救助隊(レスキュー隊)について
救助活動を担う部隊
各都道府県に設置されている消防本部以下の消防署には、隊員の担う役割によって「消火隊」「救助隊」「救急隊」の3つの部隊に分けられています。この中で、救助活動を担っているのが救助隊です。レスキュー隊とも呼ばれます。
オレンジ色の制服の理由
救助隊のシンボルといえば、他の部隊とは違うオレンジ色の活動服です。これは、国際基準の救助カラーがオレンジと定められていて、それに従って日本の消防職員の制服を規定する「消防吏員服制基準」でも「救助隊の活動服はオレンジとする」と定められています。
なぜオレンジ色が国際的な救助カラーというと、目立つ色で暗い所や煙の中でも識別しやすい色だからです。色の波長は長ければ長いほど遠くでも視認しやすいのですが、オレンジ色は赤に次いで2番目に波長が長い色です。既に赤は消防車両に採用されているので、救助隊員の活動服も赤にしてしまうと、逆に赤同士で混同してしまい見づらくなるので、次に波長の長いオレンジ色が活動服の色として採用されました。
各自治体の消防本部によって制服の細かいデザインは異なりますが、オレンジであることや肘や膝など特に負担のかかる部分には補強がしてあるなどの特徴があります。
救助隊(レスキュー隊)の任務について
事故現場へ出場する
救助隊も含めて、119番通報を受けて消防職員へ出場要請が下ると、現場で活動を行います。現場に急行し、活動にあたることを出動ではなく「出場(もしくは出勤)」と呼びます。本項では、東京消防庁の呼び方にならい、以下「出場」と記します。
交通事故現場
自動車や列車など交通事故現場へ救出救助活動のために出場します。
油圧スプレッダーやカッターなどの特殊な救助用資機材を使用して、車両と車両の間に挟まれて出られなくなってしまった要救助者の救出救助を行います。主に、交通事故現場では救急隊員が先着し、簡易的な救助用資機材で要救助者の救出を試みますが、それでも無理だった場合は救助隊が専門的な技術と資機材を使用して、救出救助活動を行います。
水難事故現場
海での水難事故救助の際には、海上保安庁が救助活動を行いますが、湖や川など水辺の水難事故現場には、消防の水難救助隊が出場します。消防の水難救助隊は潜水士の有資格者が水難救助技術と特殊資機材を駆使して水難救助活動を行う、まさに水難事故におけるスペシャリストです。
》【日本が誇る水難救助隊】水難・水害に立ち向かう「水難救助隊」とは?
海や川、湖など水辺での事故や災害の時に出動し、人命救助や捜索を主とした活動を行っている部隊が各組織の水難救助隊です。四方を海で囲まれ、川や湖などの水源に恵まれる日本は水辺の事故も多発しやすいため、水難事故や災害に特化した活動のできる高い技術力を持つ水難救助隊を様々な組織に配置しています。
山岳事故現場
山中での滑落や遭難などの山岳救助現場にも出場し、救助活動を行います。
特殊な山岳救助資機材を積んだ4WD仕様の山岳救助車で出場し、遭難者の捜索には、消火隊や救急隊など他の消防職員はもちろん、警察や自衛隊などの他機関と連携を取って活動を行います。場合によっては防災ヘリコプターなど空からの救出救助も行います。
》要救助者の救助から山中の治安維持まで 「山岳救助隊」の仕事内容
豊富な山岳地帯にも恵まれた日本は、山からの恵みを採ったり、ハイキングや登山を楽しんだりもできます。これらの活動の中では、時に遭難や災害により救助が必要になることも。ここでは、山岳地帯での要救助者を助ける山岳救助隊について機関ごとに紹介・解説します。
その他の事故現場
工場での作業中に作業員が腕を機械に巻き込まれて挟まってしまったり、子供が狭い場所に入り込んで出られなくなったり、といった人間が脱出できない状況に対しての事故にも、救助隊が出場し救助活動を行います。
火災現場へ出場する
火災の鎮火を行うのは消火隊ですが、消防署によっては火災への消火活動も救助隊が兼任していることがあります。また、高層ビル火災や工場の爆発事故など、火事の規模が大きかったり特殊だったりする時にも、救助隊が出場します。
火災現場で逃げ遅れた人の救出救助活動や、高層ビルなど高い建物の火災の時に活躍するのがはしご車です。このはしご車を運用しているのは、消火隊ではなく救助隊、もしくは専任のはしご隊であることがほとんどです。
また、化学工場や石油コンビナートなどの爆発火災などには、水での消火ではなく特殊な薬液を使用した泡原液による消火活動も行います。
災害現場へ出場する
台風や地震、津波、大雨など様々な災害が発生した時にも、救助隊が被災者の救出救助活動を行います。
緊急消防援助隊として
基本的には災害発生時にはその災害発生地域を管轄する消防本部の救助隊が出場し、救出救助活動を行いますが、管轄内の部隊の活動範囲を超える大規模災害発生時には、都道府県の垣根を越えて全国の消防本部から消防職員が集まって被災地へ支援に向かう「緊急消防援助隊」を始めとした部隊に出動要請が下ります。
》All for Oneの精神で動く日本の誇り「緊急消防援助隊」とは
大きな災害の時は、被災者の数も甚大となる為自治体の消防や警察だけでは対応できません。その時に、近隣地域、そして日本全国から集まる消防の援助隊が「緊急消防援助隊」です。災害大国である我が国には欠かせない存在である、緊急消防援助隊について見てみましょう。
国際緊急援助隊として
日本の救助隊の持つ高い救助技術は、海外の災害にも対応しています。海外で大規模災害が起こり、被災地から日本へ支援要請があった時には、消防組織内で登録している隊員を「国際緊急援助隊」の一員として国際協力機構(JICA)の調整の元で編成し、被災国へ向かいます。
緊急消防援助隊、および国際緊急援助隊として出動する救助隊員は、消防だけでなく警察、自衛隊、医療従事者で構成されるDMATなどと連携を取り、被災地や被災国で活動を行います。
》世界の災害現場へ支援の手を – 国際緊急援助隊と消防・警察の援助隊
災害大国である日本は警察や消防組織を始めとした高い救助や救急の技術力や知識を持っています。これを活かし日本以外の海外諸国での大災害時には、要請があれば現地まで応援に向かい、国際緊急援助隊として支援活動を行っています。
消防組織における救助隊(レスキュー隊)の定義について
省令によって設置する救助隊の規模は4段階
一言に「救助隊」と言っても、実は配備されている人数や規模、所持する救助用資機材は各自治体消防本部によって異なります。これは、総務省消防庁の定める「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令」に従って、4段階の救助隊規模に合わせて各自治体の消防本部が救助隊を整備しているからです。
一般救助隊
救助隊、もしくは第二条救助隊とも呼ばれます。日本全国の消防署で一番配置数の多い部隊が「一般救助隊」です。日本の消防署の数だけ配置することが決まっていて、現在日本全国で約900隊の一般救助隊が編成されています。
隊員編成の基準は人命の救助に関する専門的な教育を受けた隊員5名以上で編成するように努める、とし、装備は救助用ロープ、空気呼吸器、エンジンカッター、簡易画像探索機など最低限の資機材を有してれば良いです。運用する車両も、救助用資機材が積載できれば救助工作車ではない消防車両でも良いとされています。ですので、専任の救助隊ではなく消火隊と兼任で運用されている場合が多いです。
特別救助隊
第四条救助隊とも呼ばれ、人口10慢人以上の都市などに整備されている救助隊が「特別救助隊」です。一般救助隊と同様消防署の数だけ設置が義務付けられている部隊なので、現在日本全国で約600隊の特別救助隊が編成されています。
隊員編成の基準は、人命の救助に関する専門的な教育を受けた隊員5名以上が必須です。「その地域に住む人口が増えれば増えるほど事故や災害の発生件数も増え、かつ規模も大きくなる」という考え方から、特別救助隊は一般救助隊の持つ一般的な装備資機材に加えて、大型油圧救助器具などを追加装備として所持しています。また、車両も救助工作車を運用し、特別救助隊からは救助専任部隊として編成されることが多いです。
高度救助隊
中核市及び消防庁長官が指定する自治体消防本部に配備されるのが、第五条救助隊とも呼ばれる「高度救助隊」です。中核市もしくは指定された自治体消防本部では、消防署内の特別救助隊の内1隊以上を高度救助隊にする事が省令により定められています。現在、日本全国42の中核市と、消防庁長官が指定した自治体、自主整備の本部を含めて全国71本部74隊の高度救助隊が編成されています。
隊員編成の基準は、人命の救助に関する専門的「かつ高度な」教育を受けた隊員5名以上が必須です。一般救助隊・特別救助隊の持つ資機材に加えて、画像探索機や熱画像直視装置、地震警報器などの高度な資機材、それに最新鋭の機動性の高い救助工作車Ⅲ型などの救助用車両を運用します。
人命の救助に関する専門的、そして高度な教育を受けた隊員5名以上が必須ですので、高度救助隊の隊員は一般的な救助事案への対応に加えて、震災を始めとした大規模災害にも対応できる救助技術を身に着ける必要があります。消防救助操法に則した基本的な救助活動技術に加え、高度救助用資機材を使用した検索活動、山岳救助や水難救助など環境に左右されない救助技術、近年ではブリーチングやショアリングなどの都市型捜索救助(USAR)技術を始めとした国際基準の救助技術を取得した高度救助隊も増加してきました。
》【救助隊の訓練 基本編】3つの操法による基本的な訓練の紹介
日本の救助隊の持つ高い救助技術は、日本国内だけでなく世界各国からも高い評価を受けています。高い救助技術を保持・向上させるために欠かせないのが、日ごろの訓練です。今日は、救助隊が行っている基本的な訓練の内容について紹介します。
》【救助隊の訓練 応用編】進化する救助隊の訓練と都市型検索救助技術とは
日本全国の救助隊は、基本となる救出活動訓練として消防救助操法に則った訓練を日々行っています。さらに、基本を生かしてより多くの救助活動を行える応用的な訓練も行っています。今回は、救助隊の訓練の中でも、より高度で専門的な応用訓練について紹介します。
特別高度救助隊
第六条救助隊とも呼ばれ、救助隊区分の中でも最高峰に位置するのが、東京消防庁及び政令指定都市の消防本部に設置が義務付けられている「特別高度救助隊」です。東京消防庁及び政令指定都市の消防本部では、設置する高度救助隊の内1隊以上を特別高度救助隊とする事が省令で定められていて、現在日本全国で21本部に配置されています。
隊員編成の基準は高度救助隊の編成基準に加えて、放射線物質や生物、化学剤などの「NBC災害」と呼ばれる特殊災害にも対応できる部隊としても位置付けられています。装備は高度救助隊の特殊高度資機材に加えて、ウォーターカッター車や大型ブロワー車、もしくはこの両方の機能を兼ね備えた特別高度工作車を運用しています。車両も、救助工作車の他特殊災害にも対応できるように、特殊災害対応自動車を1台以上運用しています。
救助隊の中でも最高峰に位置する特別高度救助隊は、どんな困難な状況でも人命を救出するという任務が課された部隊です。その為、救助隊の中でもより高い救助技術や知識に加え、重機や消防ロボットの操作や運転ができる、救急救命士などの特殊資格がある、どんな資機材も使いこなせるなど、一定の分野の専門性の高い隊員で構成されている特徴もあります。
特別高度救助隊は、より市民に身近な存在でありたい、もしくは救助活動に込めた使命や願い、思いを込めて各特別高度救助隊ともに愛称が付けられています。例えば、東京消防庁の特別高度救助隊である「ハイパーレスキュー」は正式名称ではなく愛称。「東京消防庁消防救助機動部隊」が正式名称ですが、愛称の「ハイパーレスキュー」の方が一般的に認知されています。
》【東京消防庁】ハイパーレスキューだからこそ持つ特殊車両とは
日本全国の救助隊の中でも精鋭中の精鋭で構成されているのが、東京消防庁の「ハイパーレスキュー」です。大規模な災害や特殊な事故にも対応できる、救助車両や重機、ロボットまでハイパーレスキューが持つ特殊車両について紹介します。
救助隊(レスキュー隊)になるには?
まずは消防職員採用試験に合格する!
救助隊は消防職員であり、地方公務員です。
救助隊になる第一歩として、まずは消防職員採用試験に合格しなければいけません。採用試験概要は、受験を希望する自治体によって条件や募集時期が異なりますので、欠かさずチェックしておきましょう。なお、救助隊の中でもゆくゆくは高度救助隊、特別高度救助隊を目指したい!という方は、中核市や政令指定都市、東京消防庁の採用試験に合格しなければいけません。
》火消しだけじゃない!「消防士」の仕事内容・1日のスケジュール
マチを守る地方公務員「消防士」、子どもたちの「将来の夢」としても挙げられる、町のヒーロー!「消防士」と言えば、火事を消しとめるイメージが強い職業ですが、実際の仕事はそれだけではありません。本記事では、「消防士」の仕事内容について解説します。
救助隊、更にその先はもっと狭き門
救助隊は、消防職員の中でも門戸が狭くオレンジ色の活動服は消防職員の憧れでもあります。
更にその先の特別救助隊、高度救助隊、特別高度救助隊は限られた人にしかなれないポジションです。救助隊としての経験や上司の推薦はもちろん、限られた厳しい条件をクリアしたり、認定試験や特殊な研修に合格したりしなければいけません。
》【港町の救助隊】横浜の救助隊「横浜レンジャー」と「スーパーレンジャー」
関東地方で東京に次ぐ規模を誇る都市が、神奈川県の県庁所在地横浜です。また、日本三大港町のひとつとして、観光名所としても人気となっています。広大な横浜の消防組織で活躍する救助隊が、「横浜レンジャー」と「スーパーレンジャー」です。
まとめ
災害大国である日本において、消防組織の誇る救助隊は大変心強い存在です。高い救助の技術と知識を持つ現在の救助隊に至るまで、日本の消防組織でも様々な改革が行われてきました。人類の発展と共に災害や事故の種類も変化していきます。
今後の救助隊の発展に期待するとともに、災害大国に住む国民自身である私たちも、事故や災害での自衛方法を身につけておくべきと考えます。
(文:千谷 麻理子)
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