【受刑者の就労支援の意味するところは?】「目で見る矯正」

【国家公務員「刑務官」のコラム】
今回のテーマは「目で見る矯正」です。

最近の矯正事情をグラフから読み解きながら、出所した人の就職先の確保を支援する働きかけの状況について解説します。執筆は、元・刑務官の小柴龍太郎氏です。


「目」でみる矯正について

これは、この「刑政」の冒頭に必ず掲載されるもので、最近の矯正事情をグラフから読み解く記事です。様々な統計数値をグラフ化して、そこから何が見えるのかを解説しており、分かりやすく、示唆に富むものです。

おそらく、刑務官などの矯正の現場で働く職員だけでなく、大学などの研究者にとっても興味深いものではないでしょうか。

さて、この「目で見る矯正」の2月号では「矯正施設における就労支援実施状況の推移」と題して、刑務所から出所した人などの就職先の確保を支援する働きかけの状況が分かるものとなっています。

ハローワークとの連携

具体的には、刑務所や少年院とハローワークが連携して受刑者等の就職先を探していく試みは平成18年度から始まったのですが、その内定数の推移を見ると、平成18年度は28人に過ぎなかったものが、その10年後の平成28年度には576人になったとのことです。

ざっと20倍に伸びたことになります。これは相当すごいことだと思います。法務省と厚生労働省、すなわち国が受刑者などの就職先開拓に本腰を入れるようになった証拠だと思いますし、その成果も出ていると評価していいのだと思います。

受刑者などが更生し、犯罪や非行をせずに善良な社会人として生きていくためにはどうしても就職して収入を得なければなりません。しかしながら「前科者」を採用してくれる会社などはとても少ないのが現状です。

受刑者などが一人でその難しい状況を打破して就職先を確保するのは困難といわざるを得ません。そこを刑務所やハローワークなどがサポートする。そして就職先を見つける。これは大変重要なことです。

数字でみる就労支援

この就職先が得られなかったために、例えばこの576人が窃盗などの罪をはたらいたとします。窃盗は一人で1件やってすぐ捕まるということはほとんどありませんので、例えば10件の窃盗をしたとします。

すると受刑者等一人当たり10人の被害者が発生します。全部で5760人。そしてまた、窃盗されたことによって悲しんだり苦しんだりするのは盗まれた一人の人とは限りません。被害者と一緒に住む家族などもまた悲しんだりします。

特に住居に侵入しての窃盗の場合は、家族全体が恐怖を感じるとともに、将来に向けての不安が募ります。こうして1件の窃盗につき4人が苦しんだとすると5760×4=23.040人に上ります。

言い換えれば、現在刑務所などがやっている就労支援によって約2万人の国民が犯罪被害に遭わずに済んでいるということになります。


私は、この就労支援の意味するところはこういうところにあるのだと思っています。つまり、それは受刑者等のためであると同時に国民のためであるということです。

まとめ

もっとも課題はあるようです。というのは、この内定者の576人というのは、就労支援すべき対象者のごく一部に過ぎないということです。

つまり、平成28年度における就労支援対象者の数は4,023人だそうですから、内定に至ったのはその14パーセントほどに過ぎません。まだまだ不足していると言わなければならない。

したがって、今後このギャップをどうすれば埋めていけるのか、刑務所などの努力はこれからも続けていかなければならないということだと思います。

(文:小柴龍太郎)

本記事は、2018年10月17日時点調査または公開された情報です。
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