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日本の「緊急事態宣言」とアメリカの「非常事態宣言」は何が違うの?慎重な日本、スピード重視のアメリカ比較

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はじめに

2020年4月7日夕方、日本の安倍首相は新型コロナウイルス感染拡大を受けて新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を同年5月6日までの期限付きで発令しました。

緊急事態宣言の対象になったのは東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、そして福岡県の7都道府県で、これにより法的根拠をもって外出自粛の要請や臨時医療施設の開設などが出来るようになります。

アメリカでは2020年3月13日にトランプ大統領によって国家非常事態宣言が発令されました。また、州ごとの非常事態宣言も出されており、日本よりも早い段階で州そして国の非常事態宣言が実施されました。

そこで気になるのが、日本の緊急事態宣言とアメリカの非常事態宣言の違いです。報道では日本の緊急事態宣言は強制力がないと言われていますが、アメリカの非常事態宣言はどうなのでしょうか?両国の緊急事態宣言または非常事態宣言には具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

ここでは緊急事態宣言や非常事態宣言それぞれの効力や主な違いを解説します。公務員志望の方は危機管理の常識としてぜひ参考にして下さい。

日本の緊急事態宣言とアメリカの非常事態宣言の違い

はじめに、日本の緊急事態宣言とアメリカの非常事態宣言とはどのような効力の違いがあるのか見てみましょう。

日本の緊急事態宣言とは

日本の緊急事態宣言は、新型インフルエンザ対策特別措置法に基づいて、政府対策本部長である総理大臣が各都道府県に対して発令するものです。新型コロナウイルスのような感染症が「全国的かつ急速なまん延の恐れがある」と判断した場合に使うことを想定しています。

緊急事態宣言には強制力や罰則(一部を除く)などの効力はなく、あくまでも対象となる都道府県の管轄になり、措置については各都道府県知事の判断に委ねられることが特徴です。つまり、同じ緊急事態宣言であっても各都道府県によって措置が異なる可能性もある訳です。

日本の緊急事態宣言には以下のような措置が含まれています。

・外出自粛の要請
・教育機関や福祉施設などの使用停止要請
・音楽やスポーツイベントの開催制限要請
・運送業者に対する緊急物資の輸送要請
・マスクなどの医療用品や食品の売り渡し要請(強制力および罰則あり)
・臨時的な医療施設の土地や建物の強制使用(強制力および罰則あり)

このように、日本の緊急事態宣言は対象の都道府県ごとに措置が異なる可能性があり、ほとんどは強制力を伴わないことが特徴と覚えておくと良いでしょう。また、日本政府が全国民に対して実施するものではなく、あくまでも対象の都道府県のみに対して有効ということも覚えておきましょう。


アメリカの非常事態宣言とは

アメリカの非常事態宣言は、連邦政府による国家非常事態宣言と州政府による非常事態宣言の2種類に分けられています。措置の内容は概ね日本の緊急事態宣言と同じですが、各州において独自の規定を設けられる点や、罰則も含めた対応が可能でなおかつ強制力が強いことが特徴です。

また、アメリカの非常事態宣言は武力攻撃、内乱、暴動、テロ、疫病、アメリカへの脅威など広域な範囲で適応されます。大統領特権のひとつでもあり、政治的な目的で利用されることもあります。例えば、2019年2月にトランプ大統領がメキシコからの不法移民を「アメリカへの脅威」とみなして非常事態宣言を発令し、国境に壁を建設するための予算を合法的に確保したことがあります。

アメリカの非常事態宣言には日本の緊急事態宣言の措置に含まれること以外に、以下のような措置が含まれています。

・州ごとに罰則付き外出禁止令が可能
・医療機関自らの判断で臨時診療所が開設可能になる
・医師や看護師が州法に制限されることなくどこでも医療活動が可能になる
・FEMA(連邦緊急事態管理庁)から最大500億ドル(約5兆円)を調達可能

日本の緊急事態宣言と決定的な違いと言えるのが最大500億ドルの災害対策予算です。単純に計算して、各州に10億ドル規模の初期対策費用が手配される仕組みです。コロナウイルス問題においては、非常事態宣言から2週間以内に議会の承認を得て2兆ドル(約210兆円)規模の景気刺激策法案も可決されたため、非常事態宣言をすることで対策に必要な予算確保が迅速かつ円滑に進むようになることも特徴です。

日米の外出規制の主な違い

日本の緊急事態宣言とアメリカの非常事態宣言では「外出規制」について、具体的にどのような違いがあるのか見てみましょう。

日本の緊急事態宣言による外出規制

日本の緊急事態宣言では罰則付きの条件で外出を規制することは出来ません。あくまでも、緊急事態宣言が出された各都道府県の知事が住民に対して「要請」するに過ぎません。つまり、必要不可欠な買い物や通院以外にも仕事、運動、レジャーも実質的には可能なので、判断は個人に委ねられています。

アメリカの非常事態宣言による外出規制

アメリカの非常事態宣言は、外出については原則として「要請」ですが、州知事の判断によって罰則を加えることも可能です。

例えば、感染が広がっているニューヨーク州では大勢で集まっていると最大500ドルの罰金だったものが、急遽1,000ドルにまで引き上げられました。カリフォルニア州では不要不急の外出と判断された場合、90日以下の刑務所留置か、50ドル以上、1,000ドル以下の罰金が科され、アリゾナ州ではClass I misdemeanorの重い罪になり、最大1年の禁固刑または最大2,500ドルの罰金刑になります。

日米の公共サービスの使用に対する規制の違い

次に、交通機関などの公共サービスに対する規制の違いを見てみましょう。

日本の緊急事態宣言による公共サービスの規制

日本では教育機関や福祉施設、公共交通機関に対して使用停止を強制することは出来ません。外出自粛と同様であくまでも「要請」です。しかし、多くの公共サービスは要請を受けて、自主的に閉鎖や制限を決めるため、実質的には強制に等しい規制と言えるでしょう。

アメリカの非常事態宣言による公共サービス規制

アメリカでは州ごとに対応が異なりますが、公共サービスであっても強制的に停止することが可能です。実際に、2011年には大型ハリケーン直撃の恐れから発令された非常事態宣言で、ニューヨーク州の公共交通機関が全面的に停止されました。

コロナウイルス問題では強制的に停止された事例はありませんが、公共交通機関を必要とする人が多いことや、長期間の停止は生活への支障が大きいことから公共サービスは停止できないことが実情です。しかし、ニューヨークでは公共交通機関に頼らざるを得ない低所得者層(黒人)の感染率が高いことから停止しないことが問題視されています。

日米の経済支援の違い

両国の経済支援については予算額、対象者、給付スピードなどに大きな違いがあります。

日本の緊急事態宣言による経済支援

日本政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて108兆円の緊急経済対策予算を4月7日に決定しました。企業の資金繰り対策や雇用調整助成金として45兆円、家計向けの支援対策としては自己申告制で条件を満たす程度の月収減が認められた場合のみ30万円を支給するとしています。(総額4兆206億円)対策予算としては過去最大規模であるものの、補正予算案の成立は4月中を目処にしており、実際に支援が行き渡るのは5月以降とされています。


アメリカの非常事態宣言による経済支援

アメリカでは年収が76,000ドル以下の全家庭に一律1,200ドル、子どもがいる家庭は子どもひとりに対して500ドルが追加で配布されます。日本とは対照的に、企業を支援しない代わりに個人への補償が手厚いことが特徴です。また、現金給付は国家非常事態宣言から1ヶ月内となる4月9日から順次始まり14日までに完了予定です。

日米の医療対応の違い

両国とも医療対応については強制力があることが特徴ですが、わずかな違いがあります。

日本の緊急事態宣言による医療対応

日本は緊急事態宣言をすることで臨時医療施設や土地、建物の利用が強制力をもって実行可能になります。病床が不足するような事態になった時は、各都道府県の裁量でホテルなどを臨時の医療施設として利用可能になります。強制的に使用することは極めて稀であり、基本的には協議のうえで対応します。

また、マスクや手袋、防護服、非常用食品などの強制的な売り渡し、保管、収用なども命じることも可能です。この命令に従わなかった場合は最大懲役6ヶ月、罰金30万円の刑罰があります。

アメリカの非常事態宣言による医療対応

アメリカでは強制力をもって土地や建物を臨時医療施設として利用可能である以外に、医療機関の自己判断で施設を拡張することも可能です。完全な隔離が必要になった時や、病床が不足した時に迅速に対応できることが日本とは異なります。実際に、ニューヨークのセントラルパークにはMount Sinai(マウントサイナイ)病院の臨時医療施設が用意されています。

アメリカでも強制的にマスクや防護服などの医療必需品を確保することが可能です。一方で、アメリカは普段からマスクをする文化がないため、圧倒的にマスクが不足する事態が露呈しています。

強制力がほとんどない日本の緊急事態宣言の仕組み

ここまで比較してきたように日本の緊急事態宣言とアメリカの非常事態宣言は概ね似たような措置が取られます。しかし、大きく違うのは「強制力」で、場合によっては厳しい罰則も伴います。

なぜ日本の緊急事態宣言では大半の措置に強制力がないのかと言うと、新型インフルエンザ等対策特別措置法では国民の私権を奪うことを防ぐ規定があるからです。新型インフルエンザ等対策特別措置法の「責務等について」で以下のように規定されています。

【基本的人権の尊重】

“国民の自由と権利が尊重されるべきことに鑑み、対策を実施する場合において、国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該対策を実施するため必要最小限のものでなければならない”

つまり、新型インフルエンザ等対策特別措置法はそもそも国民に対して強制力を使って対応することを前提にしていないのです。この結果、あくまでも「自粛」や「要請」程度に留まり、海外のようなロックダウン(都市封鎖)や罰則付きの規制は出来ない仕組みになっています。

非常時であろうと人権に配慮する反面で、強制力がないというのが日本の緊急事態宣言の特徴と言えるでしょう。結局のところ、緊急事態宣言が発令されても大きな変化がないというのは、法の根幹が個人判断に委ねる仕組みだからです。

まとめ-慎重な日本、スピード重視のアメリカ

この記事を通して日本の緊急事態宣言とアメリカの非常事態宣言の主な違いを理解出来たと思います。日本は非常時においても国民の意思や自主性を重んじることが根幹にあり、対してアメリカはスピードや強制力を重視しています。これらの違いは国民性や民度の違いも影響しているかもしれません。

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本記事は、2020年4月10日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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この記事を書いた人

公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

コメント

コメント一覧 (1件)

  • 日本人とアメリカ人の国民性の違いがよくわかる記事だと思いました。日本の緊急事態宣言は緊急と書いているわりには本人の意志に委ねられているところがあり、規則を破ったからといって罪に問われることはありませんが、アメリカの非常事態宣言は規則を破ると罰則が与えられることもあり、日本よりも非常事態宣言の効力が厳しいものであるということがよくわかりました。

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