2020年には過半数がフリーランスに?アメリカの労働環境について

日米安全保障条約をはじめ、日本と政治的にも、経済的にも密接な関係にあるアメリカ合衆国についての現地日本人レポートです。

今回のテーマは「アメリカの労働環境」で、アメリカのフリーランス人口、フリーランスのポジティブ、ネガティブな面、フリーランスを守る取り組みなどについてご紹介します。


2018年1月、アメリカのニューヨークダウ平均株価は初めて26,000ドルを突破しました。加えて、アメリカの黒人の失業率も過去最低を記録し、トランプ大統領が主張するように「アメリカ経済は好調」であることが数字でも証明されました。

アメリカの経済は昇り調子であることは間違いないのですが、アメリカの労働環境はいったいどのような状況にあるのか、これこそが今回のテーマです。

現在、アメリカでは労働形態を示すある数字が確実に上昇傾向にあり、それが今後のアメリカ国民の働き方やアメリカ経済に直結する事象であると指摘されています。我が国日本においても他人事ではないこの現象についてご紹介します。

2020年には過半数がフリーランスに?

「3人にひとり」という数字が今回のテーマです。実はこの数字、アメリカのフリーランスで働く人の数を表しています。フリーランスとは、特定の企業や団体に属さずに、自身の才覚や技術力で社会的な独立を果たした個人事業主のことです。

簡単に言ってしまえば個人事業主ということになりますが、アメリカでは直近10年でこのフリーランスの数が急激に増加しています。2016年の調査では、アメリカの全労働人口の35%にあたる5,500万人がフリーランスに該当することが分かりました。

さらに、2014年には5,300万人だったフリーランスが、2015年には5,400万人、2016年には5,500万人と着実にかつ大幅に増加しており、2020年にはアメリカの全労働人口の50%をフリーランスが占めると推算されています。

日本では「ノマド(遊牧民)ワーカー」としても知られているフリーランスですが、アメリカの労働環境を大きく変える可能性があるとされ、経済関係者は注視しています。フリーランスはアメリカ経済にとってプラスに働くのか、マイナスに働くのか掘り下げてみましょう。

アメリカのフリーランスのポジティブな面

フリーランスの強みは「時間の融通がきく」ことと「収入を増やしやすい」ことでしょう。

アメリカのフリーランスはIT系のエンジニアに限らず、ライターや編集者など報道の分野にも広がっています。なかにはフリーランスのアナウンサーなどもあります。これらの職業は依頼を受けた仕事だけをこなせばいいため時間の融通をきかせやすいのです。

フリーランスの人たちの多くは「兼業」または「副業」をしているケースがほとんどです。なかでも最も多いのが、主とする職業の隙間時間を使ってUberやLyftなどのドライバーをしている人です。大都市圏以外でも需要が多いUberやLyftは、効率的にかつ着実に利益を上げられるため、副業としている人が多いのです。

実際に、Uberのドライバーを1ヶ月した場合、平均して1,000ドルから1,500ドルほどは稼げるとされています。私の知人のドライバーは、UberとLyftを使い分けながら空いた時間を使って、なおかつ長距離の注文だけを請け負って月に$2,500ドル稼いでいます。


利益からガソリン代や車の消耗品を差し引いても十分に利益はあがる計算です。副業にあたるUberでこれだけ稼げるため、本業の収入を含めると恐らく企業に勤めているよりも高い報酬を手に入れられます。本業と副業の時間の使い分けをうまくすることにより、収入を増やすことが現実的になるのです。

このように企業に束縛されることなく時間を有効に使えて、収入も増えることからフリーランスという労働形態はアメリカ人にとって魅力的に映っているのです。事実、アメリカはどんな企業においても経営者が圧倒的に強い存在のため、どんなに頑張って働いていても経営者の一声で職を失う危険性があります。こんな状況から脱せられることもフリーランスの魅力と言えるでしょう。

日本ではアメリカのように突然会社をクビになることは現実的ではありませんが、アメリカでは日常茶飯事です。完全に能力主義のため、経営者が少しでも気に入らなければ突然無職になってしまうのです。

日本とアメリカを比較した場合、会社の経営方針や経営者の権力などの文化に違いがあるため、アメリカのようにフリーランスが日本でも浸透するかどうかは分かりません。

アメリカで生活していると、少なくともアメリカのように日常的にクビになることなく、社会的立場も守られる日本の企業に属していることは良く映ります。

アメリカで増え続けるフリーランスは、銃やドラッグに象徴されるように、なんでも自由や権利を主張するアメリカらしい発想に見合っている最適な労働形態と言えるかもしれません。

アメリカのフリーランスのネガティブな面

フリーランスのネガティブな面は「社会的信頼が得られない」ことと「生涯安定した環境が続かない」ことでしょう。

アメリカは日本ほどではないものの、どのような企業で働いているかは、その人の社会的立場を判断するためのひとつの材料として使われます。この習慣を考えるとフリーランスは決して社会から認めてもらいやすいタイプとは言えません。

その実例が、クレジットカード作成に顕著に表れています。クレジットカードを作成する際には、年収と所属している企業を申請するのがほとんどです。その際に、フリーランスは「収入が安定しない」と判断されやすいのです。この点は日本も同じかもしれません。

ただし、個人的な経験ではアメリカでは「どの企業で働いているか」は話が進んだ段階で聞かれることが多い気がします。何よりも始めに聞かれることは「何をしているか」です。学生においては、一番始めに「専攻」を聞かれ、ある程度話が進んだ時点で「大学名」を聞かれることに置き換えられます。

次に、フリーランスの弱みと言えることは「生涯に渡り安定した環境はない」ということです。これはフリーランスの定めと言っても過言ではないでしょう。とくに駆け出しのフリーランスは最低賃金の保証もない「下請け」状態です。仮に、仕事をくれる会社が方針を変えたり、別のフリーランサーに仕事を渡したら収入は途絶えるのです。

この点については、企業に所属している方が圧倒的に有利で、年金や保険などの社会保証はフリーランスは自力でなんとかするしかありません。日本よりも社会保障制度が手薄いアメリカでは特に大きなデメリットと言えます。

報酬や社会保障、いずれも生涯に渡り自分の力で稼ぎ出す必要があるため、安定した環境はないと言えるでしょう。

フリーランスを守る取り組み

アメリカで増加し続けるフリーランスですが、デメリットがあることは確かです。しかも、そのデメリットは生活の根幹に直結するものなので、その人の人生が崩壊する可能性も含んでいます。アメリカでは、そうした事態を防ぐためにもフリーランスを守るための活動が始まっています。

2016年11月、ニューヨーク市はフリーランス労働者などの賃金を守るための条例「フリーランス賃金条例」を全会一致で可決しました。この条例の目的は、下請けという弱い立場になりやすいフリーランスの報酬を守ることです。


具体的には、一件の案件に対して800ドル以上の契約を結ぶ場合、書面による契約を義務づけることです。ごく当たり前のように思えますが、条例が可決する前までは、正式な契約書を取り交わしていないことを理由に、仕事に対する対価を支払わない企業も多かったのです。

「契約書がない」ことを理由に相手を食い物にする手法はアメリカらしい発想ですが、フリーランスが増加し続けるアメリカ社会でこの手法が蔓延してしまう前に、影響力が大きいニューヨーク市が、この条例を可決したことは大きな意味を持つとされています。

この条例を可決まで導いた存在こそが「フリーランサーズ・ユニオン(Freelancers Union)」です。1980年頃から増え始めたフリーランサー達の活動を支援するために弁護士であるサラ・ホロヴィッツ(Sara Horowitz)が1995年に前身となるWorking Todayを立ち上げ、2001年に設立しました。

2017年現在の会員数は全米で30万人ほどとされており、増え続けるフリーランスの仕事や生活を法的な面でも守るために活動をしています。今回可決された「フリーランス賃金条例」は、近い将来に過半数を占めることになるフリーランスを守るための法整備の布石となりました。

今後は、フリーランスのための団体年金割引や保険などの社会保障を充実させることが見込まれています。仮に、フリーランサーズ・ユニオンを通じてフリーランスの人でも企業に勤める人と同じような社会保障が約束されれば、アメリカの労働環境は大きく覆ると考えられています。

このことは、企業が個人やその家族も守るという社会の仕組みや、経営者だけが強いというアメリカのヒエラルキー(階級ピラミッド)の概念が変わることから、アメリカ経済はまったく新しい時代に進むことを意味しています。

このまったく新しい時代が、経済にポジティブな影響を与えるのか、ネガティブな影響を与えるのかは未知数ですが、フリーランスになる人の数の増加傾向や、それぞれの収入の増加に鑑みれば、ポジティブに影響する可能性の方が高そうです。

まとめ 日本より進むアメリカのフリーランス労働環境

アメリカの経済の仕組みを根底から変えることになりそうなフリーランスの存在ですが、ご紹介したように「副業しやすい環境」や「法整備」の点でアメリカは進んでいます。

同じようなことが日本でも成立するかは疑問が残りますが、フリーランスによるアメリカ経済の活発化の様相は理解しておくといいでしょう。

本記事は、2018年2月28日時点調査または公開された情報です。
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