【救助隊の訓練 応用編】進化する救助隊の訓練と都市型検索救助技術とは

日本全国の救助隊は、基本となる救出活動訓練として消防救助操法に則った訓練を日々行っています。さらに、基本を生かしてより多くの救助活動を行える応用的な訓練も行っています。今回は、救助隊の訓練の中でも、より高度で専門的な応用訓練について紹介します。


消防救助操法には、基本操法と応用操法がある

応用操法は現場を想定した操法

救助隊の訓練基本編では、救助隊の訓練は総務省消防庁が定めた消防救助操法に則った訓練が行われている事を紹介しました。消防救助操法の中でも、救助の基本的な行動や資機材の取扱いを定めたのが、消防救助基本操法です。

消防救助基本操法の次に実施されるのが、消防救助応用操法です。実際に現場で救出救助活動を行う為には、複数の異なる救助技術を組み合わせる必要があります。例えば、火災現場からの人命救助なら、濃煙の中を突き進む・視界不良の中で要救助者を検索する・発見した要救助者の救出を行う、という3つの技術が必要になります。

また、救助隊の使用する資機材には、マンホール救助器具など特定の状況から救出する為の物も存在します。ところが、高所から要救助者を地上に降ろす時には、その為の専門的な資機材は存在しませんので、複数の救助資機材と技術を組み合わせる応用的な救出救助が必要になります。

消防救助応用操法は、これらの現場で必要な救出するための技術と資機材、そして仕組みを組み合わせて行う活動内容となっています。

消防救助応用操法に則った救助訓練応用編を見てみよう

高度救助用資機材による検索活動

救助活動の為には、多くの資機材を手足の様に適切に、かつ自在に使いこなすだけの技術と知識が必要になります。

基本的な資機材の使用方法が網羅されている基本操法に対して、応用操法では、高度救助用資機材による検索活動について網羅されています。高度救助用資機材とは、瓦礫の下にいる要救助者の状態観察や環境改善ができる画像探査機や地中音響探査装置などを指します。いずれも特別高度救助隊のみが所持している救助用資機材で、これらを取り扱った上での救助活動が該当します。

色々な環境に応じた救助活動

災害や事故は、市街地、水辺、山岳地帯と色々な環境で起こります。あらゆる環境や現場の中でも確実な救助活動が行えるように、色々な場面を想定した訓練が行われています。

車両クレーンを使用して転覆した車両の確保などを行う交通事故現場での救出救助訓練、急斜面を使用したり、山道まで要救助者を担架に収容して引き上げたりする山岳救助訓練、船舶の救助事案や、川の急流に流された人の救助を想定した水難救助訓練の他、電柱の上に取り残された作業員の救出など、特殊な状況での訓練なども該当します。

応用型はしご車救助操法

火災現場における救助活動を想定した「応急はしご車救助操法」や「はしご車による多数救助操法」など、はしご車救助操法における応用的な操法です。

応用型ロープレスキュー

ロープと器具を駆使した救助技術であるロープレスキューは、救助において基本的な技術になります。

「救助ロープで引き上げる」ことを基本に、宙づりになった要救助者を助けるなど高低差のある現場での救助訓練や、担架によって要救助者を安静な状態で救出する平行吊り上げ訓練、支点に救助工作車後方のウィンチを活用するなど、ありとあらゆるものを資機材として活用し、ロープと組み合わせる事で多くの応用的な救助活動が可能となります。


都市型検索救助(USAR)技術

都市型検索救助とは、大地震などで倒壊した耐火建造物の瓦礫の下にいる生存者の位置の特定から救出までの一連の活動を指します。Urban Search And Rescueの略で、USARとも呼ばれています。

都市型検索救助における技術も、消防救助応用操法にあたります。日本の都市型検索救助は最初に国際消防救助隊(IRT)の活動技術として採用されました。

都市型検索救助技術は国際的にも標準的な技術として認識されており、特に震災国である日本の消防組織にとっては欠かせない救助技術となっています。

都市型検索救助技術を詳しく見てみよう

主に6つの技術内容から救助技術

日本の消防組織が都市型検索救助技術の手本としているのは、アメリカのFEMA(緊急事態管理庁)が組織しているUS&R(Urban Search and Rescue)チームの訓練プログラムです。ショアリング、ブリーチング、クリビング、リフティング、ムービング、CSRなどの技術内容から成っています。

平成21年に国際消防救助隊の登録隊員に求める事項として、総務省消防庁が「国際的なルールに従い、都市型検索救助技術を用いた訓練に努める必要である」と通知しました。そして南海トラフ地震や首都直下型地震の近年発生が予測されている事から、国際消防救助隊員だけでなく、全救助隊員が身に着けておくべき新しい知識と技術として位置づけられ、現在普及が進められています。

ショアリング(Shoring)とは

倒壊した建物内や、狭い空間の中に救助の為に進入する際、頭上・側方・開口部の補強を行う「支え」を作る事によって、二次倒壊などのリスクを減少させるための技術です。

平成20年の岩手・宮城内陸地震の旅館倒壊現場において、東京消防庁のハイパーレスキュー隊などが倒壊建物の安定化の為に、救助用支柱器具などを活用した事から、安全・確実な救助の為に「救助現場の安定化を図る」事に注目が集まりました。

ショアリングは、「支える」という意味がありますが、現場では木材を現場で加工して支柱として活用する技術となっています。まず、救助用支柱器具で応急対応をしてから木材を加工、ショアリングが完了したら応急対応の器具を解除…、という作業を繰り返して、倒壊した建物の最奥部まで進入していきます。

ブリーチング(Breaching)とは

ブリーチングとは、ハンマードリルやエンジンかった、削岩機などを使用して、壁などの鉄筋コンクリートを破壊、開口して突破を図る為の技術です。破壊する壁や床の近くの要救助者の有無によって、更に「クリーンブリーチング」と「ダーティブリーチング」に分かれています。クリーンかダーティかによって破壊方法が変わる為、まず壁や床にサーチングホールを設定し、画像探査装置などで状況を確認します。また、画像探査装置のカメラ部の径が小さい方が、サーチングホール作成が最小で済みますので、カメラ部分が小さい装置が近年採用される事が多くなっています。

▼クリーンブリーチング
コンクリート近くに要救助者がいる場合。破壊によるコンクリート片等が要救助者側に飛び散らない様に配慮しながら侵入及び退出路の設定を行う為の技術。

▼ダーティブリーチング
コンクリート近くに要救助者がいない場合。迅速にコンクリートの破壊と進入、退出路設定を行う為の技術。

クリビング(Cribbing)とは

クリビングとは、瓦礫や車両など、救助活動の妨げとなる重量物を乗せる事により、安定させる為の技術です。用途としては、要救助者が重量物の下敷きになっている場合に、後述のリフティング、もしくはムービングにて重量物の持ち上げ・排除を行う為の重量物の一時確保に使用されます。クリビングを施すことにより、持ち上げた重量物が再度崩れないように安定しますので、リフティングもしくはムービング作業中も安定した作業が可能になります。

クリビングは、クリブ材と呼ばれる4×4の木材を使用し、くさびを打って組んだ井桁の上に重量物を乗せて安定化を図ります。何故木材を使用するかと言うと、万が一組んだ井桁が耐荷重を超えてしまい、潰れてしまっても全てが潰れずに残るからです。

欧米では、クリビングにて重量物が3段(約30cm)上がったら、救助犬を入れるという方式を採用しています。クリビングを3段組む、というのがひとつの救助活動の指標であり、その後のリフティングやムービングが可能かの判断材料となります。

リフティング(Lifting)とは

リフティングとは、救助現場において最小の力で重量物を持ち上げる為の技術です。重量物の排除そのものだけでなく、排除のために使用するマット型空気ジャッキを設定する為に重量物と設置面の間に隙間を作る際にも活用されます。


隙間を空ける時、そしてマット型空気ジャッキが災害の同時多発によって不足している時など、てこの原理を利用してバールと手によって隙間を空ける方法など、資機材を駆使した技術です。

ムービング(Moving)とは

救助活動の障害となる重量物に対して、持ち上げを行うのがリフティングです。これに対し、重量物を排除するために移動させる技術がムービングです。要救助者の救助の妨げになる場合や、活動する為のスペースを確保する為に重量物を動かす時などに使用されます。

本来重量物の移動と排除には、重機を使用すると一番効率が良いのですが、何らかの理由で重機などを使用できない場合があります。この際にも、ムービングの技術があれば限られた資機材や徒手のみで重量物の移動と排除が可能となります。

2人1組でてこの原理を利用してバールを使用し、重量物に回転運動をかける事によって少しずつ動かしたり向きを変えたりできます。また、丸い棒やパイプなどを重量物の下にセットし、転がす事で大きく動かす事もできます。

CSRとは

CSRとは、Confined Space Rescueの略で、瓦礫の下など狭い場所での救助活動そのものを指します。今まで紹介してきたショアリングやムービング、リフティングなどの技術は、言わばこのCSRを確実に遂行する為に必要不可欠な、準備の為の技術と言えます。

CSRは、狭くて暗い瓦礫の下での救出活動です。二次災害の危険がある中で、要救助者の保護・状態の確認・救出を行う為、専門的な知識と技術、安全管理能力が必要になります。これだけでなく、狭い空間の中では上下左右が分からなくなり、平衡感覚が失われるので、錯覚によるミスやエラーを起こしやすい事、ヘルメットや耳栓、ゴーグルやマスクなどの個人防護装備を着用した状態で行う為、視覚や聴覚が制限され、隊員自体にも大きな心理的ストレスがかかる事、長時間の活動となると、身体にも大きな負担がかかり過酷な活動となるなどのリスクも伴います。

実際の災害現場でCSRを行うかは、上記のリスクとショアリングなどの前段階の手間を考え、行うか行わないかをシビアに判断しなければいけません。

今後整備が広げられる都市型検索救助技術

都市型検索救助技術は救助技術の中でも新しい技術の為、技術訓練に使用する瓦礫救助訓練施設が全国的に整備されていない現状があります。今後、より多くの充実した訓練施設が整備され、全国の救助隊員への技術の普及と習熟が迅速に、確実に行われる事を期待します。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2017年11月1日時点調査または公開された情報です。
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