はじめに
「地方自治法」を含む「法律」というものは、公務員の全ての仕事の元になるものですが、法学部出身者やその他一部の人以外は、仕事をしながら新たに多くの法律を覚えるということは苦痛でしかないでしょう。
ですが公務員になり、普段は市民対応や電話対応に追われ、根拠となる法律や専門用語についてよく理解していないまま仕事をすることもまた、日々の業務に自信が持てずに苦痛となるでしょう。
地方自治法は新人公務員に必要なだけではなく、昇給試験や昇任試験にも必ず出ますので、普段から見ておいて損はありません。
ですから少しずつ、範囲を絞って地方自治のしくみについて知識を積み重ねていくことはおすすめです。またその際、地方自治法第〇〇条に書かれているということは特に覚える必要はなく、それよりも「内容」について理解しておきましょう。
地方自治法って?
何を定めている法律?
地方自治法は、昭和22年に制定された法律で、最近までに数回改正されています。地方自治法とは何かが、第1条に書かれているので、まずその条文を読んでみましょう。
第1条 この法律は、地方自治の本旨に基づいて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。
ここに書かれているとおり、地方公共団体の「組織」と「運営」のルールについて定められているのが地方自治法です。
つまり、公務員として仕事をする上で、自分たちの組織がどういうしくみになっていて、どのようなルールで仕事をするのかが詳細に書かれている法律です。
ちなみに、私たちには「自治体」「地方自治体」という言い方のほうがなじみがありますが、法律的な用語としては、「地方公共団体」と表現します。
ざっくり見ておこう地方自治法の条文構成
地方自治法はトータルで290条以上あり、読んでいるだけで疲れてくるかもしれませんが、大きく分けて4編から成っています。
第1編 【総則】第1条~4条
第2編 【普通地方公共団体】第5条~263条
第3編 【特別地方公共団体】(第264条~280条までは削除されて抜け番です)
第281条~297条
第4編 【補則】第298条~299条
昇給・昇任試験によく出るところってあるの?
すばり、試験に特によく出るのは第1編の【総則】と、第2編の【普通地方公共団体】です。また第3編の【特別地方公共団体】の中の「広域連合」というワードについてもよく出ています。
第2編の普通地方公共団体のところは、さらにテーマ別に第1章から第14章まであり、条文も多いので、今後少しずつ解説していきます。
今回は、内容としてはおもに第1編の【総則】と、第3編の【特別地方公共団体】にかかる「自治体(地方公共団体)の種類」というテーマについて解説します。
自治体の種類
自治体にはどんなものがあるの?
地方公共団体には、【普通地方公共団体】と【特別地方公共団体】があります。
普通地方公共団体とは?
普通地方公共団体とは、地域における事務を処理する団体のことで、皆さんもよく知っている「都道府県」と「市町村」のことです。
広域的な地方公共団体である都道府県
都道府県は、地域にかかる事務のうち、「広域にわたるもの」、「市町村に関する連絡調整事務」、「その規模や性質において市町村が処理することが適当でないと認められるもの」を処理することとなっています。
基礎的な地方公共団体である市町村
市町村は、基礎的な地方公共団体のことです。
市町村は、地域住民に一番身近な地方公共団体であり、地域にかかる事務で法律またはこれに基づく政令により処理することとされる事務を行い、それは都道府県も同じなのですが、まず都道府県より先に市町村でできる事務は市町村で行うという考え方をします。
そして、市町村単位では処理しきれない事務については都道府県が補完して事務を行い、さらにその都道府県単位で処理しきれない事務は、国が補完するということになります。
つまり、国が地方に命令して仕事をさせていた中央集権体制の逆の考え方です。
具体的に国が処理する事務は?
たとえば外交や防衛など国家の存立に関わる事務、法律の制定や地方自治制度の整備など国民の諸活動に関する全国統一的な定めや、地方自治に関する基本的な準則に関わる事務、全国的な規模・視点で行うべき事業の実施などが国の仕事と規定されています。
特別地方公共団体とは?
あまり聞き慣れない、特別地方公共団体とは?
普通地方公共団体としての都道府県や市町村などは、東京都庁、大阪府庁、福岡県庁、そして各自治体の市役所など、皆さんも手続きなどで出向いたこともあるでしょうし、なじみのあるものだと思います。
それに対して特別地方公共団体と言われれば、あまり説明できる人はいないのではないでしょうか。
特別地方公共団体とは、政策的に作り出された特殊な地方公共団体のことで、「特別区」、「地方公共団体の組合」、「財産区」の3つです。それではひとつずつ解説していきます。
特別区
特別区は今のところ東京だけ
特別区とは、東京都の「区」のことです。現在は日本で東京23区のみがこれに当たります。
つまり、東京の千代田区、世田谷区、新宿区などの区は、特別地方公共団体なのです。ですが、この特別区は基本的には「市町村」と同じ機能を持っており、ほぼ市町村と同等の扱いです。
23区は他の市町村とまったく同等なの?
ですがここで注意してほしいのは、「ほぼ」市町村と同等ではあるのですが、東京都が市町村レベルの事務も一部行うものとされているので、市と比べると23区の権限は限定されているのです。
日本には他にも「〇〇区」があるけど?
試験にも出ることがありますが、地方公共団体は、「法人」です。普通地方公共団体も、特別地方公共団体もそうです。
ですから、東京23区もそれぞれが法人格を有することになるのですが、これに対して、その他の政令指定都市の区(横浜市の神奈川区、名古屋市の中区、大阪市の北区など)はただの行政区で、法人格もありません。
地方公共団体の組合
地方公共団体の組合って?何をする組合?
組合と聞けば、「何かの労働組合?」と思ってしまいますが、ここでいう組合とは、簡単に言うと、各自治体(都道府県同士、市町村同士、またその両方が混在していてもよい)が、連携して、「この事務を一緒に共同で処理しよう!」というものです。
先ほど都道府県、市町村単位と言いましたが、ここに特別区である東京23区も「市町村扱い」として同等に加わることができます。
地方公共団体の組合は2種類
その組合にも2種類あります。「一部事務組合」と「広域連合」といい、広域連合の方があとにできた組合で、その分、一部事務組合の「進化版」といった性格が強いです。
一部事務組合とは?
一部事務組合とは、名前のとおり、いくつかの事務に限定して、市町村(都道府県)が共同で、「一緒に事務処理をしよう」というものです。
では具体的にどんなものがあってどんなメリットがあるのでしょうか?
小規模な村、町、市にはありがたい事務組合
そもそも「自治体」と聞いて、皆さんが浮かべるのはどんな規模の自治体でしょうか。住んでいる地域によって、完全に分かれると思います。都市に住んでいる人が市役所と聞くと、それはほぼ国の機能の縮図のような、何でもそろっている大規模な組織です。
ですが、小さな過疎の市町村に住んでいるとそれは、町民は高齢化し若者は少なく、町としての機能もあまり期待できず、何か大きな用事があれば隣町まで行かなければならない、そんな状況であるのが現実でしょう。
そんな小規模な市町村に、都市と同じ規模のすべてが充実した組織を期待するのは難しく、特に財政面でどうしても無理があります。
そこで、たとえば「消防」などが代表的なのですが、3つの市町村でひとつの消防組合を作り、そこでひとつの消防組織としてしまうのです。
そうすれば、例えば消防施設を設置するにあたり、土地については人口は少ないが敷地が広大なA市に、そしてお金については人口が多めのB市が、またC市も分担金を出す、などというふうに、自身の自治体の規模だけではどうにもならないものが補えます。
具体的にどんなものがある?
基本的に共同で事務を行うものには、財政面などの理由以外にも、「まわりの自治体との公平性があるほうがよいもの」「専門性の高い事務で、個別に自治体単体で行うよりは共同で行うほうが効率がよいもの」などがあります。
全国で、現在でも1,000以上の一部事務組合がありますが、多いのは、ごみ処理、し尿処理、消防、火葬場、病院や診療所などを共同で管理する組合です。
確かに、小さな町村ごとにごみ処理場があるより、共同でひとつの処理場を持つ方が、環境面でも効率面でもいいですよね。
そしてたとえば同じ3つの市町村で、ごみ処理と消防と病院を共同で所有・管理し事務を行うということも可能です。
その事務(仕事)についての権限はどうなるの?
共同で作った組合で事務を行うということは、その事務の決定権については、単体の市町村ではなく3つの市町村が合わさったその組合に権限が移るということです。単に肩を並べて事務を行うということではなく、ひとつの地方公共団体として決定権を持つのです。
先述しましたが地方公共団体はすべて「法人格」を持つので、当然この一部事務組合も法人扱いで、財産の保有が可能であり、また議会、管理者、監査委員などの執行機関を持っています。
一部事務組合の例
それでは全国には実際にどのような事務組合があるのでしょうか。
東京には23区すべてが加入している、可燃ごみ・し尿を共同で処理する「東京23区清掃一部事務組合」があります。
また、神奈川県、横須賀市、横浜市、川崎市が加入している、水道供給事業「神奈川県内広域水道企業団」というものもあります。
また先述したようにし尿処理や消防などの組合が、全国各地にあります。
市町村合併に伴って、一部事務組合の数は減っている
1,000以上ある一部事務組合ですが、市町村の合併がすすむにつれてその数は減少しています。合併によって自分の自治体単体で事務ができる規模になったことも大きいと思われます。
とはいえ急激に減少しているわけではなく、同じ顔触れの市町村でいくつも事務組合を作ってしまっていまだに整理できていないなど、課題も多くあります。
広域連合
広域連合は、一部事務組合と同じく、いくつかの自治体が事務を共同で広域的に処理するための組合です。
広域連合ができた経緯は?
広域連合は一部事務組合に比べると新しい組合(平成6年)なのですが、そもそも国は近年、国から地方に権限を移すために様々な準備をしているのですが、そのためには受け皿となる各地方自治体もしっかりとした規模でないといけないわけです。ですが実際には規模の小さい自治体もあります。
そこで、自治体合併とまではいかなくても、しっかりとしたひとかたまりの「大きな自治体」として受け皿になってもらうことを念頭に置いて、この広域連合が作られました。
「一部事務組合」とは何が違うの?
先述しましたが広域連合は、国からの権限移譲という目的のある組合なので、一部事務組合とは違って、国や都道府県から直接権限移譲をしてもらえる組合です。
つまり、今までは国や都道府県で決定権のあった事務について、この広域連合に権限が移り、自分たちで事務の中身について決定権を持つということなのです。
この権限移譲については、国側から受け取るだけでなく、都道府県の加入する広域連合は国に、そして市町村単位などの広域連合は都道府県に対して、事務の権限を委譲するようにみずから要請することもできます。
さらに、一部事務組合は、もともと市町村(都道府県)で持っていた同一の事務を持ち寄る形でしたが、広域連合は、例えば、〇〇市の観光業務と、△△市の地域振興業務、そして××市の産業広報業務などを合わせて、「○○市と△△市と××市で、広域の観光事業としてやってみよう」というふうに、異なる事務を持ち寄り企画して行うことができます。
広域連合を作るには?その手順
広域連合を作るには、まずそのメンバーとなる各自治体で協議して、「規約」を作成します。
次にそれをもとに、各自治体の議会でそれぞれが広域連合に加入するという議決をします。
さらに、広域連合の設置許可の申請を行うのですが、申請先は、「都道府県の加入する広域連合」については総務大臣、そして「その他のものが加入する広域連合」については都道府県知事が申請先となります。
こうして設置許可をもらえたら、その旨の告示を行って、広域連合が発足します。
ここまでは一部事務組合も同じような手順なのですが、広域連合の場合はこのあとすみやかに「広域計画」を作成しなければいけません。これは、どんな事務事業を行っていくかがびっしり書かれた計画書のようなものです。
そして広域連合は、メンバーである各自治体に、「こういう広域事務を決めたからそのために〇〇市はこういう事務作業をしてください」ということまで規定することができます。
広域連合の議会の議員は、メンバーである自治体の議会の議員・長による間接選挙か、広域連合の区域内に住所のある市民による直接選挙で選ばれます。
そして広域連合へ市民が直接請求を行うこともでき、より通常の自治体に近い形になっています。
広域連合には具体的にどんなものがある?
現在、全国で116の広域連合がありますが、実はそのうち、「後期高齢者医療広域連合」が47あります。
これは、国の法律(高齢者の医療の確保に関する法律48条)で、後期高齢者の医療制度に関する事務について、「都道府県ごと」に広域連合を置いて、そこで処理するように義務付けられたからです。
【参考】後期高齢者医療とは?
平成20年4月から始まった制度で、75歳以上(と、65歳以上で一定の障害認定を受けた人)を対象とする医療制度です。
対象となる高齢者は、それまで加入していた国民健康保険や社会医療保険から抜けて、後期高齢者医療制度の被保険者となります。
広域連合の主な事務内容で、一番多いのはこの後期高齢者医療事務で、「東京都後期高齢者医療広域連合」、「大阪府後期高齢者医療広域連合」というように、47都道府県すべてに作られています。
先述しましたが、「組合」は、一部事務組合も広域連合も、その事務の決定権を持つようになるため、例えば大阪府を例にあげると、今まで、大阪市、堺市、と市町村単位で主体的に行っていた事務でも、今後大阪市、堺市はその事務に限っては単なる出先機関となり、企画立案は広域連合が行うのです。
後期高齢者医療制度については国の法律から行うものですが、それでも同じような形になっています。
【例】後期高齢者医療制度での事務(仕事)の分担
大阪府後期高齢者医療広域連合が行うこと→被保険者の認定や、保険料の金額の決定、医療の給付など、制度の運営
大阪市が行うこと→住所や登録内容の変更や、申請用紙の受付、保険料の徴収など、決定権のない単純業務
広域連合の例
それでは全国にはそのほかに実際どのような広域連合があるのでしょうか。いくつか例としてあげておきます。
「彩の国さいたま人づくり広域連合」(埼玉県と、県内の全市町村)職員の人材の開発や交流、人材確保に関する事務
「木曽広域連合」(木曽町、上松町、南木曽町、木祖村、王滝村、大桑村の3町3村)木曽地域の広域行政の推進に関する事務、景観基本構想の推進、広域的な観光振興、埋蔵文化財の委託調査、休日および夜間の一次救急医療など25事務以上
「静岡地方税滞納整理機構」(静岡県と、県内の全市町村)地方税の滞納に関して、広域連合が行うものとして決定した分の滞納処分事務など、職員への税務研修など
「鳥取中部ふるさと広域連合」(倉吉市、湯梨浜町、三朝町、北栄町、琴浦町の1市4町)広域観光、文化産業の振興や広域情報化の促進に関する事務、ごみ処理施設の設置管理に関する事務、交通災害共済事業に関する事務介護保険と障碍者支援に関する一部の事務など10以上の事務
「関西広域連合」(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県、大阪市、堺市、京都市、神戸市の2府6県4市)広域にわたる次の計画の策定および実施に関する事務→防災、観光、文化、スポーツ振興、医療の確保、広域防災、まち・ひと・しごと創生法第9条第1項に規定する計画、救急用ヘリコプターの運航区域で広域にわたるもの、その他広域にわたる行政の推進にかかる基本的な政策の企画調整に関する事務
最後の「関西広域連合」については、その事務内容が多すぎてここには書ききれていませんが、国の権限移譲の先としてもかなり期待度の高い連合で、その事務内容もひとつの巨大な大都市のようです。
思ったより増えていない?広域連合
現在、広域連合は100以上はあるのですが、後期高齢者医療についての事務は置いておくとして、それ以外で本来の広域連合の設置目的である、都道府県レベルを超えた自治的な広域行政を行うという形の広域連合はそんなに多くありません。
関西広域連合は規模も大きく、都道府県をまたいでおり、まさに本来の目的に沿うかたちの連合なのですが、それ以外の広域連合はどちらかというと、介護業務を共同で行ったり、「一部事務組合」と何ら変わらないようなものも多くあります。
これについては今後どうなっていくのか見守りたいところです。
財産区
財産区は、特別地方公共団体の種類の3つ目です。
これは、簡単に言うと昔から村民が生活のために使っていた山、ため池、温泉などを、それを使用していた昔の「村」「町」単位で「財産区」という小さな地方公共団体扱いにしたものです。
ということは、市町村合併がすすんでいる現在ですが、その「市」という地方公共団体の中に、昔の「村」単位の地方公共団体が存在しているということになります。
この財産区については、長くなりますので次回、解説したいと思います。
まとめ
ひとくちに地方公共団体といっても、様々なものがあることがおわかりいただけたかと思います。
1995年に地方分権推進法が制定されて以降、国は中央集権国家から、地方分権へと政策をすすめてきましたが、まだまだ課題は多いのが現状です。
それは、ひとつには、地方公共団体(自治体)ひとつひとつに違いがあるからで、都市部では、「もっと市の権限を!」と訴えますが、過疎地や高齢者の多い地域では逆に「何でもかんでも地域に任されても・・・国が面倒をみてくれる方が助かる」というのが本音のところもあります。
そのために先述した一部事務組合や広域連合などが役に立つはずなのですが、そうすると今度は、市町村が共同でひとつになるため市町村よりは規模が大きくなり、単体の市民の声が届きにくくなったりという弊害も出ています。
地方自治とはなかなか難しいものですね。皆さんはどう思われますか?今後はこのような問題についても考えていきたいと思います。
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