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在米日本人レポート

スリランカが破産した原因や理由、今後の影響をわかりやすく解説(2022年7月情報)

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目次

スリランカで何が起きた?

スリランカの首相が「国家の破産」を宣言し、世界中に動揺が生じました。この背景には国内政治の混乱があります。

現在、スリランカ国内では急激な物価高が起きており、2022年6月の消費者物価は前年同月比で54.6%上昇しています。また、深刻な原油不足により運輸コストは128%増、食料品は80%増を記録しています。ウィクラマシンハ首相は「2022年末までにインフレ率は60-70%に達する」と述べ、今後状況はさらに悪化すると見られています。(アメリカのインフレ率は8.6%)

とりわけ、混乱が続いているのがエネルギー関連です。スリランカ国内では1日に10時間以上も停電が続き、ガソリンを手に入れようと行列に並んでいた高齢者が命を落とす事故が起こりました。ガソリンが手に入らないため物流が停滞し、必要な医薬品さえも届かない状態が続いています。

このような混乱を招いた原因は大統領と首相にあると怒った国民が、国内各地で抗議デモを起こしました。死者5名、負傷者200名以上、逮捕者600名以上が出たものの、同年5月9日にマヒンダ・ラジャパクサ首相が辞任、7月14日には国外逃亡していたゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が辞任しています。

混乱の責任を取るかたちで首相と大統領が辞任しましたが、債務返済やエネルギー不足、高インフレ状態を解消できる見込みはなく、新首相によって「破産」が宣言された訳です。

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スリランカの破産はなぜ起きたのか?

なぜスリランカは破産することになったのか、押さえておきたい原因を3つにまとめました。

原因1:一族支配による国政が続いた

スリランカは2005年から「ラジャパクサ一族」が実質的な国政支配をおこなってきました。兄のマヒンダ・ラジャパクサと、弟のゴタバヤ・ラジャパクサが首相と大統領を務め、大臣や官僚も一族の息がかかった人物を配置しています。

兄のマヒンダは2005年に大統領に就任し、2015年の大統領選では敗北したものの、2019年には弟のゴタバヤ大統領によって首相に任命されました。(スリランカの首相は大統領が任命する)つまり、兄のマヒンダは2005年から大統領、大臣、首相とポジションを変えながら、国政を支配した訳です。(息子も政治家)

ラジャパクサ一族によって大統領と首相の座が支配された結果、国政がうまく機能せず、破産に至ったとされています。スリランカは民主主義を掲げているものの15年近く独裁的な政治が続き、腐敗していったのです。

原因2:中国の外交戦略「債務の罠」にはまった

2000年代、スリランカはインフラ整備を進めた一方で、対外債務を膨らませていました。(破産時には約500億ドル)


対外債務を作った相手国のひとつが中国です。スリランカは中国から14億ドルの資金を借り入れて、シンガポールのような金融港湾都市の開発を進めてきました。しかし、中国に対する返済が行き詰まり、借り入れ時の担保にしていた南アジア最大の港であるハンバントタ港を中国の国有企業に99年間引き渡すことになったのです。

この結果、スリランカは外貨調達の主軸を失い、破産につながったとされています。中国はインド洋周辺の政治不安を抱える国に対して積極的な貸し付けをおこなっており、スリランカもその対象のひとつでした。この外交戦略は「真珠の首飾り戦略」と言われています。

スリランカをはじめとするインド洋諸国に対し「中国への借り」を作ることで、中国の影響力を強めようとしていることから「債務の罠」とも言われ、破綻の原因は中国にあると指摘する人もいます。

一方で、中国に対する対外債務は全体の10%程度で、これは日本に対する債務と同程度のため、直接的な原因でないとする声もあります。

原因3:パンデミックによる外貨収入の激減

新型コロナウイルスの影響により、長期間にわたって主要産業の観光が打撃を受けたことも原因とされています。

とくに近年では中国の富裕層が観光できず、スリランカにとって貴重な外貨が手に入らなくなりました。同時に、腐敗状態にあった政府が救済措置を取ることなく、やり過ごしていたことも問題を大きくしました。

事実、5月にドバイの企業を通じてシベリア産原油9万トン分を購入したのを最後に、外貨が底をつき、破綻状態になっています。

スリランカとはどんな国?

スリランカはインド南部のインド洋に浮かぶ島国です。1815年から1948年まではイギリス領土でしたが、1948年に旧国名「セイロン」として独立、1972年にはスリランカ共和国、そして1978年に現在のスリランカ民主社会主義共和国になりました。人口は約2,216万人、首都はコロンボ、政治は共和制、国民の7割が仏教徒です。

スリランカは独立以降、民主主義を維持してきたものの、大統領に権限を集中させ、なおかつ一族による実質的な国政支配が続いていました。また、失策に失策が重なり、農業の収穫は減少し、対外債務は直近10年で4倍にまで膨れ上がっています。

とりわけ、2005年にマヒンダ・ラジャパクサ大統領(後の首相)が就任して以降は自給自足もままならず、借金だけが増え続けていき「いつ破綻してもおかしくない国」と言われていました。

スリランカと日本の関係

スリランカと日本は1952年から国交が続いています。両国には政治的な懸念もなく、1986年から2009年までは日本が同国に対する最大の援助国でした。(現在は中国が最大の援助国)

日本はスリランカに対して、有償資金協力で11,267億円、無償資金協力で2,206.58億円を援助してきました。経済以外にも、スポーツや文化交流も活発で、両国の関係性は良好と言えます。

スリランカとアメリカの関係

スリランカにとってアメリカは最大の輸出相手です。(年間30億ドル相当)主に衣類、ゴム、宝石、お茶、スパイスなどが含まれます。一方、アメリカにとってスリランカはインド洋全域の軍事拠点として重要ポイントになっています。

アメリカは特に海軍の拠点としてスリランカと海事協力を結んでおり、アメリカ海軍の寄港、スリランカ海軍との協力関係構築に力を入れています。この背景には、中国に対するけん制があり、アメリカにとってスリランカは中国に圧力をかけるための要所のような存在と言えるでしょう。

しかし、スリランカにとって中国は最大の援助国です。また、スリランカは中国からの輸入が最も多く(全体の23%)、関係を悪化させる訳にはいきません。スリランカとしては、アメリカよりも中国との関係を重視しているのが実情です。


アメリカとスリランカの関係性が変わりつつある出来事が2020年12月に起きています。アメリカはスリランカに対して4億8,000万ドルのインフラ支援を予定していましたが、これを撤回したのです。この背景には、スリランカが中国に偏りつつあることが関係していると見られています。

一方、2019年にはスリランカのシリセナ大統領(当時)が「(スリランカと)アメリカとの軍事協定はスリランカ国民への背信行為だ」と述べ、アメリカに対して非協力的な姿勢を見せました。スリランカは、シリセナ大統領時代の2015年から2019年にかけて大きく親中路線に傾いたと言えます。

スリランカ情勢、今後の展開は?

今後、スリランカはこれまで以上に親中路線に傾くと見られています。また、隣国であるインドとの関係が悪化する懸念があります。

破綻が宣言される直前の2022年5月30日、スリランカのウィクラマシンハ首相は「中国から数億ドルの融資提案があった」ことを明らかにしました。これまでスリランカは、経済破綻を免れるために国際通貨基金(IMF)や世界銀行に緊急支援を求めていましたが、交渉は難航していたところに、中国が救いの手を差し伸べたのです。

スリランカは2022年に入り、対中債務の35億ドル相当の債務再編(債権者に返済条件を緩和してもらうこと)を求めていましたが、中国側はこれを拒否。その代わりとして数億ドル相当の「人道支援」を提案してきたという訳です。

債務再編を巡っては冷酷な対応をとった中国ですが、人道支援では温和な対応をとったことに「揺さぶり」の狙いがあると見られています。スリランカは中国の支援を受け入れるしかないほどに追い込まれた状態であり、アメリカよりも中国を選ぶのは必然でしょう。

また、スリランカの隣国であるインドとの関係悪化も懸念されています。インドと中国は緊張関係にあるため、スリランカが中国を頼ることは、スリランカとインドの関係だけなく、インドと中国の関係も悪くしてしまう可能性があるのです。

インドは、スリランカで活動する中国を「インドの安全保障を巡る脅威」としているため、スリランカが中国と密接な関係になるほど、中国との関係が悪くなります。

スリランカは中国とインドの大国に板挟みにされており、その状況下で再建と外交を両立させなければならない大きな課題を抱えています。

まとめ

スリランカが破綻した元凶とも言える一族支配が終わったものの、同国が中国を頼らざるを得ない状態にあることは次なる問題です。アメリカでスリランカ情勢の報道がほとんどないのには「アメリカがスリランカを親中国と認めた」ことが背景にあるかもしれません。

今後、スリランカが再建するにあたり、どれほど中国と密接な関係になるのか、そしてスリランカと中国の関係に対してどれほどアメリカが介入するかどうかに注目しましょう。

本記事は、2022年7月19日時点調査または公開された情報です。
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公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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