【イタリアの政治事情】2018年総選挙後のイタリアについて

イタリアでは、昨年末にマッタレッラ大統領が議会を解散させ、ジェンティロー二内閣が日程を決定し、3月4日に総選挙が実施されました。議会が解散してから総選挙まで、各政党の動きが連日報道され、結果は予想通りでしたが、予想を裏返すようなことも起こりました。今回はその総選挙後の最新政治状況を紹介します。


総選挙の結果とその影響

総選挙の結果

今回の投票率は、72.93%でした。前回の2013年総選挙に比べて、2.31%低い投票率です。とは言え、日本での総選挙より高い得票率ですし、国民の意思を十分反映している結果と言えます。

現在のイタリアにおける主な政党は、「五つ星運動」、フォルツァ・イタリア(元首相ベルルスコーニ氏が率いる)、同盟、民主党(前首相レンツィ氏が率いる)です。

各政党、政党連合の得票率は下記の通りです。

<下院>
「五つ星運動」32.66%、中道右派連合(フォルツァ・イタリア、同盟など)37%、中道左派連合(民主党など)22.85%

<上院>
「五つ星運動」32.22%、中道右派連合(フォルツァ・イタリア、同盟など)37.49%、中道左派連合(民主党など)22.99%

選挙後の動き

「五つ星運動」が単独で第一党になりましたが、他政党が連合を組んでいるため、議会多数とはいかず、「五つ星運動」のみでの組閣は困難です。

「五つ星運動」、中道右派連合、中道左派連合の三つ巴になることは、ある程度予想されたことでしたが、予想外だったことは、「五つ星運動」がここまで得票を伸ばすことと、民主党が大幅に得票を減らしたこと、中道右派連合の中で元首相ベルルスコーニ氏率いるフォルツァ・イタリアが同盟よりも低い得票率だったということです。

4月3日現在、選挙が終わり1ヶ月近く経ちますが、いまだに組閣はできていません。第一党として「五つ星運動」が先頭に立ち、組閣のための話し合いを他党に呼びかけています。

3月24日には、「五つ星運動」と中道右派連合は歩み寄りを見せて、上院と下院での議長が選出されました。下院の議長は、「五つ星運動」の下院議員のロベルト・フィコ氏、上院の議長は中道右派連合のフォルツァ・イタリアの上院議員のエリザベッタ・カセラッティ氏が選ばれました。

この間、「五つ星運動」のリーダー、ルイジ・デ・マイオ氏と中道右派連合のリーダー格となっている「同盟」のマッテオ・サルヴィーニ氏の話し合いが、連日のように報道されました。

前首相のレンツィ氏が率いる民主党は、話し合いのテーブルにもついておらず、党首であったレンツィ氏は敗北を認め、新しい党首が選出されました。新党首の話によると、民主党は野党の立場を取る様子です。


組閣はできていませんが、「五つ星運動」のリーダー、デ・マイオ氏が党の次の取り組みとして、国会議員の給料を国に返還する取り組み、議員終身年金法の廃止を宣言しています。「五つ星運動」は結成当時から、国の予算の無駄遣いを指摘しており、議員の高い給料削減や終身年金法の廃止を主張してきました。今までも国会議員と地方議員が給料の一部を返還してきました。

今回、下院議長となったフィーコ氏は4,000ユーロを返還したと発表しました。フィーコ氏以外にも下院、上院の役員となった10名の「五つ星」議員が返還をしています。驚くことは、この動きが他党議員にも拡がっていることです。フォルツァ・イタリアと民主党の2名の議員が、給料の一部を自分が支援する運動団体や出身地に譲渡することを発表しました。

各党について

五つ星運動

五つ星運動は、元コメディアンのベッペ・グリッロが先頭に立ち、2009年に設立された政党です。

社会・政治批判を書いていたグリッロのブログが基になって、彼の意見に賛同したイタリア各地の若者たちを中心にして、グループが作られたのが始まりです。

そのため、インターネットを駆使した若者たちの政党というイメージが強いのですが、現実は選挙や政治活動で地元の人たちとの会話を重ねて、得票数を上げています。

今回の選挙では首相候補を立て、また組閣のための大臣候補も立て、いわゆる「影の内閣」を発表した唯一の政党です。党の主張としては、直接民主主義、汚職議員の免職、政治家の特権廃止などです。

ここ20数年にわたり、元首相ベルルスコーニ氏を先頭に、汚職や職権乱用、マフィアがらみで起訴されている国会議員が2桁もいるという状況が続き、政治汚職に対する国民の怒りは限界にきています。

「五つ星運動」は、こうした国民の怒りをすくい取っていると言えるでしょう。

フォルツァ・イタリア

フォルツァ・イタリアは、元首相のベルルスコーニ氏が率いていますが、リーダーであるベルルスコーニ氏は脱税で有罪宣告を受けたため、選挙には立候補できませんでした。

ベルルスコーニ氏は、過去4回イタリア首相を務めたこともあり、企業家として建設業、メディア業で多額の資産を持っていることでも有名で、ここ20数年の「イタリアの顔」として海外でも知られています。

ただ、政界に進出してからは、賄賂やマフィアとの関連、脱税、未成年買春などのスキャンダルが後を絶たず、公職追放と共に今回の選挙結果から、政治家としての影響力はなくなったと言えるでしょう。

同盟

以前は北部同盟という党名でした。名前の通り、北イタリアの独立を政党の第一目的としていましたが、今回の選挙では、党名から「北部」という言葉を外して、「まずはイタリア人」というスローガンを掲げて、党首が初めて南イタリアでも選挙運動を行いました。

反移民の主張は、現在も変わらず掲げていますが、以前のようにその主張が単に極右主義と見られるのではなく、イタリアの直面する切実な問題として、国民にとらえられたのではないでしょうか。

というのも、毎日のようにアフリカから移民がシチリアに漂着してきて、EU圏で唯一イタリアがこの問題に経済的にも物理的にも真正面から取り組まなくてはいけないからです。

さらに、2012年に党内資金の大規模な横領事件が持ち上がり、当時の党首であり党創設者でもあったボッシ氏が失脚し、党のイメージダウンにつながりました。さらに、これまでボッシ氏が行ってきたベルルスコーニ氏との連合も、同盟の支持を下げました。


2013年に若手のサルヴィーニ氏が同盟の党首に選出され、同盟の主張は北部の利益を守る郷土主義から、反EU,反移民、反ブローバリズムと変更され、地方政党から国民政党への変化を遂げました。

民主党

民主党はイタリア共産党の流れをくむ、左翼政党という位置を保ってきましたが、ここ数年でその存在価値はほとんどなくなっているといっても過言ではないでしょう。

戦後西ヨーロッパ最大の共産党として、イタリア共産党は常に野党として国民の支持を集めてきましたが、前首相レンツィ氏が行った政治はベルルスコーニ氏の行った政治以上に、国民の失望と怒りをかいました。

長年にわたるベルルスコーニ首相の汚職政治やモンティ首相の行った緊縮政策に反するように、イタリア最年少の首相となったレンツィ氏ですが、国民の期待が大きかっただけに、失望も大きかったことは事実です。

レンツィ氏就任時におこった最大のスキャンダルは、エトルリア銀行の負債救済策です。エトルリア銀行は破産し、現在は別の銀行になりましたが、その際にエトルリア銀行の預金は返金されないという事態が起こりました。

そのために、預金者の中から自殺者も出たほどです。問題は、エトルリア銀行の副頭取と幹部がレンツィ氏の側近の家族であったということです。この側近は、レンツィ内閣で大臣にもなり、現在も内閣の主要な地位についてます。

その後、2016年には憲法改正の国民投票をするとレンツィ氏が発表しますが、国民投票は否決されてレンツィ氏は首相を辞任します。

エトルリア銀行のスキャンダルと国民投票を通して、イタリア共産党の流れを汲み、国民の立場に立っている左翼政党という幻想が一気に崩れたという印象です。

その結果が、今回の総選挙に表れたのでしょう。今のところ、民主党がこの現実を立て直せるような強力なリーダーは見当たりません。

まとめ

総選挙前、地方選で得票数を伸ばし続ける「五つ星運動」を制するために、右派と左派が一緒になり、新選挙法を作りましたが、それでも「五つ星運動」の勢いは止まりませんでした。そこに国民の健全な意思が表れていると思います。

日本は、自民党が戦後ほぼ常に政権をとっています。イタリアも戦後、キリスト教民主党がずっと政権を取っていました。その後ベルルスコーニ氏が登場し、イタリア政治に大きな影響を与えました。首相が右派から左派、左派から右派へ、そして、現在新しい勢力である「五つ星運動」の登場と、日本では見られない変化が見られ、イタリア国民の意思がきちんと政治に反映されていることが見て取れます。

本記事は、2018年4月12日時点調査または公開された情報です。
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