はじめに - 外国人がアメリカで働くのは困難
まずアメリカは、入国後自由に自分の好きなところに住めるワーキングホリデーのような、就労可能な長期滞在ビザを発行していません。それどころか、不法移民やテロ防止のため、たとえ観光で数日間アメリカに滞在する場合にも、外国人は移民局に住所を登録しなければなりません。
今後も入国審査は厳しくなる一方だとおもうので、ワーキングホリデーのようなビザを、政府が導入する見込みは今後もまず無いでしょう。
ワーキングホリデー以外で、比較的簡単に海外生活を経験できる方法として、語学留学が挙げられます。
これなら社会人になってからでもビザを取ることができ、語学留学後ある程度言葉に不自由しなくなったら、そのまま現地企業に就職して働く事ができるかもしれません。しかしそれは本当に稀な事で、通常、外国人がアメリカで働くことは、非常に難しく簡単なことではありません。
アメリカに長期滞在できるビザ
学生ビザ(Fビザ)
日本のパスポートは、ビザなしでアメリカの観光、商用目的の滞在が90日間できます。しかし滞在が90日以上になる場合には、なんらかのビザが必要になります。一番簡単に取得できる長期滞在可能のビザは、学生ビザ(Fビザ)で、必要書類さえ用意できるなら、個人でも取得可能です。
学生ビザでの就労は基本不可ですが、様々な制約や条件を満たす事によって、週20時間以内ならキャンパス内で働く事ができます。キャンパス内の学生ができる仕事は、最低賃金のものがほとんどですが、現在アリゾナの最低賃金が1時間$12なので、学校の授業の合間に、毎日一日4時間働く事ができた場合、週に$240(約25000円)の収入が得られます。
アメリカの大学を卒業すると、オプショナル・プラクティカル・トレーニング(O P T)で、合法的に現地企業で働く事ができます。理系の専攻者は2年、手続きを行えば最長3年間、そしてその他の専攻の学生は通常1年間と、O P Tで働ける期間は大学の専攻によって大幅に変わります。また受け入れ企業が大学卒業から90日以内にきまらなければ、O P Tは無効になり、アメリカに滞在することは許されません。
O P T 期間中は、海外に出ていけないことになっています。またO P Tカードが届いていない状態で、出国後再入国はできないと言われているので、OPTカードが届く前にカナダやメキシコに卒業旅行に行くと、アメリカに戻れなくなるかも知れません。
今回コロナの影響で一時帰国を余儀なくされた海外留学生は、学校が授業を再開すれば復学は可能です。しかしもしO P T就労中に学生ビザが切れていて、必要手続きをとる前に、今回コロナの影響で緊急帰国した場合、O P Tワーカーとして再入国できない可能性が大きいです。
O P T は就労ビザではなく、あくまでも学生のための就労トレーニングなので、ビザのスポンサーは企業ではなく卒業校です。今後もし経済再開後にアメリカ政府が、新しい法的制限をO P Tに導入した場合、どんなに企業が外国人留学生を受け入れたいと思っても、受け入れられなくなってしまうかも知れません。
就労ビザ(Hビザ)
O P Tは外国人留学生にとって、アメリカで永住するための足がかりのような制度です。なぜなら受け入れ先企業がO P T期間中に、就労ビザ(Hビザ)のスポンサーをしてくれて、それが認められれば最長6年間、アメリカで働けるビザを取得する事ができるからです。そしてその6年の就労の間に、永住権の申請が移民局に受け入れられれば、グリーンカードの取得も可能になります。
しかし就労ビザは学生ビザと違い、年間の発給枠が決められているので、申請すれば必ずもらえるとは限りません。Hビザの年間発給枠は4年制大学以上を卒業している人に対して65,000件、さらにマスターや博士号取得者には、別枠で20,000件の合計85,000件です。受給者の選考は学位に関係なくランダムなので、ビザ獲得には運も大きな要素になります。
今年はその85,000件の枠に275,000人の応募が殺到しました。単純計算でも今年の応募者全体の当選確率は約40%、4年制大学の卒業者が就労ビザを受け取れる確率は更に低く、全体の応募者の23%程度と、非常に狭き門になってしまいました。そして今後Hビザの発給に対しては、すでに規制が入って一時的に中止される事が決定されました。しまいました。
今年のHビザ当選者に関しては、昨年と同様、必要書類の提出が完了すれば発給される予定です。しかし4月22日以降に申請された永住権やその他HやFなど全てのビザの発給は一時中止、そして今年の6月30日に終了する予定の専門職種用の就労ビザ(H−1B)の更新は行わないことを決定しました。この決定により、就労ビザを使ってアメリカ国内で仕事をしていた人と、その家族の今後の生活に大きな影響が出るのは間違いありません。
ビザ発給の停止理由は、コロナによって職を失った、アメリカ人のIT企業への雇用促進と国内経済の安定のためという名目ですが、就労ビザを使ってIT関連の仕事をしていた外国人の多くは、特殊分野の仕事をしていて、アメリカ国内の人材だけでは賄いきれないものです。
そのためビザの発給禁止が長期化するようなら、今後企業は海外に住む人材に、仕事を外注しなければならなくなります。アメリカ国内の人材では賄いきれない専門分野で高度な専門知識の必要な、コンピューターサイエンスやソフトウェアの開発、金融アナリストなどの職種は、ネットワークさえあれば、世界中どこに住んでいてもできる仕事なので、労働力の国外流出が避けられないと思います。
専門職の中でも現地で働く必要のある医師や看護師は、O P Tで働くとほとんどの場合受け入れ先の病院が、永住権の申請スポンサーをしてくれて、沢山の人がグリーンカードを手に入れる事ができました。しかし今年初めニューヨークでコロナが猛威を振るう中、O P Tでコロナ患者を治療していたカナダ人女性医師が、グリーンカードの申請を却下されたのには大変驚きました。
申請却下の理由は定かではありません。彼女はカナダ人で、言葉の問題はありませんし、医師としてとても真摯に働いていたようなので、専門知識や人柄にも問題はなかったはずです。ただ原因として考えられるのは、彼女は金髪の白人女性ではなく、アラブ系の少し浅黒い肌の色をした人だったという事です。
アメリカにおける、アフターコロナのビザ状況
USCISは、2021年度のH-1B発給枠対象申請のデータ入力と受領通知の発行が遅れることや、少なくとも2020年5月1日まで、これらの案件のデーター入力や受領通知の発行を一切開始しないことを発表しました。
H-1Bビザの更新を行わない理由は、パンデミック状況下、特にI T関連分野のアメリカ人の雇用を優先的に確保して、自国の国民の利益を最大限守りたいということですが、政権内で移民受け入れを強固に反対する人達にとっては、外国人労働者の流入を合法的に阻止できる絶好の機会と捉えているようです。
コロナウィルスの緊急事態のためにアメリカを出国し、自国に滞在を余儀なくされている、非移民正規ビザを持っている外国人に対しても、USCISは特別な柔軟性のある対応策を提供していません。そのためアメリカ国外で一旦ビザが切れてしまえば、もう同じビザで再入国できない危険性があります。
例えば、米国への出入国が自由で滞在期限がなく、職業も自由に選択でき、10年に1度更新し続ければ、文字通りアメリカに一生住み続ける事ができる永住権保持者も、1年に6ヶ月以上アメリカ国外に滞在すると、グリーンカードを失効する恐れがあります。
この事態を防ぐために、2年間有効な再入国許可証(Reentry Permit)を申請する必要があります。しかし手続きのために、アメリカ国内で移民局に指紋を提出する必要があり、もうすでに国外にいる人が手続きをするのは難しいと思います。
それ以外にも、例えば出張ビザを使ってアメリカ本土に商談に来て、コロナの影響で出国が困難になってしまった場合は、ビザの滞在期限が切れる前にSatisfactory Departureという手続きをしなければなりません。
しかしこの手続きが認められて、滞在期間が合法的に伸びたからと言って、本来の滞在期間が超過してしまった事実は移民局の記録に残るので、次回のE S T A登録がキャンセルされる可能性があり、将来のE S T A承認が認められず、私的な旅行目的の渡米に際しても自国にあるアメリカ大使館に行って、なんらかのビザの申請が必要になる可能性も出てきます。
まとめ
今までなら、アメリカに留学して大学卒業後、OPTを足がかりに就労ビザのスポンサーを見つけ、将来的には永住権にチャレンジしようなど、数年先まで計画を立てることができました。しかし現在コロナウイルスの影響下で、世界中で今まで想像もできなかったような現実が起こっています。
通常なら何の問題もなくできたビザの申請や、ステータスの変更手続きも滞り、今まで勤めていた会社から突然一時解雇の通告をされ、これから将来どうしたら良いのか、途方に暮れている人もたくさんいると思います。
しかしコロナの影響で世界中の様子がいきなり変わったのと同じように、今の状態がいつまでも続くとも限りません。自分が望んでいるものとは違うかもしれませんが、アメリカ政府は今後、学生や外国人労働者のビザに関して、必ずなんらかの行動を起こすはずです。その日のために、自分が何をしなければならないのか、そして今できる事をきちんとするのが大切なのではないか、と思います。
コメント