アメリカの社会状況2022

【住んで気づいたアメリカ・アリゾナの体験レポート】立ち退きモラトリウムの終了で、一気に増えたホームレス(2022年8月情報)

2022年8月、経済活動が盛り返しつつあるアメリカでは、雇用が増えているにもかかわらず、都市部を中心にホームレスの数が莫大に増えています。

インフレやコロナ禍でのストレスなど理由は色々と考えられますが、今回はホームレス増加の原因の一つとして挙げられている、立ち退きモラトリアムが終了したことについてお話しします。


アメリカ・アリゾナ、2022年8月、立ち退きモラトリウムの終了で、一気に増えたホームレス

連邦政府の立ち退きモラトリアムは、バイデン政権におけるコロナ救済パッケージの一つで、コロナウィルスによって収入源を失い家賃が払えなくなった人々に対して、家主が立退命令を出すことを一時的に禁止するものでした。

全米の賃借住宅に住む約5分の1が、コロナが理由で家賃を滞納していると推定されています。そんな数百万世帯もの(主に有色人種)家族が、モラトリアムのおかげで住むところを失わず、安全に暮らしていけました。しかし経済活動の正常化が進んだ今、連邦最高裁判所は立ち退きのモラトリアムを解除し、家賃を滞納している何百万人もの人々の保護を終了させてしまいました。

立ち退きラボ」によると、アリゾナ州フェニックスでは、立ち退きモラトリウムを2020年の3月下旬に実施しました。しかしこの政策は、家賃滞納者の立ち退きを停止しただけで、新たな裁判所への申し立ては受理されていました。そのため2021年8月のモラトリウムの終了後、強制立ち退き執行率はぐんぐん上昇して、今では週に2000件近くの立ち退き申し立てが執行されています。

2022年の夏、アメリカでは史上最高のインフレに見舞われていて、生活に関わるほとんど全てのものが急激に値上がりしています。

しかし生活費の値上がりに見合うほど、収入は増えていないのが実状です。アメリカの立ち退き執行はとてもシビアで、1度でも家賃が規定の期日通りに支払われなければ、立ち退きの対象になります。

立ち退きの執行には、裁判所から警察官が派遣され、警察官の到着から約10分で、立ち退きを完了させなければなりません。立ち退きモラトリアム終了後のいま、今まで請求できなかった分も上乗せした、強気な賃上げを請求して来るオーナーも少なくありません。そのため家賃を払いたくても払えきれなくなり、立ち退きにあい、路上生活を強いられてしまう人達が後を絶たない状態になっています。

日本と違うアメリカの家賃の値上げ方法

アメリカの家賃は、家の市場価値を元にして決められています。

月額家賃は住宅価格の0.8%から1.1%くらいの間が目安にされているので、例えば市場価値が25万ドルの家を借りる場合、家賃は月額$2000〜2750くらい請求されるだろうと予想できます。

このようにアメリカでは家の市場価格が家賃の設定金額と同期しているため、コロナの影響による不動産価格の高騰に伴い、更新後の家賃が以前の1.5倍から2倍近くになるなど、家賃の値上がりも大変なことになっています。

引っ越しでは家賃の値上げ回避にならない

2021年には、フェニックス周辺の賃貸住宅に住んでいる人達の家賃が、平均で約30%上昇しました。これは全米1の値上がり率で、2022年にはそこからさらに20%上昇するとも予測されています。

もしコロナ前なら、更新後に家賃が30%値上がりすると連絡が来た時点で、より安い物件を探して、引っ越すことを考えたはずです。


しかし今は不動産価格の高騰で、たとえ都市部から離れたとしても、家賃は都市部とさほど変わりません。それどころか他州から移住してくる人達との空室の争奪戦も激化していて、どんなに都市部から離れた所でも、新しい住居が見つからない可能性も大いにあります。

フェニックスの空室率は、現在通常の半分の約6%と、とても低い状態になっていて、どんなに高い料金でも、空室はあっという間に埋まってしまいます。ある知人の話では、月$1500(約20万円)で借りていたアパートの家賃が、更新後に$1700(約25万円)になると連絡が来たので、更新しない旨を家主に連絡を入れた直後、家主はさらに値上げした$2200(約33万円)で入居者を募集したそうです。

知人は前の家賃と同じ、$1500くらいの転居先を探しましたが、$2000(約30万円)の所しか見つからず、家主にやはり更新手続きをして欲しいと連絡しました。しかし時すでに遅く、募集15分後には$2200の家賃で、新しい貸主の入居が決まっていたそうです。そのため友人は止むを得ず、家賃$2000の所に引っ越しました。

なんでも交渉可能なアメリカ。まずは家主と家賃交渉を

それでは、アメリカで、この家賃の値上げ通達が来たらどうしたらいいのでしょうか。

払いきれない家賃の値上げを受け入れても、支払いが一度でも滞れば、立ち退き要求をされ、次に住むところがすぐ見つからなければ、ホームレスになる危険があります。そこで一番の得策は、新しい部屋を探す前に、まず大家さんと家賃の交渉をしてみることです。

多くのアメリカ人は、家の中で靴を脱ぐ習慣がありません。またアパート暮らしでも、家の中でペットを複数匹飼う人が多いので、床はすごく汚れます。そのためほとんど毎回、新しい入居者が入る際に、家主がカーペットや壁紙を新しくしてくれるのが普通です。

借り手の中にはモラトリウムを濫用し、パンデミック救済の補助金を貰っていても、家賃を滞納してテレビや新車を購入したり、失業中で悲嘆にくれている人やウイルスに怯えて家から出られなくなった人が精神的に病んで、掃除をしない部屋でペットの糞尿で床を腐らせてしまったり、部屋の壁やドアを修復不可能なくらい、家を傷つけてしまう場合もあります。

オーナー側も立ち退きモラトリアムで収入源を絶たれ、住宅ローンや税金、保険料の支払いに苦慮しています。オーナーの中には、家賃収入で老後の生活資金を賄っている人達も多く、支払いのために、せっかくの持ち家を手放すハメになった人もいました。

そのため家を貸す側からしても、多少収入が減ったとしても、毎月家賃を払ってくれて、きれいに住んでくれる人の家賃交渉に応じる方が断然いいのです。

まとめ

2022年、アメリカ。

コロナ救済のため、政府が家主に立退命令を出すことを一時的に禁止した、立ち退きモラトリアムは、ロックダウン中のアメリカで数百万世帯もの家族に安全な住居を無料で提供しました。

しかし救済のための助成金が、今となっては貸す側と借りる側、両方の人々の生活を圧迫する結果となってしまったようです。

参考資料サイト

立ち退きラボ

本記事は、2022年9月21日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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