世界の災害現場へ支援の手を – 国際緊急援助隊と消防・警察の援助隊

災害大国である日本は警察や消防組織を始めとした高い救助や救急の技術力や知識を持っています。これを活かし日本以外の海外諸国での大災害時には、要請があれば現地まで応援に向かい、国際緊急援助隊として支援活動を行っています。


国際緊急援助隊とは

日本の国際貢献のひとつ

海外で何らかの問題が発生した時には、日本は国際貢献として色々な支援を行います。海外において大規模な事故や自然災害が発生し、その国での対処が難しい場合には、国際貢献のひとつとして日本から行う人的支援が「国際緊急援助隊」(英名:Japan Disaster Relief Team)です。

国際緊急援助隊は、国際緊急援助隊の派遣に関する法律(JDR法)に則り、海外で発生した自然災害や事故に対して支援要請を受けると、現地にチームを組んで派遣されます。なお、国際緊急援助隊はあくまで事故や自然災害に対する人的支援であり、紛争や戦争に関しての人的支援はPKO法に則って行われますので、紛争や戦争に対して国際緊急援助隊が派遣される事はありません。

被災国の要請によって5つのチームが組まれる

事故や自然災害の起きた被災国より日本が要請を受けると、政府が国際緊急援助隊派遣のために調整を行います。その後、警視庁や総務省消防庁などの関連機関においてそれぞれ救助チーム・医療チーム・専門家チーム・感染症対策チーム・自衛隊部隊の5つのチームを編成し、最終的に外務省によって被災国へ国際緊急援助隊として派遣されます。

国際緊急援助隊の5つのチームの内容を見てみよう

自衛隊を除くチーム編成は外務省が行う

各関連機関からの協力を受けて国際緊急援助隊の編成を行うのは外務省ですので、まず外務省から国際緊急援助隊の団長として参加し、以下救助チーム・医療チーム・専門家チーム・感染症対策チーム・自衛隊部隊が各関連機関の職員や隊員から編成されます。また、活動を行う隊員の宿泊地や食事の確保、被災国との調整などを行うために独立行政法人国際協力機構(JICA)から調整員が同行します。

国際緊急援助隊は編成から派遣、被災地での活動時には通常勤務時の消防や警察などの活動服や制服を着用するのではなく、JICAから支給される国際緊急援助隊の活動服を着用します。活動服は国際緊急援助隊のチームカラーである青色と日本国旗、「Japan Disaster Relief Team JDR」のワッペンがついたデザインです。

救助チームは主に消防庁、警視庁、海上保安庁から編成される

被災国の現場において、主に要救助者の捜索や救出活動を担う救助チームは消防庁、警視庁、海上保安庁、独立行政法人国際協力機構(JICA)の4機関の所属する副隊長と隊員から構成されています。

副隊長は各機関から1名ずつ選ばれ、計画・情報分析担当を消防庁、安全管理担当を海上保安庁、広報・記録担当を警察庁、連絡調整・ロジ担当をJICAの各副隊長が担います。隊員は、全国の自治体の消防本部、警察本部及び海上保安本部に所属する消防官、警察官、海上保安官から選抜されています。

これらの4機関の副隊長及び隊員たちに加えて、災害救助犬とそのハンドラー、救助チームの隊員たちの健康管理を担う医師や看護師で構成する医療班、耐震や建物などの構造評価専門家、業務調整員などを含め、総勢69名体制で救助チームとして派遣されます。

国際緊急援助隊救助チームは2010年に国連人道問題調整事務所の国際捜索救助諮問グループ(International Search and Rescue Advisory Group: INSARAG)が主催する、各国の国際都市型捜索救助チームの能力を評価するIEC(INSARAG External Classification INSARAG:IEC)検定を受検、3段階の評価レベルの内最高の救助能力評価である「重(ヘビー級チーム)」の認定を受けています。重の評価を得るには、建造物倒壊現場における高い救助能力や、2つの異なる現場において24時間の救助活動を10日間継続する能力や体制などが認められなければいけません。2015年には、更新評価(INSARAG External Re-Classification:IER)を受け、再度「重」の評価を得ました。日本の警察や消防、海上保安庁が誇る捜索や救助技術や知識の高さは世界でも認められると言えます。

救助チームは、1993年12月のマレーシアビル倒壊災害、1996年10月のエジプト・アラブ共和国ビル倒壊事故などの大規模建物倒壊事故や、2014年3月のマレーシア航空370便墜落事故、1999年9月のトルコ共和国地震、2004年12月及び2009年10月のインドネシア共和国スマトラ島沖地震災害、2017年9月のメキシコ中部地震などの大規模地震災害に多く派遣された実績があります。

医療チームは医療従事者から編成される

災害現場において、主に被災者の診療や応急処置、救命活動を行うのが医療チームです。個人で国際緊急援助隊に登録している医師・看護師・薬剤師の医療従事者、臨床検査技師・放射線技師・救急救命士・臨床工学技士・理学療法士・作業療法士・栄養士・コ・メディカルなどの医療調整員、外務省やJICAの調整員から編成され、派遣されます。


医療チームは、地震災害の他にも1988年のスーダン洪水、1993年のネパール洪水などの洪水被害、1998年のドミニカ共和国及びニカラグアハリケーン、2008年のミャンマーサイクロン、1991年のフィリピン台風など、負傷者も多く衛生状態が悪化しやすい自然災害時の派遣実績が多くなっています。

民間の専門家から編成される専門家チーム

災害現場において、現場の被災者の救助救命活動だけでなく、その後の災害対策や復旧活動も国際緊急援助隊は行い、その指導と支援を行うのが専門家チームです。地震や耐震、感染症、火山などの民間の技術者や研究者および消防などの機関から派遣される職員で構成されます。

専門家チームは、耐震性の診断が必要な地震災害や1990年のサウジアラビア油流出事故や1997年のシンガポール油流出事故などの油流出事故、1997年のインドネシア森林火災、2010年のロシア工場火災などの火災災害、1994年及び2010年のインドネシア火山噴火、2002年のパプアニューギニア火山噴火などの火山噴火災害等、予防や発生予測の必要な自然災害に対する派遣実績が多くなっています。

感染症対策チーム

大規模災害や事故発生時には、衛生状態の悪化や医療機関の停止に伴った感染症が蔓延するリスクもあります。2014年に西アフリカで流行したエボラ出血熱への支援派遣の経験を踏まえて、被災地の避難所や地域において、感染症の流行と蔓延を最小限に食い止めるために、2015年10月に新しく国際緊急援助隊に加わったチームが感染症対策チームです。「疫学」、「検査診断」、「診療・感染制御」、「公衆衛生対応」の4つの専門機能と、自己完結型の活動を行うための「ロジスティック」の合計5つの機能を持つチームです。

自衛隊派遣

自衛隊は海外派遣の一環として、国際緊急援助隊に加わり現地での緊急援助活動や物資の輸送活動、被災地復興のための復旧活動を行います。派遣される自衛官は陸海空自衛隊より選抜され、被災地では医療や防疫のための医療支援や給水活動、国際緊急援助隊の活動に必要な物資の補給などの艦船や航空機を使用した輸送などの後方支援、その後の復旧や復興活動を主に担います。

参考:
国際緊急援助 JICA
https://www.jica.go.jp/jdr/

国際消防援助隊(IRT)について

国際緊急援助隊に先駆けて作られた消防の国際救助チーム

現在、国際緊急援助隊の救助チームのひとつとして参加し、被災国での救助活動を行っているのが東京消防庁と各自治体の消防本部の隊員から編成される、「国際消防援助隊」(英名:International Rescue Team of Japan FireーService、略称:IRT-JF)です。本項では、以下IRTと表記します。

実は国際貢献の為の海外派遣チームとしては、国際緊急援助隊に先駆けIRTが誕生しています。きっかけは1985年にコロンビアで発生したネバドデルルイス火山噴火災害です。当時の日本政府は国際貢献として消防組織より援助隊を編成し、コロンビアへ災害支援の派遣を検討しましたが、消防職員の海外派遣に関する制度がなかった事と、コロンビア側の意向によって派遣は実現されませんでした。この教訓から、翌年の1986年4月、当時の自治省消防庁(現在の総務省消防庁)が海外で大規模災害が発生した際に消防本部から救助隊を派遣する「国際消防援助隊」の制度を整備、IRTが発足しました。発足した1986年の8月にはニオス湖ガス噴出災害、10月にエルサルバドル地震災害にIRTとして派遣され、被災国での救助活動を行いました。

IRTの発足翌年の1987年9月には、国際緊急援助隊の派遣に関する法律の施行と日本としての海外災害派遣部隊である国際緊急援助隊が発足され、現在IRTは国際緊急援助隊内救助チームの中で、海外災害派遣における救助活動を警察、海上保安庁の隊員たちと共に行っています。

東京消防庁+各自治体消防本部の輪番制にて編成

海外で大規模災害が発生し、被災国から日本への支援要請が入ると、政府は国際緊急援助隊の編成を関係各省庁や団体へ要請します。政府からの要請を受けた総務省消防庁では、更に東京消防庁と各自治体の消防本部へ要請を行い、IRTの編成が行われます。

IRTの隊員は、東京消防庁と、IRTに登録している自治体の消防本部の隊員によって編成されます。まず、東京消防庁では特別高度救助隊である東京消防庁消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)の隊員を中心に選抜、編成されます。他のIRT登録自治体の消防本部は輪番制となっていて、災害派遣要請を受けた時点で当番の自治体の消防本部内のIRTの登録をしている隊員が選抜、編成されます。

IRTの活動内容について

IRTは、東京消防庁のハイパーレスキューを始めとした選抜された隊員+当番自治体の消防本部の隊員から選抜され編成・派遣されています。いずれも高度救助用資機材の使用に長けた高い救助技術や知識を持つ救助隊員が選抜され、現地では被災者や要救助者の捜索・救助活動を行います。また、救助チームの隊員としてだけでなく、専門家チームとして参加し、被災地の情報収集や防災関係者への救助技術の指導にあたる場合もあります。

IRTは「愛ある手」

IRTは国際緊急援助隊よりも先に作られた組織ですので、IRT専用のシンボルマークを所有しています。現在は海外被災地における活動時は、国際緊急援助隊の活動服を着用しているので、IRTのシンボルマークは活動服には使用されていませんが、国際緊急援助隊が発足される前には、IRTのワッペンをつけて被災地への派遣及び活動を行いました。

IRTのアルファベット発音「アイ・アール・ティ」を「愛・ある・手」とかけて、IRTのシンボルマークデザインは、緑色の地球儀を背景に握手するふたつの手が描かれています。

参考:
国際消防援助隊とは(活動服、ワッペンの画像あり)
http://www.kennanseibu119.jp/introduction/IRT.pdf


警察の国際警察緊急援助隊について

被災者の探索や救助の他、通信確保も行う

国際緊急援助隊の救助チームのひとつとして、消防と共に派遣されるのが警察組織からの国際警察緊急援助隊です。国際貢献と同時に、警察官自らが海外被災地での様々な支援活動を通じ、その経験を生かして日本国内における警察の災害対応力の向上を図る目的も持っています。

被災国より日本の国際緊急援助隊の派遣要請が出ると、警察ではあらかじめ各都道府県警察で指名されている警察官と、警察通信職員の中から国際機動警察通信要員を選抜、国際警察緊急援助隊を編成し、国際緊急援助隊の救助チームの一部隊として活動します。

被災国現地では、消防と同じく捜索や救助活動を行うとともに、海外で活動する上で必要となる通信網の確保も行います。なお、消防組織のIRTが主に生存している要救助者の救出活動や捜索を行うのに対して、警察の国際警察緊急援助隊は、遺体の捜索活動及び身元確認を主に行います。

参考:
警察による国際緊急援助活動
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h22/honbun/html/me100000.html

まとめ

突発的な事故や自然災害など、大規模な災害に対して手を差し伸べ合う国際支援。日本が国際緊急援助隊として多くの国で災害派遣活動と支援を行った実績の元、日本で災害が起きた時には「恩返し」として、諸外国からも支援の手として多くの支援部隊の派遣や物資、義援金の援助を受けました。住む国や種族が違っても、同じ地球に住む者同士の支援活動の「愛の手」がこれからも途切れることなく繋がれ続ける事を期待しています。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年1月31日時点調査または公開された情報です。
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