コロナショック対応の目玉、アメリカの中小企業を支援する「PPP」とは?

2020年5月25日現在、各国で経済活動が再開され始めています。しかし、新型コロナウイルス感染症による外出規制や休業要請などによって、多くの企業は経済的に厳しい状況になりました。

本記事では、困窮する中小企業に対してアメリカ行政府が行った支援「PPP」について説明します。

はじめに

2020年3月から、新型コロナウイルス感染拡大によってアメリカの多くの州で外出規制が実施されました。これに伴い、レストランをはじめとする飲食業や小売業は実質的な営業停止状態になりました。

これらの多くの中小企業は経済的な打撃を受け、飲食業の1割は政府による支援が届く前に廃業する事態になったほどです。アメリカ政府は中小企業を支援するための政策として「PPP」と呼ばれる救済措置を速やかに決定し、多くの企業に実質的な融資を実行しました。

アメリカ全域で実施された「PPP」とは具体的にどのような制度なのでしょうか?

この制度により中小企業は救われたのでしょうか?運営にあたり実際に起きた問題点なども含めて解説します。

失業者を増やさないためのアメリカの給与保障プログラム「PPP」

3月27日、トランプ大統領はおおよそ220兆円規模の「CARES Act」に署名して法案を成立させました。この政策には国民へ1,200ドル支給、失業保険の上乗せ、医療体制を充実させるための財源が含まれています。

CARES Actのなかでも目玉の政策とされているのが、中小企業支援策「給与保障プログラム(Paycheck Protection Program)」です。

アメリカの「PPP」とは?

この通称「PPP」は、新型コロナウイルスによって経済的な打撃を受けた中小企業向けの財政支援政策のことで、雇用を守るために政府が中小企業に対して資金を援助するものです。日本で言うところの「雇用調整助成金」に該当します。

法案成立当初は、CARES Actの中から3,500億ドル(約37兆円)を財源として充てていましたが、2週間足らずで資金が底をついたため、4月21日に急遽3,100億ドル(約33兆円)が追加されました。つまり、「PPP」は70兆円規模の中小企業向け財政支援ということになります。

アメリカの「PPP」の内容

「PPP」の内容を分かりやすく説明すると、従業員500人以下の企業が8週間にわたって雇用を維持した場合、給与や賃料、健康保険、光熱費などの諸経費2.5ヶ月分、最大1,000万ドル(約11億円)までを政府が肩代わりしてくれるというものです。

名目上は融資(ローン)となっていますが、雇用を維持することで返済が免除される仕組みのため、実質的には「給付」と言えます。返済する場合においても、年利1%、2年満期のため、中小企業にとっては非常に魅力的な制度です。

アメリカの「PPP」の条件

「PPP」は実質的な給付と言えますが、返済を免除してもらうためには「融資合計額の75%は人件費が占めていること」という条件を満たす必要があります。あくまでも、融資されたお金は人件費に使うことを条件にされている訳です。

もし、借り入れ後に従業員数を減らした場合は、返済の免除額が減額される仕組みになっています。また、年収100,000ドル(約1,100万円)以下の従業員の報酬を25%以上引き下げた場合も免除額が減額されます。

「PPP」は、ごく簡単に言えば「融資を従業員の雇用維持のために使えば返済不要」ということです。

アメリカの「PPP」による雇用救済の効果

「PPP」によって全米で6,000万人の失業を防げた計算になります。これまで「PPP」に充てられた予算総額の6,600億ドルを、2019年の平均年収51,960ドル×2.5ヶ月分である「10,825ドル」で割ると6,000万人分に相当します。

もし、6,000万人が失業していたとすると失業率を36.8%も増加させることになるため、5月末時点のアメリカの失業率は60%を超えていた可能性がある計算になります。

あくまでも単純計算した上での予想ですが、「PPP」による失業者増加は一定の効果で抑制出来たと言えるでしょう。

アメリカの「PPP」活用の事例

では、「PPP」の具体的な例を見てみましょう。

ここでは簡略化するために健康保険を加味せず解説します。「1. 人件費を削減しなかった場合」「2. 人件費を25%削減した場合」そして「3. 人件費を50%削減した場合」の3つのパターンを比較してみます。

A社は月間の給与平均3,000ドルで、従業員が10名いると仮定した場合、「PPP」を活用して75,000ドル(3,000ドル×10名×2.5ヶ月)借りられます。

人件費を削減しなかった場合

A社は借り入れが締結した日から8週間にわたって従業員を解雇しなかった(人件費を削減しなかった)ため、借りた75,000ドルは全額返済免除になります。

人件費を25%削減した場合

A社は借り入れ後に解雇を実施して人件費を25%削減しました。この結果、借りた75,000ドルのうち人件費は56,250ドルになります。しかし、オフィスの賃料や光熱費、金利負担などで18,750ドル以上支払いました。

「PPP」はオフィスの賃料や光熱費なども加算できます。なおかつA社は人件費75%ルール(融資合計額の75%は人件費が占めていること)を満たしているので全額返済免除になります。

人件費を50%削減した場合

A社は借り入れ後に人件費50%に相当する解雇を実施したため、借りた75,000ドルのうち人件費分が37,500ドルになりました。さらに、賃料などで20,000ドル支払いました。

この場合、A社は「PPP」の条件である人件費75%ルールを満たしていないため、借りた75,000ドルから人件費(37,500ドル)と賃料など(20,000ドル)の合計を差し引いた17,500ドルを2年内に年利1%で政府に返済する必要があります。

このように、「PPP」のポイントは「人件費75%」という点です。しかし、人件費75%を満たしていないからとしても全額を返済する必要はなく、賃料や光熱費なども経費として計上出来るので好条件であることに違いありません。

「PPP」は、条件を満たした場合は「実質的な給付金」であり、条件を満たせなかった場合は「好条件の融資」と考えられます。経営者のなかには雇用維持の目的だけでなく、政府による低金利ローンとして利用する人もいます。

アメリカの給与保障プログラム「PPP」の問題点

次に「PPP」の問題点を見てみましょう。「PPP」は圧倒的なスピードで実施された政策だけに「準備不足」が浮き彫りになりました。

問題点1:資金の枯渇

「PPP」は4月3日から全国で受付が開始されましたが、応募が殺到してわずか2週間後(4月16日)に資金が枯渇してしまいました。4月21日、この事態を受けてトランプ大統領は「PPP」への追加予算として約33兆円を調達しました。

問題点2:窓口が銀行

「PPP」は政府(米国中小企業庁)が貸主であるものの、窓口は市中の銀行です。オンライン申請は5月上旬になって安定して機能するようになりました。

受付開始と同時に銀行の窓口は混雑し、作業に慣れていない銀行員が対応できなかったり、銀行によっては非対応、口座保有者のみ申請可能だったりと、対応がまちまちになってしまいました。このような事情を知らない企業は申請したくてもできない状態に陥ってしまったのでした。

問題点3:銀行による忖度

「PPP」の申請窓口は市中の銀行です。窓口を政府機関にしてしまうと政府機能に支障をきたすという配慮ですが、このことがかえって銀行に力を与えてしまいました。

それぞれの銀行が申請者に対して忖度するようになったのです。例えば、銀行側は繋がりを持っていたい企業を優先的に取り扱うことで、預金を推奨したり別の融資話を提示するなどして銀行側にメリットを残そうとしました。

対照的に、銀行にとって利益にならない小規模の企業ほど後回しにされたという訳です。銀行としては政府補償の融資なので安全性が担保されており、新たな顧客を得る絶好のチャンスだったのです。

問題点4:申し込みは先着順

「PPP」の申込は先着順です。先着順にしたため、「PPP」に関する情報を知らない人や、高齢や多忙が理由ですぐに申し込みに行けなかった人は申し込み出来ない事態になりました。

情報入手や申し込みに人的リソースを活用できる大きな企業ほど申し込みができて、小さな企業ほど申し込みが出来なかったため、ここでも格差が生じてしまったのです。

問題点5:大企業も申し込み可能

「PPP」で最も大きな問題とされているのが大企業でも申請可能ということです。「PPP」は「従業員500人以下の企業」を前提としていますが、解釈によっては大手企業の支店であっても条件に当てはまるのです。

例えば、ニューヨークだけで14店舗もある人気ハンバーガーショップのSHAKE SHACK(シェイクシャック)は「PPP」に申請し、1,000万ドル(約11億円)規模の融資を受け取りました。

また、日本にも進出している大手ステーキチェーンのRuth Chris(ルースクリス)は、合計で2,000万ドル(約22億円)を受け取っているとされていますが、給与支払いには自己資本を用いており、「PPP」には手をつけていないと公表しています。ちなみに、SHAKE SHACKは批判を受けて全額返金しました。

このように、他にも政府による救済措置の選択肢がある大企業までもが「PPP」を利用して資金を独占したために、本当に支援が必要な中小企業に支援が行き渡らなくなったのです。

米国中小企業庁は「PPP」による融資を受け取った大企業に対して任意での返金を求めていますが、法律上企業側に落ち度はないことから、企業がどこまで応じるかは不透明です。

まとめ

アメリカの中小企業支援政策である「PPP」は、迅速に実行され多くの失業を未然に防いだ世界でも稀な画期的な政策です。

一方で、理想とは異なるかたちで浸透してしまったことも否めません。非常事態故にスピードを重視したことがどのように影響するか、今後の失業率や雇用者数の統計で明らかになるでしょう。

今後も、アメリカの「PPP」による余波に注目してください。


本記事は、2020年5月29日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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