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5人にひとり失業… アメリカの労働者はどうなる?- 失業者3,600万人、失業率20%へ(2021年1月)

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はじめに - アメリカ人は悲観してない

2020年5月中旬までに、アメリカでは3,600万人の職を失った労働者が、失業保険の申請をしました。毎週300万人程度のペースで申請が続いており、5月の統計では失業率が20%に達すると言われています。

この数字は「5人にひとり」のアメリカ人が完全に職を失った状態です。市場の予想を上回るペースで失業保険の申請数が増えていることから、アメリカ史上最悪の失業ペースになりそうです。

日本でも連日のように報道されているアメリカの失業者数の問題ですが、ニューヨーク株式市場の動向を見ると、楽観視している人も多いようです。また、街を見渡しても職を失った人が溢れている訳でもなく、絶望感が漂っている雰囲気もありません。

なぜアメリカ国民は、悲観的になっていないのでしょうか。その理由を、失業事情と絡めて解説します。

アメリカの失業保険申請件数

まずは、アメリカの失業保険申請件数の推移を見てみましょう。アメリカの失業保険申請件数は3月第3週から4月第2週に向けて急激に増加しました。

2020年03月15日-03月21日:3,307,000件
2020年03月22日-03月28日:6,867,000件
2020年03月29日-04月04日:6,615,000件
2020年04月05日-04月11日:5,237,000件
2020年04月12日-04月18日:4,442,000件
2020年04月19日-04月25日:3,839,000件
2020年04月26日-05月02日:3,169,000件
2020年05月03日-05月09日:2,918,000件

▼参考URL:https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/05/23b303b5818b7f59.html

3月15日以前までの失業保険申請件数は週平均350,000件ですので、わずか1週間でおおよそ10倍になり、さらに次の週には倍増した計算になります。

5月中旬には多くの州で経済が再開されたものの、新型コロナウイルス騒動前よりも10倍近い申請件数を維持しています。アメリカの中堅証券会社Stifel(スタイフェル)が発表した予想では、5月末まで100万件から200万件程度にまで低下し、ピーク時よりは大幅に改善するとされています。

失業者が多い業種は?

次に失業者の割合が多い業種を見てみましょう。

観光業(レジャー・ホスピタリティ):7,653,000件
教育・福祉産業:2,544,000件
企業向け専門職(プロフェッショナルビジネスサービス):2,165,000件
小売業:2,106,900件
製造業:1,330,000件
政府機関:980,000件
建設業:975,000件
輸送機:584,100件
その他:1,267,000件


▼参考URL:https://www.bls.gov/opub/ted/2020/payroll-employment-down-20-point-5-million-in-april-2020.htm

やはり観光業での失業者が際立って目立ちます。アメリカでは州ごとに対応が異なるものの、他州への旅行や観光が禁じられていたため、観光業は軒並み大打撃を受けています。8月下旬にかけて夏休みシーズンですが、例年のような需要は期待できず影響は長引きそうです。

また、教育や福祉産業でも失業者が多いことが分かります。3月中旬から9月まですべての教育機関が休校になったことで、職員、清掃員、警備員など施設運営に携わっていた人たちが一斉に解雇されたと考えられます。

低所得者ほど失業率が高い

一連の失業者増加は、年収40,000ドル以下(約420万円)の低所得者層で多い傾向があります。例えば、4月に失業保険を申請した人たちは労働者全体の19%を占めますが、そのうちの40%が世帯年収40,000ドル以下の人たちです。

アメリカの世帯平均年収は60,000ドルとされていますので、平均以下の所得層は他の所得層よりも失業した割合が高いと言えます。

さらに、テレワークで仕事を継続している大学卒の人たちは全体の63%ですが、高卒では20%と低い傾向があります。つまり、最終学歴が低い人ほどテレワークによる仕事に対応出来ず、工場、店舗、作業現場などに行かなければいけない仕事に就いているという訳です。

実際に、低所得者層に該当するアフリカ系アメリカ人(黒人)は新型コロナウイルスによる死亡率が高いことが確認されており、検査率も低い傾向があります。人種による格差は失業率だけでなく、感染率や死亡率にも影を落としています。

失業者たちが悲観しない理由

このように、4月の統計では戦後最悪の失業率を記録したにもかかわらず、アメリカ国内は暴動が起きることもなく、いたって平穏な空気に包まれています。

連日の株式市場の動向を見ても悲観する気配は少ないのが実情です。この背景には政府による手厚く、迅速な支援策があります。

1,200ドル(Stimulus Check)が支給されるから

トランプ大統領は3月末の時点で約220兆円規模となる緊急経済支援策、通称「CARES Act(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)」を成立させました。

この法案が成立したことによってほぼすべての国民に1,200ドルが支給されました。(所得に応じて金額は変動する)アメリカ国民はこの法案可決と同時に「すぐに、必ずもらえる」ことを確信したことから、悲観が和らいだとされています。

Stimulus Checkは、4月末の時点で大半の国民に支給を完了しているので、政府によるスピーディーな対応も不安を払拭したと言えるでしょう。

失業保険が手厚くなったから

失業保険の給付額と受給期間が増えたことも悲観を吹き飛ばした要因です。アメリカでは州や家庭環境ごとに失業保険の内容が異なりますが、CARES Actの成立によって失業保険を充実させるための財源が確保されました。

これにより、失業者が週に一度のペースで受け取れる失業保険の金額は、従来の金額に600ドルほど上乗せされるかたちで増加し、なおかつ受給期間も16週程度延長されました。

実際に、アリゾナ州で小売業の従業員だった筆者の知人は、失業保険を申請したことで毎週850ドル程の失業保険を受け取っています。(3月末から継続して受給中)


補償制度を利用した方が収入が良くなるから

失業保険に代表されるように、失業者が多い旅行業や飲食業などのサービス業では、多くの人が補償制度を利用した方が収入が良くなる事態になっています。この流れがアメリカ全体で広まり、あえて解雇(一時帰休)される人が増えた訳です。

雇用主としては仕事がない状況下で、従業員に給与を払い続けるよりも、再雇用を約束して解雇した方がお互いのためになると考えたのです。また、従業員からすれば再雇用してもらうまで働かなくても収入(失業保険)が確保されるので安心して休める訳です。

このような背景があるため、多くの人が率先して失業保険を申請し、結果として失業保険申請件数が大幅に増加しているのです。

3月末から続いている失業者の大幅な増加は、必ずしも景気悪化とは限らず「収入が良くなるから」という側面もあることを覚えておくと良いでしょう。

失業と言っても一時解雇だから

4月に失業保険を申請した2,300万人のうち78%は「一時解雇」とされています。つまり、事業が再開しさえすれば元の職場に戻れるということです。職場復帰するまでの間はStimulus Checkや失業保険が支給されるため、最低限の生活は補償されています。

新型コロナウイルスによる失業者の増加は、2008年のリーマンショックの時とは性格が大きく異なります。リーマンショックの際は「一時解雇」が10%だったのに対して「恒久的解雇」が50%でした。つまり、元の職場に戻れない人が半数以上だったということです。

今回は一時解雇が78%、恒久的解雇が11%ですので、同じ失業扱いでも中身が違うのです。5月から経済を再開したアラバマ州やフロリダ州などでは失業保険申請件数が前週比で60%近く減少しており、経済が再開すれば元通りになると考えている人が多いようです。

本当の問題は失業率よりも「再雇用体制」

失業率が高いにもかかわらず、いたって平穏な生活が続いているのには「手厚く、迅速な支援策」がある訳ですが、本当の問題は、一時解雇された人たちが元の職場に戻って、従来通りに働けるかということです。

アメリカは世界で最も感染者数と死亡者数が多い国になってしまったため、新型コロナウイルスに対する国民の警戒感は非常に高くなっています。全米で経済再開と言われているものの、実質的には制限が多く、とても日常に戻ったとは言えません。
本格的な経済再開は年内いっぱいかかると見通す人も多く、事実、飲食業ではおおよそ1割が恒久的な閉店を決めています。言い換えれば、再雇用の受け皿が消滅したということです。筆者が暮らすアリゾナ州でも、目で見て分かるほどにレストランが潰れています。

失業者数がとくに多かった旅行業、教育・福祉、飲食業などの業界で、一時解雇した人たちを再雇用出来るようになるかが非常に重要です。

まとめ

新型コロナウイルスによって3,600万人以上の人が失業したアメリカですが、その大半は一時解雇に該当するため、再雇用が前提になっています。しかしながら、予想以上に国民の警戒感は強く、元通りの生活に戻るには時間を要しそうです。

今後は、このような状況下で再雇用が実現するかどうかが注目されます。しばらくは、失業者数や失業率よりも「雇用者数」や「就業者数」を注視してみてください。

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本記事は、2020年5月29日時点調査または公開された情報です。
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公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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