子供たちがかかえる様々な心の問題の原因とは
不当な扱いを受ける
学校生活において子供の心の問題の原因として第一に挙げられるのが、不当な扱いを受ける事です。学校で不当な扱いを受ける、といえばいじめですが、いじめの対象は同級生だけでなく、部活動などで関わる上級生から受けている場合もあります。また、残念ながら教職員が特定の生徒に対して体罰と称する暴力やえこひいき、ハラスメント行為などの不当な扱いをしている場合もあります。
発達障害
授業中落ち着いて座れない、感覚過敏があるので給食が食べられない、体育の一定の運動ができない、学習障害の為授業がついていけない、など発達障害が元で心を病んでしまう事があります。
発達障害の児童生徒に対しては、障害の程度や内容によって適切な対応をしなければいけません。特に発達障害が見逃されてきた児童生徒は、周りの子供が当たり前にできる事ができない為、気分がイライラしてしまったり、自信がなくなって自己肯定感が低くなったりします。その結果、引きこもりを伴う不登校にも繋がってしまいます。
家庭環境
虐待やネグレクト、それらに相当する行為を親から受けているなど、家庭環境に問題のある児童生徒は、学校生活でも問題を起こしてしまいがちです。
大きな心理的ショックを受けた時
身近な人を亡くした時や災害や事故に合った時など、児童生徒の心に大きなストレスがかかる出来事によって精神的な問題を抱えてしまう場合があります。一時的な場合もありますが、心理的なショックが大きければ大きいほど回復にも時間がかかりますし、実生活でも様々な悪影響が出ます。
中立的な立場で相談を担うスクールカウンセラーについて
子供や保護者の相談先として
スクールカウンセラーとは、学校現場において教職員と連携し、児童生徒と向き合って臨床心理の知見に基づいたサポートを行うスタッフの事です。
いじめなど学校で問題があった時に、児童生徒が相談する先として挙げられるのが担任の先生を始めとする教職員です。ですが、教職員の業務はとても多く、ひとりの児童生徒の悩みにしっかり向き合っている時間や余裕もありません。また、教職員は教育のスペシャリストですが、心理学のスペシャリストではありませんので、相談をされても問題解決の糸口が見つからず、場合によっては不適切な対応をしてしまう可能性もあります。
相談内容が同級生や上級生など、児童生徒同士のトラブルでない事もあります。例えば、担任の先生や教科担任にえこひいきされている、部活の顧問に指導という名目で体罰を受けている、という事もあります。児童生徒の悩みの原因が教職員の場合、学校で安心して相談できる先がなくなってしまいます。
これらの学校現場における児童生徒の精神的な問題や悩みを解決するために配置されるのが、スクールカウンセラーです。生徒でもなく教職員でもないので安心して相談できる、中立的な立場の相談先となっています。
日本のスクールカウンセラーの歴史
様々な心の問題を抱える子供たちや保護者のケアを行う為に、アメリカではスクールカウンセラーが1970年代から既に活躍していました。
日本においてスクールカウンセラーの誕生は、1995年に旧文部省が「スクールカウンセラー事業」を行ったのが最初です。開始年度には、全国の公立学校154校にスクールカウンセラーの配置や派遣が行われました。
現在は文科省下において「スクールカウンセラー活用事業補助」と名前が変わり、公立学校へスクールカウンセラーが配置・派遣されています。2017年には、その対象の公立学校は1万校を越えました。将来的には日本全ての公立学校へのスクールカウンセラー配置を目標としています。
日本においてスクールカウンセラーの誕生は、1995年に旧文部省が「スクールカウンセラー事業」を行ったのが最初です。開始年度は、全国の公立学校154校にスクールカウンセラーの配置や派遣が行われました。現在は文科省下において「スクールカウンセラー活用事業補助」と名前が変わり、2017年現在スクールカウンセラーが配置・派遣されている公立学校は1万校を越えました。将来的には日本全ての公立学校へのスクールカウンセラー配置を目標としています。
公立学校には国の指針でスクールカウンセラー事業が展開された一方で、私立学校はスクールカウンセラー活用事業の対象となっていません。私立学校は従来から行政より様々な面で資金のサポートが受けられる「私立高等学校等経常費助成費補助」が制度としてありましたが、これをスクールカウンセラー設置面において活用する事で、文科省から補助を受ける事ができます。けれども、私立高等学校等経常費助成費補助は公立学校が受けられるスクールカウンセラー活用事業補助の様にスクールカウンセラーの設置に特化した補助金制度ではない為、十分な補助が受けられない、申請に時間や行政に承認されるだけの要件が必要と言うデメリットもありますので、私立学校ではまだまだ学校側で資金やスクールカウンセラーの確保の為の努力をしなければいけません。
私立学校のスクールカウンセラー設備の救世主として作られたのが「私学スクールカウンセラー支援事業」です。私学スクールカウンセラー事業とは、日本臨床心理士資格認定協会と各都道府県臨床心理士会の協力の下で展開されている事業です。
私学スクールカウンセラー事業とは、実際に公立学校でスクールカウンセラーとして勤務した臨床心理士が、この時に得た知識や経験を生かし、私立学校のスクールカウンセラー業務を行う事を目的としている事業です。臨床心理士が培った経験を臨床心理士資格認定協会や臨床心理士会に還元する事で、私立学校の助力となる事業として期待されています。
スクールカウンセラーの仕事内容を見てみよう
スクールカウンセラーの一日
8:00 出勤。相談室の準備を行った後職員室の朝礼に参加する。その後、他の教職員と児童生徒や保護者に関する情報共有のための申し送りをする。
9:00 スクールカウンセラーとしての業務を開始。相談室登校をした児童生徒の対応や、学校へ面談に訪れる保護者からの相談を受けるなど。
12:00~13:00 給食。その後昼休みだが昼休み時間を利用して相談に来る生徒も多いので、昼休みは相談室での対応が多い。
13:00 午後の業務開始。放課後は働いている保護者の帰宅時間に自宅に面談へ伺う事もある。
17:30 退勤
(赴任先や学校の場合時間割によっても異なる)
相談室で相談を受け、生徒のカウンセリングを行う
スクールカウンセラーはいつも「相談室」や「カウンセリングルーム」と呼ばれる場所にいます。プライバシーが確保される個室なので、誰でも安心して相談ができるように配慮されています。
不登校傾向のある児童生徒の通学方法として、保健室や図書室登校がありますが、相談室登校をする生徒への対応も行います。相談室登校をしてきた児童生徒は勉強をしたり、相談をしたり、給食を食べたりもします。
学校内の相談室以外でも活動も行う
相談室での活動だけでなく、児童生徒の普段の様子を知る為に、クラス活動に参加したり、授業参観を行ったりもします。また、発達障害を持つ児童生徒に対しては、主に学習指導室や特別支援学級で個別に学習支援も行います。
保護者からの相談を受ける
スクールカウンセラーは児童生徒だけでなく、保護者からの相談も受けます。心の問題を抱えている生徒の保護者と設定した日時に相談室などで面談も行います。
直接ではなく保護者から電話で相談を持ち掛けられる事もありますので、相談室で電話によるカウンセリングも行います。
児童生徒の自宅に訪れ、様子を見たり相談を受けたりする
不登校児の場合、同時に児童生徒の様子を見る為に、自宅へ訪問して面談を行う事もあります。また、面談を児童生徒が拒む場合は、あらかじめ手紙を生徒宛に書いて、保護者を通じて渡す事もあります。
避難所など、被災児童生徒や保護者へのカウンセリングを行う
東日本大震災では、地震だけでなく甚大な津波による被害が出ました。津波によって家族や友人、家屋など大切なものを失ったり、津波に対する恐怖心が取れなかったりする子供たち、また長引く避難所生活によってストレスのかかる子供たちもたくさんいました。
震災に合った子供たちの心のケアを行う為にスクールカウンセラーも派遣されます。避難所や被災地の小学校を回り、子供たちや保護者の相談を受けます。
スクールカウンセラーになるには? なる為の資格や応募方法
「臨床心理士」もしくは「精神科医」の有資格者
「スクールカウンセラー」という資格はありませんが、未経験者がスクールカウンセラーになるために必須なのが臨床心理士、もしくは精神科医の資格です。また、臨床心理士の資格なら、資格取得見込みでも応募が可能ですので、心理臨床経験(心理臨床に携わる業務経験)がなくても可能です。
心理臨床経験を持っている場合
臨床心理士もしくは精神科医の資格がなくても、心理臨床経験を持っている場合も応募が可能である場合が多いです。
▼大学院の心理学、もしくは心理学隣接諸科学を専攻した場合
大学院の心理学を専攻する博士課程前期もしくは修士課程修了後なら1年以上の心理臨床経験、心理学専攻でない心理学隣接諸科学を専攻する博士課程前期又は修士課程修了後なら2年以上の心理臨床経験を有している方は応募ができます。
▼4年制大学卒、もしくは医師免許取得済みの場合
4年制大学を卒業後、5年以上の心理臨床経験を有する方、更に医師免許を取得している方なら、取得後1年以上の心理臨床経験を有する方は応募ができます。
▼外国での教育歴も認められる
日本国外の大学院もしくは4年制大学卒でも、日本と同等の教育歴があると認められた場合、2年以上の心理臨床経験があれば応募が可能です。
教職経験を持っている場合
実際に教育現場に教員として勤務した経験があれば、児童生徒の臨床心理に関して高度な知識と経験を持っているとみなされ、応募が可能です。
スクールカウンセラーに準ずるもの
ガイダンスカウンセラー、学校心理士、学校カウンセラー、教育カウンセラー、認定カウンセラー、臨床発達心理士など、スクールカウンセラーと似た名称の資格があります。これらは、心理学を特定の教育機関で学び、卒業もしくは修了すると取得できる事が多いです。例えば、ガイダンスカウンセラーはスクールカウンセリング推進協議会が認定した資格です。
気を付けたいのが、これらの資格は「スクールカウンセラーに準ずるもの」とされているのがほとんどという点です。スクールカウンセラーとしての勤務はできますが、あくまで「準ずるもの」ですので、臨床心理士や精神科医の有資格者、及び定められた心理臨床経験の所有者と比較すると給料や待遇面で差が出てしまう事があります。
スクールカウンセラーの応募方法
公立学校のスクールカウンセラーは、毎年9月から11月ごろ都道府県や市町村の教育委員会が募集を行います。募集要項や条件、募集期間については各自治体によって異なりますので、確認した上で忘れずに応募するようにしましょう。
ほとんどが自治体のホームページの教職員採用や教育委員会に関するページに募集が出ます。9月ごろから応募したい自治体の該当ページは忘れずにチェックをしておきましょう。また、震災が起きたなど被災児童のケアの為のスクールカウンセラーが必要になった時や、大量の欠員がでた時などは、臨時で募集がある場合もあります。
例として、以下に平成30年度の千葉県教育委員会及び千葉市のスクールカウンセラーの採用要項について記載してあるページを紹介します。
千葉県教育委員会平成30年度スクールカウンセラーの募集
私立学校のスクールカウンセラーについては、学校のホームページの求人欄や、求人サイトで募集されている事が多いです。こちらは募集のタイミングが学校によってまちまちなので、常にチェックしておきましょう。
書類応募後に書類選考や面接を経て、採用が決まれば晴れてスクールカウンセラーとして赴任先が決まります。
始めはかけもちも? スクールカウンセラーの待遇と給料
非常勤、任期は1年である事が多い
スクールカウンセラーは非常勤であり、ほとんどが定められた任期で働いています。公立学校へ赴任になるスクールカウンセラーは1年間の任期で、私立学校の場合にはパートタイマーとして働いている事も多いです。任期終了後、またスクールカウンセラーとして登録され、1年間の任期で働く…の繰り返しです。
給料は時給制である事も多く、かけもちも多い
スクールカウンセラーは非常勤の為時給制を採用している事も多いです。採用された場所によって異なりますが、時給に換算すると3000円から5000円前後です。時給の面から見ると高いように感じますが、週に1回のみの勤務や、一日数時間の勤務のみである事も。一箇所だけでは生計を立てる事ができませんので、複数の場所でかけもちとして働くスクールカウンセラーも多いです。
また、精神科医や臨床心理士として医療施設で働く人が、週に一回だけスクールカウンセラーを行っているという事もあります。
こんな人が求められている!スクールカウンセラーに必要な事
子供が好き!
カウンセリングを行う職業の中でもスクールカウンセラーを選ぶなら、大前提として子供が好きな事です。逆に、子供が好きな人や、子供と関わる仕事をしたいという方には最適です。実際に小中学校の教職員経験者や小児科医、小児科看護師など子供と関わる仕事をしてきた人が、経験を生かしてスクールカウンセラーとして活躍するケースもあります。
切り替えの早さ
スクールカウンセラーは様々な心の問題を抱える子供たちに寄り添うお仕事です。中には、ひどい暴言や冷たい対応など、児童生徒や保護者からぞんざいな扱いを受ける事もあります。自分が辛い目に合った事をずっと引きずっていると、他の生徒や保護者とのカウンセリングにも支障が出てしまいますので、辛い事があってもすぐに次に向かえる気持ちの切り替えが早い人が向いています。
自分を客観視できる人
カウンセリングにおいて大切なのは自分を客観視する事です。相談者の立場を自分に置き換えて、主観的な対応をしてしまうと、相談者と自分自身が依存のような関係になってしまう危険性もあります。相談者の事が気になり、他の業務だけでなくプライベートにも支障が出てしまう事も。常に自分を客観視できる人が望ましいです。
粘り強い人
カウンセリングは、すぐに結果の出る物ではありません。結果が出るのは1年後かもしれませんし、児童生徒が大人になるころかもしれません。すぐに結果を求めるのではなく粘り強く相談者や問題と向き合う事が求められています。時間が長くかかっても、心の問題が解決すればそれは成功と言えます。
番外編 スクールカウンセラーが登場するドラマ
明日の約束
主人公は高校のスクールカウンセラー。自身も相談を受けていた不登校の生徒が不可解な死を遂げたことから始まるストーリー。
まとめ
子供たちの心のケアを行う専門家であるスクールカウンセラーは、多様化する子供の心の問題解決として有効だけでなく、業務過多と言われている教職員の負担軽減にも大きな役割を持っています。教職員と同じく、今後子供たちが生きていく力を身に付ける学校組織の中で、スクールカウンセラーは重大な役割を担っていると言えるでしょう。
(文:千谷 麻理子)
コメント