【母は死んで子を生かす…】矯正不能な受刑者はいない

受刑者の親族が亡くなると、受刑者は「喪服休業」を取得するそうです。親族の死をきっかけに更生する受刑者がいる一方で、司法では年齢なども理由に「矯正不能」とされてしまう受刑者がいます。筆者は刑務官としての経験から、矯正不能な受刑者などいないと、意義を唱えます。


刑務所での喪服休業

受刑者の親族が亡くなったことが分かると、刑務所では服喪休業の措置が取られます。作業に従事することを免じられて、自分の部屋で喪に服するのです。

ある日私が刑務所内を巡視して歩いていた時、一人嗚咽にむせんでいた受刑者の部屋にさしかかりました。部屋の入口には服喪休業中であることを示すプレートがかかっていました。母親が亡くなったということは後で知りました。

同時にその受刑者は何度も刑務所に入ってきている人で、刑務所に入れば入ったで規律違反を繰り返し、刑務所にとっては困り者の一人だったことも分かりました。

その荒くれ受刑者が母の死の知らせを受けて泣いている。歳は40代。いい大人です。

ある受刑者にとっての喪服休業

その大泣き男の名前を覚え、何となく気になっていたのですが、服喪休業が明けてしばらくして、その受刑者が働く工場の担当職員から、

「最近、やっこさんが急にまともになったんですよねえ。どうもおふくろが死んだことがきつかったみたいなんですよ」

と聞きました。あとで彼の調査票(受刑者の身上関係や受刑状況などが分かるようにされた書類綴り)を見ると、確かに服喪休業の後は人が変わったように真面目な生活ぶりで、何か月も規律違反を起こしていませんでした。彼にしては劇的な変わりようです。

不可能な矯正など無い

やはり母の死がこたえたんでしょう。

「なんて親不孝な息子なんだ。死に水を取ってやることもできなかった。かあちゃんごめん!」

そんな思いをしたのではないかと想像しました。

世間では一度刑務所に入ったような人は2度と真人間には戻れないと思っている人が多いようです。裁判所でも「矯正は不可能」などという判決書を出したりしています。でも私は、それは事実に反すると思っています。確かに多くの受刑者は再犯してまた刑務所に戻ってきます。


でも同じくらい、いやそれ以上の受刑者が2度と刑務所には戻ってきません。それが事実です。統計上も明らかですし、刑務所で働いてきた私自身の実感でもあります。

更生に年齢は関係ない

そして、更生していく受刑者の年齢は必ずしも一定ではないように感じています。つまり、若い人ほど更生率が高いとはいえないような気がするのです。歳を取っても、何度刑務所に入っても更生はできる。そのチャンスというかきっかけがある、そう思います。

母の死で人が変わったようになった受刑者を実際に目撃して、更にそう思うようになりました。この受刑者の場合は、お母さんが死ぬことによって自分の息子にカツを入れ、立ち直らせたのかもしれません。

人によっては結婚が更生のきっかけになるようです。愛する伴侶のために真面目になろうと思ったり、子供が生まれて初めてまっとうな社会人として生きなければいけないと目が覚めたりするということもあるようです。

再犯防止教育を続けることが重要

このように、受刑者の更生と社会復帰は、何も刑務所の力だけで実現するものではありません。肉親や妻子の力の方がはるかに大きなものがあります。

ただ、刑務所は受刑者の更生を諦めない。捨て去ることはしない。再犯防止の指導などを繰り返しながら、それがうまく奏功しなくても諦めない。そしていつか来るかもしれない更生のきっかけを待つ。それはできます。そしてそれを続けることが大事だと思っています。

「矯正不能」の判断と「死刑判決」について

だから、矯正不能と断じて死刑判決を出す裁判官には違和感を覚えます。

確かに実際に精神的な疾患にかかっている人を含め、病的なほど悪事を繰り返す人はいます。しかしながら人は変わり得る生き物です。病気なら治る可能性があります。

ですから、「矯正不能」などとは誰も言えないと思うのです。死刑判決に異を唱えるものではありませんが、せめて判決文には「矯正不能」という言葉を使わないでほしいのです。

(小柴龍太郎)

本記事は、2018年3月23日時点調査または公開された情報です。
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