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わかる政治経済シリーズ 第32回

「環境権・平和的生存権」について解説 - 「環境権」が生まれた流れ

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新しい人権シリーズ第3回目は、「新しい人権」の中の「環境権」と「平和的生存権」について説明します。

目次

「環境権」とは?

「環境権」とは、国民が公害のない快適で健康的な環境で、人間らしい生活を営む権利のことです。憲法13条に規定される「幸福追求権」や25条「生存権」を根拠に主張されています。

それでは、どのような経緯で「環境権」という考え方が生まれたのか以下で説明します。

日本では「高度経済成長期」(1955~73年)に、水質汚濁、大気汚染、土壌汚染などの「公害」が深刻化し、また、自動車や鉄道の発達に伴って振動や騒音に悩まされる人が増えるなどの環境悪化が大きな社会問題になりました。その結果、「公害」の改善を求める世論や住民運動が高まっていきました。

そのような状況の中、国は公害の防止に関する国や事業者の責務を明らかにし、環境を守るための『公害対策基本法』を1967年に制定しました。『公害対策基本法』は、日本における「四大公害病」(イタイイタイ病、四日市ぜんそく、水俣病、新潟水俣病)の発生を受けて制定され、「大気汚染」「水質汚濁」「土壌汚染」「騒音」「振動」「悪臭」「地盤沈下」の8つを「公害」として規定しました。

1960年代後半に起こされた「四大公害裁判」では、いずれも原告である住民側が勝訴し、損害賠償請求が認められました。

このようにして、国民が「公害」に悩まされることなく、良い環境で、人間らしい生活を営む権利としての「環境権」が「幸福追求権」や「生存権」を根拠に主張されることとなりました。

次に、「環境権」にかかわる判例として「大阪空港騒音訴訟判決」を紹介します。

「大阪空港騒音訴訟判決」(1981)

「大阪空港騒音訴訟判決」とは、大阪空港の近隣住民が、航空機による騒音や振動などの「公害」に悩まされ、夜間の飛行の禁止と過去・未来の被害に対する損害賠償を求めた事件です。「環境権」が実定法上の権利かどうかが争われました。

大阪高裁の判決

大阪空港の近隣住民は、大阪空港の航空機による振動、騒音、排気ガス、墜落の危険という「公害」に晒され、様々な被害を受けているとして「環境権」を前面に打ち出し、夜間の飛行の禁止と損害賠償、慰謝料を請求しました。損害賠償の請求には、これまでに受けてきた被害の分と、大阪空港が稼働し続ける以上これから先も受け続けると見込まれる被害の分が含まれています。

大阪高裁は住民側の訴えを認め、夜間飛行の差し止めと過去・未来の被害に対する損害賠償請求を認めました。


ところが、この判決を不服とした国は最高裁に上告しました。

最高裁の判決

最高裁は、住民の請求を棄却しました。理由としては、「民事訴訟」において国営の航空行政に関する請求を行うことは不適法であるということでした。損害賠償については、過去の被害には「国家賠償法」が適用されますが、将来的な被害についてはどの程度の被害になるのかの確定が困難なため、請求が認められませんでした。

ここで「環境権」そのものには触れられませんでした。

判決後、和解交渉が進められ、1984年に和解が成立しました。

このように、「環境権」という考え方は生まれてきているものの、損害賠償などを請求するための実効的な権利としての「環境権」はまだ十分に確立されているとはいえない状況にあります。

次に、「環境権」を理解するうえで抑えておきたい3つの権利を紹介します。

環境権にかかわる権利その1「日照権」

「日照権」とは、環境権の一種で、十分な日照(日当たり)を受けて生活する権利のことで、「建築基準法」に定められています。

都市部では高層の建造物が建築されたことによって、その周辺の低層の住宅の日当たりが悪くなってしまい、生活環境が悪化してしまうという問題が発生します。そのようなことを防ぐため、「建築基準法」では建造物の高さ制限や日影規制が設けられています。

「日照権」の侵害が著しい場合には損害賠償や差し止め請求が認められることもあります。

環境権にかかわる権利その2「嫌煙権」

「嫌煙権」とは、タバコの煙のないきれいな空気を吸う権利のことです。

タバコの煙には有害な物質が含まれており、「受動喫煙」による健康被害があることは広く知られています。また、非喫煙者にとっては煙の臭いそのものも不快に感じる場合があります。

そのため、公共の場では「禁煙」「分煙」が進められ、2002年に制定された「健康増進法」では望まない「受動喫煙」をなくすこと、特に「受動喫煙」による健康への悪影響が大きいと考えられる未成年者への配慮が徹底されることになりました。

環境権にかかわる権利その3「景観権」

「景観権」とは、住民がその土地の自然の風景や歴史的・文化的な街並みを享受する権利のことです。

好ましい景観の保全への意識の高まりを受け、2004年に「景観法」が定められました。

以上が「環境権」に関わる権利です。


それでは、産業や経済活動が発展していく中、国は具体的にどのようにして国民の「環境権」を守っていくのでしょうか?

そのような施策の一つに「環境アセスメント法」があります。以下で「環境アセスメント法」について説明します。

「環境アセスメント法」(1997)とは?

「環境アセスメント法」とは、事業を行う前にその事業がどのように環境に影響を及ぼすか調査・予測・評価を行うことを義務付ける制度です。「環境アセスメント」とは「環境影響評価」という意味です。

鉄道や飛行場、ダム、発電所など大規模な事業は周辺の環境に与える影響も大きいため、事業者は「公害」や「環境破壊」を防ぐために事前の調査や評価を行い、地域住民や地方公共団体から意見を聞くことで環境の保全を図る必要があります。「環境アセスメント法」ではそれぞれの段階での手続きについて定めています。

最後に、「平和的生存権」について説明します。

「平和的生存権」とは?

「平和的生存権」とは、平和のうちに生きる権利のことを言います。「平和的生存権」は日本国憲法の前文にある「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」を根拠として説明されます。

「自由権」や「参政権」のように憲法に明文化されてはいませんが、戦争など、憲法第9条「戦争放棄」に反する出来事によって国民の生命や自由が侵されそうになった場合に具体的な権利として認められます。

まとめ

以上、新しい人権シリーズ第3回目、「新しい人権」の中の「環境権」と「平和的生存権」について説明しました。

本記事は、2023年3月5日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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この記事を書いた人

2021年に公務員総合研究所に入所した新人研究員。

好きな言葉は、「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」

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