2022年5月テキサス州銃撃事件はいじめの仕返しだった?
今回テキサス州で起きた銃撃事件は、地元の高校生だったサルバドール・ラモス容疑者(18歳/死亡)によって起こされました。
容疑者は、事件を起こす前週(2022年5月16日)に18歳になったばかりで、誕生日を迎えてすぐの5月22日に半自動ライフル銃(AR-15)2丁と、弾薬を連邦政府公認の銃販売店から合法的に購入していたことが判明しています。また、小学校を襲撃する前には、自身の祖母を撃った後、SNS上で小学校を襲撃する旨を投稿しており、計画的な犯行だったと考えられています。
事件後、容疑者を知る人たちの話によると「容疑者は吃音でいじめを受けていた」や「家庭環境が良くなく、いじめられていた」さらには「周囲と喧嘩を繰り返していた(いじめに反発した結果)」と言われています。
アメリカ国内の報道では、事件の原因となった「いじめ」については報じられることは少なく、凶悪事件であることや銃規制の必要性、現地警察の誤った対応などばかりが報じられています。
事件から1週間経過してからは報道の量はほとんどなくなり、いじめ対策どころか銃規制の議論さえもなくなりました。
アメリカのいじめ事情
アメリカでもいじめは深刻な問題です。どの時代でもいじめは存在しており、今回のテキサス州銃撃事件も同級生からのいじめが原因とされています。
今回のケースは「吃音」をからかわれるものだったとされていますが、アメリカでは「露骨ないじめ」が多く、日本の「陰湿ないじめ」とは対照的と言えるでしょう。例えば、アメリカではグループによる暴言や暴力といった「目に見えるいじめ」が主流です。日本でのいじめは、無視や陰口などが多いですが、アメリカではあまり耳にしません。
昨今では、Cyberbullyingと呼ばれるインターネット上でのいじめが増加しています。具体的には、SNS上での誹謗中傷、噂や捏造の拡散などがあり、この点ではアメリカも日本も共通していると言えるでしょう。
アメリカでいじめの標的になりやすい子どもの傾向としては、年齢的に幼い小中学校においては、何かしらの障害を持っている子供やおとなしい性格、俗に言うオタク(Geek)などがターゲットになりやすいとされています。日本も近しいところがありますが、日本では目立つ人や個性が強い人も対象になりがちです。この点、アメリカで個性が強い人は人気者(英雄視)になりやすいため、対照的かもしれません。
高校生や大学生になるといじめは減少していく一方で、人種差別や差別的な言動が表面化します。筆者が暮らすアリゾナ州では、メキシコ系アメリカ人のヒスパニックが多く、ヒスパニック系は白人を避け、白人は黒人やヒスパニック系、アジア系を避ける雰囲気があります。
コロナ騒動が始まったばかりの2020年頃はアジア系の子どもや家族が暴言を受けたり、家にいたずらされることが至る所で起こりました。人種による差別やいじめはアメリカならではと言えるかもしれません。
ただし、アメリカでは大学生くらいになると「相手を称える」習慣のようなものが身につくらしく、過去にいじめられていた経験がある人でも「何かを貫いている人」は尊敬されるようになるのが特徴的です。
アメリカのいじめ対策や法律
アメリカのいじめ問題対策:スクールカウンセラー
アメリカでは、とくに小中学校でのいじめが深刻で、多くの学校では児童の相談役として250名の児童に対し1人の割合で「スクールカウンセラー(School Counselor)」が常駐しています。また、アメリカにはAmerican School Counselor Association (ASCA)という団体があり、子どもたちをいじめから守るためのプログラムも確立されています。
近年、いじめの主流になりつつあるインターネット上でのいじめ「Cyberbullying」においても、対策や研究をおこなっているCyberbullying Research Centerなどもあり、インターネット上のいじめの事例紹介や予防策、啓蒙活動、被害者救済支援などをしています。
アメリカのいじめ問題対策:法律の整備
いじめに関する法律も整備されています。アメリカでは全50州で「School Anti-bullying Legislation」があり、1999年にジョージア州で最初に施行されて以降、2015年までに全州がこの法律を採用しました。
ただし、その内容や罰則は州によって異なります。最も厳しい内容とされているのがニュージャージー州のもので、いじめが発覚した際の州政府への報告義務や、いじめの内容や対策に基づく学校の格付け、教員の報告義務(怠った場合は罰則)などがあります。
アメリカで最も早く同法を採用したジョージア州では、いじめを行なった学生を別の学校に移動させることを認めており、かなり厳しい措置が法的に保証されています。また、いじめの内容によっては、いじめた学生は犯罪歴がつく場合もあるほどです。
アメリカでは、いじめ撲滅を目的にした組織や法律が整備されている一方で、保護者からは「機能していない」や「教員の負担を増やしているだけ」といった冷ややかな声も聞こえます。それを証明するかのように、学校でのいじめはなくなっていません。
アメリカのいじめ問題対策:現場の負担がます問題発生
さらに、法律ばかりが先行し、肝心の予算が確保できず、現場の負担だけが増す問題も起きています。アメリカでは学校専属の警察やセキュリティを配置したり、カウンセラーを確保したり、いじめ対策にもお金が必要です。十分な予算が付かない法律なため、政府によるいじめ対策は政治的なパフォーマンスに過ぎないと指摘する声もあります。
アメリカのいじめ問題対策:生徒は契約者に署名
ちなみに、筆者が通う学校では各学期の授業が始まる前に「契約書」のようなものに署名させられます。その内容は、授業中のマナーや成績、宿題などに関することですが「差別的な言動をとらないこと」という項目があり、スクールポリシーとしていじめや差別を意識していることが分かります。(効果の有無は別問題)
訴訟が身近なアメリカだけあって、学校や組織としていじめ対策に注力しているものの、法律上の取組みと実態には隔たりがあると言わざるを得ません。
いじめ問題の次なる課題はネット空間
前出のインターネット上でのいじめについて調査・研究しているCyberbullying Research Centerによると、2007年以降の調査結果として、インターネット上で何かしらのいじめに遭ったことがあると回答した12-17歳は平均27.8%とあります。2019年には、これまでで最も高い36.5%を記録しており、約4割の学生がインターネット上でのいじめを経験していることが分かっています。
また、別の調査結果として若年層(9歳から12歳)においても、約15%がインターネット上でいじめを受けており、その内6%はそれを複数回にわたって受けているとあります。小学生の5人にひとりがインターネット上で何かしらのいじめを受けている計算です。
インターネットによるいじめの動向
アメリカでは小学校の低学年からスマートフォンを持つことは一般的で、早くからインターネットを使い始めます。(授業でスマートフォンを使うこともあるほど)インターネット先進国であるアメリカだけに、子どものインターネット利用に対するハードルが低いのも事実です。
教育現場から離れた場所のインターネットの世界でいじめをどのように防ぐか、さらには誰がそれを防ぐのか課題は山積しています。
まとめ
テキサス州で起きた痛ましい銃撃事件は、その原因とされる「いじめ」に焦点が合うことはなく、銃規制問題や警察の対応を批判する報道を最後に立ち消えになったと言わざるを得ません。
いじめをめぐっては、法律と現場の温度差をどのように埋めるのか、そして、増えているインターネット上でのいじめにどのように対処するのか注目しましょう。
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