アメリカの社会状況2023

アメリカの連邦最低賃金15ドルの将来その2(2023年2月情報)

アメリカの連邦最低賃金一律15ドルへの引き上げは、雇用主側への影響も大変厳しくなることが予想されます。そこで今回は、コスト上昇を切り抜けるために雇用主が今後取ると考えられる対策を2つ解説していきたいと思います。


はじめに

2022年10月、アメリカでは、2024年までに現在の合衆国連邦最低賃金を一律15ドルに引き上げることを目指しています。

今回はこの賃金引上げに対して、雇用主が取るであろう対策を解説します。

前回の記事はこちらから参照ください。

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対策その1:自動化による人件費削減

アメリカ国内の最低賃金一律値上げは、2024年に完了する予定です。前回賃上げに除外されたチップ収入のあるウェートレスやサーバーなども今回は含まれる予定なので、個人経営の飲食店や時間給で働く社員を多く雇っているコンビニなど、サービス業を中心とした中小・零細企業には特に大打撃になるはずです。

もちろん会社の大きさや業種にかかわらず、どんな企業にも最低賃金値上がりの影響はあります。しかし大手雇用主にとって賃金上昇までのこの期間は、より生産性を向上させていくための作業の自動化をはかる時間的猶予と考えることもできます。

実際にアメリカの大手スーパーでは、コロナ以前には見かけることが少なかったセルフレジ導入を拡大し、従来型レジの稼働数を確実に減らしています。マクドナルドなどファーストフード店では、タッチパネルやQRコードを使ったキャッシュレスオーダーが主流になってきていて、注文から支払いまで人の手を介さず済ますことができます。またアマゾンやウォルマートは、以前から倉庫用のロボット開発に多額の資金を投入し、自社物流倉庫に高度AIを搭載したロボットを多数導入しています。

対策その2:熟練労働者への転換

特にアマゾン倉庫には以前からタイヤ付きロボットの「バート」やロボットアームの「アーニー」などロボットを積極的に導入し、物流業務の自動化に力を入れています。しかしいくらロボットによって自動化が進んでも、倉庫内ではまだまだ人間の器用さや知性を必要とする作業が多く、パンデミックに伴うネット通販の注文急増に対応するため、倉庫作業員の大規模求人を2020年から繰り返し行なっています。


現在も募集は続いていて、2023年1月現在のオンライン求人サイトによると、フェニックスのアマゾン倉庫作業員の時給は$16.65(約2165円)でアリゾナ州の最低賃金の$12.40を大幅に上回ります。もし深夜から早朝に勤務した場合は、時給がさらに3ドル加算され1時間$19.65、日本円にして時給2500円支払われます。時間給以外にも2021年5月から入社ボーナスとして、新規採用者に一時金$1000ドル提供を開始し、繁忙期には何と契約一時金が3000ドル(39万円)だったこともあったそうです。

》参考URL:Jobs2Careers

アマゾンは週休3日制を導入しているので、週4日フルタイムで働けば、健康保険や有給休暇、大学の学位を取得できる教育資金援助プログラムへの参加や、企業年金などにも加入できます。しかしこんなに好条件で採用されても、厳しい肉体労働が要求される倉庫での作業、特に「ピッカー」の離職率は非常に高く、わずか数日から数週間で入社した大半の人が退職してしまうそうです。

アマゾン倉庫の退職者のほとんどは、仕事を辞める理由に肉体的に辛いことを挙げます。でも本当の理由は、勤務中に何かを食べながらスマホを操作したりプライベートの電話をするなど、「ながら仕事」が許容されているアメリカで、仕事場にスマホも持ち込めず作業中は私語も制限され、各作業員の生産性と適時性を常に厳しく監視される仕事環境にうんざりして辞めてしまう人が大半なのではと思います。

今は求人に応募したほとんどの人が即日採用され、未経験でも簡単に就職できてしまうアマゾン倉庫作業員の仕事ですが、そういつまでも続かないかもしれません。例えば2022年6月に発表された、完全自立走行型ロボット「プロテウス」や、同年11月に公開されたA Iコンピュータービジョンを搭載した商品仕分けをするロボットアーム「スパロー」の倉庫導入が成功すれば、会社は今までコロナ禍で増やしすぎた人員を調整し、大規模なコスト削減を進める可能性もあります。

》参考URL:Amazon Looks to Sparrow to Carry its Robotics Ambitions

AIはロボットを今後さらに有能で知的なものにしていくはずです。近い将来、人間の助けを借りず臨機応変に対応するロボットが開発されれば、ロボットを操作・管理できる技術を持った熟練労働者だけが作業員として職場に残り、未経験者の募集人数は大幅に削減されると思われます。

まとめ

これから先、企業規模の大小にかかわらずコスト削減の一環として、ロボットを事業に導入する会社がどんどん増えてくるはずです。そうなった時、コンピューター操作ができない人には、雇用のチャンスすら与えられない時代がくるかも知れません。

参考資料サイト

https://wired.jp/2021/12/09/amazon-warehouse-robots-worker-shortage/

https://www.wsj.com/articles/amazon-looks-to-sparrow-to-carry-its-robotics-ambitions-11668797969

本記事は、2023年3月5日時点調査または公開された情報です。
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