All for Oneの精神で動く日本の誇り「緊急消防援助隊」とは

大きな災害の時は、被災者の数も甚大となる為自治体の消防や警察だけでは対応できません。その時に、近隣地域、そして日本全国から集まる消防の援助隊が「緊急消防援助隊」です。災害大国である我が国には欠かせない存在である、緊急消防援助隊について見てみましょう。


大災害の時に地域を超えて出場する、緊急消防援助隊

事故や災害に対しては、基本的には自治体の消防が対応する

日本の「消防」という組織は、消防局と言う形で自治体ごとに配置されていて、主に人命救助に関する職務を担っています。日本の各自治体の消防局を統括している総務省消防庁を始めとして、以下各自治体の消防署には消防職員が配置されています。

火災現場の鎮火だけでなく、防火のための指導や立ち入り検査も行う消火隊員、災害や事故現場の人命救助のスペシャリストである救助隊員、救急車に乗って傷病者を医療機関へ搬送するほか、特定の医療行為も可能な救急救命士もいる救急隊員の3つの隊に分かれています。また、防災に特化した予防課や、その自治体の消防に関する事を統括している総務課など、色々な役割を担った消防職員がいます。

消防署によって、管轄している地域が定められており、管轄内からの119番通報や消防局からの要請に応じて、現場に消防職員が出場し、職務に当たります。火災の鎮火や事故や災害の人命救助、救急要請に対しての救急搬送などです。もしも、管轄内で既に消防車や救急車が出場している場合には、最寄りの消防署から消防署や救急車が出場します。

もしも事故や、地震や台風、大雨などの自然災害が発生した時には、その自治体の消防職員が現場に向かい、事故や災害対応を行うのが基本です。

もしも自治体内では対応しきれない場合

消防職員の数や消防局の規模よりも、災害や事故の規模が大きく被災者や傷病者の数も多い、人員や資機材の不足によって救助や救急活動がスムーズに行われないなどの場合は、他の自治体の消防へ応援を要請する事になります。

まずは、その自治体の近隣地域の消防に応援要請があります。この時は、主に被災地や事故現場となった自治体の市町村長が市町村単位で要請をします。

そして、近隣市町村単位では対応できない大規模な事故や災害の時には、都道府県の垣根を越えて消防職員が現場に出場します。これが「緊急消防援助隊」の基本です。

緊急消防援助隊が出場するパターンは2つ

緊急消防援助隊が事故現場、もしくは被災地へ出場するのはあくまで要請があった時です。他の地域へ出場するという事は、普段自分たちが属している自治体の消防機能が手薄になる事を表しています。その為、自分たちで勝手に判断して、事故現場や被災地へ向かう事はできません。

ひとつめが、事故現場や被災地の自治体の市町村長が、都道府県知事に応援の要請をするパターンです。その後、都道府県知事から総務庁消防庁長官へ応援を要請し、消防庁長官は、応援を受けた市町村に対して、適切な都道府県を選択し、選ばれた都道府県の各知事に応援を要請します。その後、都道府県知事から自分の自治体の消防局に、事故現場や被災地へ緊急消防援助隊として出場するように応援要請をします。

ふたつめが、事故や災害のあった自治体からの応援要請を待たずに、消防庁長官から各自治体に直接応援要請をするパターンです。これは、事故現場や被災地からの応答を待っている間に、更に被害が拡大する恐れがある場合や、交通や通信手段が遮断されているなど、被災地側からコンタクトを取るのが難しいと判断される場合です。

発足は阪神大震災から、紆余曲折を経て正規発足は2004年

緊急消防援助隊の発足のきっかけとなったのは、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災でした。当時は、大災害に対する消防の組織や制度の整備がまだされていなかったので、現場に多くの消防職員が駆け付けたものの、指揮統制が取れないなどの理由で効率の良い救助活動に繋げることができませんでした。


阪神・淡路大震災の時の教訓を生かして、同年6月に当時の総務省が緊急消防援助隊の制度として発足させました。当初は年に10回以下の出場実績しかありませんでしたが、総務省消防庁で、今後起きるであろう大地震にも対応できる救助部隊と制度を作る為に検討を重ね、紆余曲折を経て2004年4月に現在の緊急消防援助隊が正式発足しました。

今では緊急消防援助隊は東日本大震災を始めとした、日本の各地での大災害で多くの活動実績を残しています。

緊急消防援助隊の組織について見てみよう

指揮支援隊を始めとした部隊

都道府県各地の消防隊が集まり、被災地や事故現場での救助・救急活動を円滑とするのが緊急消防援助隊です。その為、活動が円滑となる為に指揮支援隊を始めとした部隊に分かれています

指揮支援部隊…
現場の消防本部の指揮を目的とした部隊です。現場での指揮統制を行い、各部隊への行動指示や、全体の状況確認、事故現場や被災地の消防本部との連絡調整なども行う、緊急消防援助隊の要にもなる箇所です。消防ヘリなどでいち早く現場に入って状況の把握も行います。また、指揮支援部隊には政令指定都市の消防局が登録しています。

都道府県隊…
指揮支援部隊の下について、色々な活動にあたるのが都道府県隊です。都道府県隊の中でそれぞれの職務に応じて都道府県ごとの部隊に分かれて、現場での活動を行います。
都道府県大隊指揮隊:
都道府県隊の指揮統制や連絡調整を行う部隊です。

・消火小隊:
現場の火災の鎮静にあたるのが主な職務です。消防ポンプ車や水槽付きポンプ車など、消火隊の車両を使用して活動を行いますが、災害規模によっては他の部隊の活動に一緒にあたる事も多いです。

・救助小隊:
人命の救出救助活動を主とする活動を行う部隊です。救助隊の中でもスペシャリストであり高い救助技術を持つ精鋭である東京消防庁のハイパーレスキューの隊員を始めとして政令都市にのみ配備されている特別高度救助隊の隊員、中核市の高度救助隊を中心とした部隊編成になっています。高度救助資機材を使用できる技術と知識をもった隊員で、的確かつ迅速な人命救出活動を行います。

・救急小隊:
救急活動を行う救急隊員や救急救命士で構成される、傷病者への救護や救急救命処置を行う部隊です。

・後方支援小隊:
事故現場や被災地で活動を行う緊急消防援助隊の隊員たちも、活動の為に食料などの物資が必要になります。これらの活動の為に必要な食糧などの物資の供給を、緊急消防援助隊の出場元から調達するのが後方支援小隊です。後方支援小隊の活動により、物資の調達の面で事故現場や被災地へ負担をかける事がなくなります。

・通信支援小隊:
緊急消防援助隊の通信手段を確保するための部隊です。消防だけでなく、警察や自衛隊といった他の機関とも連携を取り、被災地における通信体制の確保や強化も行う役割も担っています。

・特殊災害小隊:
消防の救助活動の中には、原子力発電所事故や核爆弾による放射線、ガス爆発などの化学物質、細菌兵器などの生物兵器など、いわゆるNBC災害(核 Nuclear・生物 Biological・化学 Chemicalによって発生した災害の事)に対応する必要がある場合があります。これらNBC災害を始めとした特殊災害に対応する活動を中心に行うのが、特殊災害小隊です。

また、特殊災害小隊の中でも、更に毒劇物・生物・化学・放射線など対応する現場の状況に応じた毒劇物等対応小隊・密閉空間火災等対応小隊・大規模危険物火災等対応小隊に分かれています。

・特殊装備小隊:
事故や災害現場では、色々な手段での救出・救助が必要になります。色々な手段を用いて活動を行う為の、特殊装備を使用して活動する部隊が特殊装備小隊です。特殊装備小隊には、水辺の事故や災害への活動を行う水難救助小隊、屈折放水塔車などの特殊車両を使用する遠距離大量送水小隊、ドラグショベルや双腕重機などの救助重機を使用する震災対応特殊車両小隊、東京消防庁の「クイックアタッカー」などの消防活動二輪小隊、はしご車隊などのその他の特殊装備小隊に分かれています。

・航空小隊:
消防ヘリコプターを使用した消防・救出救助活動を行う部隊です。上空からの人命救助や偵察、人員や物資の運搬などを行います。主に都道府県の消防署の航空隊員で構成されています。現在74隊がいますが、平成30年度までに概ね80隊までの増強を目標としています。

・水上小隊:
消防艇に搭乗し、水上火災の鎮火などの活動を行う部隊です。現在日本の消防組織で所持している消防艇は50隻、水上小隊は18隊在籍しています。


東日本大震災以後に新設された部隊

以下の2部隊が東日本大震災の教訓をもとに新設されました。

統合機動部隊指揮隊…
東日本大震災では被害が甚大だったため、被害の全容を把握している人がひとりもいませんでした。その為、まず一時派遣隊が被災地に入ると同時に自らで情報収集を行い、災害対策本部に収集した情報をフィードバックしました。その後、フィードバックされた情報を元に被害の範囲や大きさを把握しながら、緊急消防援助隊は活動を行いました。また、消防・救助・救急・そして指揮隊と一定規模の部隊を構成して活動を行う事で、情報収集や活動中に助けを求めている人や火災に遭遇した時に、即応できるようにしました。

上記の工夫と対応が、実際の東日本大震災での活動の上で非常に効果的だったため、この工夫を正式に部隊として誕生させたのが「統合機動部隊」です。「統合機動部隊」として新しい部隊を発足したわけではなく、既存の部隊の再編成を行い、その中で「統合機動部隊指揮隊」のみを新設しました。

統合部隊指揮隊の役割は、「機動」の名の通り、緊急消防援助隊の被災地への出場が決定した後に、すみやかに先発隊として出発します。そして、被災地での消火・救出救助活動を行うとともに、被害状況や被災地の情報収集を行います。その後後続する緊急消防援助隊の活動がスムーズかつ効率よく行われるように、収集した情報の提供を行います。今後は、全国で50部隊が編成される予定となっています。

エネルギー・産業基盤災害即応部隊指揮隊…
東日本大震災では千葉県市原市と宮城県仙台市で、石油コンビナート火災が発生しました。その前に十勝沖地震でも北海道苫小牧市で同じく石油コンビナート火災が発生しています。大規模な石油コンビナート火災は、災害規模の拡大や人命への影響だけでなく、経済的にも大きなダメージとなります。これらのエネルギー・産業基盤の被災時に、国土強靭化の視点から現在の消防の持つ対応力の強化が求められ、創設されたのが「エネルギー・産業基盤災害即応部隊指揮隊」です。

エネルギー・産業基盤災害即応部隊指揮隊は、2014年に市原市消防局及び四日市市消防本部に創設され、2015年に静岡市消防局の湾岸消防署にも配備されました。今後は、将来南海トラフ地震や首都直下型地震を含めた大規模災害が起こる想定の元、2018年までに12地域に配備予定となっています。消化の為の水が取水できない場所でも、海や川など遠く離れた所からホースを伸ばして取水・送水が可能な「大容量送水ポンプ車」と、最長100メートル地点へ最大毎分8000リットルの放水可能な放水砲を持つ「大型放水砲搭載ホース延長車」を装備として所有しています。また、今後はより的確かつ高度なエネルギー・産業基盤災害への対応が行えるように、無人放水ロボットや無人情報収集ロボット、無人ヘリコプターなどの消防ロボットの研究開発も同時に進められる予定です。

エネルギー・産業基盤災害即応部隊指揮隊は、江戸時代に使われたポンプ式の消火道具である「竜吐水(りゅうどすい)」と、高度な技術と装備を持つ隊員たちが部隊を組んで最前線で活動を行う事から「ドラゴンハイパー・コマンドユニット」の愛称も付けられています。

緊急消防援助隊の具体的な活動内容について

結成までの流れ

緊急消防援助隊は、総務庁消防庁から各自治体へ設置が義務付けられている物ではなく、各自治体の自主的な判断において結成・設置されます。また、緊急消防援助隊としての専門部隊が常時設置されている訳ではなく、普段は消防職員として各々自治体の消防局で消火隊・救助隊・救急隊に属した活動を行っています。あくまで事故や災害が発生し、出場要請があった時に結成されるようになっています。

「緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画」を総務大臣が策定、消防庁長官によって部隊の登録が行われています。平成29年4月現在、日本全国では5658部隊が緊急消防援助隊として登録されています。

事故現場や被災地の自治体から、各自治体に緊急消防援助隊としての出場要請があった時には、まず都道府県内で緊急消防援助隊を結成します。その後現場近くの指定された集結場所に集まります。

現場での活動

各自治体から集まった緊急消防援助隊は、被災地消防本部、もしくは指揮支援部隊による指揮支援本部の指示に従って、現地での活動を開始します。また、受け入れ側である被災地は、緊急消防援助隊の活動がスムーズに行われるように、被災地の消防庁職員や指揮支援部隊長を含む緊急消防援助隊調整本部を設置します。緊急消防援助隊調整本部では、緊急消防援助隊の集結場所の指定や準備、また物資の供給などを行います。

現場での災害がある程度収束してきた所で、被災地消防本部からの指示により、被災地からの引き上げを行います。

毎年の訓練や他の機関との合同訓練も行う

実際に緊急消防援助隊として派遣された時に、現地でスムーズな救出・救助活動が行われるようにしなければいけません。その為に、毎年各地方ブロックごとにブロック内の部隊が集結し、合同訓練を行っています。また、5年に1度全国単位での合同訓練も行っています。近年では、消防だけでなく、警察や自衛隊、DMATなどの他機関との合同訓練も行われるようになりました。

今までの活動実績

緊急消防援助隊は、前述の通り基本的には事故現場や被災地の自治体の近隣地域の消防局へ優先的に応援要請が出て、出場します。

2004年7月新潟・福島豪雨では宮城県・山形県・栃木県・群馬県・埼玉県・東京消防庁・神奈川県・長野県・山梨県・富山県・石川県・岐阜県から緊急消防援助隊が出場しました。

2005年のJR福知山線脱線事故では緊急消防援助隊大阪府隊、京都府隊、岡山県隊が地元尼崎市消防局と県内応援隊と協力して活動を行いました。

初めて近隣地域だけでなく全国各地から被災地に緊急消防援助隊が出場したケースが、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東日本大震災です。被災地の宮城、福島、岩手を除く44都道府県の712消防本部から、3月11日から6月6日までの88日間にかけて計7577部隊が被災地へ派遣されました。

他にも緊急消防援助隊は多くの事故や災害現場へ出場しています。お住まいの自治体の消防局のホームページでは、「緊急消防援助隊の活動実績」を公表している事が多いので、見てみると自分の住んでいる地域の消防職員が、緊急消防援助隊としてどんな活動をしたのかを知る事ができます。

活動だけでなく、勇気も与える部隊

被災地での物理的な救出・救命活動を行うだけでなく、緊急消防援助隊は被災地の消防本部や被災者に、勇気や安心を与える、精神的にも大きな存在となっています。特に、東日本大震災で未曽有の大災害にあった中で、全国各地から集まった仲間の消防職員たちの姿に励まされた、という被災地の消防職員の声も多くなっています。まさに“All for One”の精神で活動を行う緊急消防援助隊は、日本の消防の結束力の強さの表れでもあり、私たち日本人の「助け合いの精神」を体現する誇り高い存在であると言えるのではないでしょうか。
(文:千谷 麻理子)


参考資料サイト

》総務省消防庁 緊急消防援助隊
(http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList5_5_2.html)

本記事は、2017年9月13日時点調査または公開された情報です。
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