産開発を手がけていたことから「資産家の中の資産家」と言われるほどの恵まれた家庭だったとされています。
青年期は素行が悪かったため父親の命令で陸軍幼年学校に1年間通わされますが、大学進学と同時に不動産管理や投資などを学び始めました。1968年には経済学士号を取得して、父親の会社で働くようになります。
1970年頃から父親の援助を得て、アメリカ東海岸のオフィスビル開発、ホテル、カジノ運営を展開し成功を収めます。翌年には父親から会社の経営権を譲渡され、現在も続く「The Trump Organization」のトップに立ちました。大統領になってからは経営に携わっておらず、息子2人に任せています。(現在は世界中に500以上の子会社を保有する巨大不動産会社)
名実ともに「アメリカの不動産王」になったドナルド・トランプは積極的なメディア戦略で露出を増やします。1977年には最初の妻となるイヴァナと結婚(ドナルド・ジュニア、イヴァンカ、エリックを授かる)し、経営に無知なイヴァナに会社の実質的な経営権を渡すなどしたために1990年頃には多額の負債を抱えることになりました。イヴァナとは1992年に離婚が成立し、1993年には2人目の妻となるマーラ・メープルズと再婚しています。
1990年代後半にはビル・クリントン政権時代の好景気にのって業績を回復させ、再びニューヨークやラスベガス、アトランティック・シティなどを中心にホテルやカジノを建設しました。そしてニューヨークの象徴ともされるエンパイア・ステート・ビルディングの所有権50%を所有し「アメリカの不動産王カムバック」と評されました。そして、2000年の大統領選時に改革党の予備選挙に出馬しますが敗北し、活躍の場をテレビなどのメディアに移します。この頃に全米で人気があったテレビ番組「Apprentice」で人気になり、一層の知名度を獲得しました。
2012年の大統領選では共和党候補2位になり、大統領候補まであと一歩のところに漕ぎ着けます。そして、2016年の大統領選で民主党のヒラリー・クリントンを破るのでした。このようにドナルド・トランプは不動産業、メディア露出、困難を乗り越えた経営者として抜群の知名度を武器に政界に進出することになります。
「ドナルド・トランプ」の経歴
大統領就任まで
ドナルド・トランプは1946年にニューヨークで生まれ、ニューヨークで育ちました。ニューヨーク市の不動産開発業社の息子として不自由なく暮らし、1964年には地元のフォーダム大学に進学、2年後にはペンシルベニア大学に転校し、経済学を学んでいます。
大学卒業後は父親の会社で働き始め、1970年初頭には既に大都市圏のオフィスビル経営などで成功を収めています。父親から会社を引き継いでからはリゾート地でホテルやカジノ、ゴルフコースを建設し、1980年に「アメリカの不動産王」として一躍有名になりました。
1983年には不動産業以外でもプロアメリカンフットボールリーグのチームオーナー、航空事業、自らを広告塔にしたメディア露出などを展開し、自社ブランドの知名度向上を図ります。この頃から並外れた自己顕示欲でアメリカ国内で広く知られるようになりました。
1990年代はドナルド・トランプにとって苦境の時期になります。過剰な投資や妻イヴァナの経営失敗、離婚、多くの事業から撤退することなどが続きました。1990年代後半にはヨーロッパの財閥ロスチャイルド家、アメリカの銀行家ウィルバー・ロス(トランプ政権の商務長官)などの手助けを得て、自社をニューヨーク証券取引所へ上場し、再び不動産王として返り咲きます。
2000年頃から政治家としての活動に関心を示すようになります。負けてしまうものの、2000年の大統領選では改革党の予備選挙に出馬し、この時に後の片腕となる政治コンサルタントのロジャー・ストーンと出会っています。ちなみに、ロジャー・ストーンはリチャード・ニクソン大統領やロナルド・レーガン大統領の参謀を務めた実力者です。(2020年2月偽証罪で逮捕・有罪)
政治家として活躍の場を広げようとしている傍らでは、2007年にサブプライムローン問題の影響を受け、自身が取締役を務める「トランプ・エンターテイメント・リゾーツ」が実質的な破綻状態になり、2009年に連邦倒産法第11章(日本で言うところの民事再生法)を申請しています。
2012年の大統領選では共和党候補としてミット・ロムニーに次いで2番手になりますが、2016年の大統領選にも出馬することをほのめかす言葉を残しました。また、この頃からバラク・オバマ大統領を辛辣に批判する「ネガティブキャンペーン」を積極的におこないます。具体的にはオバマの出生地問題、ムスリム断定発言などがあります。さらに、後のライバルとなるヒラリー・クリントンをイスラム国の設立者と決めつけたことなど民主党メンバーを批判する過激な内容ばかりでした。
そして2016年の大統領選で共和党候補として出馬し、民主党のヒラリー・クリントンを破り大統領に就任します。(副大統領はマイク・ペンス)この時の大統領選は得票数ではヒラリー・クリントンが上回りましたが、選挙人獲得数でドナルド・トランプが上回る結果になりました。事前の世論調査ではドナルド・トランプ劣勢と根強く報じられていただけに全米に衝撃が走りました。
大統領就任後
ドナルド・トランプが大統領に就任してからは選挙戦時から掲げていた「アメリカ第一主義」を貫くことを宣言します。国際的な合意や各国との連携を強める従来型の政治ではなく、自国の利益のみを追及する極端な政策に取り組むことになりました。あまりにも保守的で孤立主義であることからこの政策は「Trumpism」と呼ばれるようになります。政権の人選ではアメリカ史上最も保守的な政権と言われるほど保守的な内容になりました。
トランプ大統領が真っ先に取りかかったのは、オバマ政権が成立させた「医療保険制度改革(オバマ・ケア)」の撤廃です。これはアメリカで暮らす全ての人が医療保険を加入できるように法制化したものですが、財政圧迫や保険料支払いの増加などが起こり、中間層以上の階級が保険料値上げの影響を受けてしまい反発が続いていました。前政権の肝煎りだった案件をトランプ大統領が真っ向から潰しにかかった姿勢はトランプ支持派からは小気味良く映ったことでしょう。(2020年時点、全廃はしておらず一部を存続中)
また、トランプ大統領によるオバマ政権への当てつけとされているのが「パリ協定離脱決定」です。2017年、トランプ大統領はG20による気候変動抑制を定めた国際協定から離脱することを発表します。最大の理由は国際協定には多額な費用が必要になることで、アメリカ第一主義を主張する以上、アメリカにメリットがない協定には予算を使わないという理屈でした。他にもトランプ大統領は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からも離脱を表明しています。自国の利益のみを考えた振る舞いは様々な波紋を呼ぶことになりました。
トランプ大統領は選挙戦時から公約に掲げてきた「メキシコとの国境に壁を作る」ということにも着手します。目玉の公約だったことから実行しないわけにはいかず、一部で建設が始まっていますが、パフォーマンス程度にしかなっていません。全長3,000キロを超える国境に壁を建設することは現実的ではなく、今日でも不法移民は壁をすり抜けているとされています。当初、建設費用はメキシコ政府に負担させる約束でしたが拒否され、アメリカ国内でも予算案は上程されておらず曖昧な状態です。
トランプ大統領の活躍として世界中に衝撃を与えたのが2018年6月の「米朝首脳会談」です。ミサイル発射問題や核開発、経済制裁などによって双方の関係が悪化していたなか突如実現した首脳会談は歴史的会談として広く報道されました。2018年のシンガポール、2019年のベトナム、板門店の合計3回にわたって首脳会談が行われましたが、両国にとって具体的にどのような影響があったのかは明確になっていません。北朝鮮の金委員長は板門店会談後に、すべての制裁解除を望んだものの実現しなかったと、合意に至らなかった旨を伝えています。
トランプ大統領は史上3人目の「弾劾訴追」をされた大統領になりました。この背景には2019年にウクライナの大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーとの電話会談で、2020年のアメリカ大統領選に出馬する民主党のジョー・バイデンとその息子ハンターについて調査するようにトランプ大統領が依頼したという疑いが持たれたことがあります。これを知った民主党のナンシー・ペロシ議員は大統領の職権乱用を理由に大統領弾劾を開始しましたが、結局は上院で有罪票が集まらずトランプ大統領は罷免を免れました。
2020年2月時点、トランプ大統領は大統領職を継続しています。2期目をかけた2020年の大統領選では民主党のジョー・バイデン、バーニー・サンダース、ピート・ブティジェッジなどの候補者と戦うことになると予想されています。
ポイント1:不動産王から大統領
ドナルド・トランプを語るうえで欠かせないのが「アメリカの不動産王」であることでしょう。ニューヨークやラスベガスをはじめとする世界中の大都市にホテルやカジノ、ゴルフコース、オフィスビルなどを保有し、トランプの名を冠する物件は世界中に300ちかくあるとされています。大統領就任前の2008年からの1年間の収入は日本円で45億円、2017年時点の総資産は3,500億円と言われています。
2016年の大統領選では「大統領としての報酬は年間1ドルでいい」と発言し、年間4,300万ドルの報酬を辞退しています。大成功を収めた実業家から大統領に転身した姿はアメリカらしいと言えるかもしれません。
ポイント2:アメリカ第一主義
トランプ大統領はこれまでにないほどの「アメリカ第一主義者」として知られています。国際協調よりも自国利益を優先する姿は国際世論から度々批判されているものの、アメリカ国内の中間層以上からは根強い支持を受けています。アメリカのことだけを考える方針は、個人的な「自己顕示欲」から派生しているとされており、一貫性という点においては高く評価されています。
自分のことが何よりも大切という国民性があるアメリカにおいてトランプ大統領のこのような姿勢は支持されやすいのかもしれません。対照的に、中間層以下の家庭や協調性を重視する人たちからは徹底的に嫌われており、まさに好き嫌いが明確に分かれる大統領なのです。皮肉にも、アメリカ第一主義のトランプ政権になって以降、アメリカの平均株価、失業率、GDPなどの経済指標は好調を記録し続けています。
ポイント3:再選なるか?
2020年2月時点でトランプ大統領の再選の行方がどのようになるか注目されています。2020年の大統領選でトランプ大統領の有力なライバルになると予想されているのがジョー・バイデンです。オバマ政権で8年間にわたり副大統領を務めた実績や、政治家として40年間近いキャリアがあることが評価されています。
一方で、77歳と高齢であることや健康状態を心配する声があることも事実で、告発が相次いでいる過去のセクハラ行為も懸念材料とされています。トランプ大統領の勢いを止められるほどの具体的な政策はなく、トランプ優勢の声が広まりつつあります。アメリカ国内ではトランプ大統領を支持する声が多く、選挙結果が注目されています。
まとめ
アメリカ第45代大統領ドナルド・トランプは不動産王から大統領になった人物で、極端なアメリカ第一主義者として知られています。オバマ政権時代の政策を否定し、国際協調せず、自国の利益のみを追及する姿勢はアメリカの経済界からは支持されていますが、リベラル派や人権派、若年層からは批判され続けています。経済的な恩恵があるアメリカ人はトランプを支持し、恩恵が受けられない人は批判するという二極化を招いています。トランプ大統領の「ブレない姿勢」は支持者からすれば頼もしく映っているでしょう。
ドナルド・トランプに関する豆知識
・酒、タバコ、ドラッグには一切手を出さないという一面があります。
・大統領専用機内(エア・フォース・ワン)でもビッグマックを食べるほどファストフード好きとして知られています。
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