子育て世代の反応は?幼児教育・保育無償化とその問題点について

安倍政権の政策のひとつとして挙げられている「幼児教育・保育無償化」。特に今該当するお子さんを育てている方にとっては非常に気になる政策でもあります。本日は、幼児教育・保育無償化の対象となる子供の年齢や世帯、開始時期などについての解説と、背景にある問題点について触れています。


幼児教育・保育無償化について

幼児教育・保育無償化が決まった流れについて

幼児教育・保育無償化は自民党の選挙公約のひとつとして挙げられていました。その後総選挙で勝利した自民党が公約を守るために、2017年12月に幼児教育無償化を「人づくり改革」の柱のひとつとして実施する事を閣議決定しています。

幼児教育・保育とは小学校入学前に受ける教育・保育の事

幼児教育・保育の無償化は文部科学省管轄の教育施設である幼稚園はもちろん、厚生労働省管轄で福祉施設の扱いである保育園も無償化の対象です。

つまり、幼児教育・保育無償化とは保育園、幼稚園、認定こども園に通う0歳から6歳の子供が対象になるのです。とはいえ、全ての幼児教育・保育を受ける子供たちとその世帯が対象になる訳ではなく、通う施設や年齢、所得によって無償化になる条件が決まります。

▼0~2歳児は住民税非課税世帯のみ無償化
認可保育園に通う0歳~2歳の子供を持つ世帯では、およそ年収250万円未満の住民税非課税世帯が保育料無償の対象です。

▼3~5歳児は親の所得に関係なく無償化
3歳~5歳の子供を持つ世帯では、世帯の所得に関係なく全てを無償化する事が決まっています。公立・私立幼稚園と認定こども園、認可保育園に通う3歳~5歳(年少・年中・年長にあたる)の子供を持つ世帯は無償化の対象です。

▼認可外保育園については認可保育園の平均保育料を助成
認可保育園に通う子供を持つ世帯は無償化の対象ですが、認可外保育園や託児所、ベビーホテルなどは無償化の対象になるかについては、政府は当初有識者会議などを通じて対象施設を検討し、2018年夏までに結論を出すとしていました。

なぜ認可外保育園だけは無償化の対象から外れているかというと、認可外保育園は敷地面積や保育士の数などで自治体の認める基準を満たしていない保育施設だからです。「自治体の基準を満たしていない保育施設を国が無償化を認めるのは矛盾しているのではないか?」との考え方から、認可外保育園は無償化の対象となっていなかったのです。

その後2017年11月に認可外保育園については、は認可保育園の平均保育料である月額3万5千円を助成する方向で政府の検討が進められることが決定しました。

いつから無償化は始まるか?

幼児教育・保育無償化は、2019年4月から一部が先行実施予定です。まず2019年4月には幼稚園、認可保育園、認定こども園に通う5歳児(年長相当)を持つ世帯が先行として無償化になります。

幼児教育・保育無償化の全面実施は2020年4月で、同時に住民税非課税世帯の国立大学の入学料、授業料の免除及び私立大学の上限を設けた授業料の免除、返済不要の給付型大学奨学金の拡充などの高等教育無償化、年収590未満の世帯に対して私立高等学校の平均授業料39万円を支給する私立高等学校無償化、保育の受け皿整備や保育士の月3,000円相当の賃上げを行う待機児童対策、介護士の月8万円相当の賃上げなど介護人材の処遇改善の「人づくり改革」の他の政策も実施される予定です。

2019年10月に予定されている消費税率8%から10%への引き上げで得た税金を「人づくり改革」の財源に充てられるとしています。


現在幼稚園や保育園に通わせている世帯、これから通わせる世帯は?

現在幼稚園や保育園に通わせている子供や、これから幼稚園や保育園に通わせる予定の子供がいる世帯にとっては、無償化の対象となるかが気になりますね。ここで、子供の年齢によって無償化の対象になるかならないか見てみましょう。

保育園・幼稚園の無償化の対象表
【保育園・幼稚園の無償化の対象表】
※住民税非課税世帯は2020年より0~2歳の保育園児も無償化

日本の教育制度は年ではなく年度ですので、2012年4月2日~2013年4月1日生まれの2018年1月の時点で4歳クラス(年中)の子供なら、同年4月に5歳クラス(年長)、無償化先行開始の2019年4月には小学1年生ですので、無償化の対象にはなりません。

2013年4月2日~2014年4月1日生まれの2018年1月の時点で3歳クラス(年少)の子供なら、同年4月に4歳クラス(年中)、無償化先行開始の2019年4月には5歳クラス(年長)の無償化先行開始対象年齢になりますので、無償化対象です。

2014年4月2日~2015年4月1日生まれの2018年1月の時点で保育園2歳クラス、もしくは幼稚園入園1年前の子供なら同年4月に3歳クラス(年少)、無償化先行開始の2019年4月には4歳クラス(年中)ですが選考対象ではないのでまだ無償化にはなりません。2020年4月には全面無償化予定ですので、5歳クラス(年長)で初めて無償化対象になります。

2015年4月2日~2016年4月1日生まれの2018年1月の時点で保育園1歳児クラス、もしくは幼稚園入園2年前の子供なら同年4月に2歳児クラス(幼稚園入園一年前)、2019年4月には3歳クラス(年少)、2020年4月の4歳クラス(年中)で無償化が始まり対象になります。

3年間無償化になるのは、2018年1月で0~1歳の子供とその世帯から

2020年4月の幼児教育・保育無償化を3~5歳児の3年間全てで対象となるのは、幼児教育・保育全面無償化が開始される2020年4月に3歳児クラス(年少)になる、2016年4月2日~2017年4月1日生まれ(現在保育園児なら0歳児クラス)以降の子供とその世帯です。

無償化は最優先か 幼児教育・保育無償化の背景にある問題点

無償化はメリットだけではない

幼児教育・保育無償化が実施されると、対象の子供を持つ世帯の教育や保育にかかる費用負担が軽減されます。実際に、私立幼稚園しかない地域に住む世帯や、認可保育園に入れず認可外保育園に入所させている世帯の保育料負担はとても大きく、3歳~5歳の間にかかる教育・保育費用も出生率の低下を招いている要因にもなっているのです。

幼児教育・保育無償化になれば世帯の負担もぐっと軽くなりますので、もう一人子供を持ちたい、と思うきっかけになるなど出生率の向上にも繋がります。また、今までの幼児教育・保育の費用を家計や子供の他の習い事に回すなどもできます。

メリットを見ればとても魅力的な幼児教育・保育無償化ですが残念ながらその背景には問題点が山積みになっています。次に、幼児教育・保育無償化の問題点について見てみましょう。

無償化よりも待機児童解消が先決

幼児教育・保育無償化を行うのではなく財源を不足している認可保育園の施設費や、保育士の待遇改善に使い待機児童解消を最優先すべきという声も多くなっています。

今回の幼児教育・保育無償化は一部の無認可保育園は助成の対象外となっています。ですので、今以上に認可保育園への入園競争が激化することになります。また、保育園激戦区で認可保育園に入れず、やむを得ず認可外保育園やベビーシッター、託児所などを利用して仕事をしている人もたくさんいますが、高い保育料を払って子どもを預けているのに、恩恵を受けられるのは認可保育園に入れた子供とその世帯だけ…と、無償化への不公平感は否めません。

実際に、幼児教育・保育無償化に一部の認可外保育園などを無償化の対象から外す事に反対するネット署名を市民グループが始め、募集開始から署名数は5日間で1万人強を超えました。集まった署名は片山さつき参院議員へ提出されています。

参考:
東京新聞 認可外保育 ネット署名 無償化除外反対 5日で1万筆超
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201711/CK2017111402000105.html

また、無償化よりも保育士の待遇改善に回さないと、保育士の人材不足に歯止めはかかりませんし、待機児童解消にも繋がりませんので、まずは保育士の賃金を始めとした待遇改善を行うべきという意見もたくさんあります。

教育や保育の質の低下に繋がる

幼児教育・保育の無償化になると、幼稚園や保育園、認定こども園の施設側の負担が大きくなります。特に、働いていても幼稚園の持つ教育カリキュラムや園風、設備にひかれて保育園ではなく幼稚園を選ぶ保護者もいる中で、無償化になると園側が設備や教育にかけられる費用が減少しますので、幼稚園の質の低下に繋がると危惧されています。


保育園についても、例えば無償化になればフルタイム勤務ではなくパートタイムでも入園できる地域の保育園に「無料で入園できるから」と入所を希望する保護者が殺到し、限られた保育士の数で多くの幼児の対応をせざるを得なくなるなど、保育の質の低下に繋がると言われています。

所得の高い世帯にとっては損

保育料が高いと言われている0~2歳児の保育料無償化になるのは、住民税非課税世帯のみです。また、幼稚園、認可保育園、認定こども園に通わせている対象の子供がいる世帯でも、無償化の所得制限を設ける案もあります。つまり、一定の所得のある世帯は今まで通り保育料を支払うことになります。

今でも、所得によって自治体の子供医療費や幼稚園補助金の助成が受けられない、保育園の保育料が高い世帯はたくさんあります。つまり、高所得になればなるほど、子供に対する助成を受けにくく、もっと言えば子供をもちにくくなっているのです。乱暴な言い方をすれば、低所得であればあるほど子供に対する恩恵を受けやすく、子供を持ちやすくなっているのが現状です。

もちろん、低所得世帯への助成は必要ですが、それ以上に高所得世帯への負担が大きくなっている現状は、逆格差を生んでいるといっても過言ではありません。

高所得世帯への負担は、同じ「人づくり改革」の中に含まれている私立高等学校の実質無償化と大学無償化でも言えます。

当の子育て世代たちからは反対意見が多い

以上のことから、インターネット上を中心に子育て世代である当事者たちからは、幼児教育・保育無償化へは反対の意見が目立っています。Twitter上では#子育て政策おかしくないですかのハッシュタグが付けられた、幼児教育・保育無償化への反対ツイートが目立ちます。

まとめ

2018年1月時点で決まっている幼児教育・保育無償化に関する事項はあくまで案であり、2020年4月の無償化までに政策の方向転換がされる可能性もありますので、政府の動向に注視しなければいけません。無償化はとても魅力的な政策でもありますが、一方で今の子育て世代が本当に求めている子育て政策を行って欲しいと思います。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年1月28日時点調査または公開された情報です。
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