アメリカでの報道の様子は?
アメリカの主要メディア(ABC、CBS、CNN、FOXなど)は事件から数時間内に速報として事件を伝えました。
多くのメディアは第一報で「shot」という単語を用いて銃撃されたことを伝えていましたが、時間を追うごとに「unconscious(意識不明)」や「cardiac arrest(心肺停止状態)」などの単語が使われるようになっていきます。
そして、安倍元首相の死亡が伝えられると、再び速報として「assassinated(暗殺された)」という見出しが目立つようになりました。他にも「dead」や「dies」など亡くなったことを伝える単語が並びました。
今回の事件を巡るアメリカの報道では、暗殺を意味する「assassinated」が用いられることが多かったことから、アメリカ人の関心を惹いたようです。また、ほとんどのメディアが襲撃現場の写真や動画などを繰り返し流していました。(映像の素材は日本と同じ)
安倍元首相が流血した状態で倒れている写真が最も衝撃的でしたが、リベラル派メディア(CNN)は無加工で報道していたのに対し、保守系メディア(FOXニュース)は一部分を加工して報道しているのが特徴的でした。
筆者が住むアリゾナ州のローカル局でさえもこの事件をトップニュースとして伝えていたことから、重大さがよく分かります。アメリカでは、ローカル局が主要メディアと同様のニュースを伝えることは珍しく、最近では中絶問題で同様のことが起きていました。
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日本の元首相が「暗殺」されたという影響は大きく、翌日には筆者の周辺でもこの事件に関する話題があがりました。一方で、今回の事件の原因や犯人の動機などについての続報は少なく、事件発生から2、3日で扱われなくなりました。
アメリカでの安倍元首相の評価は?
アメリカでは安倍元首相の功績について好意的な報道が多いようです。
とりわけ多く紹介されていたことは「日本で最も長く首相を務めた人物だった」ということでしょう。アメリカでは「日本のリーダーは頻繁に変わる」という認識が強く、アメリカ国民が名前を知る前に辞めてしまったということはよくあることです。(筆者周辺では安倍元首相を現役の首相と思っていた人が多かった)
しかし、安倍元首相は日本のリーダーとして長くアメリカと友好関係を築いた人物として定着しており、とくに、オバマ、トランプの両者とは仲が良かったと報じられていました。
また、安倍元首相はアメリカの与党(ブッシュ:共和党、オバマ:民主党、トランプ:共和党)が変わってもうまく対応したという評価もあります。この点についてバイデン大統領は「安倍元首相は日米同盟および友好関係のチャンピオンだった」と述べています。
一方、安倍元首相の特集記事を掲載したUSA TODAYは「日本経済再建や国際平和に貢献したが、ウルトラナショナリズムによって(戦争時の敵だった)韓国や中国を怒らせた」や「二極化させた」などとも紹介しています。
アメリカ歴代大統領の反応
安倍元首相が銃撃されて亡くなったことを受けて、アメリカ歴代大統領が相次いで声明を発表しました。また、多くのメディアもこれらの声明を紹介しています。
バイデン大統領の反応
副大統領時代に安倍元首相と交流があったバイデン大統領はホワイトハウス公式ウェブサイトに声明を掲載しています。
声明を要約すると「私の友人である安倍元首相が銃撃され死亡したことに対し、打ちひしがれ、深い悲しみに包まれている。彼を知るすべての人にとって悲劇だ。彼は銃撃されるその瞬間まで民主主義、日本のために貢献した。アメリカは日本と共にあり、彼の家族に深い哀悼の意を送る」とあります。
また、バイデン大統領は事件後に急遽日本を訪れたブリンケン国務長官を通じて、安倍元首相の家族に宛てて手紙を送り、自身はワシントンD.C.にある日本大使館公邸を献花のために訪れています。
さらに、バイデン大統領の指示として、7月10日の日没までアメリカ全土の政府機関(軍事施設や世界中にあるアメリカ大使館など)で半旗を掲げることになりました。
現職大統領がここまでの対応をすることが報じられた一方で、トランプ前大統領やオバマ元大統領らよりも反応が遅かったと指摘する声もあります。
トランプ元大統領の反応
トランプ元大統領は自身の公式ウェブサイト(https://www.donaldjtrump.com/news/news-fhjdv9seud2230)を通じて「世界にとって最悪のニュースだ。安倍元首相がいかに優れたリーダーだったかを知る人は少ないが、歴史が証明する。彼のような人物は二度と表れないだろう」と述べています。
日本国内でも報道されているように、トランプ元大統領は安倍元首相の葬儀に参列する可能性があると言われています。安倍元首相の国葬は2022年秋頃に予定されていますが、アメリカでは11月に中間選挙を控えているため、どうなるかは不透明です。
トランプ氏にとって安倍元首相は特別な存在(2015年の大統領選後、真っ先にお祝いに駆けつけたのが安倍元首相)ですが、アメリカではトランプ氏に関連するニュースが抑制されているため、ほとんど伝わってきません。(トランプ氏関連で唯一報道されているのは同氏にとってマイナス印象になる連邦議会議事堂襲撃事件の特別委員会の調査くらい)
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オバマ元大統領の反応
安倍元首相が首相を務めていた同時期(2009年-2017年)に大統領だったオバマ元大統領は、自身の公式ツイッター上で安倍元首相を追悼しています。
一連の投稿で「広島と真珠湾を一緒に訪れたことをずっと覚えているだろう」とも述べており、ふたりで両国の協力関係を築いたことも強調しました。Twitterの特性上、オバマ元大統領の反応は非常に迅速で、最も早く今回の事件に反応したと言われています。
ジョージ・W・ブッシュ元大統領の反応
第一次安倍政権時代に大統領だったジョージ・W・ブッシュ元大統領は自身の公式サイトで声明を発表しました。
この声明では「暗殺されたことに深い悲しみに包まれている」と述べたうえで「彼は思いやりがあり、日本のために貢献し続けたいと願う人物だということを知った」と、安倍元首相との関係を振り返っています。
日本の報道とアメリカの報道の違い
今回の銃撃事件について、日本とアメリカでは報道の傾向が異なります。
とくに大きく違う点として、アメリカでは「暗殺」と表現されていることがあります。アメリカでは1963年にジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されているため、この一件を彷彿させるような報道が多く見られました。対照的に日本では「民主主義への攻撃」や「思い込みによる銃撃」などと表現され、暗殺という言葉は用いられていません。
この結果、アメリカでは多くの人が「安倍元首相は政治的な背景が理由で暗殺された」と認識しているようです。アメリカでの報道を見ていると、原因や理由について詳しく伝えられる前に報道が沈静化したため、将来的にアメリカと日本の間で今回の事件について解釈の違いが生じるかもしれないと感じます。
今回の事件の犯人が「政治信条に対する恨みではない」と発言している点や「特定の宗教団体に恨みがあった」という核心的な部分がアメリカ国民に伝わる前にニュースの話題性が一段落したようです。
まとめ
アメリカでは安倍元首相の銃撃事件は衝撃的なニュースとして報道されました。アメリカでよく知られた人物ということもあり、その反響は大きかったようです。大半のメディアが安倍元首相の功績を讃える内容であったことから、アメリカでの評価は高かったと言えるでしょう。
アメリカ全土で一斉に報道されるほどの影響力を持った人物を暴力によって失ったことは残念で仕方ありません。一連の報道を受けて、安倍元首相はアメリカ国民にも記憶される人になるでしょう。
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