はじめに – アメリカ民主党とアメリカ共和党の対立
2020年8月、「オバマゲート」と呼ばれる政治スキャンダルが、今アメリカで話題になっています。
トランプ大統領は自身のTwitterで連日にわたって再三「オバマゲート」に触れており、度々オバマ元大統領を批判する事態になっています。一方で、オバマ元大統領は11月に大統領選を控えている民主党候補のジョー・バイデンを支持することを公表し、トランプ大統領との対立関係が続いています。
ここにきて、トランプ大統領とオバマ元大統領の対立が目立つようになった原因とされているのが、政治スキャンダル「オバマゲート」という訳です。
日本ではアメリカとは異なった報道のされ方がされている「オバマゲート」ですが、アメリカではどのように報じられているのかや、「オバマゲート」とはどのような事件なのかまとめて解説します。
アメリカで話題の政治スキャンダル「オバマゲート」とは?
まず、「オバマゲート」とはいったいどのようなことなのかを理解しましょう。
アメリカと日本では「オバマゲート」に関する報じられ方が異なるようですので、両方の視点から見た「オバマゲート」をご紹介します。
アメリカで報じられている「オバマゲート」
アメリカで言うところの「オバマゲート」とは「トランプ大統領を失脚させるために、オバマ元大統領がロシアゲートをねつ造した」とされていることです。ごく簡単に言うと、オバマ氏がトランプ大統領を失脚させるために政治的不正行為に関わっていた疑いがある、となります。
ロシアゲート(ロシアゲート疑惑)とは、2016年の大統領選の際に、共和党のトランプ陣営が対立候補だった民主党のヒラリー候補に勝利するために、ロシアと手を組んで選挙を工作した疑いが持たれたことです。
一見はトランプ陣営による政治工作と思われていましたが、疑惑から4年目にして、ロシアゲートを影で仕切っていたのはオバマ元大統領ではないかという話が急浮上したのです。
トランプ大統領の主張によると、オバマ氏がトランプ大統領の元側近であるマイケル・フリン氏を政治的な意図を持ってして訴追したとあります。
アメリカ司法省は、オバマ氏が関与していたことを裏付ける公文書を議会に提出しており、今後本格的な捜査が始まるとされています。一部のメディアでは最高刑が死刑の国家反逆罪に相当すると報道しています。これが「オバマゲート」の大まかな全容です。
日本で報じられている「オバマゲート」
日本ではアメリカの報道とは異なり「オバマ元大統領が偽名を使用してインドネシアからアメリカに入国し、出生証明書を偽造した」や「オバマの本名はBarry Sowetoだった」といった典型的なフェイクニュースが「オバマゲート」と関連付けられて報じられています。
日本でこのような報道になっている背景には「「オバマゲート」はいまのところ疑惑の域を出ない」ことや「トランプ大統領(共和党)寄りの報道になる可能性がある」ことが影響しているのかもしれません。
アメリカでは連日のように「オバマゲート」に関連するニュースが更新されているので、近いうちに日本でも確かな情報ソースを使った中立性がある報道がされると思います。
「オバマゲート」の名前の由来
「オバマゲート」(OBAMA GATE)の名前の由来は、1972年にアメリカで起きた「ウォーターゲート事件(Watergate scandal )」にあります。
ウォーターゲート事件とは、1972年6月17日にワシントンD.C.にある民主党本部(ウォーターゲート・ビル)に男5人が不法侵入し、盗聴器を仕掛けようとしたところを捕まえられたことから始まった政治スキャンダルです。
逮捕された人物が共和党関係者(ニクソン大統領再選委員会)であったことや、ニクソン大統領を含むホワイトハウス関係者が深く関与(実行犯を雇った)していたことが判明しました。
さらに、ニクソン大統領側近らが捜査を妨害、議会での証拠提出拒否、検察官を解任するなどをしたことから事態は泥沼化しました。
最終的にニクソン大統領を罷免する大統領弾劾裁判の可能性が出てきたところで、ニクソン大統領が辞任して(アメリカ史上初の大統領辞任)終結しました。
ニクソン大統領が直接関与した決定的な証拠がないことから最悪の事態は免れましたが、与党だった共和党による政治工作であることは間違いないと見られています。
大統領とホワイトハウスが政治工作をしていたことでアメリカの政治は大きく失墜し、アメリカ国民に不信感を抱かせる事態になりました。
このウォーターゲート事件以降、アメリカでは政治工作や政治スキャンダルに「ゲート(Gate)」という言葉を用いることが慣例です。最近では「ロシアゲート」で再び注目を集めるようになりました。
「オバマゲート」もそのひとつで、始めにこの言葉を使ったのはトランプ大統領とされています。
「オバマゲート」に対するトランプ大統領の反応
大統領再選を目指すトランプ大統領は「オバマゲート」を徹底して批判しています。
現職の大統領が元大統領を批判することはアメリカでは不文律とされてきましたが、トランプ大統領はお構いなしです。
5月14日、トランプ大統領は「オバマゲート」に関する調査と上院議会での証言をオバマ氏に求める考えを発表しました。自身のTwitter上で「アメリカ史上最大の政治犯罪、政治スキャンダルである「オバマゲート」について最初に証言させるべき人物は明らかにオバマ元大統領だ」と書いています。
17日には、ホワイトハウスの記者会見でオバマ氏からの批判に対して質問された際には「オバマ氏はあまりに無能だ」と吐き捨て、その後のTwitterでは「オバマ氏とバイデンのおかげで私がホワイトハウスにいられる」と皮肉を述べています。
トランプ大統領は、「オバマゲート」は自身が勝利した2016年以前から仕組まれていたものと主張し、極めて計画的で周到な内容としています。仮に、これが本当であればオバマ氏の印象や功績は総崩れで、民主党の信頼は失墜するでしょう。
トランプ大統領は上院司法委員会の委員長Lindsey Graham(リンゼー・グラハム)に対して「とにかくやるべきだ」と発破をかけ、オバマ氏を徹底して糾弾する構えです。そして、国民に対しては「投票しよう」と呼びかけています。
トランプ大統領のこのような反応は、オバマ氏そして民主党への抵抗と見られている反面、大統領選での再選に向けた「焦り」と捉える向きも多く、新型コロナウイルス対応の初動ミスを挽回したい思惑があるのかもしれません。
「オバマゲート」に対するオバマ元大統領の反応
これまでにオバマ氏自身は「オバマゲート」に関して目立った反応は見せていません。
ただし、新型コロナウイルスに関するトランプ大統領の対応を批判しており、トランプ大統領との対立姿勢は明白です。
5月16日、オバマ氏は多くのアフリカ系アメリカ人が通うHistorically black colleges and universities (歴史的黒人大学)の卒業式で、オンラインを通してスピーチをしました。その際に新型コロナウイルスを巡る政府の対応に触れ「多くの人たちが指導力を発揮するそぶりさえ見せていない」と暗にトランプ政権を批判しています。
また「社会と民主主義は自分のことだけでなく、お互いのことを思い合った時に機能するものだ」とし、現政権のアメリカ第一主義、利己的な考えも批判しています。そして、再び分裂しつつあるアメリカに警鐘を鳴らしました。
オバマ氏は、トランプ大統領が主張している「元側近が政治的な理由で意図的な訴追を受けた」ことに対して、当時トランプ大統領が度々フリン氏の無罪を訴え続けた結果、司法省が圧力に屈して訴えを撤回したと主張しています。つまり、大統領による圧力が法の統治を危うくしているという訳です。
現職の大統領が元大統領を批判することが不文律とされているように、前大統領が後任の大統領を批判することも不文律とされてきました。しかし、オバマ氏は卒業式という場において政治的な発言(批判)をしており、極めて異例な事態になっています。
元大統領に公然と批判されたトランプ政権はオバマ氏に対して「アメリカ史上初、現職大統領を批判した元大統領」と皮肉を言っています。
「オバマゲート」に対するバイデンの反応
2020年11月の大統領選でトランプ大統領の対抗馬となる民主党候補のジョー・バイデン氏は、トランプ大統領による「オバマゲート」騒動に対して「政治ショーだ」と一蹴しています。
バイデン氏はオバマ政権下で8年間副大統領を務めており、オバマとは旧知の仲です。40年近く民主党員として活躍している「民主党の重鎮」で、「オバマゲート」をうまく処理すれば大統領選に向けて好材料になります。
バイデン陣営は、新型コロナウイルスの影響で思うような選挙活動が出来ていないだけに、「オバマゲート」をきっけに注目を集めたいところでしょう。逆を言えば、「オバマゲート」の事態が悪化するとバイデン氏だけでなく民主党への風当たりも強くなるため、一気に劣勢になってしまいます。
バイデン氏としては、オバマ氏の肩を持ちたいところでしょうが、大統領選への影響は避けたいのが本音と言えます。ちなみに、オバマ氏はバイデン氏が勝利出来るように元側近たちに関与を強めるよう指示しており、バイデン氏をサポートすることを公表しています。
まとめ
アメリカでは、11月の大統領選に向けて「オバマゲート」という新たな争点が浮上してきました。5月中旬時点では、議会による調査が始まっている訳ではないため、日本での報道は断片的です。
「オバマゲート」は、共和党のトランプ大統領にとっては民主党の印象を下げる良い材料になります。一方で、民主党としてはあえてトランプ大統領の反感や焦りを煽ることで、改めて大統領としての素質を問う狙いもあるでしょう。
司法省が議会に提出したとされるオバマ氏による不正疑惑の証拠が議会でどのように判断され、さらに国民が「オバマゲート」をどう捉えるかがポイントです。しばらくは事態の行方を注視したいところです。
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