【犬が受刑者を救う】念願叶った日本初の試み「刑務所で犬を育てる?」

「犬が受刑者を救う」とはどういうことでしょうか?筆者がアメリカの女子刑務所での取り組みを知った時から、実現を願い続けていた「介助犬の飼育」。日本ではなかなか受け入れられなかったのですが、ついに似たような取り組みを始めた施設があるそうです。


命を「助けられた」犬が受刑者を「助けている」

アメリカの女子刑務所が介助犬を育てていることを知った時、私はすっかり舞い上がってしまいました。その刑務所では、捕まえられて薬殺処分を待っている野良犬をもらってきて、これを介助犬として育てているというのです。

そして、育てるのは殺人などをして服役中の女子受刑者。彼女らの多くは長い刑期をもて余して落ち込んでいたところ、犬を育てるようになったら元気を取り戻し、更生を果たすことにも成功しているとのこと。死にかけた犬が助けられただけでなく、その犬が受刑者を癒し、更生意欲を引き出す。いわば命を助けられた犬が受刑者を助けているという構図です。なかなかいいではありませんか。

筆者は感動!しかし…

それだけではありません。その犬が無事介助犬になった暁には、その犬は貧しくて介助犬を買えない人に無料で進呈されるのだそうです。つまり、この刑務所のプロジェクトは貧しい障害者も助けているのです。何とも感動的なプログラムです。

この試みを知った私は誰彼となく話し、日本の刑務所でも導入できないかと陰に陽に画策(?)したのですが、ある大学の先生が論文化してくれた以外はケンモホロロの扱いでした。

「そんな夢物語、できるもんかよ」

大方の反応はこれでした。

とにかく反対されてしまう「夢物語」

確かに新しいプロジェクトを導入するとなるといろいろなハードルを越える必要があります。まず犬を飼えるように刑務所内の施設を改造しなければなりません。介助犬育成の訓練士も確保しなければならないし、予算も獲得しなければならないなどなど。気が遠くなるほど面倒です。だから誰もやろうとしない。まして、うまくいかなかったら責任を問われます。頼まれてもいないことを手掛けて失敗し、それで冷や飯を食う羽目になるなんてまっぴら、ということでしょう。

私がある女子刑務所の幹部になった時、おそるおそるこの企画を話したら、受刑者処遇の責任者を務める処遇首席は、「犬って臭いですよね」「それにワンワン泣くから近所迷惑になります。きっと苦情が殺到しますよ!」と別の見方から反対しました。

「夢物語」が遂に実現!

(こりゃいかん)

出る杭はすぐ叩こうとする日本の文化の下ではしょせん無理かと諦めて数年経ったとき、この企画が突然実現することになりました。その刑務所は島根県の官民協働刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」。受刑者は男性であり、介助犬ではなく盲導犬。また、育てる犬は普通に育った犬なので野良犬ではないなどの違いはありますが、ともあれ刑務所で受刑者が盲導犬を育てるのです。私はとても喜びました。

経緯を聞けば、このアイディアは国(法務省)ではなく、民間企業から出てきたとのこと。官民協働刑務所ならではのことだったようです。お堅い国も、柔らか頭の企業がやりたいというのなら「ま、いいか」と受け入れたのかもしれません。半官半民の刑務所は歴史的な試みでしたので、その目玉が必要だったということも背景にあったのかもしれませんし、盲導犬育成を実践するのは企業側とされたので、「責任」を負いたくないウイルス病に感染している国も安心できたのかもしれません。いろんなことがうまく重なってできたことなのでしょうが、とにもかくにも良かった。


私の提案を「夢物語」と一蹴した人たちの顔が浮かびました。「ざまあ見ろ!」とまでは言いませんが、私の感覚とか考え方は間違っていなかったと胸を張りたい気分になりました。

犬がもたらした好影響と、これから期待したいこと

そんなこともあって、犬たちのその後の動向が気になり、実際に同センターにも行って見せてもらいました。

そこでは期待していたとおり、犬が受刑者に良い影響を与えていることが確かめられていました。彼らは昼間の訓練だけでなく、夜になると犬を自分の部屋に連れて行って一緒に過ごすとのことで、このようなことも大きな要因のようでした。犬は御主人が犯罪者だということを知らない(関係ない)こともポイントなのかもしれません。

そして遂に、導入から4年後の平成25年、同センターで初めての盲導犬が誕生しました。報道もされて、刑務所にとっては珍しい明るい記事となりました。22頭を育てて1頭だけとのことで、なかなかハードルは高かったようですが、盲導犬になれなかった犬もセラピードッグなどとして人の役に立てているとのこと。

関わった受刑者は87人。彼らもしっかりと更生してほしいものです。そしていつか、アメリカのように、野良犬から介助犬を育て、これを貧しい障害者にプレゼントする刑務所が出てきてほしいと思っています。

(小柴龍太郎)

本記事は、2018年2月7日時点調査または公開された情報です。
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