【一般市民vs支配階級】アメリカの社会問題に発展中「GameStop騒動」とは?(2021年2月)

いま、アメリカで社会問題となているのが「GameStop騒動」と呼ばれる、株価の乱高下です。

本記事では、バイデン新政権がスタートしてわずか2週目にして起こったアメリカの株式市場の荒れ模様について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに – 「GameStop騒動」とは?

2021年1月下旬、バイデン新政権がスタートしてわずか2週目にして、アメリカの株式市場が歴史的な荒れ模様を見せています。

複数の銘柄で歴史的な暴騰や暴落が続き、混乱を避けるため個人投資家に対して取引を制限する事態になったのです。これにより、多くの投資家が損失を被ったとして政界も巻き込んだ騒動になっています。

今回は、バイデン新政権にとって最初の課題になるかもしれないと注目されている「GameStop騒動」について解説します。ここにもアメリカの分断を象徴する問題が隠れていました。

GameStop騒動の概要について

はじめに、今回の「GameStop騒動」について見てみましょう。

何が起きたのか?

今回の騒動をごく簡単に言えば「複数の銘柄で歴史的な乱高下が起きて、損失を被った人が増えた」となります。そして、騒動の裏には「エスタブリッシュメント(支配階級)」と「個人投資家」による対立が隠れています。

今回の騒動で最も注目されているのがアメリカのゲーム小売チェーン「GameStop(ゲームストップ)社」です。同社の株価は、2021年1月26日から27日にかけて暴騰($76.79→$347.51)し、さらに28日には暴落($347.51→$193.60)する極端な値動きを見せました。

最高値をつけた1月27日の終値は、2020年末終値($19.38)と比較して約18倍で、同社の株価はこの2日間で4.5倍も上昇したことになります。

さらに、このような激しい値動きはGameStop社だけでなく、映画チェーンのAMCエンターテインメント・ホールディングスやアメリカン航空、通信機器メーカーのBlackBerry、雑貨小売チェーンのBed Bath&Beyondなどでも起こりました。

このような動きを受け、個人投資家に人気のネット証券ロビンフッドやインタラクティブ・ブローカーズは相次いで取引制限措置を取り混乱を収めようとしました。しかし、取引制限措置により、多くの個人投資家が損害を被ったとして集団訴訟の動きが強まっています。

民主党左派として知られるオカシオコルテス下院議員はツイッター上で「ヘッジファンドは取引できるが、個人投資家は拒否される」と証券会社を非難しました。さらに、共和党上院議員のクルーズ氏も「完全に同意する」と同調しています。

1月28日、ホワイトハウスのサキ報道官は「政府はこの状況を注視している」と述べ、単なる株式市場の問題としてではなく、政界を巻き込んだ問題になりつつあります。


GameStop騒動が起きた背景

今回の騒動が起きた背景には「エスタブリッシュメント(支配階級)」と「個人投資家」の対立があります。個人投資家たちがエスタブリッシュメントに「ひと泡食わせる」ことを狙ったのが始まりです。

エスタブリッシュメントと呼ばれる人たちをごく簡単に言えば機関投資家のことで、資金力にものを言わせて利益を得る人のことです。そして、機関投資家らが株式市場で利益を得る際によく使う取引方法が「空売り」です。

空売りは「高く売って、安く買い戻す」売りから入る取引方法で、一般的な株の取引(安く買って、高く売る)と真逆の手法です。株式市場が好調なときも不調なときも利益を得られることを目的にして考えられました。

2020年9月、実業家のライアン・コーエン氏がGameStopの株を580万株取得し、代表取締役に就任しました。これにより、個人投資家の間ではGameStop株が上昇するとの観測が広まっていきました。

一方、機関投資家はGameStop株が将来的に下落すると予測し「空売り」による利益を狙っているとの情報が流れました。そして、個人投資家の間で「機関投資家の狙いを阻止しよう」という動きが強まったのです。

この結果、共感した個人投資家らが一斉にGameStop株を購入し、空売りを仕掛けたヘッジファンドのMelvin Capitalなどは損切りによって数十億ドルの損害を被りました。また、ネット証券各社は急激な取引増加を受けて、取引制限措置に踏み切ったのです。

GameStop騒動の問題点

次に、GameStop騒動の問題点について見てみましょう。

SNSと金融市場の結びつき

問題点のひとつは「SNSと金融市場の結びつき」です。

今回の騒動は「個人投資家の結託」が起点になって起こりました。その際に情報交換の場として使われたのがSNSの「Reddit(レディット)」です。

投稿型ネット掲示板のレディットでは様々な情報がやりとりされており、今回の一件はレディット内のフォーラム「r/WallStreetBets(ウォールストリート・ベッツ)」が中心になりました。

ここでは投資に関する情報交換が行われただけでなく、特定のヘッジファンドに損失を負わせるための「攻撃」が呼びかけられました。

アメリカでは証券会社やトレーダーらが結託して取引する行為はCollusion(共謀)と見なされ、法律違反になりますが、レディット上のやり取りがこれに該当するかは意見が分かれます。

レディットをはじめとするSNS上では、個人投資家を食い物にするヘッジファンドを敵視する声が多く、ヘッジファンドの過剰な空売りが相場を荒らしていると批判されています。この結果、ヘッジファンドを悪とみなす「歪んだ正義感」を持つ人が増えるようになりました。

SNS上で起きる一種のムーブメントが金融市場と結びつくことで、金融市場の信頼性失墜につながると問題視されています。

投資家保護に反した行為

今回の騒動で問題視されているもうひとつの点が「投資家保護に反した行為」です。


今回、多くの個人投資家がGameStopなどの株を購入するのに証券取引アプリ「ロビンフッド」を使用したとされています。同社は証券取引手数料が無料で、アメリカの20代から30代の若者1,300万人が利用している人気アプリです。

同社は株価の暴騰によって市場が荒れ始めた1月28日朝にGameStop株の新規売買を停止し、持ち高の処分だけに取引を制限しました。また、オプション取引に必要な証拠金の比率を上げる措置を取っています。

一方、翌日には市場の様子を見て制限を解除することを発表したため、GameStopの株価は時間外取引で40%も値上がりしました。同業者のインタラクティブ・ブローカーズやTDアメリトレードも同じような対応を取ったため、取引ができなくなった個人投資家の一部は損害を被った訳です。

個人投資家の取引が制限されるなか、ヘッジファンドは平時同様に取引ができたことから、個人投資家らは怒りを表しています。個人投資家の一部は集団訴訟やウォール街でのデモ実施を呼びかけており、証券会社がとった投資家保護から逸脱した行為は波紋を呼んでいます。

ちなみに、ロビンフッドは取引を制限した理由に「証券会社が清算機関に預ける預託金」を挙げています。取引が増えるほど預託金が膨み、資金繰りが間に合わなくなるため、個人投資家を制限した訳です。

SNSを通じて買い注文を扇動された個人投資家、予想を上回る預託金が発生して資金繰りがうまくいかなくなった証券会社、双方に原因があると言えるでしょう。アメリカ証券取引委員会(SEC)や上院銀行委員会は公聴会や調査を始めると公表しています。

野放しのSNS投資家

今回の騒動はSNSを活用した若者層の個人投資家である「SNS投資家」が主体になりました。大統領選で顕著に現れた「SNSの影響力」が金融市場に対しても発生したことになります。

金融取引の知識や経験が浅い若者層がSNS上にある情報に扇動されて、むやみやたらと投資をすることで今回のようなことが起きた訳です。

さらに、今回の騒動は新型コロナウイルス対策の一環として全国民に支給された$600(約62,000円)のStimulus Checkが配布された直後に起きています。つまり、多くの人が投資に回せる資金を手にした後、手軽な取引ツールを使って今回の騒動に参加した可能性が高いのです。

「実質的に規制がないSNS」と「無料で気軽に使える取引アプリ」が組み合わさったことで、個人投資家が参入しやすくなり今回の結果につながったと言えるでしょう。

浮かび上がった新たな問題点

今回のGameStop騒動はアメリカの社会問題も浮き彫りにしました。

問題点その1)SNSのあり方と影響力

今回の騒動はSNSが舞台になりました。SNS提供企業や投稿者に対しては、実質的に規制がないため今後もこのようなことが起きる可能性は否定できません。

先の大統領選では、SNSで陰謀論や不正選挙を訴えた人たちのアカウントが凍結されるなど、SNS企業による検閲によって情報が管理される風潮が目立つようになりました。

一方で、SNS企業による過度な検閲は憲法で保障されている「言論の自由」を奪うという批判的な声も多く、SNSのあり方は難しい対応を迫られています。SNSが直面する問題が大統領選に続いて金融市場でも表面化した訳です。

問題点その2)分断と差別

民主党のオカシオコルテス下院議員(31)がツイッター上で「(混乱時に)ヘッジファンドは取引できるが個人投資家は拒否される」と投稿し、金融市場でも分断や差別が起きていることを想起させました。

この投稿は、エスタブリッシュメントと個人投資家である庶民の間に生じる「格差批判」を含んでいると見られます。同議員は民主党左派の若手ホープとして人気があり、これまで富裕層に課税する政策を推進してきました。

現政権の民主党は差別解消や分断からの回復に注力していることから、SNS投資家らの後押しを受けてヘッジファンドや機関投資家の締め付けにつながる可能性もあります。バイデン政権がどこまで関与するかが焦点です。

まとめ

以上、「アメリカの社会問題に発展中『GameStop騒動』とは?」でした。

今回の騒動はアメリカが抱える様々な問題(SNS・格差・分断)を改めて認識する一件になりました。とくに、身近な問題であるSNSを巡る対応については、検閲や規制を強めると「社会主義」と批判されるため、民主党としては慎重な対応が求められます。


バイデン政権になって起きた今回の問題は、単なる株相場の乱高下では片付けられない様相を見せています。

参考資料サイト

SNS「Reddit(レディット)」
https://www.reddit.com/

SNS「Reddit」内のフォーラム「r/WallStreetBets(ウォールストリート・ベッツ)」
https://www.reddit.com/r/wallstreetbets/

本記事は、2021年2月5日時点調査または公開された情報です。
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