はじめに – コロナ禍がもたらしたチャンス
2020年5月現在、アメリカで国家非常事態宣言が発令されて約2ヶ月が経過しました。これに伴い、アメリカ全土で多くの企業が休業や規模を縮小した営業を強いられましたが、このような状況下でも業績好調の企業は多いようです。
アメリカにとって未曾有の恐怖となった新型コロナウイルスですが、どのような企業や業種が業績を伸ばしているのかご紹介します。また、それぞれの企業で業績好調の裏にはどのような背景があるのかも掘り下げます。
アメリカでコロナ禍でも業績好調な企業
2020年5月中旬時点で業績が伸びている主な企業をご紹介します。
業績好調な企業1:アメリカ最大小売店「Walmart」
Walmart(ウォルマート)は、2020年2月-4月期にネット販売が74%増加しました。純利益は前年比で4%増の39億9,000万ドル(約4,270億円)です。
ウォルマートは、アメリカ人で利用したことがない人はいないと言われるほどアメリカ全土に展開している超大型スーパーマーケットです。生鮮食品、家電、医療品、生活用品、衣料品、家具、スポーツ用品、車用品など、全てが揃っており、安価で効率的に買い物が出来ることが魅力とされています。
新型コロナウイルスによって外出規制が実施された際にも「Essential Business(必要不可欠なビジネス)」と認められていたため、一定の客を確保出来ました。さらに、2016年から注力してきた「ネット販売」がここに来て需要が高まったことが業績を押し上げたようです。
ウォルマートは、2016年にネット通販強化のために33億ドル(約3,600億円)を投資して「ジェット・ドット・コム」を買収、倉庫や配送センターからの宅配システムの構築、店舗のデジタル化を続けており、この努力が身を結んだという訳です。
そして、ライバルとされてきたAmazonに対抗するために、4月中旬から「2時間以内に商品配送」を全米1,000店舗でスタートさせています。外出しなくとも生鮮食品が手に入る画期的なサービスになったことから、新規客が3月下旬から4倍も増えています。
一方で、全米にある約5,000店舗の定期的な消毒作業、全米で23万人強の新規雇用、従業員へのボーナス(コロナ手当)などに9億ドル(約1,000億円)かかっていることから、業績好調でも決して喜べる状況にないとされています。
業績好調な企業2:ディスカウントストア「Target」
全米におおよそ1,900店舗を展開している大手ディスカウントストアのTarget(ターゲット)は、2020年2月-4月期の売り上げが前年比で11%増の193億7,100万ドル(約2兆1,000億円)でした。
ターゲットはウォルマートと似たような商品展開をしているお店で、ウォルマート同様ネット通販の需要が業績を伸ばしました。コロナ禍では、得意とする生活用品(家庭用洗剤、食料品など)、化粧品、家電、衣料品などの売上が好調でした。
しかし、ウォルマートと決定的に違うことは「ネット通販の宅配コスト」です。ターゲットはネット通販にかかる宅配コスト、管理、人件費がかさみ、純利益は64%減の2億8,400万ドルになっています。ウォルマートの先行投資との差を見せつけられたと言えるでしょう。
業績好調な企業3:ネット通販「Amazon」
アメリカで最も身近なネット通販Amazonも好調な企業のひとつです。同社は2020年1月-3月期の決算で、売上高が前年同期比26%増の754億5,200万ドル(約8兆900億円)となりました。同期単体では過去最高の売上高です。
純利益を見ると、前年同期比29%減の25億3,500万ドルで、物流費や人件費に加えて、消毒や防護服などのコロナ関連費がかさんでいます。ジェフ・ベゾスCEOは、4月から6月期の営業利益は40億ドルと見込んでいますが、コロナ対策費がそれ以上になるとしています。
Amazonが好調だった背景には、外出規制によって自宅からショッピングをする既存会員が増えたことや、Stimulate Check(一律1,200ドルの政府による支援金)の存在があるとされています。
また、同社が手がける「クラウドコンピューティング事業」が在宅勤務などの流れを受けて急成長しており、四半期で初めて100億ドルを突破しました。
Amazonはネット通販のみならず、コロナ禍によって大きな変化が生まれた「オンライン市場」に適した事業に注力していることから業績は右肩上がりという訳です。
業績好調な企業4:SNS「Facebook」
2020年下半期で大幅に業績を伸ばすと期待されているのがFacebookです。Facebookは新型コロナウイルスによって変化した中小企業の「ECシフト(ネット通販への移行)」や、オンライン会議ツール「メッセンジャールーム」などに注力しています。
なかでも、中小企業を対象にしたECサービス「フェイスブックショップス」は、オンライン化に遅れた小売店や、実店舗特化型の小売店を後押しする強力なツールになると言われています。
これによりフェイスブックはもちろん、インスタグラムでも簡単に商品を販売出来るようになることから需要は多いと見込まれています。当然、企業以外に個人も対象になるため、見込客の母数は圧倒的です。
全米で3,200万件以上あるアメリカの中小企業を取り込むことが出来れば、広告収入だけに頼る同社にとって大きな突破口になるでしょう。
業績好調な企業5:バイオ医薬ベンチャー「Moderna」
新型コロナウイルス感染拡大によって世界中から注目を集めることになったModerna(モデルナ)の株価はわずか3ヶ月で3.7倍($18.23から$68.81)になりました。
同社が開発中の新型コロナウイルスワクチン(新型コロナウイルス)の治験結果が有望と判断され、2020年7月には大規模治験に移行することが決まりました。アメリカでは早急なワクチン開発が望まれており、先行するようにして法整備が進められています。
量産体制も整いつつあります。同社はスイスの製薬会社ロンザと10年契約で提携しました。2021年以降は年間10億本規模の生産能力を確保するとしており、投資家たちからも注目されています。
感染拡大以降、世界中でワクチン開発の競争が始まっており、アメリカとしては他国に先行するためモデルナに期待を寄せています。政府による強力なバックアップを受けたベンチャー企業がどこまで成長するかは未知数です。
業績好調な企業6:大型ホームセンター「Lowe’s」
アメリカのホームセンター大手「Lowe’s(ロウズ)」も好調です。2020年2月-4月の決算では、純利益が27.8%増の13億4,000万ドル(約1,474億円)でした。売上高は2003年振りとなる11%増という伸び率を記録しており、これは市場アナリストの予想を3%以上も上回る結果です。
エリソンCEOは新型コロナウイルスの影響で自宅で過ごす時間が長くなった人たちが日曜大工をするようになったと分析しており、実際にリフォーム用の塗料、電動工具、木材、芝刈り機、そしてプロ仕様の掃除道具などが売れています。
ライバル企業とされるHome Depot(ホームデポ)も同様の傾向ながら、地方都市に多く展開しているロウズの方が優勢だったようです。
業績好調な企業7:LIXIL・TOTO
日系企業で注目を浴びているのが洗浄便座を販売するLIXILやTOTOです。アメリカの一般家庭ではわずか3%という浸透率の洗浄便座ですが、新型コロナウイルスによってトイレットペーパーが入手し辛くなったことや、衛生を気にする人が増えたことが追い風になりました。
LIXILは2020年3月だけで前年比の2倍を売り上げており、全米で積極的に「紙の代替え製品」となることをアピールしています。TOTOは2020年1月-3月期にウォシュレットの販売が前年同期比で2倍、2022年までに2017年度比で3倍となる年間200万台を目指します。
両社はアメリカ市場のみならず、中国などのアジア圏、オーストラリアなども視野に入れており、潜在的なマーケットが大きいため期待が高まります。
コロナ禍のアメリカでは何が売れたのか?
新型コロナウイルスによる外出規制が発令された中、アメリカ人はいったいどのような物を購入したのでしょうか?
コロナ禍で売れたもの「生活用品」
当然ながら生活用品の売り上げは顕著です。とくにトイレットペーパー、キッチンペーパー、消毒関連の製品、掃除道具などは買い占めが起こるほどに需要が生じました。これらの製品は2ヶ月経過しても安定して手に入るようになったとは言えない状況です。
また、自宅で家族と一緒に過ごす時間が長くなったことから「お菓子作り」がブームになり、小麦粉が品薄になりました。日本でホットケーキミックスがなくなった現象と同じと言えるます。
コロナ禍で売れたもの「健康グッズ」
多くの州でジムが閉鎖されました。これによりジム会員の退会が相次ぎ、その分パーソナルトレーニンググッズが売れました。
なかでも顕著に伸びたのが「自転車」です。健康的なエクササイズと体力アップのトレーニングを兼ね揃えていることから自転車は入手困難になっています。
また、ゴルフ関連グッズ、ランニングシューズ、スポーツウェア、ヨガマットなどはネット通販で好調な売れ行きです。
意外なところでは「靴」が売れています。理由としては、サンダルを好むアメリカ人が体にウイルスを付けないようにするため靴を履くようになったためと予想されています。(Urban Outfitters社の実績)
コロナ禍で売れたもの「子ども向け教材や玩具」
自宅学習用の教材が子どもがいる家庭を中心に売れました。多くの学校が、3月中旬から家庭学習に切り替わったことから、学力低下を懸念した親たちが追加の教材を購入したとされています。
一方で、ウォルマートでは子ども向けの玩具やビデオゲーム、自転車、ボールなどの遊具が10%増の売上になっています。政府から子どもひとり(各家庭最大2名分)に対して500ドルの支援金が出ているため、親はこれらに支出したと考えられます。
まとめ
アメリカでは新型コロナウイルスの影響によって「ネット通販」や「オンライン会議」などに関連する企業が業績好調です。また、自宅で過ごす時間が増えたことで家庭で使用する物が売れています。生活必需品に加えて、長期にわたって使用される「耐久消費財」が売れたことが特徴的です。
一方で、どの企業もコロナ対策にかかる経費や、ネット通販にかかる費用の圧縮が間に合っておらず、実質的な利益は数字よりも少ないようです。
日本でもアメリカと同様の傾向が見られますが、今後は小売業の「ECシフト」や、企業のオンライン化が加速することは間違いありません。日本の行政がこれらの急速な流れの変化にどこまで対応出来るかが問われます。
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