【公務員を巡る働き方改革 後編】女性職員・退職後の働き方への影響

前編では働き方改革とは労働人口を確保する為の手段であり3つの政策と9つのテーマが柱になっている事、公務員の働き方で影響が出ると予想できるポイントに触れました。今回は、公務員の女性職員及び退職後、働き方改革がどのように影響するのかを見てみましょう。


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メディアで目や耳にする事も多くなった「働き方改革」。一般企業で働くサラリーマンだけでなく、公務員を含めた色々な人を取り巻く労働環境は変化するのでしょうか。ここでは、働き方改革の目的や具体的な手段、公務員の働き方にどう影響するかについて説明しています。

人口減少の上で貴重な労働力、女性と高齢者への働き方改革

女性の力がないと成し遂げられない一億総活躍社会

働き方改革は、50年後の日本でも今と同じ一億人の人口を維持し、かつ日本に住む一億人すべてがあらゆる場所で活躍できる社会である「一億総活躍社会」の実現の為の働き方の改革手段です。そして、一億総活躍社会の実現のカギとなっているのが女性です。

まず、未来の日本の働き手を確保するには女性が安心して子供を生み、育てられる社会でなければいけません。妊娠・出産をするのは女性にしかできませんので、大前提である女性の妊娠・出産失くして出生率の向上はあり得ません。

そして、結婚や妊娠・出産、介護や配偶者の転勤に伴う転居など、外的要因での離職率も女性は高くなっています。やむを得ない理由で離職しても、今度は復職が難しい現状がありますが、女性の社会復帰なくして労働力の確保はできません。

自分自身も働き手になる、そして未来の働き手を生み出す両方の役割が女性にかかっているのです。

健康寿命の向上から見る、高齢者の今後

世界各国で医療技術が進歩し、平均寿命も延びています。特に日本は世界各国でも長寿国として知られ、2016年の平均寿命は男性が80.98歳で世界第2位、女性が87.14歳で世界第1位となっています。

単純に人ひとりが亡くなる年齢を平均値にした平均寿命の中には、寝たきり状態の方や認知症を患っている方も勿論含まれていますので、近年では日常生活に支障のない期間を算出した「健康寿命」の数値も統計が取られるようになりました。日本では平均寿命と同様に、健康寿命も延びており、2015年の統計では男性が71.19年、女性が74.21年となっており、統計を開始した2001年の健康寿命と比較すると、男性は1.79年、女性は1.56年伸びています。平均寿命に比べれば伸び率は低くなっていますが、今後も健康寿命は少しずつ延びていくと予想されています。

参考:内閣府 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html

一般的な日本企業の定年年齢は60歳ですが、現在年金の受給年齢は原則65歳に引き上げられています。これに伴って定年退職後も企業の再雇用を推進する動きが出てきました。また、現在の年金制度には少子高齢化を受けて現役世代だけでは高齢者を支えられない為、年金受給開始年齢は70歳まで引きあがるのではないか、とも言われています。

現在の健康寿命と定年年齢を見ると、男性なら60歳定年から健康寿命の71歳まで約11年間、女性なら60歳定年から健康寿命74歳まで約14年間の期間があります。定年退職後でもまだまだ元気なシニア世代のこの期間は労働力としても貴重な戦力として活用できるとし、働き方改革でも女性と同じく高齢者の活用が挙げられています。


女性職員に関する働き方改革を見てみよう

育児や介護との両立は

女性の離職率が高い理由として、妊娠出産、育児や介護などの外的要因がほとんどという事が分かりました。働き方改革では、「子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労」のテーマにて、女性も含めた労働者の育児や介護などと仕事の両立に関して育児休業や介護休業、マタハラなどの是正を取り上げ記載しています。

現在公務員においても、産前産後休業や子供が3歳に達するまで取得できる育児休業、子供が小学校就学前まで4パターンの働き方の中から選んで取得できる育児短時間勤務、生活に支障のある家族などを介護する時、6か月以内の連続する休暇が取れる介護休業などワークライフバランスに関する各種制度を設けています。また、妊娠中も妊婦健診の為の休暇の取得や妊娠中に制限するべき業務が認められ、女性職員だけでなく、男性職員が配偶者の出産に伴い育児参加の為の休暇を取得できます。

参考:人事院 国家公務員の育児介護に係る勤務時間関係制度の概要
http://www.jinji.go.jp/kenkyukai/telework/sankou0604.pdf

制度として配備されていますので、比較的女性職員は一般企業と同じく、産休や育休を公務員でも取得できますし、子供が小さいうちには時短制度も利用できます。ところが、制度があっても職場環境として取得しづらい、妊娠を伝えたら退職を勧められるいわゆるマタハラを受けるなど、妊娠出産、育児、介護を理由に女性職員が不当な扱いを受けてしまうことも、全くないとは言い切れないのです。

これと同じく、公務員の男性職員にも育休が付帯されていますが2015年末現在国家公務員の男性職員の育休取得率は5.5%、地方公務員に至っては2.9%となっています。この決して高くない数値の背景には、男性の育休が公務員を含め日本社会でまだ浸透していない事、女性の制度と同じく職場環境が取得しづらい事、そして家事や育児はまだまだ女性の仕事であるという風潮が原因となっています。

特に家事や育児に対する負担が女性には多くかかりますので、仕事も家事も育児も一手に引き受けている女性も少なくありません。家事や育児は女の仕事、という風潮はせっかく育休を取得した夫側が何をして良いか分からず、育休を取っても戦力外になってしまう事も。また、公務員を含めて、自分ひとりで全て頑張っていたのに、ある日夫が転勤になり泣く泣く離職する事もあります。家の事は女性、という意識を改革するのも働き方改革に含められたテーマなのではないでしょうか。

そして一般企業でも、妊娠出産や育児、介護を巡る女性の不当な扱いが問題視されています。まず、公務員で育児や介護をしながらでも両立しやすい、かつ男性も育休が取得しやすい環境づくりを行う事で、働き方改革も浸透していくのではないでしょうか。

妊娠出産、介護休業啓もうの為の取り組み

公務員における「労働基準監督署」の役割を担っている人事院では「介護・育児のための両立支援ハンドブック」を発行しています。

参考:人事院 介護・育児のための両立支援ハンドブック
http://www.jinji.go.jp/ikuzi/handbook.pdf

妊娠出産、育児、介護において取得できる休暇や時短制度を始めとして、公務員がどんなサポートを受けられるのかがまとめてあるハンドブックですが、妊娠出産、育児や介護を行う職員本人だけでなく、職場の上司へも理解を求めるための一冊にもなっています。

公務員復帰の妨げともなっている待機児童問題

公務員の女性職員の現場復帰の妨げとなっているのが待機児童問題です。共働きも当たり前となり保育所のニーズは年々上がっていますが、保育施設及び保育士が不足している為、全ての保育所入所を希望する世帯が入所できず、待機児童が発生しています。

日本全国での待機児童数は2016年10月時点で4万7738人となっていますが、実際には政府の統計に入らない潜在待機児童の数を含めれば2倍にもなると言われています。

待機児童の解消には保育施設用地の確保、潜在保育士の発掘や保育士の待遇改善による離職の抑制、保育士資格がなくても条件付きで保育所での業務が可能となる自治体独自資格の整備などが挙げられます。

行政だけでなく職場側で事業所内保育所を整備する、子連れ出勤の限定的な許可をするなどの対策もありますが、特に子連れ出勤は実際には許可されても子連れでは全く仕事ができない、という働く女性自身の意見が多く病児などでやむを得ない事由がある時に限定して行うのが良いと言えます。

女性職員のキャリア育成への取り組み

公務員として働き続ければ、女性職員でもキャリアを積んでいきたいと考える人も少なくありません。女性の社会進出は今ではもう珍しくありませんが、女性幹部や役職などのキャリア人事育成にシフトしつつあります。とはいえ、妊娠や出産などで産休・育休・時短を取得せざるを得ない女性はキャリアを積むのに妨げとなるブランクがどうしてもできやすくなっており、現状では「仕事か子供どちらか」の選択肢が女性に突き付けられています。キャリアを選べば子供を諦めざるを得ず出生率が低下し、子供を選べばいずれ役職に就くであろう優秀な人材が埋もれてしまう事にもなるのです。


総務省では、「地方公務員等における女性活躍の取組」として、積極的な女性職員の採用を促しています。平成27年末の国家公務員の女性の採用割合は34.5%、都道府県職員における女性の採用割合は34.4%、市町村は44.2%となっており、全体の約3分の1以上が女性職員で占められています。また、各市町村でも積極的な女性職員の雇用の為の取り組みを行っており、例えば千葉市の「千葉市消防局における女性活躍推進」では、男社会とイメージされやすい消防組織の中でも、女性が結婚や育児を通じても働きやすい、また男性の中でも働きやすい環境整備や工夫を行っています。

参考:千葉市消防局における女性活躍推進トップページ
https://www.city.chiba.jp/shobo/somu/jinji/chibashobojosei.html

また、公務員における女性のキャリア育成を見てみると、平成27年末における本庁課長相当職に占める女性の割合は、国家公務員は4.1%、都道府県では9.3%、市町村では15.6%となっています。全体的な女性職員の割合を見れば、まだまだ公務員における女性の役職は少なく、平成27年12月に閣議決定された「第4次男女共同参画基本計画」では、本庁係長相当職に占める女性の割合を都道府県30%、市町村35%、本庁課長補佐相当職に占める女性の割合を都道府県25%、市町村30%、本庁課長相当職に占める女性の割合を都道府県15%、市町村20%の目標を掲げています。全体的な女性採用率は40%、女性のキャリア育成を支える為にも重要になる男性職員の育児休暇取得率は13%を目標としています。

参考:総務省 地方公務員等における女性活躍の取組
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/jyuuten_houshin/sidai/pdf/jyu06-2-3-1.pdf

数値を目標として定めても、達成されなければ意味がありません。公務員の女性職員の働く環境整備が実現するかも、働き方改革で注目すべきポイントです。

何歳まで公務員? 退職後の公務員への影響

退職年齢60歳が段階的に引き上げに

日本政府は、国家公務員と地方公務員の定年を60歳から段階的に引き上げ、最終的には65歳にする事で調整に入りました。少子高齢化社会で年金制度自体が危機を迎え、それに伴った年金受給開始年齢の引き上げを受け、一般企業でも既に60歳定年後に同じ企業や関連企業に再雇用されるパターンが多くなっています。

いきなり公務員の定年が65歳に引きあがるのではなく、平成30年から開始され62歳、平成31年から33年にかけて63歳、平成34年から36年にかけて64歳、平成37年以降に65歳定年とする軸で調整に入っています。この背景には、年金の受給年齢が既に原則65歳まで引き上げになっている事、前述の通り健康寿命の向上に伴い、まだまだ元気で働きたい人がたくさんいる事があります。

現在一般企業で行われているのは、60歳で一度定年退職し、その後再雇用パターンです。定年年齢が延長されれば、65歳の定年まで今までと同じ労働条件や賃金で働く事ができますが、再雇用となると労働条件や賃金などの契約も変わり、実際は定年前の半分ほどの賃金で働いている労働者が多くなっています。

公務員の定年延長が決まれば、一般企業も再雇用ではなく定年延長が広がり、定年前と同じ条件で働く事にも繋がりますし、今後の労働力不足を補う中でも、今までの長い経験や多い知識を持つベテランである60歳代は大変戦力になります。

とはいえ、健康寿命が延びていても20代の新卒職員と60代のベテラン職員が同じ業務を行うのは物理的にも無理がありますし、時代が流れるごとに世代間でのギャップが生じ、業務の支障となるリスクもありますので、シニア世代も自分らしく働け、無事延長した定年を迎えられる環境整備も、公務員の働き方改革で求められています。

まとめ

出生率と労働力を担っている女性、実績と経験を持つ頼れるシニア世代の活用も働き方改革では取り上げられています。とはいえ、女性や高齢者は仕事以外でも育児や介護など、ひとりに他の負担もかかりがちですので、公務員も含めて、働き方だけでなく、負担なく安心して生きていける社会の実現こそが、一億総活躍社会と呼べるのではないでしょうか。

(文:千谷 麻理子)

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本記事は、2017年12月18日時点調査または公開された情報です。
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