【雪国の救助隊】北陸地方・甲信地方の高度救助隊・特別高度救助隊について

日本海に面し豪雪地方として知られている北陸地方。さらに日本でも有数の山岳地帯として知られ、同じく雪国の甲信地方の各都道府県の消防本部では、高度救助隊・特別高度救助隊が設置されています。

ここでは、北陸地方・信越地方の救助活動に携わる、それぞれの消防本部の高度救助隊・特別高度救助隊を紹介しています。


目次

北陸地方の高度救助隊・特別高度救助隊

3つの高度救助隊、1つの特別高度救助隊が配置

総務省消防庁の定める「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令」により、日本全国の消防局や消防本部には編成と配置する救助隊の人数や規模が決まっています。この省令にのっとり、中核市やそれに準ずる自治体の消防本部には「高度救助隊」、政令指定都市には「特別高度救助隊」が配備されています。

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省令によって設置する4段階の規模の救助隊について詳細はこちらから。

北陸地方には富山県富山市消防局、石川県金沢市消防局、福井県福井市消防局にそれぞれ高度救助隊を1隊ずつ、新潟県新潟市消防局に特別高度救助隊が1隊配備されています。次にそれぞれの高度救助隊・特別高度救助隊について見ていきましょう。

富山市消防局 高度救助隊について

富山消防署に配置された高度救助隊

中核市である富山市消防局の富山消防署には、1隊7名の2部構成、合計14名の隊員からなる高度救助隊が配置されています。2008年に9月に既存の富山消防署の救助隊を高度救助隊に昇格、10月に高度救助隊に必要な高度救助資機材の整備や隊員数の増員を受けて発足しました。また、局潜水救助活動要項に基づく潜水救助員に1名が指名、2009年12月に消防庁長官から富山市が国際消防救助隊編成協力市町村の登録を受けたのに伴い、隊員6名が国際消防援助隊の登録を行っています。

今までの出動実績について

2011年3月11日から4月6日まで(富山県隊活動は4月11日まで)東日本大震災へ緊急消防援助隊として出動した実績があります。

運用する車両や装備について

富山市消防局の高度救助隊は、救助工作車Ⅲ型を一台運用、必要に応じてはしご車も運用しています。また、高度救助用資機材やツールとして、画像探査機を2台、地中音響探査機、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、救助用支柱器具を所有、使用しています。

金沢市消防局 高度救助隊について

金沢市中央消防署に配置

石川県の県庁所在地である金沢市の金沢市消防局では、金沢市中央消防署に1隊7名の2部制、計14名の高度救助隊が配備されています。2007年10月に、中央消防署に配置されていた救助隊を高度救助隊に昇格させ、石川県内で初の高度救助隊として配備されました。日本海に面している石川県の高度救助隊のため、水難事故や水害への対応として高度救助隊員以外も含めて計26名が潜水士の資格を取得しています。また隊員6名が国際消防援助隊に登録しています。

今までの出動実績について

2004年の新潟・福島豪雨災害、福井豪雨災害に1日ずつ、新潟県中越地震に1日、2011年の東日本大震災へ14日間緊急消防援助隊として出動した実績があります。

運用する車両や装備について

金沢市消防局の高度救助隊は、救助工作車Ⅲ型を1台運用しています。また、高度救助用資機材やツールとして、画像探査機、地中音響探査機、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、ダブルブレードエンジンカッターを所有、使用しています。

福井市消防局 高度救助隊について

東消防署に配置

福井市消防局では、2008年7月より東消防署に1隊5名の3部制、計15名の高度救助隊が配備されています。高度救助隊員の内10名が潜水士の資格を取得、6名が国際消防援助隊に登録しています。


福井市消防局の高度救助隊は、体力もあり救助技術も高い主に若手の隊員で構成されているのが特徴です。また、震災対応部隊としてCSR&M(Confined Apace Rescue & Medical:瓦礫の下に侵入して行う救助活動と医療活動のこと)訓練や、福井県警察本部機動隊および他県消防機関などとの合同訓練も行っています。

今までの出動実績について

緊急消防援助隊として、2007年3月25日に石川県能登半島沖地震へ4隊15名が出動、東日本大震災時には岩手県陸前高田市に2011年3月11日から23日までの12日間、福井市消防局全体として20隊84名が出動した実績があります。

運用する車両や装備について

福井市消防局の高度救助隊は、救助工作車Ⅲ型を1台運用しています。また、高度救助用資機材やツールとして、画像探査機、地中音響探査機、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、救助用支柱を所有、使用しています。また、NBC災害対応のため、除染シャワーテントも所有しています。

新潟市消防局 特別高度救助部隊SARTについて

新潟市の政令指定都市移行に伴って配置

総務省消防庁の定める「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令」では、政令指定都市には「人命の救助に関する専門的・かつ高度な教育を受けた隊員5名以上かつ基準の装備を所有する」特別高度救助隊を1隊以上配置しなければいけません。この省令にのっとり、2007年4月1日に新潟市が政令指定都市に移行するのを受けて発足したのが新潟市消防局の特別高度救助部隊SARTです。SARTとは「特別高度救助部隊」の英訳である“Special Advanced Rescue Team”の略称で、同時に新潟市消防局特別高度救助部隊の愛称として使用されています。なお、本項でも以下新潟市消防局の特別高度救助部隊を「SART」と記します。

SARTは新潟市消防局の本部直轄部隊として、新潟市消防本部警防課に所属し、1隊5名の3部制、計15名の隊員から構成されています。また、運用している車両は本部に併設された中央消防署に配置しています。なお、新潟市消防局では各消防本署に特別救助隊を配置していますが、中央消防署にSARTを配置していることからバランスを取り、中央消防署に配置される特別救助隊を代わりに県庁前出張所に単体配置しています。

特別災害と水難救助業務も担当

新潟市は日本海に面していて日本を代表する港町のひとつであり、更に新潟市消防局の管轄内には海だけでなく一級河川の信濃川と阿武隈川が流れる海と河川に恵まれた地形です。そのため新潟市消防局内では、かつて各消防本署に配置されている特別救助隊内で水難救助隊員を育成し、管轄する地域の水害や水難救助業務も通常の救助業務と兼任する体制を取っていました。ところが、特別救助隊員を含めて消防局内で人事異動が定期的にあるため、計画的な水難救助隊員の育成を各消防署が担うのは困難と判断し、NBC災害などの特殊災害対応と合わせて、SARTが専任部隊として新潟市内の水難救助業務を全て請け負うことになりました。

これを受けて、SARTには15人の潜水士の有資格者が所属し、ほかの地方自治体消防局に所属する特別高度救助隊と異なり、水難救助にも特化している部隊である特徴があります。そのため、新潟市消防局の出場体制では、市内の各消防本署に配置された特別救助隊が管轄内の救助案件へ出場するのと同じく、SARTも管轄内の通常救助案件へ出場しますが、特殊災害や水難救助事案に対しては管轄を持たず、SARTが市内全域へ出場します。

水難救助訓練はもちろん、トライポッドなどの救助用支柱を使用した要救助者の吊り上げ訓練や、がれきの下に侵入して要救助者を救助するCSR閉所空間からの救出訓練などの最新鋭の救助技術を身に着けるための訓練も日々行われています。

今までの出動実績について

国際緊急援助隊として、ニュージーランド南島地震にのべ9日間出動した実績があります。また、緊急消防援助隊として岩手・宮城内陸地震にのべ2日間、東日本大震災にのべ61日間出動した実績があります。

運用する車両や装備について

新潟市消防局のSARTは、救助工作車Ⅲ型を1台のほかNBC災害対応部隊として特殊災害対応自動車および陽圧式NBC災害対策車を各1台ずつ運用しています。高度救助用資機材やツールとして、画像探査機2台、地中音響探査機、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、電磁波探査装置、二酸化炭素探査装置、水中探査装置を所有、使用しています。

その他の救助用資機材として、大型除染テントやHAZMAT-ID、GAS-ID、陽圧式化学防護服や化学防護服も使用しています。

甲信地方の高度救助隊について

長野市・山梨市それぞれに1隊ずつ高度救助隊が配置

甲信地方には長野県長野市消防局と山梨県甲府地区広域行政事務組合消防本部にそれぞれ1隊ずつ高度救助隊が配置されています。

長野市消防局の高度救助隊について

中央消防署に配置

長野市消防局では、本部消防局直轄部隊として中央消防署・高度救助係に1隊7名の2部制、計14名の高度救助隊が配備されています。2008年3月に配備された長野市消防局の高度救助隊は、長野県内で初の高度救助隊として今日まで活躍し、高度救助隊員の内10名が潜水士の資格を取得、3名が国際消防援助隊に登録しています。

今までの出動実績について

緊急消防援助隊として、新潟県豪雨災害に2日間、福井県豪雨災害に2日間、2004年の新潟県中越沖地震に5日間、2011年の東日本大震災に24日間出動した実績があります。

運用する車両や装備について

長野市消防局の高度救助隊は、運用している車両が多数ある特徴があります。救助工作車Ⅲ型1台を運用するほか、水難NBC対応車や特殊作業車などの特殊災害への対応ができる車両、45mはしご付き消防自動車、屈折はしご付き消防自動車の2台のはしご車も運用しています。


また、高度救助用資機材やツールとして、画像探査機2台、地中音響探査機、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、救助用支柱を所有、使用しています。また、NBC災害対応のため、陽圧式化学防護服や化学防護服、放射線防護服も最新ツールとして所持しています。

甲府地区広域行政事務組合消防本部の高度救助隊について

南消防署に配置

山梨県甲府市、甲斐市、中央市および中巨摩郡昭和町の3市1町で設立・運営している甲府地区広域行政事務組合消防本部では、甲府市の南消防署に1隊8名の2部制、計16名の高度救助隊を配備しています。2008年4月に配備され甲府地区広域行政事務組合消防本部の高度救助隊は、隊員の内1名が潜水士の資格を取得しています。

今までの出動実績について

緊急消防援助隊として、2004年の新潟県・福島県豪雨災害に2日間、福井県豪雨災害に2日間、2004年の新潟県中越沖地震に2日間、2011年の東日本大震災に24日間出動した実績があります。

運用する車両や装備について

甲府地区広域行政事務組合消防本部の高度救助隊は、救助工作車Ⅲ型1台と特殊災害用資機材搬送車を運用しています。

また、高度救助用資機材やツールとして、画像探査機2台、地中音響探知機、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、救助用支柱を所有、使用しています。また、NBC災害対応のため、陽圧式化学防護服と化学防護服も所持しています。

北陸・甲信地方の高度救助隊・特別高度救助隊になるには?

希望する消防本部の採用試験を受験・合格する

まず高度救助隊・特別高度救助隊になるには、各都道府県消防本部で行っている消防官の採用試験に合格しなければいけません。自分が希望する自治体によって受験要項や条件、時期や試験の内容は異なりますので、受験を希望する自治体の採用情報は必ずチェックしておきましょう。なお、日本全国の消防官採用試験は日程が同じでなければ、複数の自治体消防本部の採用試験を併用しても問題ありません。

採用試験の書類は採用試験日の約2か月前から配布が始まりますので、例年大卒なら4~5月、高卒なら6~8月ごろから配布が開始されます。市役所や消防本部などへ取りに行く、返信用封筒を同封して郵送で取り寄せる、採用サイトなど公的なサイトからダウンロードするなどの方法があります。

書類が手に入ったら書式に従い、書類を完成させて提出します。必ず申し込みの期日に間に合うように、余裕を持って作成します。また、願書のほかにエントリーシートが必要な自治体もあるので注意しましょう。

採用後、実務経験を積んで救助隊の道へ

採用試験に合格後は、各消防本部の警察学校で消防士としての基礎を学ぶために初任教育を受け、無事に卒業すると配属先が決まります。最初の一年は消防士としての実戦経験を学ぶために、消火隊に配属になるケースが多いです。その後実務経験を積んだ後、希望を出して上司の推薦があれば救助隊への道が開けます。

救助隊に配属された後、さらに高度救助隊・特別高度救助隊としてキャリアアップしていきますが、高度救助隊・特別高度救助隊は希望者も多く大変狭き門です。そのため、自治体消防本部によってはあらかじめ選抜試験などを設けて希望者をふるい落とし、さらに特別な研修や試験を突破した隊員のみに道が開かれます。

まとめ

厳しい自然環境に囲まれた、北陸と甲信地方の高度救助隊・特別高度救助隊について紹介しました。それぞれの地域で独自の救助隊運用方法を設け、今日まで運用されています。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年5月26日時点調査または公開された情報です。
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