LGBTとしての生き方 IN オーストラリア

ここ数年で「LGBT」という言葉をメディアを通じて、よく耳にするようになったのではないでしょうか。「LGBT」とはセクシュアルマイノリティの総称です。

今回オーストラリアに住む日本人に、「オーストラリアで、LGBTとして生きていくこと」というテーマで、コラムを書いていただきました。

セクシュアルマイノリティは、公務員にとっても重要な課題です。ぜひこの機会に、オーストラリアのLGBT事情について知ってください。


はじめに – 「LGBT」とは?

「LGBT」とは、セクシュアルマイノリティの総称です。

具体的には、

L:レズビアン(Lesbian)…女性同性愛者
G:ゲイ(Gay)…男性同性愛者
B:バイセクシュアル(Bisexual)…両性愛者
T:トランスジェンダー(Transgender)…自認する性別と出生児の性別が一致していない者

以上の4つの頭文字を取った単語です。

「電通」が2018年10月にインターネットで行った調査によると、65.1%ものLGBTの当事者は「その事実を誰にも打ち明けていない」と回答したと伝えています。

欧州を中心に、同性間の結婚を認める国や地域が増えています。日本でも同性結婚もしくはそれに準ずる制度を導入すべきだという声が上がってはいるものの、慎重に導入を検討すべきという声も根強く、日本で同性婚が合法化されるまでには、まだ時間がかかるだろうというのが一般論です。

ここでは、数十年に渡り議論を重ね、ようやく同性婚が合法化されたオーストラリアのLGBT事情をご紹介します。

同性婚が合法化されたオーストラリア

オーストラリアでは、数十年にも渡って同性婚をめぐる議論があったものの、同性同士での結婚はこれまで法律で認められていませんでした。

2017年に同性婚の賛否を問う国民投票が実施され、投票の結果、賛成61%、反対38%と、世論は大きく同性婚賛成に動きました。

この結果を受けて同性婚を合法化する法改正案が連邦議会に提出され、連邦議会の上院で可決、続いて下院でも可決されて合法化が決定し、オーストラリアは世界で24番目に同性婚を認める国になりました。

しかしオーストラリアでは、この合法化が成る以前からLGBTであることを公言する人も多く、LGBTに対する認知度は高かったと言えます。


シドニーで開催されているLGBTパレード「マルディグラ」

オーストラリア最大の人口を有するシドニーで毎年開催される「マルディグラ」は、世界最大級のLGBTのパレードとして有名です。

1980年に開催40周年を迎えたこのパレードは、毎年約1万人にも上る参加者、そして50万人もの観客が世界中から集まります。

このパレードを開催したきっかけは、同性愛がまだ犯罪行為とされていた70年代、迫害を受けていたゲイ&レズビアン達が彼等の権利を主張するためにデモ行進を行ったことに端を発します。

当時は警察とデモ参加者の激しい衝突があり、多くの逮捕者が出ました。しかし近年の同パレードは、警察や政府などもサポートをするシドニーの一大イベントとなりました。

このことはまるで、オーストラリア社会の縮図を見ているようです。オーストラリアでは、LGBTは多くの人から受け入れられ、そして社会的にも広く認知され、LGBTだからといって特別視されることのない社会になりつつあります。

「LGBT」であることを特別視されない社会、オーストラリア

オーストラリアでは、日本よりもっとLGBTであることを公表している人が多いようです。それは、社会が彼らを受け入れる体制が整っているから、カミングアウトしやすいという背景もあるのかもしれません。

ここでは様々な現場で目にするLGBTの現状をご紹介します。

オーストラリアの学校でのLGBT

オーストラリアの都市部では、LGBTであることを公にする個人や家族が多く、子供たちが学校で出会う友達の中にも、二人のママ達に育てられているという子供も少なくない現状です。

もちろんLGBTに対して差別的な見解を持つ人も皆無とは言えません。しかし、周りを見渡すとLGBTのカップルが実に多く、異性間のそれとなんら変わりない普通の光景として捉える人が多いように感じます。

物心ついた頃から同性カップルと接している子供たちも多く、そういう多くの子供たちはLGBTに対して偏見を持っていません。

トランスジェンダーについても、割と若年齢のうちから、医師や専門家の指導を仰ぎながら、我が子がトランスジェンダーであることを認識し、そして公言した上で、生まれた時とは異なる性別として育てていくという家族もいます。

こういう場合、学校もその事実を受け止め、子供達にその事実を伝え、「これまでとなんら変わらないお友達の一人」という説明をして、いじめの対象にならないよう注意を払います。

トランスジェンダーの子供がトイレを使う際に、その子も、そして他の子供達も気まずい思いをしないよう、教師用のトイレを利用させるなどの措置も講じる学校も少なくありません。

オーストラリアの職場でのLGBT

もちろん働く場でも、LGBTだから差別されたり、いじわるをされたという話もあまり耳にしません。

職場でも堂々とLGBTであることを公言する人も多く、求人広告を出す際に「LGBT歓迎」という広告を掲載する会社や団体もあります。


また、人種差別同様にLGBTに対する差別的言動を行わないこと等を職員規定に盛り込んでいる職場も多いようです。

もちろん配偶者に適用される福利厚生は、同性パートナーにも同様に適用されるよう、制度化しています。

最近ではオフィスビルの中にジェンダーフリーのトイレや更衣室を設けて、性別にかかわらず利用でき、且つプライバシーが確保できる共用個室を設けている施設も見かけます。

そこで働く皆が快適に過ごせるよう、さまざまな取り組みが行われています。

オーストラリアの「LGBT」へのサポート体制

前述の通り、社会がLGBTを受け入れる体制が整いつつあるオーストラリアでさえ、残念ながら全ての人がLGBTを受け入れているわけではありません。

ここでは、オーストラリア社会がどのようにLGBTを支援しているかをご紹介します。

「LGBT」の人々への心のケア

家族がLGBTに否定的という家庭で育った場合や、LGBTに対して嫌悪感をあらわにする友人達に囲まれている場合などは、カミングアウトすることもできず、「皆が自分を否定しているように感じる」などの理由からうつ病を患ってしまったり、自傷行為を行ってしまうLGBTも多く、LGBTがこのような症状に陥ってしまう確率は、LGBTでない人の倍にも及ぶと言われています。

オーストラリアでは、LGBTの心のケアについても、コミュニティー、NGO(非政府組織)そして政府機関などがさまざまな形で支援を行っています。

国が提供している『Qlife』ではフリーダイヤル、そしてウェブチャットで無料相談に応じてくれます。

また、州政府も各州ごとに個別カウンセリングやケアコーディネイトなどのサポートを行なっています。

・自分のセクシュアリティや性別について迷いがある
・自分のセクシュアリティや性別について否定されたり、ハラスメントを受けたことがある
・孤独感に苛まれている
・周りにセクシュアリティや性別について悩んでいる人がいる

以上のような理由で、これらのサポートを希望する人が多いそうです。

LGBTの家族もまた、「どうしても現実を受け入れられない」とか「どうやってサポートしていけばいいのかわからない」など、家族の中のLGBTの存在が悩みのタネとなってしまう場合もあり、家族ぐるみで参加できるイベントや家族で一緒にカウンセリングが受けられる「ファミリーカウンセリング」などを通じて、LGBTの家族へのサポートも継続的に行われています。

大切なのは、コミュニケーションを絶やさないこと。LGBT=孤独の構図が生まれないよう、社会が継続的に支援していくことが大切なのではないでしょうか。

「LGBT」の人々への行政の支援 – 第三の性別

オーストラリアは、2011年に世界で初めてパスポートにおいて第三の性別表記を認める法律を施行しました。

パスポート申請書の「性別」の欄には次のような記載があります。

・(M)Male…男性
・(F)Female…女性
・(X)Intermediate…中間

以上の中から、申請者は該当する性別を選んでチェックしますが、(X)を選択する場合には、医師に現在の性別を証明してもらう必要があります。

このような法律を施行したのは、パスポートに書かれた性別と外見の違いから、渡航先で誤解やトラブルが起こることが多々あり、LGBTが誰にも気兼ねなく旅行することができるよう配慮したものです。


しかし、性別による差別をなくすために施行されたこの法律が、逆に差別を助長しているのではないかと懸念する声もあがっています。

まとめ

以上、「LGBTとしての生き方 IN オーストラリア」でした。

オーストラリアの都市部では、町中に事務所を構えるNGOや政府機関も多く、対面でのカウンセルリングや情報収集がしやすい環境が整っています。逆に地方では、未だLGBTには否定的というところも多く、カミングアウトするか否かは、本人にとっても家族にとっても、人生を左右するような大きな決断になりかねません。

そんな地方在住のLGBTをサポートするために、定期的に地方都市を訪れて、LGBTに関するさまざまな情報を配布する努力を継続的に行っているNGOもあります。

「マルディグラ」が今のように世界中で認知されるようになるまで、40年余りの月日を要しました。日本、そして世界中で、時間がかかっても「LGBT」という言葉が死語になる程、LGBTが特別視されない社会がくることを祈るばかりです。

本記事は、2020年7月2日時点調査または公開された情報です。
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