国家予算の中の「文化予算」とは?文化や芸術の発展・保護政策等に使われる予算
「一般社団法人芸術と創造」が、2016年度(平成24年度)の文化庁の委託事業として、主要国と日本の国家予算のうち「文化予算」について調査しました。
「文化予算」の比較調査は、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、中国、韓国の6カ国について行われました。
国家予算の中の「文化予算」と呼ばれる費目は、国によって定義が違いますが、国の「文化」や「芸術」の振興などに関わる国の機関の予算で比較しているようです。
例えば、イギリスの「文化予算」は「文化・メディア・スポーツ省予算より、観光およびスポーツ予算を除いたもの」と定義されていますが、日本については文化庁の予算を「文化予算」と位置付けています。
▼参考URL:平成24年度文化庁委託事業 諸外国の文化政策に関する調査研究 (平成28年度一部改訂)「諸外国の文化予算に関する調査報告書」
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/h24_hokoku_3.pdf
日本の「文化庁」は文部科学省の下部組織です
日本の文化庁は、文部科学省の外局であり、国の文化の振興・普及、文化財の保存・活用、宗教に関する行政事務を担当している行政機関です。
芸術文化の助成制度や、著作権制度の運営のほか、身近なところでは「常用漢字表」「現代仮名遣い」など国語表記の制定を行うほか、外国人に対する日本語教育施策を推進しているようです。
また、博物館の支援も役割のひとつであり、全国の博物館と連携して文化庁主催の展覧会を開催したり、シンポジウムを開催したりしています。
日本の国家予算の「文化予算」は6か国と比較の中でワースト1位の結果に
調査によれば、日本の2016年度「文化予算」は1040億円であり、この金額は他の6カ国と比較すると最も少ない金額です。
2016年度各国の文化予算額の比較(イギリスのみ2015年度) | |
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フランス | 4238億円 |
韓国 | 2525億円 |
イギリス | 1773億円 |
ドイツ | 1697億円 |
アメリカ | 1659億円 |
中国 | 1167億円 |
日本 | 1040億円 |
(データ元資料)平成24年度文化庁委託事業 諸外国の文化政策に関する調査研究 (平成28年度一部改訂)「諸外国の文化予算に関する調査報告書」
各国の国家予算全体から、「文化予算」の割合を比較してみても、日本はわずか0.1%にとどまり、アメリカの0.04%の次に小さい割合となっています。
7カ国のうち最も国家予算に占める「文化予算」の割合が大きかったのは、韓国の1.09%でした。
近年、「文化予算」に力を入れているのは、韓国・中国の2カ国
2008年度から2016年度の国家予算中の「文化予算」の増加率に注目すると、韓国は9%の増加、中国は8.9%の増加であり、ここ数年で特に文化政策に力を入れていることがわかります。
一方で、日本は増加率が0.3%にとどまり、過去8年間「文化予算」はほぼ横ばいで推移しています。
また、イギリスについては1.5%マイナスとなっており、7カ国の中で、唯一減少傾向にあるようです。
具体的にそれぞれの国がどのような「文化予算」を設置しているのか、ご紹介します。
イギリスの「文化予算」は減少傾向
イギリスで文化政策を担当している行政機関は、「文化・メディア・スポーツ庁」です。「文化・メディア・スポーツ庁」は、観光政策も担当しているので、観光部分についてを除いた庁の予算は、1773億円で、7カ国中3番目に高額でした。
3番目に高額ですが、伸び率でいうと最も低く、近年「文化予算」が削減されている国のひとつです。
文化・メディア・スポーツ庁では、経費の削減のため、人員整理も積極的に行われているようです。
イギリスの「文化予算」の主な使い道は「博物館・図書館」への支出
イギリスの文化予算の主な使い道として、最も大きいのは「博物館・図書館」に支出される796億円です。文化予算関連のうち、約45%を占めています。
2番目に大きいのは、「アーツ・カウンシル」への支出で、その予算額は577億円です。アーツ・カウンシルは日本語で芸術評議会などと訳されますが、芸術の振興のための宣伝活動などを担う政府からは独立した団体です。
イギリスのアーツ・カウンシルは、第二次世界大戦でナチスドイツが文化政策を戦争利用したことを反省して戦後間も無い1946年に発足し、政治とは一定の距離を置いた文化のあり方を実践しているようです。
イギリスのアーツ・カウンシルは国内の芸術関連の組織や個人の作家などに助成を行なっています。
アメリカの「文化予算」は政府から独立した「全米芸術基金」などへ
アメリカには、文化政策を直接担う文化庁のような行政機関はありません。しかし、連邦政府から独立した機関として「全米芸術基金」という組織があります。
そのほかにも、政府が支援をする独立系の機関として、スミソニアン機構、博物館・図書館サービス機構、ナショナル・ギャラリー、ジョン・ F・ケネディ・センターなどがあり、そのような文化芸術関連施設への助成として、国家予算に組み込まれている金額を「文化予算」とみなしたところ、2016年度は1659億円となりました。
アメリカの「文化予算」の主な使い道は国立の博物館や研究所の支援
アメリカの最も政府からの支援額が大きいのは「スミソニアン機構」であり、1036億円が投入されています。スミソニアン機構は、アメリカ内の19の美術館・博物館・動物園と、9つの研究所を有する国立の複合博物館教育研究機関です。
スミソニアン機構の予算の7割は政府からの拠出金であり、アメリカの国家全体の文化予算の多くが、スミソニアン機構の事業に投入されています。
▼参考URL:文化庁「諸外国の国立文化施設の概要」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/kokuritsu/01/pdf/kijyo_shiryo_18_ver02.pdf
ドイツの「文化予算」は「文化・メディア庁」の予算として設定
ドイツでは「文化・メディア庁」が文化政策を担当しています。文化・メディア庁の予算をドイツの文化予算とすると、2016年度の文化予算は1697億円で、7カ国中4番目でした。
ドイツの国家予算のうち、文化予算が占める割合は0.43%であり、少ないようにも見えますが、7カ国中では3番目に大きい割合です。
また、2008年度以降の文化予算の増加率は2.7%であり、7カ国の中では3番目に大きい割合での増額となっています。
ドイツの「文化予算」の主な使い道はメディア関連
ドイツでは、国外へのドイツ文化の発信のために、近年ソーシャルメディアを使用したデジタルマーケティングに力を入れているようです。
文化政策と観光政策の距離も近く、食文化や音楽文化を紹介することで、観光につなげるとった手法が取られており、メディア関連予算が多くを占める要因の一つにもなっています。
そうしたメディア関連の予算は、ドイツの文化予算の中で最も多い23%を占めています。
フランスの「文化予算」は「文化・コミュニケーション省」の予算
フランスでは、「文化・コミュニケーション省」が文化政策を管轄してきましたが、2017年からは「文化省」に名称が変わりました。しかし、通信・コミュニケーションに関わる政策も引き続き文化省が担っています。
調査の中で、フランスの文化予算は、この文化省の予算で比較されています。
2016年度の当時の文化・コミュニケーション省の予算は4238億円であり、7カ国のなかでは2位の韓国に約1500億円差をつけるなど、飛び抜けて高額の水準となっています。
過去8年間では、2011年をピークに減少傾向でしたが、2016年度については微増し、8年間全体としては2.1%増加しました。
フランスの「文化予算」の主な使い道は「文化の知識と民主化の伝承」
フランスの文化政策には、「文化ミッション」「研究・高等教育ミッション」「メディア・書籍・文化政策ミッション」があり、このうち「文化ミッション」が約8割の予算を占めています。
「文化ミッション」のうち、最も大きな割合を占める使い道が「文化の知識と民主化の伝承」と呼ばれる分野であり、2016年度文化予算の33%である1398億円が計上されました。
文化の知識と民主化の伝承政策の中心を担うのは、美術館や博物館などの文化機関です。フランス国内では、美術館や博物館などは原則として国の機関として、運営、保護されています。
パリにある、フランス国立図書館、パリ国立オペラ、ルーヴル美術館、ポンピドゥー・センター(国立近代美術館)などの文化機関だけで、1398億円のうち、約5割が助成金として投入されているようです。
中国の「文化予算」は中央政府の「文化部」の予算
中華人民共和国で文化政策を担当しているのは、中央政府の1部門である「文化部」です。文化部の2016年度予算は1167億円であり、これを国家の文化予算とすると、7カ国の中では6番目の金額でした。
ただ、国家予算全体の中で、文化予算が占める割合は0.25%で、7カ国の中では4番目に割合が大きくなっています。
国家予算に占める文化予算の割合については大きな変化はないものの、中国の文化予算金額は右肩上がりに上昇中です。
8年間での増加率は8.9%であり、国家予算の増加とともに、同じくらいの割合を保ったまま、文化事業への予算も増額している状態です。
中国の「文化予算」の主な使い道は「博物館」関連予算
中国の文化予算のうち、23%にあたる271億円が博物館関連に配分されています。その次に15%が芸術発表団体、12%が図書館に対して支出されています。
中国の文化部は、芸術文化事業の計画や実行、芸術文化にかかわる人材の専門教育、芸術文化施設の管理、文化経済政策研究と国家予算の配分などの業務を担当しています。
具体的には、国が主催しての芸術文化に関するコンテスト、少年児童芸術文化施策の調査研究・交流の指導なども実施するなど、文化人材の育成に積極的に国が関わっています。
また、芸術文化団体等の指導、文化に関する全国的団体の資格審査、図書館の整備・連絡調整、文芸関係出版物の審査・刊行・認可、映画・演劇などの公開上演など、国による文化芸術の審査と公開が一般的となっていることもあり、比較的高額の予算が必要とされているようです。
▼参考URL:文部科学省「中国の文化行政」
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200601/001/002/013.htm
韓国の「文化予算」は政府の「文化体育観光部」と「文化財庁」の予算
韓国の文化予算は、「文化体育観光部」と、下部組織の「文化財庁」という文化政策を担当する2つの機関の予算を合計したもので比較されています。
2016年度の韓国の文化予算は、文化体育観光部が1770億円、文化財庁が755億円であり、合計で2525億円となりました。
この予算金額は、フランスに次いで2番目に大きい金額です。
また、政府の全予算のうち、文化予算が占める割合は、7カ国中で最も大きい1.09%でした。
韓国の「文化予算」の主な使い道は国立の文化芸術施設関連費など
韓国の文化体育観光部の予算のうち、半分が文化芸術部門に支出されています。そのうち、博物館などの国立の文化施設について、文化体育観光部が担当し、運営予算を文化予算の一部として計上しています。
また、国の支援策により公演会場や文化会館、美術館・博物館などの文化施設の建設が増えており、その助成にも予算を大きく割いているようです。
また、韓国の文化政策としては、音楽や映像・映画などのコンテンツの開発に力を入れているほか、芸術家の福祉にも力を入れるなど、独自の文化・芸術政策が目立っています。
まとめ
このページでは、文化庁が公表した、世界の国々の文化予算の調査報告書の情報を参考に、世界6カ国と日本の文化予算について解説しました。
文化予算について、予算額は大きくても、国家予算全体から見れば割合が小さかったり、反対に、金額は小さくても伸び率が大きい場合や、国家予算内での割合が大きい場合があります。
国家予算の中で、文化予算がどのくらいの割合を占めているかを見ることで、その国の文化政策への力の入れ様がわかるかと思います。
今回の調査で比較した6カ国に比べると、日本の文化予算は最低額であり、国家予算に対する文化予算の割合も最低クラスです。
文化政策を進める文化庁として、この結果がどのように受け止められているのかはわかりませんが、世界の国々と比べると、日本にはまだまだ文化にお金をかける余地があるということのようにも思えます。
今回は、国の政策や国家予算の中で、文化政策と文化予算がどのような存在感を示しているのかをご紹介しましたが他の政策についても、予算がどのくらいついているのか、国家予算に対する割合はどのくらいか、を見ることによって、その政策や事業が強化対象なのか、縮小対象なのかを知ることができます。
関心のある分野の政策についても、予算額を調べてみてはいかがでしょうか。
*本記事の数値等の参考資料:平成24年度文化庁委託事業 諸外国の文化政策に関する調査研究 (平成28年度一部改訂)「諸外国の文化予算に関する調査報告書」
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/h24_hokoku_3.pdf
コメント
コメント一覧 (1件)
日本の文化へかける予算が他の先進国と比べるとかなり少ないというのがわかりました。そして近年文化予算に力を入れているのが、近隣の韓国と中国というのも日本は危機感をもたなければならないと思いました。