【受刑者の再入率は?】再犯防止に舵を切った「刑務所」について

【国家公務員「刑務官」のコラム】
今回のテーマは「再犯防止に舵を切った刑務所」です。

政府による再犯防止強化策の一環として、刑務所には出所受刑者の2年以内再入率を減らすよう数値目標が課せられています。今回は受刑者の再入率について解説します。執筆は、元・刑務官の小柴龍太郎氏です。


刑務官が読む機関誌「刑政」(矯正協会発行、2018年3月号)に掲載された記事から興味深いものを紹介します。

「目でみる矯正」

「目で見る矯正」については以前にも紹介したことがありますが、矯正の現状をグラフで分かりやすく解説したものです。今回は「出所受刑者の2年以内再入率の推移」という内容です。

出所受刑者の2年以内再入率とは

出所した受刑者の2年以内の再入率とはどういうことかというと、ひと言で言ってしまえば、「受刑者が刑務所を出てから1年ほどで刑務所に戻る割合」のことです。

もう少し厳密にいえば、「1年ほど」とは「1年以上2年以下」のことです。つまり、ある年の初めの1月に出所した受刑者も、年末の12月に出所した者も、全員が丸1年を経過することとなる翌年の12月末の時点で再入率を分析するので「2年以内」と表現するわけです。

それから一般的によく耳にする「再犯率」ではなくて「再入率」となっているのは、刑務所側(法務省側)の都合によるものです。

つまり、刑務所(法務省)にとっては、出所した受刑者がまた刑務所に戻ってくれば、どこの刑務所に戻ってきてもその事実を把握できます。氏名・生年月日と指紋を根拠にして正確にキャッチできるのです。だから「再入率」の統計を取るのは簡単なのです。

一方で、出所した受刑者が再犯しても刑務所に入らない(不起訴になったり罰金刑になったりしたとき)場合には、刑務所(法務省)ではそれを知る方法がありません。

これは警察署(警察庁)しか分からないのです。だから「再犯率」ではなく「再入率」で統計を取り、あれこれと分析するわけです。

少々専門的な話になってしまいましたが、一度刑務所に入ったことのある人が再犯した場合、その多くはまた刑務所に戻ってきますから、再犯率も再入率もだいたい似たような数字になるので、この違いに余り神経質になる必要はないと思います。

「2年以内」の統計を取るようになった事情

ついでにお話をしておきますと、この出所後「2年以内」の統計を取るようになったのは比較的最近のことです。以前は「5年以内」が一般的でした。

なぜそれが3年も縮まったのか?これは、近年刑務所に課された使命と関係があるのだろうと思います。


というのは、今、刑務所には出所受刑者の2年以内再入率を減らすよう数値目標が課せられているのです。政府による再犯防止強化策の一環です。

具体的には、平成24年7月,全閣僚が出席する犯罪対策閣僚会議において「再犯防止に向けた総合対策」というものが決定され、その中で「今後10年間で20%以上2年以内再入率を減少させる」ように求められたのです。これはなかなか厳しい注文だと思います。

ともあれ、こうなると刑務所ではこの2年以内再入率の統計を毎年取って再入率が減ったかどうか検証しなければならなくなります。そして、減れば良し、減らなければ別の再犯防止策を講じなければならないということになります。

ということで、このような背景があって、刑務所(法務省)では「出所受刑者の2年以内再入率」の統計を取るようになり、その動向を分析した結果が、今回の「目で見る矯正」でも紹介されることになったということだと思うのです。

法務省が変わった

前置きが長くなってしまいましたが、この統計についてなぜ私が興味を持ったかというと、その中身もさることながら、法務省矯正局がこのような統計を取るように(取らざるを得ないように)なったこと、そしてそれを全国の刑務官に向けて周知しようと「刑政」に掲載するようになったこと、そのこと自体です。

昔はこんなことは無かったのです。その背景には、前述したような政府の強い決意があるのだと思いますが、事情はともあれそれだけ最近の法務省は受刑者の再犯防止に力を入れてきている。そのこと自体、私はとてもすばらしいことだと思うのです。

私が現役時代には、このように再犯防止のために何か新しい企画を立てたり実施したりすると、それを揶揄(やゆ)されることが少なくありませんでした。

「理屈はもっともだが、現実的ではない。」
「刑務所はそんなに暇ではないし、それをやる職員の余裕もない!」
そんな感じでした。だから隔世の感がするのです。

今や再犯防止ができない刑務所は刑務所ではない、というくらいの変わりようです。すごい!

再入率は減ってきた

次に肝心の中身ですが、グラフを見ると受刑者の再入率は少しずつ減ってきています。統計は平成18年から27年の10年間のもので、目分量でいえば約4パーセントくらい減っています。(「目分量」というのは、この統計には詳細な数字が示されていないので、ざっと把握するしかできないのです。)

「たかが4パーセント」と思う人もいるでしょうが、実際に実務に当たってきた私としてはなかなか頑張っている数字だと思います。

別の統計によると、受刑者の出所者数は年間およそ2万5千人くらいのようですから、その4パーセントというと約千人です。この千人くらいの受刑者が再犯をしないようになった。

もう少し正確にいうと、以前なら再犯をしていた受刑者について、最近では毎年千人を上乗せで更生させることができるようになった。言い換えればその分だけ国民が犯罪被害に遭わないようにできるようになったのです。大したもんではないでしょうか。

統計では、そのほか、男女別とか罪名別、年齢別などの分析もしており、それぞれ興味深いものがありますが、長くなりますので、これは割愛します。

それにしても、政府から課せられた「20パーセント減」というのはとてもハードルの高い数値目標です。残るはあと5年ほど。


さて、その限られた時間の間にそれが達成できるか。私は、出所者の住む場所と働く場所の確保、それと福祉機関や地方自治体との連携がカギだと思うのですが、とにかく頑張ってほしいと思っています。

(文:小柴龍太郎)

本記事は、2018年6月7日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

気に入ったら是非フォローお願いします!
NO IMAGE

第一回 公務員川柳 2019

公務員総研が主催の、日本で働く「公務員」をテーマにした「川柳」を募集し、世に発信する企画です。

CTR IMG