OPECプラス協調減産で歴史的合意?ロシアとサウジアラビアによる「原油価格戦争」について

いま、世界中でガソリン代が下落していることをご存知でしょうか? 本記事では、新型コロナウイルス問題の裏で起きている「もうひとつの緊急事態」である、「原油価格戦争」について、解説します。


はじめに

みなさんはここ最近ガソリン代が安くなったと感じませんか?(*2020年4月15日)

新型コロナウイルス問題で外出を自粛する人が多いため、あまり恩恵を受けていないかもしれませんが、実はいま世界中でガソリン代が下落する事態が起きています。筆者が生活しているアメリカでは2020年年初と比較して4割ちかくガソリンの価格が値下がりしました。

この背景にあるのがロシアとサウジアラビアによる「原油価格戦争」です。これまで協調体制だったロシアとサウジアラビアの話し合いが決裂してしまい、利益分配どころかパイの取り合いになる泥仕合に発展してしまったのです。

このままでは原油産出国は採算割れ、企業の収益低下、破綻という負の連鎖が始まる恐れが出てきてしまいます。

この「原油価格戦争」は、新型コロナウイルス問題と連動するようにして世界経済に大きな影響を与えるため「もうひとつの緊急事態」でもあるのです。

今回は新型コロナウイルス問題に隠れがちな「原油価格戦争」についてわかりやすく解説します。公務員志望の方はぜひとも知っておきたい世界情勢のひとつですので、参考にしてみて下さい。

原油価格戦争とは?

2020年3月に始まった「原油価格戦争」とは具体的にはどういうことなのでしょうか?

中心になった国や影響、問題点などを見てみましょう。

原油価格戦争の概要

今回起きた原油価格戦争は、3月6日にオーストリアのウィーンで開催されたOPEC加盟国(石油輸出国機構)と、ロシアを含む非加盟国「OPECプラス」が集まって原油価格低迷の対策を話し合う会議から始まりました。

この会議では世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大していることを受けて、世界の経済が停滞する(原油需要が減る)可能性があるため、原油産出国はどれだけ原油を減産して対応するかという「協調減産体制」について協議していました。

サウジアラビアやロシアなどの原油産出国は、2017年から互いに協調しながら生産を調整し、両国が利益を確保できるよう協調減産体制を続けてきました。しかし、この会議で協議は決裂し、協調減産体制は崩壊してしまいます。


サウジアラビアの減産提案に対してロシアが拒否する形で決裂したことからサウジアラビアは怒ってしまいます。そして、サウジアラビアがとった行動が「原油増産」そして「出荷価格の値引き」です。

サウジアラビアは減産について協議していたにもかかわらず、真逆の「増産」に踏み切ることで世界シェアを奪ってロシアに対抗しようと試みたのです。これを受けたロシアも「増産」を決断し、価格競争に応戦することになります。サウジアラビアによるロシアに対する「宣戦布告」とも言えるこの行動が発端となり、今回の「原油価格戦争」が始まったという訳です。

この結果、原油は供給過多になると予想され、原油価格は30%以上も一気に下落してしまいました。これを受けたアメリカのニューヨーク市場は過去最大の下げ幅を記録し、ただでさえ新型コロナウイルスで荒れていた世界経済は大混乱する事態になったのです。

この一件で、原油産出量世界第1位のアメリカは、2位のサウジアラビア、3位のロシアによる「揉め事」に巻き込まれるような形で大きな打撃を被りました。このことは、絶好調だったアメリカ経済を牽引してきたトランプ大統領の怒りを買うことにも繋がり、サウジアラビアとロシア、そしてアメリカという3ヶ国が中心に大問題になってしまったのでした。

原油価格戦争による影響

最も大きな影響とされるのは「原油価格の下落」です。そして、原油価格下落によって連鎖的に起こるとされる「産油国の採算割れ」や「エネルギー関連企業の収益低下」最終的には「世界経済の収縮」まで影響が及ぶことも問題です。

今回の原油価格戦争の具体的な影響として、アメリカの株式相場は過去最大となる2,000ドル以上の下落、ヨーロッパ相場では石油関連企業の株価が1日で30%近くも下落する事態になりました。1バレル55-60ドル程度で推移していた原油相場は、2002年以来18年ぶりとなる20ドルを割り込みました。

また、アメリカのシェールオイル関連企業の株価は軒並み下落し、採算が取れない見込みが現実化しました。アメリカではシェールオイルの採算ラインは1バレル50ドル程度とされていますので、どれほどの危機的状況かがよく分かると思います。(計算上、多くの企業は3ヶ月から半年で経営破綻する)

アメリカのシェールオイル企業はサウジアラビアやロシアのように国営企業ではないため、信用各付けが低く、なおかつ発行された社債はアメリカの金融機関が大量に保有しています。もし、原油価格戦争が長引くと数百億ドル規模の社債が債務不履行(デフォルト)を起こし、その影響はシェールオイル企業だけでなく、アメリカの金融機関にも派生します。

俗に言う「ジャンク債」を大量に抱えている金融機関が破綻するという構図は、サブプライムローンをきっかけにして起きたリーマン・ショックと全く同じです。原油価格下落によって、アメリカの金融機関にまで連鎖的に影響が及ぶ「極めて危険な状態」にあるのです。

このように、新型コロナウイルスによる影響で減速している世界経済に追い打ちをかけるようにして原油価格が下落すると、特定の国だけではなく世界中で経済不況に陥る懸念がある訳です。なかでも、アメリカに与える影響は甚大とされています。

ちなみに、原油価格の下落は、世界中で幅広い経済活動に影響を与えることから「世界経済悪化の指標」とされています。原油価格が下落すると回りまわって世界経済が悪化すると覚えておくと良いでしょう。

原油価格戦争の問題点

今回の原油価格戦争の問題点はサウジアラビアとロシアが揉めたということ以外に、ロシアがアメリカにダメージを与える狙いがあったこととされています。

ロシアとしては、協調減産の枠組みに参加していないにもかかわらず世界第1位の原油産出国を名乗るアメリカを快く思っていません。また、アメリカを世界第1位の原油産出国から引き摺り落としたいという長年の思いもあります。

ロシアは新型コロナウイルスで経済が荒れている今こそ、アメリカに大打撃を与えるチャンスと踏み、これを機にロシアが世界最大の原油産出国に躍り出ようと企てたと考えられています。

この計画が実行できるように、ロシア政府は長年かけて原油輸出で得た利益を政府系基金の「国民福祉基金」として蓄えてきました。その総額は日本で15兆円規模になっており、仮に原油価格戦争が起きたとしても、この基金を利用することで10年間程度は価格戦争に耐えられる資金力を入念に準備してきていたのです。


対照的に、サウジアラビアは2年半程度で外貨資金が底を付く計算のためいずれ価格戦争に敗れ、ロシアにとって最大の敵であるアメリカも2020年内には石油会社の倒産が始まって、エネルギー産業は大きな打撃を被ると予想していたとされています。

つまり、ロシアはサウジアラビアとアメリカとの間に意図的に原油価格戦争を引き起こし、体力勝負(資金勝負)に持ち込もうと企てたという訳です。資金力で強いアメリカでさえも、コロナウイルス問題で資金がうまく回せず、原油価格戦争にまで潤沢な資金が行き届かないことも見越したうえでの戦略だったと考えられています。

主要産油国による協調減産で決着した原油価格戦争

2020年4月13日、ついに主要産油国による話し合いが行われ「協調減産」で合意し、原油の価格戦争は一旦休戦になりました。この結果を受けたアメリカのトランプ大統領は上機嫌なツイートしたほどです。いったい何が起きたのでしょうか?

協調減産の概要

サウジアラビアを中心とするOPECと非加盟国のOPECプラスは、5月1日からの2ヶ月間にわたって世界生産量の1割にあたる970万バレル/日量の協調減産で最終合意しました。また、普段は協調減産に参加していないアメリカも合意をしています。

これにより原油の供給過剰を抑え、原油価格の下落は止まると見られています。しかし、現段階で2,000-3,000万バレルの供給過剰が発生しているため、新型コロナウイルス問題が長引けばさらなる減産を決断しなければなりません。

各国が原油を貯蔵できる量は限られており、原油が余るような事態になると再び原油価格の下落が始まるとされています。今回の協調減産合意は、一連の原油価格戦争を休戦させるための措置に過ぎず、根本的な解決には至っていないと言えるでしょう。

トランプ大統領による圧力

歴史的合意と評される協調減産で一役買ったのがトランプ大統領です。トランプ大統領は11月の大統領選までに新型コロナウイルスによって大打撃を受けたアメリカ経済を少しでも回復させようと必死です。

トランプ大統領はアメリカのシェールオイル企業を原油価格戦争から守ることで大統領選に有利になると考えました。大統領選で重要な州とされているテキサス州、オハイオ州、ペンシルベニア州にはシェールオイル企業が多く集まっています。つまり、シェールオイル企業を守ることが票の獲得につながると踏んだのです。

そこでトランプ大統領はサウジアラビアやロシアなどに対して外国産原油の輸入に関税を上乗せると圧力をかけて、今回の協調減産の合意を取り付けました。この一押しが功を奏し、各国は協調減産の方向性でまとまったと言われています。つまり、今回の協調減産は「トランプ大統領選の一人勝ち」という結果に終わったのでした。

アメリカ時間の4月12日、トランプ大統領は協調減産合意を受けて「多くのアメリカ人の雇用を守った」とし、ロシアのプーチン大統領とサウジアラビアのサルマン国王を讃えています。

これから原油価格戦争はどうなる?

ひとまず原油価格戦争は協調減産によって休戦状態になりましたが、新型コロナウイルスがアメリカやヨーロッパを中心にして猛威を振るっているため、いま以上に原油の供給過剰になる可能性があります。仮にそのような事態になると再び協調減産が協議され、原油産出国の歳入悪化を招きかねません。

原油の需要については、とくに中国の需要減少と世界中の航空需要の減少のふたつが大きく影響しており、これらが正常化しない限り減産路線は続くと思われます。

新型コロナウイルスによる経済活動の停滞がいつまで続くかによっては、まだまだ波乱が起こる可能性があります。加えて、原油産出国同士の駆け引きも予断を許さない状態にあると言えます。

まとめ

サウジアラビアとロシアの間で起きた交渉の決裂はアメリカを巻き込んだ原油価格戦争に発展しました。おおよそ1ヶ月ほどの時間をかけて一旦休戦の事態に落ち着きましたが、新型コロナウイルス問題が終息しないことから原油市場は気を抜けない状況が続いています。

また、ロシアがアメリカに経済的なダメージを与えるために仕組んだスキームという見方もあり、ロシアとアメリカの関係性も不安が残ります。しばらくは原油相場からも目が離せない状況が続きますので今後も注視しましょう。

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本記事は、2020年4月16日時点調査または公開された情報です。
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