【市民の窓口】公務員として市民(県民)に対するわかりやすい説明の仕方

公務員としての業務で、市民に接する機会があるのはおもに窓口業務です。しかしその他にも、市民からの電話問い合わせや、各種の要望、苦情などがあり、自治体が説明責任を果たす機会は往々にしてあります。今回は、最近の市民からの苦情、要望の傾向や、その際どのように説明するべきかについて解説します。


市民からの苦情、要望への対応

市役所にはどんな苦情が寄せられるの?

全国の地方自治体では、多いところでは人口が100~300万人の都市も多く存在します。それだけの市民がいるなか、苦情内容も様々です。

ですが、内容によっておおまかに次の3つに分けられるでしょう。

1.明らかに職員の対応が悪かったもの、または説明不足であったもの
2.先方が法律や市政のしくみを理解していないために起こる誤解
3.個人的な無理難題を怒りにまかせてぶつける場合

それではこれらをもう少し詳しく見ていきましょう。

明らかに職員の対応が悪かったもの、または説明不足であったもの

世間の公務員のイメージは、ある時代の公務員のイメージ?

これについては、まずよく言われる、ステレオタイプの公務員への世間の認識について見ていきましょう。

かなり昔のことになりますが、昭和40~50年代に大量採用された公務員には、「親方日の丸」と揶揄されるように、確かに「競争がないため傲慢な態度である」と言われても仕方のない勤務態度の者がいたことは否定できません。

誤解を恐れずに言えば、この時代に採用された一部の公務員の態度が、現在までイメージとして定着していること、そしてそのイメージのせいで現在世代交代をしている若い世代の公務員が、そのマイナスイメージの払しょくのため苦労しているという側面もあるのです。

現在では、公務員で競争がないから士気が低下しているなどということはありえなく、若い公務員は皆、仕事の速さ、適格さ、接遇態度、ともにとても優秀です。

民間大手企業との人事交流などで、一定期間大手企業に赴任する職員もいますが、企業からは「社員より優秀で、当社に欲しいくらいだ。」と冗談まじりの高評価をもらっているようなケースもあります。

市民は結論のみを知りたいのではない

しかし、中にはやはり窓口業務などで、市民に「無理です。」「これはできません。」などと、「結果」のみを伝えて説明が不十分であったために市民から苦情が寄せられるケースも少数ですがあります。これは明らかに、職員の「説明不足」です。

同じ「できません」でも、丁寧に「なぜできないか」を市民に説明するのと、結論のみを告げるのとではその印象は大きく違います。


この「公務としてそれはできません」という理由には、法律が関係しているものが多くあります。次にそれを見ていきましょう。

先方が、法律や市政のしくみを理解していないために起こる誤解

自信を持って説明するには、法律の知識が必須

公務員の仕事は当然のことながら独自の判断で行えるものが限られており、すべて厳格な「法律」に基づいて行われています。法律上の縛りがあるものは多岐にわたります。

市民から、「なぜこれをやってくれないの?」「いちいちこんな面倒な手続きを踏まなくてもいいのでは?」という苦情がきても、「法律上無理」な場合、どうすれば良いのでしょうか?

よく「民間企業ならさっさとしてくれる」と訴える市民がいますが、そもそも役所は「お金儲け」が目的の民間企業とはまったく別ものです。実は民間企業のように客の要望を否定せずに済むほうがはるかに楽なのです。

個人の裁量権が働かない「公務」で「できません。」ということを理解してもらえるよう説明するのはとても難しいことなのです。

まず、どうせできないからと結論だけ告げて突っぱねるのは論外で、あってはならないことです。また昔の公務員のイメージに代表されるように「相手の理解力がないせいだ」と言わんばかりに説明責任を果たさないのも論外です。

その上で、職員はまず、あらゆる関係法令を熟知していることは大前提で、それを市民にわかりやすく「噛み砕いて」説明できる能力が必要です。

できれば具体的に、「〇〇法の第何条で、こう明記されており」とまず根拠法令を示して、次にその法律の内容を「わかりやすい言葉」になおして、例示などもあげながら説明するよう心掛ける必要があります。

またその際に重要なことは、「公務員としては当然常識である知識」でも市民からすればまったく知らないことを、市民目線の前提に置き換えて話すことです。

つまり市民が「知らない」ことを、「知らなくて当然ですよね。」という謙虚な態度で説明に当たることです。たとえそれが日常生活の常識的なことであっても、です。

これはどの業種にでも言えることですが、「そんなことも知らないの!?」という態度をされると、人は怒りを覚え、相手に不信感を持ってしまうものです。

法律の次にもうひとつ、先方が市政のしくみについて理解していない場合についても解説します。

自治体の財布は無限ではない?

実は自分の住む都市の市政、つまり突き詰めれば「財政のしくみ」、「財政状況」について想像がおよばないために自治体に苦情を言うケースが意外と多いのです。ここではいくつか実際の事例をあげてみましょう。

市民の苦情その1 医療費の助成証について

市が行う、ある特定の病名(疾患)について医療費を助成する事業があるとします。この事業の内容は、病院で、ある病名と診断されれば、今後はその医療費のうち一部が助成されるというもので、病院の窓口に「助成証」を見せることで医療費は一部免除になります。たとえば医療費が1,500円かかったとしても、自分の負担する額は500円で済みます。

これに対してこんな苦情が文書で寄せられました。


私は職業がシステムエンジニアで、いまこの医療費の助成を受けている。職業柄システム開発には精通しており、だからこそ言いたいのだが、役所から毎回新しい助成証が送られてくるのが遅く、そのため病院に行くとき助成証が手元に無いこともあり、窓口で助成無しの金額で一度立て替え払いをしなければいけない時が発生する。最新のシステムを導入すれば助成証など簡単に発行できるはすで、これは明らかに役所の怠慢なのでは?医療費が助成される自分の権利が侵害されている。即座にシステムを変更して効率化するように。

一見もっともな意見です。が、それではこれに対する自治体側の事情を見てみましょう。事情というのは「言い訳」とは違います。毅然として伝えなければいけない「事実」の部分です。

苦情その1で市民に伝えなければならないこと

実はそもそも、この特定の病名にのみ医療費の助成がおりる事業は、自治体が単独で行うことを決定したものであり、当然のことながら助成するには「お金」が要ります。

ということはそのお金は「市民の税金」から捻出することになります。他にも必要な助成や市民へのサービスが数多くある中、この事業の「予算」を取ってくるだけでも大変です。

議会を説得し、また他の事業のサービスとの兼ね合いも、財源の枠が決まっている中から市民に納得してもらって配分を決めないといけないわけです。要は財布の上限が決まっているのにそこに割り込むわけです。

そんな中、やっと勝ち取った予算は、当然高額ではありません。それでもその予算を医療費の助成費用に可能な限りまわすということは、そのための事務作業代を節約しないといけないということです。

そんな中、システムで処理できる部分はできるだけ安く入札業者に委託し、安いがゆえに一部やむなく職員の人海戦術で行う部分もでてきます。

また、医療費を助成するには定期的に医師による「審査会」なども実施するので、その審査が終わってからでないとそもそもシステムに入力できません。かと言って税金を使っている以上、審査なしで簡単にスルーなどはありえません。

そして審査会もただではありません。当然医師に報酬を支払わなければなりません。それももちろん税金からです。

助成が決定した人には、たとえ手続きが前後して一時的に立て替え払いが生じたとしても、後日その分を受けとることができますし、つまりこの事業では、すでに限られた財源の中で、最大限に効率と市民の負担金についての采配を行っているわけです。

さらにこの助成は「権利」ではなく、根気よく審議して予算要求した結果できた制度なのです。財政状況によっては、いつ廃止されるかわかりません。

このことを、事実は事実として伝えなければなりません。この伝え方については、市民の知識の度合いにもよりますが、できればしっかりとこの財源の仕組みから説明するほうが、市民も納得してくれることが多くなります。

もうひとつ、似たような事例を見てみましょう。

市民の苦情その2.健康保険料のカード払いについて

こんな苦情が市民から寄せられました。

私はガス代などの光熱費もクレジットカードで払っているし、今は何でもカード払いの時代だ。なのに国民健康保険料はいまだに役所の窓口で現金払いか振り込み用紙で銀行払いだ。さっさとクレジットカード払いにしてほしい。これは役所のサービスの怠慢だ。

苦情その2で市民に伝えなければならないこと

この苦情も一見もっともなのですが、それでは健康保険料はなぜカード払いにできないのでしょう。なぜあえてしていないのか、と言う方がいいかもしれません。

理由は単純です。国民健康保険料は高額なやり取りになるので、カード払いだと手数料が高くなるからです。手数料は税金です。財源が厳しいなかこれ以上どこからも出せません。

その代わり振り込み用紙を発行して、コンビニ払いも可能にするなど、財源問題をクリアできた最善策はすでに行っています。

多くの自治体は「市民の要望」をすべて公開制にしている

以上のように、財源に上限があるがゆえに、その限られた財源の中でやりくりするのは大変なことです。


この、限られた財源のやりくりを、民間のサービスと混同した苦情も少なくないのが実情です。しかし現在の公務員事情として、無駄に効率化を阻んだり、システム化を怠っているなどということは皆無です。

民間の「儲け」にあたるものは役所には実質ありません。限られた予算の範囲内でなんとか配分を決めサービスを行っています。

財政の「出資者」はいわば「市民」です。その市民から預かった出資金を財布に入れ、その中でやりくりするのが市政です。

市の財布の内訳には、「使い道の決められている国からのお金」や「地方交付税」「借金(公債)」もあるとはいえ、それ以外はほぼ市民からの税金です。この納めてくれる税金が少ないと、当然財政も厳しくなります。言い方は悪いですが、富裕層で納税額の多い市民ばかりの都市だと、当然財政も潤います。

しかし市民からの納税が少額だと、当然使えるお金もありません。つまりその少額の出資金を、一時預かりし、堅実にどう使うかを決め、できる限り市民に平等に使えるようにし、なおかつ役所の役目である生活困窮者やその他福祉的な弱者のセーフティネットの役目も果たさなければならず、この条件をすべてクリアしなければならないわけです。

それを市民に説明するためには、できればリアルな財政状況を随時説明し、情報を開示していくことが一番です。勝手にお役所の閉鎖的な空間で行われることが何より一番市民からの不信感を招くからです。

ですから最近の多くの自治体は、財政の状況、使い道などをできる限りホームページなどで公開しています。

また先述した市民からの個別の苦情、要望などもすべて開示し、それに対する自治体の回答も、随時公開しているところが増えています。やはり、市民にも情報を共有してもらうということが大切なのです。

個人的な無理難題を、怒りにまかせてぶつける場合

3点目の苦情は、自身の保険料や納税額について不満があり、市役所に怒鳴り込んでくるケースなどです。

これはどの自治体でも一定数ありますが、なぜ国民健康保険料がこんなに高いのか、払う気はない、どうしてもというなら家に来て家財道具を勝手に持って行け、などと怒鳴り込んでくるケースです。

また特に市民税については、昨年まで働いていた場合、今年退職したとしても前年の所得額に対して課税されるので、現在無職でも支払い通知書が来るため怒鳴り込んでくるケースも多くみられます。

このようなケースには、まず怒りを鎮めてもらうことが先決です。その怒り自体を職員が真っ向から否定してしまうと、市民には不信感しかなく、こちらの話を聞いてもらえません。

生活が苦しい中、市民の怒りは条件反射的なもので正直であるので、それを否定してはいけません。また途中で話をさえぎるなどの行為は、もっともやってはいけないことです。

すべて吐き出してもらったその後、少し落ち着いたタイミングで誠心誠意、納付金について説明していきます。

以上のように、市民に納得してもらえる市政の説明の仕方として、まず上限のある財政面などのハード面については、とにかく現状を根気よく説明し、理解してもらうことです。

市民は決して市役所を高評価して自発的に訪れているわけではありません。手続き上やむを得ず来ているのです。

そのことを常に意識し、ソフト面での職員の接遇、サービス精神についてはこれからもさらに研鑽し、また万一苦情や要望があった場合は自治体全体でその事例を即座に共有することが大切です。常にそれを業務改善の機会ととらえて、今後に生かしていきましょう。

本記事は、2017年10月3日時点調査または公開された情報です。
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