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日米のコロナウイルスショックの初動対応の違いなどを解説

コロナウイルス問題に対するアメリカ政府と日本政府の対応の違い(2020年4月記事)

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目次

はじめに

2020年3月13日、アメリカではコロナウイルス(COVID-19)感染拡大を受けて国家非常事態宣言が出されました。これに先だってカリフォルニア州やニューヨーク州では、州による非常事態宣言が出されており、まさに全米で非常事態になりました。

国家非常事態宣言が発令されてからアメリカの株価は大暴落、外出禁止令、レストランなどの公共サービスを一時的に閉鎖するなど国民の生活に大きな影響が出ています。日本でも株価下落、休校、外出の自粛など一般生活への影響が続いています。

両国民の生活に大きな影響を与えているコロナウイルス問題ですが、アメリカと日本では政府主導の対応がまったく異なります。今回は、コロナウイルス問題に対するアメリカ政府と日本政府の取り組みの違いについてアメリカ在住の筆者目線で解説します。

公務員志望の方は、両国の政府でどのような違いがあるのか?何が違うのか?良い点と悪い点はどこなのかなどを気にしながらぜひ参考にして下さい。

日本とアメリカ、コロナウイルスショックの初動対応の違い

まずは、アメリカと日本の初動対応の違いをご紹介します。

アメリカのコロナウイルス感染拡大についての初動対応

アメリカ政府は検査と情報の2点で初動対応を誤ったと評価されています。アメリカでは1月下旬にワシントン州でコロナウイルスの感染が確認されました。これを受けて地元の感染症研究者たちは既存のインフルエンザ検査を流用してコロナウイルスの検査を実施するため、連邦政府に許可申請をしますが、連邦政府は2月下旬までそれを拒否し続けました。

さらに、民間の研究機関がコロナウイルス検査を出来るようにしようと働きかけましたが、FDA(米国食品医薬品局)がそれを拒否、CDC(米国疾病予防管理センター)は独自検査法の開発に失敗し、有効な検査方法が確立されなかったためにアメリカ全土で感染が広まりました。

情報公開でも初動にミスがありました。3月11日、連邦政府とCDCは1月中旬から始まった複数のコロナウイルスに関する会議の情報を秘匿情報に指定していたことが判明しました。これにより秘匿情報にアクセスできない専門家や州政府は、連邦政府を通じて正確な情報を手に入れられない事態になったのです。政府の一部の者だけが情報を握り、肝心の専門家は締め出されてしまったため初動の遅れが生じました。

アメリカ政府は、正確で広く利用可能な検査法を確立すること、情報開示を徹底することの2点で初動を誤り、感染拡大を招いたという訳です。トランプ大統領は検査法を確立するための初動にミスがあったことは認めています。

日本のコロナウイルス感染拡大についての初動対応

日本の初動対応も決して万全だったとは言えません。アメリカ同様に「検査」に関する初動に問題がありました。

国内感染が広まりつつあった2月中旬時点での検査数は1,500件/日で、2月6日から3月15日までの約1ヶ月でも合計12,000件しか検査していません。(隣国の韓国では20,000件/日の検査を実施)この結果、日本では潜在的な感染者が潜伏する状態になってしまったのです。


また、初動で問題が起きた原因には組織体系もあります。日本にはアメリカのように独立した権限を持っている感染症対策の専門組織CDC(Centers for Disease Control)がなく、厚生労働省が主体になっています。

政府が発足させた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議などで議論された対策については、結局のところ厚生労働省の是非になるため、どんなに有効な策でも実行に至らないということもあるのです。また、散発的に招集された専門家では統一された見解や、日頃から培われるような対策方針がないため、時間を要したり、的外れな対策になりがちです。

日本の初動対応の遅れは、組織作りをはじめとする日頃からの備えが大幅に欠落していたことに原因があると言えるでしょう。

両国の初動対応はここが違う

アメリカと日本では「CDCの存在」が大きく違います。アメリカのCDCは独立した権限があるため、非常時の初動で機能しやすいとされています。一方で、日本は厚生労働省が主体になるため、様々な責任問題がつきまとい初動に時間がかかります。初動については、両国とも政府中枢との連携がうまくいかなかったことは共通しています。

日本とアメリカ、入国制限の違い

アメリカと日本の入国制限の違いについて見てみましょう。

アメリカの入国制限

アメリカの入国制限の対応は「強硬だが遅い」と評価されています。トランプ大統領は3月13日から30日間にわたってアメリカとイギリスを除く欧州26ヶ国の渡航を禁止しました。さらに、17日には対象外だったイギリスとアイルランドも追加し、感染拡大が続いているエリアとの往来を断絶することで感染を防ぐことにしました。

そして、3月20日にはアメリカ国民に対して4段階中の最上級である「Do not travel(渡航禁止)」を発令しています。また、一部主要空港の閉鎖なども実施しており、この時点からアメリカに入国するのも、出国するのも厳しく制限されている状態が続いています。わずか1週間足らずで実質的にアメリカを封鎖した訳です。

事前相談もなく決定したトランプ大統領の強硬な姿勢は欧州諸国から反発を受けましたが、アメリカの渡航禁止に合わせるようにして欧州で爆発的な感染拡大が起きたため、結果的に正しい決断だったとされています。

日本の入国制限

日本政府の対応は「ゆるくて遅い」ことが特徴です。日本政府は3月5日時点で中国と韓国からの入国制限を実施しました。しかしながら、この入国制限はあくまでも2週間の自己待機を要請するもので、実質的には感染が多いエリアにもかかわらず、日本への渡航を許すようなゆるい規制でした。

3月26日には、アメリカからの入国者に対しても自宅やホテルなどで2週間の待機、公共交通機関の使用自粛を要請しましたが、これも同様に水際対策としては不完全な規制でした。そして、4月1日の国家安全保障会議にて、アメリカやイギリス、中国、韓国など世界73ヶ国からの入国を拒否することが決まりました。(4月3日から実施)

日本国内では1月末時点で複数の感染が確認されていたにもかかわらず、入国禁止措置が4月3日まで決まらなかったことは、他国と比較して遅いと言わざるを得ません。

両国の入国制限はここが違う

「アメリカは強硬ながら早い決断、日本は各国に配慮した対応だったため時間を要した」ということが大きな違いです。アメリカはコロナウイルスの初期対応こそ批判されていますが、入国制限や水際対策は迅速に行われたと言えます。対照的に、日本は慎重になり過ぎた印象が否めません。

日本とアメリカの緊急経済支援の違い

次に、両国の経済支援について見てみましょう。

アメリカの緊急経済支援策

アメリカ政府は、国家非常事態宣言から2週間で2兆ドル(約220兆円)規模の景気刺激策法案を成立させました。大統領選の最中でありながら、対立する民主党や議会の承認を得たトランプ大統領のスピードと決断力は一定の評価を得ています。

この緊急経済支援策によってアメリカの個人や企業を対象に、現金給付の「直接支援」が可能になりました。具体的には、アメリカ人の93%が該当する年収75,000ドル以下の人に対して現金1,200ドル、子どもひとりに500ドルが4月第3週目までに給付される予定です。


また、各州政府への経済支援も実施されるため、コロナウイルスの影響で失業した人への失業保険強化も可能になります。特筆すべきは、失業保険の対象外になるフリーランスの人や、全米で5,000万人(全労働力の40%)いるとされるギグワーカー(単発で仕事を請け負う人たち)も今回の経済支援の対象になっていることです。また、失業はしていないものの休職状態にある人も対象になります。

アメリカの失業者(失業保険申請者)は、国家非常事態宣言後の2週間で1,000万人を超えています。これは2008年の世界金融危機の時よりも早く、多いペースです。このペースは前週と比較した場合で2倍のペースで増えており、アメリカの経済評論家は「失業率15%」や「史上最悪の不況」が現実的になっていると警鐘を鳴らしています。

アメリカでは景気刺激策法案の成立が早かったとは言え、企業が従業員を解雇するスピードの方が早い深刻な状態です。また、トランプ大統領が失業保険を強化したことがきっかけで、企業が従業員を解雇しやすくなったとする声もあります。

日本の緊急経済支援策

日本の緊急経済対策は具体的には決まっていません。安倍首相は4月1日の参院決算委員会で4月第2週を目処に緊急経済対策を取りまとめると表明しましたが、対象が誰なのか、どれくらいの規模なのかなど肝心なところは明確になっていない状況です。

経済産業省は企業を対象にした1.6兆円規模の資金繰り支援を打ち出していますが、地域や対象業種の選定、保証内容の枠組みが決められただけです。同省は他にも、マスク増産に向けた企業の設備投資支援、下請中小企業への配慮要請、個人事業主やフリーランス支援の要請などに注力していますが、いずれも「配慮」や「要請」であり、具体的な支援とは言えません。

日本の緊急経済支援策は「企業」に焦点が当てられていることが特徴です。アメリカは真逆で「個人」に焦点が当てられています。記事執筆時点ではアメリカ政府による企業への直接支援は表明されていません。(企業向けの追加支援の可能性は有り)

日本とアメリカの違いを示す具体例として、日本では4月3日に日本政策投資銀行の「特定投資業務」を使って、大企業や中堅企業向けに1,000億円の出資をして、打撃が大きい航空業界や自動車業界の財務基盤を支えることが決まりました。しかし、これは極めて企業寄りの策と言えます。

個人を重視しない別の例として、日本政府はフリーランスへの支援として「緊急小口資金の貸し付け金」を10万円から20万円に引き上げる措置を取りました。しかし、当初は学校の臨時休校によって仕事を休まざるを得ない保護者に限ったものでした。さらに、雇用者向けの助成金が上限8,330円/日に対して、フリーランスは4,100円としたことも日本ならではの対応でしょう。

巷では消費税減税論や税金の支払い猶予など様々な案が出ていますが、いずれも「間接支援」であることも特徴です。日本政府が時間をかけて下した唯一の直接支援は、おおよそ50億円かけて実施する「各家庭に布マスク2枚配布」という冗談のような案です。

両国の緊急経済支援策はここが違う

「アメリカは個人に焦点を当てた支援、日本は企業に焦点を当てた支援」ということが大きな違いです。日本では個人事業主やフリーランスが増えていて、なおかつ深刻な経済的打撃を受けている人が多いのにもかかわらず、政府は企業を優先する支援策を取りました。時代や風潮、国民がいま望むことを汲み取った策を早期決断したアメリカから学ぶことはあるでしょう。

日本とアメリカの非常事態宣言の違い

非常事態宣言についても比較してみましょう。日本では非常事態宣言とは呼ばず「緊急事態宣言」と表現されています。

アメリカの非常事態宣言

アメリカは3月13日に国家非常事態宣言を発令しましたが、実は2月29日にどこよりも先駆けてワシントン州が非常事態宣言を出しています。他にも、国家非常事態宣言が出される前に、カリフォルニア州やニューヨーク州など全15州が州の判断で非常事態宣言をしていることから、感染拡大に対する危機感は強かったと言えます。

筆者が生活しているアリゾナ州では州全体で感染者が2名という時点で非常事態宣言が出され、学校やレストランが閉鎖されました。(レストランは持ち帰りは対応可)そして、3月31日には州全体で不要不急の外出を禁止する、罰則付きの「Stay-at-home Order」が出されました。とくに小規模ビジネスに大きな影響が生じていますが、暴動やデモなどの混乱はなく受け入れられています。

しかしながら、アリゾナ州では失業者の増加が深刻です。非常事態宣言が出される前の3月7日時点の失業者は1週間で3,183名だったのに対して、3月28日では1週間で88,592名に増えています。3月21日から28日までのわずか1週間で60,000人が失業保険を申請しています。

アメリカでは非常事態宣言こそ早かったものの、皮肉なことに非常事態宣言後に感染が爆発的に広がりました。しかし、国や州が非常事態宣言をしていたからこそ迅速な経済支援、医療従事者のサポート、医療設備の拡充などが円滑に出来たという見方もあります。

ただ、ニューヨーク市のように感染のペースが急速な都市では医療が追いつかない事態になっており、非常事態宣言の有効性を超えてパンク状態になっているケースもあります。

日本の緊急事態宣言

日本は4月3日時点で緊急事態宣言は出されていません。安倍首相は東京オリンピック延期決定後でも「緊急事態宣言を出す状況にない」としています。

日本では2月中旬から次々に死者を含む感染者が報告されていたにもかかわらず緊急事態宣言どころか、3月13日まで総理大臣が緊急事態宣言を出来るようにする法律(改正新型インフルエンザ等対策特別措置法)が決まらない状態でした。

この法律が成立したことで安倍首相が緊急事態宣言を出せるようになった訳ですが、安倍首相はその後も慎重になっています。この背景には緊急事態宣言後の政府によるサポート体制が整っていないことがあるとされており、医療品や食料品の手配、医療施設用の土地や建物の確保など様々な場面で混乱が生じることを懸念しているようです。


また、緊急事態宣言が出されることで経済活動が一層減速すると考えられることから「出来れば発令したくない」という思惑も見えます。世界中で感染が拡大している中でも、最後まで東京オリンピックの開催を主張し続けたことや、一向に態度を明確にしない日本政府の対応はアメリカでも批判の対象になっています。

両国の非常事態宣言はここが違う

アメリカではワシントン州が非常事態宣言をしてから2週間以内に国家非常事態宣言が発令されました。これに対して日本では、北海道が法的根拠はないながらも2月28日に緊急事態宣言をしましたが、全国を対象にした緊急事態宣言は出されていません。このことから、両国では「危機感」が違うと言えます。

世界でも有数の先進国でありながら緊急事態宣言を出さずに「自粛」や「要請」程度で封じ込めを狙っているのは日本くらいでしょう。一方で、日本の清潔な環境や生活習慣、個人の高い自主性があるからこそ緊急事態宣言をしなくても対応できると考える人がいるのも事実です。

まとめ

コロナウイルス問題についてはアメリカと日本では対応が異なります。

必ずしもアメリカの対応がすべて正しいという訳ではありません。また、アメリカがやることすべてを理想と考えることもよくありません。あくまでも両国の対応を比較しつつ、良い点と悪い点を浮き彫りにして理解を深めることが大切です。

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本記事は、2020年4月10日時点調査または公開された情報です。
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この記事を書いた人

公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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