知ってる?刑務所内でのトラブル・事件に対応する警備隊
刑務所や少年院などの警備上重要な役割を担うのが「管区機動警備隊」です。でも、その存在を知っている人は少ないと思います。矯正職員以外でそれを知っている人がいたら、その方は「お務め」を果たした人かもしれません。なかでも刑務所に何回もお世話になっている暴力団。彼らならよく知っているはずですから。
刑務所で何か悪さをして調子に乗っていると、どこからともなく管区機動警備隊(略して「管機」)が現われ、その圧倒的な警備力の前になす術もなく鎮圧されてしまう。それを口コミなどで知っている彼らにとって、管機はとても怖い存在なのです。例えて言えば七色仮面(大昔のヒーロー)かウルトラマン(少し昔のヒーロー)みたいなもの。
管区機動警備隊が活躍する事例紹介
ある刑務所で運動会があった日のことです。受刑者の運動会というのはほとんど全員がグランドに出て楽しむのですが、このようなことは年に1回くらいしかないので松坂牛の食べ放題くらいに盛り上がります。しかし刑務所内に暴力団抗争の火種がくすぶっている場合には、この運動会は相手をやり込める絶好の機会にもなります。ほんのちょっと走ればにっくき相手に飛び掛かれるわけですから千載一遇のチャンスになるということです。普段は働く場所も寝起きする場所も離されていますので、そんなことはできません。
こうして運動会で日頃の恨みを晴らしたり、自分の強いところを相手に見せつけたりすることに成功したら自分の株が上がります。しかも、刑務所内の受刑者全員にもアピールできるので2度おいしい。今後の暴力団暮らしにもプラスになります。
しかし刑務所側からすれば、そんなことをされたらとても困る。一斉に大量の暴力団が喧嘩を始めたら多勢に無勢。いくら屈強の刑務官でも数の差で事態の収拾が難しくなるからです。
運動会の数日前、その刑務所は“運動会の日に大喧嘩が起きるかもしれない”との情報をキャッチしました。受刑者の中には「良心的」な人もいて、そのような悪巧みがあると刑務官に注進してくれたのです。
そこで刑務所は矯正管区(地方の監督機関)に相談して管機を出してもらいました。管機は矯正管区に属する組織で、必要に応じて管内の刑務所などから猛者たちを集めて派遣する部隊だからです。そして、運動会の楽しい雰囲気を壊さないように密かに刑務所の近くで待機させました。こうしておいて本当に乱闘騒ぎになったら即刻鎮圧する作戦です。
結果として、その日乱闘は起きませんでした。管機が潜んでいることが察知されたとは思いませんが、それを知っている刑務官に余裕が生まれて、「やれるもんならやってみろ!」くらいの不敵な笑みが浮かび、それに気づいた暴力団の親分に迷いが生じたのかもしれません。「なんかやばい!」。彼らはとても勘が鋭いのです。
少年院でも、管区機動警備隊が出動することはあります。
少年院が騒擾状態になったときは、管機が少年院に入っただけで少年たちはビビッてしまい、すぐ静かになります。
警備服に身を包み、盾と警棒を持った管機が一斉に展開すれば、それだけでいい気になっている少年もオシッコを漏らすくらい度肝を抜かれるということでしょう。
それを経験した少年たちは、その後教官の言うことに素直に従うようになるということですから、案外これも有効な矯正教育なのかもしれません。
「世間はそんなに甘くない!」
まとめ
管区機動警備隊は警察の機動隊のように常設の組織ではありませんが、このようにとても頼りになる存在ですし、日本の刑務所で暴動が起きないのは管機のおかげかもしれません。
彼らは塀の中の知られざるヒーローなのです。
(文:小柴龍太郎)
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