ロシア天然ガスパイプライン停止が及ぼすエネルギー危機(2022年10月情報)

イギリス在住の日本人による、イギリスや日本に関する記事レポートです。今回は「ロシア天然ガスパイプライン停止が及ぼすエネルギー危機」についてまとめました。


はじめに

イギリスを含めヨーロッパ諸国は、ロシアから、ノード・ストリームと名づけられている海底パイプラインを通じて、天然ガスを輸入していました。

2022年2月24日にロシア・ウクライナ戦争が始まって以来、ロシアは常に主な供給先であるヨーロッパ諸国にエネルギー供給の停止をちらつかせてきましたが、2022年8月下旬設備整備の名目でパイプラインの停止を実行に移しました。

これから冬を迎えるヨーロッパ諸国では天然ガスの不足はヨーロッパ諸国の経済および国民生活にとても重くのしかかります。

これまでのイギリスのエネルギー源推移

イギリスのエネルギー自給率は2020年の時点では72%です。2018年〜2019年の64%、65%から大きな上昇となっていますが、この原因はコロナ禍において経済成長が伸び悩んだことが原因とされています。

イギリスの主要エネルギー源

単位:100万トン

1990 2000 2010 2018 2019 2020
石油 100.1 138.3 69.0 56.0 57.4 53.6
天然ガス* 45.5 45.5 55.3 38.8 37.4 37.7
石炭 56.4 19.6 11.4 1.9 1.8 1.2
電力(原子力発電を含む) 16.7 20.2 15.1 20.5 19.2 18.9
バイオ&廃棄エネルギー 0.7 2.3 5.8 12.0 12.3 12.7

*天然ガスの供給国2021

1 カタール 38%
2 アメリカ 26%
3 ロシア 21%
4 ペルー 5.7%
5 アルジェリア 5%
6 トリニダード&タバゴ 1%
7 フランス 0.6.7%
8 ベルギー 0.6.1%
9 ナイジェリア 0.55%

イギリスは天然ガスの21%をロシアに依存してきたため、その代替エネルギーを確保することは容易なことではありません。

EUの脱ロシア依存

ロシアはウクライナ侵攻以来、ヨーロッパ向け天然ガスの輸出量を88%削減しています。また、供給量減少にともない、価格も去年の同時期と比較した場合2倍以上に膨れあがりました。

ロシアのこのような制裁に対して、EU各国は共同で以下の内容に合意したことを発表しました。

  • EU諸国は今後天然ガスの使用量を15%削減する。
  • ドイツでは冬季、公共機関の建物内の照明および暖房の制限を実施する。室内の温度は21度以上上げてはいけないなど。

ロシアのウクライナ侵攻以前は、ドイツは55%の天然ガスをロシアに依存していました。そのため、現在ドイツは海外依存を35%まで抑え込み、今後は輸入「0」を目標としています。

現在の代替エネルギーとして、石炭の使用増加を決定。脱原子力発電を発表したものの、当面既存の原子力発電を継続稼働することも決めています。


このようなロシアの制裁に対して、ドイツ国民も一斉に天然ガスの不足に備えて、薪ストーブを購入したり、ソーラパネルを取り付けたりする人が増加しています。

そして、スペイン、およびスイスもドイツと同様の制限を検討中のようです。

イギリスの原子力発電所増設計画

2022年3月21日、英国前首相のボリス・ジョンソン氏が在任中に、原子力発電所の新規増設契約を発表しました。ヨーロッパ諸国がロシアの天然ガスおよび石油依存から脱却するべきだとし、その代替エネルギー供給源として原子力発電所の必要性を提言したのです。

原子力発電所で発電されるエネルギーこそが、もっともクリーン、安全かつ信頼性のおけるエネルギー源であるとし、毎年1基ずつ増設すべきだとも付け加えていました。

脱原子力発電が叫ばれている昨今、ロシアのウクライナ侵攻により天然ガスの供給が危険にさらされてきたことで、原子力発電に対する人々の考え方も変わりつつあるようです。

イギリスの原子力発電所の現状

稼働原子力発電所:5箇所/9基
建設予定:1基

2022年発電総量5.9GWe イギリスの総エネルギーの16%程度を供給

イギリス・ドイツ間初のエネルギーケーブルの敷設

2022年10月4日、イギリス、ドイツ間を結ぶ725キロの海底ケーブルが敷設されることが発表されました。

これにより、イギリスからドイツにエネルギー供給ができることになります。

脱原子力を明言しているドイツがイギリスの原子力発電の恩恵をうけることで、脱ロシアエネルギーを画策していると言えるでしょう。この敷設事業には日本の関西電力も協力しています。

日本のエネルギー源の割合の推移

日本はエネルギー源の9割を海外からの供給に依存しています。

その中でも対ロシア輸入量は、2020.年度、天然ガス8.4%、2021年原油3.6%と、占有率からみた場合それほど高くはありません。しかし、ロシアの輸出減にともない、天然ガスの主な輸入国であるオーストラリアも輸出制限をかけはじめました。日本も今季はエネルギー不足による価格上昇などの問題を回避することは出来そうにありません。

日本のエネルギー源 2019年

1 石油 37.1%
2 石炭 25.3%
3 天然ガス 22.4%
4 原子力 2.8%
5 水力 3.5%
6 再エネ等

(地熱、風力、太陽光等)

8.8%

日本は84.8%のエネルギーを化石燃料に依存しています。化石燃料は海外からの供給で賄っているため、エネルギー供給は海外情勢に振り回されてしまうという問題点があります。今回のロシアのウクライナ侵攻により日本もエネルギー確保および節約に早急に着手する必要がありそうです。

まとめ

今回のロシア、ウクライナ侵攻に伴い引き起こされた、エネルギー不足によって、ヨーロッパで広まりかけていた脱原発の動きが一気に鎮静されてしまったように感じます。


2022年7月に前英国首相のボリス・ジョンソン氏の原子力発電所の増設計画ですが、今では工事期間が長すぎるのは発注先であるフランス企業の選定ミスではないかと議論される程、原子力発電への関心が一気に高まったように思われます。

参考資料サイト

LNG imports to the UK by country 2021 | Statista

エネルギー資源の現状 – 日本のエネルギー事情(エネルギーと原子力)|中部電力 (chuden.co.jp)

Nord Stream 1: How Russia is cutting gas 》supplies to Europe – BBC News

Cable production starts on first-ever UK-German energy link | 4C Offshore News

Boris Johnson: UK will build one new nuclear plant a year (cnbc.com)

ロシア産石油の禁輸でどうなる 日本への影響は?ロシアにはどれくらい圧力に?|サクサク経済Q&A|NHK

》オーストラリア LNG輸出規制を検討 最大輸出先の日本に影響は | NHK
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220828/k10013791431000.html)

1-2-4.pdf (ene100.jp)

安定供給 | 日本のエネルギー 2021年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 |広報パンフレット|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

The UK’s nuclear history – GOV.UK (www.gov.uk)

本記事は、2022年10月11日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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